【BAK成果発表会レポート 第2弾】「脱炭素・サステナブル」領域における4チームが登場!廃プラ削減、災害対策、郊外の賑わい創出、小田原観光ブランド向上など、共創プロジェクトの中身とは?
神奈川県では、ベンチャー・スタートアップと大企業などのマッチングを通じて、新規事業創出や新商品・サービスの開発を支援する『ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)』を積極的に推進している。去る2月21日と22日に、今年度の活動の成果を発表するイベント『KANAGAWA INNOVATION DAYS Meetup Fes 2024』が、リアルとオンラインのハイブリッド形式で盛大に開催された。
TOMORUBAでは、本イベントを取材。この記事では、『BAK INCUBATION PROGRAM 2023』から生まれた15の共創プロジェクトに焦点を当て、全4回にわたって詳しくレポートする。
第1弾の記事では、イベントの1日目に登壇した4つの共創プロジェクトを紹介した。第2弾となるこの記事でも、1日目の「脱炭素/サステナブル」部門で発表した4つの共創プロジェクトについてレポートする。各チームがどのような社会課題に着目して、どのような解決策を実装しようとしているのか。ぜひ注目してほしい。
【05 DigitalArchi × Hamee × エバラビジネス・マネジメント】 廃プラを利活用し、3Dプリンターでコンクリート型枠を製造
■発表タイトル『建築用大型3Dプリンターによる廃棄プラスチックのリサイクルを通じた資源循環型社会づくりの促進』
独自開発の建築用大型3Dプリンターを使って、プラスチック製のコンクリート型枠の開発を行うDigitalArchiと、廃棄プラスチックの削減を目指すHamee、およびエバラ食品グループは、3社共同でプラスチックの利活用を目指すプロジェクトについて発表した。
DigitalArchiは、コンクリートを流し込んで形成する際に用いる型枠を、廃プラを材料に3Dプリンターで製造することを目指している。竹中工務店と慶應義塾大学の約10年にもわたる研究成果を事業化するため、発足した会社なのだという。他方、エバラビジネス・マネジメントは、焼肉のたれなどで知られるエバラ食品グループ会社の経営管理を担う会社で、事業の一環として、グループが推進している廃プラの削減・リサイクル活動のサポートを行っている。
Hameeはスマホケースなどを製造・販売しているが、新しい機種の発売に伴い不要となるスマホケースを多く廃棄していることが、以前からの課題だった。そこで、昨年5月に在庫商品や端材プラスチックをリサイクルして、新しい製品に再利用するサービス『Parallel Plastics』を立ち上げたという。今回のプログラムでは、エバラ食品グループとHameeから出る廃プラを用い、DigitalArchiの技術を使って最終的にはコンクリート型枠の製造を試みる。
ところで、なぜコンクリート型枠なのか。DigitalArchiによると、コンクリート型枠は、コンクリートが固まった後に取り外す建築資材なので、どんな材料であっても建築基準法に抵触しないという。また、混色や多少の劣化も問題にならない。DigitalArchi独自の実証実験では、従来の木材で組まれた型枠から3Dプリントによるプラスチックの型枠に変更することで、人手不足に悩む型枠大工の作業時間を最大80%削減することも確認できているそうだ。
インキュベーション期間中は、Hameeの廃プラ(スマホケースなど)を使用して、3Dプリンターでまずは植木鉢カバーを作成した。一方、エバラ食品グループの廃プラ(ポーション調味料の容器と蓋)は、アルミと樹脂の分離が困難であり、蓋を圧着する前の樹脂のみの食品トレーを用いた製品開発に向けて貴重な情報を得ることができた。今後も引き続き、廃プラによる3Dプリント型枠の量産化に向けて、材料特性の研究やオペレーションの最適化に取り組んでいく考えだという。
▲Hameeの廃プラ(スマホケースなど)を使用して3Dプリンターで作成された植木鉢カバー
【06 スカイファーム × 東急】 シェアキッチン出店者にデジタルを導入してOMOストア化を実現
■発表タイトル『オンラインとオフラインを掛け合わせたOMOストアを起点とする循環型コミュニティの創出』
続いて登壇したのは、モバイルオーダーシステムなどを開発するスカイファームと、鉄道を軸とした街づくり事業を展開する東急の共創チームだ。両社は東急が運営する郊外まちづくり拠点『grow up commons』において、オンライン・オフラインの両方で販売できるOMOストアの展開を図るプロジェクトについて発表した。
まず、本プロジェクトの背景に関してだが、現在、コロナ禍を経て住宅地で過ごす時間が増加し、都心一極集中から郊外住宅地への関心が高まっている。そこで、東急が田園都市線「たまプラーザ駅」徒歩5分の場所に、2023年1月にオープンしたのがシェアキッチンとオフィスを併設したまちづくり拠点『grow up commons』だ。
『grow up commons』は開業から1年を迎え、出店者数や稼働率は上昇基調にあり、地域イベントなどとの連携にも成功している。一方で、リアルとデジタルを通じたコミュニティの回遊が起きにくいといった課題も見えてきたという。そこで今回、『grow up commons』のシェアキッチン出店者に、スカイファーム提供の『NEW PORT』のテイクアウトとEC機能を実験的に導入してもらう施策を開始した。
しかし、出店者集めは苦戦したという。「ワンオペだからシステムを入れるのは難しい」など、個人店舗ならではの様々な懸念の声が上がった。それらに対して、スカイファームの担当者が現地に赴き、出店者に安心してシステムを使ってもらえるよう、丁寧にサポートを行ったという。
『NEW PORT』上には、『grow up commons』の特設サイトも設置。出店状況のカレンダー表示やEC対象店舗、出店者インタビューなどを掲載した。また、駅や百貨店にポスターを掲出するなど、近隣地域を中心とした集客・販促施策も実施。最終的に9店舗に『NEW PORT』へ参加してもらうことができたそうだ。
導入の効果に関しては、1日50食限定の日替わりセットを『NEW PORT』上で販売したところ、受付開始から2日間で完売する例も生まれた。2024年2月時点で、モバイルオーダー売上実績は累計102万円、モバイルオーダー利用者数は377人と、当初の目標を上回る結果を残せているそうだ。
また、店舗からは「事前に食数が読めるのは便利」、利用者からは「受取までスムーズで急ぎの時も使える」といった声が寄せられた。複数飲食店を利用するクロスセルも確認できており、人気店を起点に『grow up commons』全体の認知拡大につなげられていることも分かったという。今後も引き続き、郊外の街のにぎわいの創出に向けて、活動を続けていきたい考えだ。
【07 YADOKARI × 鈴廣蒲鉾本店】 「可動産」で小田原の“食”を巡り、体験するローカル旅企画
■発表タイトル『タイニーハウス等の「可動産」を活用した地域一体型の小田原観光事業の創出』
次に登壇したのは、小田原を代表する老舗 鈴廣蒲鉾本店と、タイニーハウスやキャンピングカーなどの「可動産」を使った空間づくりに取り組むYADOKARIの共創チームだ。両社は小田原地域一体で展開する観光事業について発表した。
鈴廣蒲鉾本店は、小田原に本店を持つ老舗かまぼこ店で、ミネラル豊富な『箱根百年水』を活用するなど、地の利を活かしたかまぼこ作りを行っている。一方、YADOKARIはタイニーハウスやキャンピングカーなど、動くものを不動産の対義語として「可動産」と呼び、地域開発や観光促進、ライフスタイルの発信を進めている企業だ。小田原からも近い真鶴町では、みかん畑のなかのタイニーハウスで過ごせる観光事業を展開している。
そんな2社が本プログラムで取り組む課題が、「小田原市の観光ブランドの向上」である。まず、観光地・小田原の現状についてだが、コロナ禍で大型観光バスの需要が9割減となり、いまだ回復はしていない。逆に個人型の観光需要が高まっているという。また、箱根に向かう観光客は来訪するものの通過されることが大半で、1人あたりの観光消費額も3400円と少ないことが課題だ。
そこで両社は今回、タイニーハウスを使ったスピード感のある観光地開発を進めるという。具体的には、鈴廣蒲鉾本店の保有する遊休地にYADOKARIのタイニーハウスを設置し、1日1組限定のツアーを企画。小田原でみかん農園を営む『あきさわ農園』や狩猟体験を提供する『NPO法人 MOTTAI』とも協力し、ガイドブックには載らないような、ストーリーのある“人”との触れ合いや食体験を盛り込む。
モニターツアーは3月末に予定している。相模湾の絶景を眺められる鈴廣かまぼこ江の浦店の敷地内にタイニーハウスを設置。そこを滞在拠点に、農業体験や狩猟体験、かまぼこ・ちくわ手づくり体験などを提供する。このモニターツアーを通じて、「“人”をコアバリューに据えた事業モデルで持続可能なオペレーションを作れるか」や「箱根・湯河原とは異なる観光モデルとして競合優位性の高いサービスになっているか」などを検証していく考えだ。
【08 BellaDati × 日産自動車】 「EV救援アプリ」で災害時の停電による被害を最小限に
■発表タイトル『災害時EV救援アプリ』
国内トップのEVシェアを持つ日産自動車と、様々なデータの収集・分析・可視化システムを開発・提供するBellaDatiは、EVとリアルタイムデータを活用した「災害に強い社会づくり」に貢献することをビジョンに掲げ、共創に着手。自治体や企業向けの『災害時EV救援アプリ』を開発した。
両社が着目する課題は、災害時の停電だ。能登半島地震では地震発生後、最大約4万500戸が停電した。こうした停電は、高齢者などにとって生命に関わるため、迅速な回復が求められる。そこで停電時に、蓄電池としての機能も持つEVを迅速に派遣し、避難所・福祉施設の電力供給に役立てようというのが、今回の共創の主旨である。
日産自動車ではすでに、2024年の能登半島地震や2019年の台風15号による千葉県での停電時、日産のEVを貸与して支援を行った実績を持つ。しかしその際、「EVの状況把握と手配で非常に苦労をした」と話す。そこで今回は、BellaDatiとともにデジタル化を行い、EVデータの迅速な可視化を実現した。
開発したソリューションのコンセプトはこうだ。まず、EV所有者・管理者に、事前に保有するEVの登録を行ってもらう。災害や停電が発生すると、災害対策本部(自治体など)がEV登録者に対し、一括で応援要請を出す。要請に対して、EV登録者が救援可否や位置、電池の残量などを返信。それをシステム上で可視化して、災害対策本部が適切なEVに対して救援の依頼をするという流れだ。
この『災害時EV救援アプリ』を用いてインキュベーション期間中、2つの自治体(横浜市西区と足柄上郡開成町)で実証実験も行った。その結果、災害対策本部によるEV派遣判断は、わずか2分で完了したという。成果発表会の場では、本システムを使って、実際に救援要請を行うデモンストレーションも披露された。
▲デモンストレーションでは、会場内のEV登録者に対して応援要請のメールを配信。EV登録者は対応可否を返信。地図上に表示された複数のEVから、災害対策本部が適切なEVを選択し、依頼を発するところまでが実施された。
今後の展開としては、自治体や企業にサブスクリプションで導入してもらうことを検討する。将来的には、災害時だけではなく、レジャーやイベントの際などにもEV派遣を行えるスキームを構築し、災害時と平常時いずれにおいても、本システムが活用できるようにしていきたいと展望を語った。
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次回の第3弾記事では、「デジタル・DX/ヘルスケア」をテーマにした4つの共創プロジェクトを紹介する。
(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)