Spornia、TR2、ダイスコネクティング、New Ordinaryの4社採択!地域版SOIP<東海>――熱戦を繰りひろげたビジネスビルドをレポート
「スポーツの成長産業化」を目的に、スポーツ庁が手がけている「スポーツオープンイノベーション推進事業」。その事業の一環として、スポーツ界と他産業が連携し、新たな財・サービスを創出するプラットフォームが、「Sports Open Innovation Platform(SOIP)」だ。
国内各地域におけるSOIP(地域版SOIP)を構築するため、本年度は、北海道、甲信越・北陸、東海の3エリアを舞台に、「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD 2022」を開催している。
第一弾の甲信越・北陸エリア、第二弾の北海道エリアに続く、最後のステージは東海エリアで実施された「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD 2022 TOKAI」だ。東海エリアからは、「名古屋グランパス(サッカー)」「名古屋ダイヤモンドドルフィンズ(バスケットボール)」「ウルフドッグス名古屋、豊田合成記念体育館エントリオ(バレーボール)」「名古屋ウィメンズマラソン(マラソン)」の4チーム・団体が、ホストチームに手を上げ、募集テーマを掲げて共創パートナーを募集した。
それに対して全115件の応募があり、8社が選出。去る12月6日と7日、名古屋市内にある「ウインクあいち」で、8社とホストチーム、メンターらが一堂に集まり、ビジネスプランの骨子を練りあげるリアルイベントが開催された。本記事では、その様子をレポートする。
全国から名古屋に集結、2日間で共創ビジネスプランの骨子を固める
DAY1は、ビジネスアイデアをブラッシュアップ。ホストチーム・応募企業・メンターでチームを構成し、議論を深める。ホストチームのリアルな声を聞くことで、当初のビジネスアイデアを大きく転換し、違う角度での提案に切り替える応募企業も複数存在した。
一夜明けてDAY2。応募企業のなかには、夜を徹して考え抜いたという人も。自社の強みを活かしつつ、ホストチームの課題も解決できるソリューションとは何か。ターゲットの願望は。マネタイズポイントはどこにあるのか…。着地点が見えず考え込むチームも、多く見受けられた。
最終発表の内容により、ホストチームと実証に進む企業が決定する。採択基準は、(1)新規性(2)テーマとの合致度(3)市場性(4)事業拡張性(5)実現可能性の5軸。ここからは、次のステップへ進むことが決定した採択チームから順に、最終発表で披露されたビジネスプランの内容を紹介する。
【名古屋グランパス】 サッカーをきっかけにした”日本一こどもたちが成長する”まちづくり――Sporniaの提案
Jリーグ発足時より加盟する「オリジナル10」のひとつ、名古屋グランパス。愛知県唯一のJリーグチームとして、県内で圧倒的な存在感を誇っている。今回は『世代を超えて地域一人一人と繋がり グランパスにしかできない街づくりを』という募集テーマを設定。プレゼンの結果、株式会社Spornia.が採択された。
■株式会社Spornia.
提案内容「グランパス様と共に創る、サッカーをきっかけにした”日本一こどもたちが成長する”まちづくり」
自身もサッカー少年だったという代表の上山氏。スポーツ教育に関心を持ち、イギリスでFA Licenceを取得。現在は小学生向けにサッカー指導も行っている。そんな上山氏が、スポーツ教育現場の課題として挙げるのが、街クラブが地域に閉じていることで、指導の質・教育的な価値提供が高まらないことだ。また、少子化や競技の多様化などにより、街クラブは財源の確保にも苦労していると指摘する。
そこでSporniaは、街クラブと企業のスポンサーマッチングサービス「DS-Port」を開始。地域との結びつきを大切にしたい企業と、街クラブのマッチングを行い、スポーツ教育現場の改善に取り組もうとしている。すでに神奈川県で導入実績があり、良好な結果も得られていると説明。今回は、街クラブ・スポンサー企業・グランパスの3者をつなげ、"日本一こどもたちが成長する”まちづくりを実現したいと話す。
具体的には以下のように3つのフェーズに分けて施策を進めるという。
フェーズ1では、愛知県内において街クラブと企業のマッチングを進める。その際、街クラブに対してグランパスの試合にご招待し、子どもたちにプロのプレーを間近で見れる機会を提供する。フェーズ2では、スポンサーマッチングできた街クラブを複数集めて、グランパスで合同練習会を開催。子どもたちに、プロクラブのコーチによる指導に触れられる機会を届ける。フェーズ3では、地域コミュニティの発展や地域課題の解決を図れるよう、企業とSponiaとグランパスが中心となり、地域全体を巻き込む取り組みへと発展させる。こうして、スポーツ教育の質向上を進めると同時に、グランパスが目指すサッカーを軸としたまちづくりを実現していく考えだ。
<ホストチーム・メンター・受賞者コメント>
グランパスの清水氏は「捉えておられる課題感が、グランパスの課題感と合致した」としながら、共に街クラブとの連携を進めていけることに期待を寄せた。メンターの深田氏も、スポーツの暴力指導と根性論からの脱却を、「こうした枠組みで行うことは、非常にエキサイティングだ」と評価する。Spornia代表・上山氏は「ここがスタートだと思う。PoCで終わるのではなく、価値が生まれる事例にしたい」と熱意を込めた。
【名古屋ダイヤモンドドルフィンズ】 まちと一緒に作るロゲイニング〜まちを知ってスキになる〜――TR2の提案
Bリーグで常にトップクラスの成績を誇る「名古屋ダイヤモンドドルフィンズ」。同クラブは2022年4月、名古屋の中心地・栄にあるオアシス21内に、共創スペース「DOLPHINS PORT」を開設。この場所を起点に新たな事業展開を図っていきたいとの考えから、『都心の共創空間から まちづくりとファンづくり』という募集テーマを設定。プレゼンの結果、株式会社TR2が採択された。
■株式会社TR2
提案内容「名古屋ダイヤモンドドルフィンズがまちと一緒に作るロゲイニング 〜まちを知ってスキになる〜」
ロゲイニングの企画・運営を行うTR2。ロゲイニングとは、地図をもとにチェックポイントをまわり、制限時間内に得られた得点を競うチームアクティビティで、戦略とチームワークが重要だという。愛知県はロゲイニングの盛んなエリアで、1大会の平均客数は200名程度。平均単価も5000円と高いのだそうだ。本プログラムでは、ドルフィンズおよび地域の人たちも巻き込みながら、ロゲイニングを企画・実行していきたいと話す。
具体的には、まず共創スペース「DOLPHINS PORT」を使って、ロゲイニングの制作ワークショップを開催する。ワークショップには、チーム関係者や自治体職員、商店街組合のメンバー、それに地域住民なども呼び込む。企画段階から参加してもらうことで、「まちづくりをジブンゴト化」してもらうことが狙いだ。
ロゲイニングの設計においては、名古屋城・名古屋駅・栄を頂点とするトライアングルエリアの回遊性を高められるよう工夫。バスケのミニゲーム開催やドルフィンズクイズ、試合の割引チケット配布、選手・スタッフの参戦などで、ドルフィンズの認知度向上につなげる。参加者には、名古屋のまちとドルフィンズの両方を好きになってもらいたいと話す。
メインターゲットは、ファミリー層や20代・30代の転勤者など。参加費は3000円程度を検討。Instagramへの投稿も促す仕組みを盛り込み、参加者以外への拡散も仕掛けることで、関係者の輪を大きくしていきたいと語った。
<ホストチーム・メンター・受賞者コメント>
ドルフィンズ・園部氏は「当社の取り組む地域共創が、さらにブラッシュアップされていく取り組みになるとともに、直近のファンづくりも一緒にできる素晴らしい提案だった」とコメント。メンター・藤田氏も「継続的に地域に根づかせることが大事なので、サポートしていきたい」と伝えた。TR2の中崎氏は、「ロゲイニングのコンテンツには自信があったが、うまくプレゼンができるかメンバーに心配されていた」とし、採択されたことに安堵した。一緒に参加した坊迫氏は「名古屋にある全スポーツチームとロゲイニングを実施したいと思っているので、ぜひ皆さん一緒にやりましょう!」と会場に呼びかけた。
【ウルフドッグス名古屋】 ウルドくんGamePark~いつでも、どこでもウルドくんゲームで選手と遊ぼう!~――ダイスコネクティングの提案
TG SPORTSは豊田合成株式会社の100%子会社として独立し、愛知県稲沢市に設立された「豊田合成記念体育館 エントリオ」の施設運営や、V.LEAGUE(V1)所属「ウルフドッグス名古屋」のチームを運営している。
今回は『民設民営アリーナを活用したファンの拡大』という募集テーマを設定。プレゼンの結果、合同会社ダイスコネクティングが採択された。
■合同会社ダイスコネクティング
提案内容「ウルドくんGamePark ~いつでも、どこでもウルドくんゲームで選手と遊ぼう!~」
ミニゲームの開発で実績を持つダイスコネクティングが提案したのは、小中学生やファミリー層にアプローチするためのWebゲームだ。
チームのマスコットキャラクターであるウルドくんを用い、スマートフォンで簡単に遊べるゲームを企画。ゲーム結果に基づくランキング形式も取り入れる。オフシーズン中は選手にもゲームに参加してもらい、ランキング上に選手も表示させることで、ファンに選手の存在を身近に感じ続けてもらうという。
メインターゲットは地元に住む小中学生に設定。まずはゲームで遊んでもらい、ゲームをフックに試合観戦に来てもらう。試合の際には、セットの合間や試合前に3分間のゲーム大会を開催。エントリオ(アリーナ)の大型ビジョンにゲームの画面を映し、結果も発表するという構想だ。
また、試合日だけではなく試合のない日にも、エントリオでeスポーツ大会を開催。地域の人たちに知ってもらうキッカケづくりを行う。ゲームの告知・集客プランとしては、アリーナ施設を子どもたちに無料で開放するなどを検討。ウルフドッグスのホームタウン「ウルドタウン4市」(稲沢市、一宮市、清須市、小牧市)に住む、園児・小学生・中学生の数は概算で8万人程度。仮にゲームへの参加率を30%と見積もると、合計2万4000人の参加を見込めるとした。
<ホストチーム・メンター・受賞者コメント>
ウルフドッグス・横井氏は「代表者の熱量を感じた」「新しいウルドくんの発展フェーズに入ることのできる予感・期待が湧き上がってきた」と採択の決め手を伝えた。メンター・平地氏は「共創したものをいかに外に出していくかの部分と、事業化するうえでのマネタイズ部分をサポートしていきたい」と語った。ダイスコネクティング・あべき氏は「どうしたらよい企画になるのか、朝の4時まで悩んだ」と明かし、最終的に「(横井)社長の色々な話を思い出して、ここしかないというところに企画を落とせた」と述べた。
【名古屋ウィメンズマラソン】 GO WOMEN!!〜全ての女性に笑顔と幸せとご褒美をレコメンド〜――New Ordinaryの提案
毎年3月、一般市民を含めた女性ランナーを対象に開催される「名古屋ウィメンズマラソン」。名古屋の各所を巡るフルマラソンで、海外ランナーからも注目度は高い。運営を担う中日新聞社が、ウィズコロナ・アフターコロナを見据えて地域版SOIPに参加。『世界最大の女子マラソン、新たなエンゲージメント拡大』という募集テーマを設定し、共創相手を募った。プレゼンの結果、株式会社New Ordinaryが採択された。
■株式会社New Ordinary
提案内容「GO WOMEN!! 〜全ての女性に笑顔と幸せとご褒美をレコメンド〜」
名古屋を拠点に活動するNew Ordinaryは、「趣向」「一緒にいる人」「疲労」「空き時間」などを入力すると、独自AIによるパーソナライズで、その時の気分に合ったスポットをレコメンドしてくれる「NOSPOT」というアプリを開発・展開している。今回、このアプリを用いて、ビギナーズランナーの参加促進とマラソン大会のまつり化を目指す。
具体的には、ビギナーズランナーの参加促進に向けて、大会本番までのトレーニングコースと街の魅力がレコメンドされるデジタルマップを作成。嗜好やシチュエーション、ランニングレベルに合わせて最適な練習コースをマップ上で提案する。また、練習前後のご褒美スポット(カフェやエステ、サウナなど)も表示する。こうした仕組みにより、ビギナーズランナーの走るキッカケづくりをサポートする。
加えて、本デジタルマップの継続利用者に対して、2種類のインセンティブも付与。1つ目の特典として、ウィメンズマラソンにアンバサダー枠を設置し、「NOSPOT」の継続利用ユーザーには、その枠を使って優先的に大会に参加してもらえるようにする。また、2つ目の特典として、ゴール地点に家族・友人用の特設応援席を設置し、プレゼントするという。こうした企画により、大会全体を盛り上げていきたい考えだ。
<ホストチーム・メンター・受賞者コメント>
ウィメンズマラソン事務局・北野氏は「女性の気持ちを汲んだ提案を出してもらえた。名古屋市も巻き込んでいこうという想いも伝わってきた」とコメント。メンター・常盤木氏は「社会の課題を解決しようという方向性はよい」と評価するが、まだ未完成な部分もあるので、厳しい指摘もしながらサポートしていきたいと語った。New Ordinary・植草氏は「末永く一緒に取り組めるよう頑張りたい」と意気込んだ。
「ロボットプログラミング授業」「インスタレーション・パブリックビューイング」「LINEによる選手推し活」「メタバースマラソンコミュニティ」など、様々なアイデアも
今回は惜しくも採択に至らなかったが、Edutex株式会社、株式会社アシュラスコープインスタレーション、合同会社オレンジビズ、アクロスロード株式会社もビジネスビルドに参加し、提案を行った。
■Edutex株式会社(名古屋グランパスへの提案)
提案内容「グランパスと創る、こどもの未来プロジェクト」
Edutexは独自開発のロボット(Kebbi)を用いて、小中学生向けにプログラミング授業を行っている。Kebbi授業を受講した生徒数は3000名を超え、こうした教育機関や学校との直接的なタッチポイントを最大限活かし、今回の共創活動を行いたいと話す。具体的には、プログラミング授業への選手・マスコットの参加、授業カリキュラムへのグランパス関連コンテンツの投入などを検討。記憶に残るプログラミング授業を共創し、スポーツに関心のない子どもたちや親にも、クラブの魅力を届けていきたいとした。
■株式会社アシュラスコープインスタレーション(名古屋ダイヤモンドドルフィンズへの提案)
提案内容「応援を通じて、観戦の楽しさに触れてもらうきっかけづくりを」
デジタルコンテンツの企画・制作を行うアシュラスコープインスタレーションは、「DOLPHINS PORT」と、試合会場である「ドルフィンズアリーナ」のつながりの弱さに着目。「DOLPHINS PORT」ではすでに、試合のパブリックビューイングを実施しているが、同社のプロジェクションマッピング技術などを用い、より体験価値を高めていきたいと話す。具体的には、小中学生を対象とした身体を動かすコンテンツや、F1層・学生を対象とした応援体験コンテンツなどを検討。これにより、アリーナに行って試合を盛り上げたいという気持ちの醸成につなげたいとした。
■合同会社オレンジビズ(ウルフドッグス名古屋への提案)
提案内容「QRコードではじまる!ファンと手のバーチャルリアル#推し活のある生活」
LINE上で動くアプリの開発などを行うオレンジビズ。同社は観客数を増やすための施策を提案する。ウルフドッグスのコアファンは女性で、ファンクラブ会員の20~40%がほぼ毎回観戦していることに着目し、コアファンの"推し活”を促すことで、周辺の人たちへの波及を目指すという。"推し活”には、圧倒的な利用者数を誇るLINEを活用。同社の開発するLINEアプリや、クラブのLINE公式アカウントを連携させながら、コアファンの"推し活”から新たなファンの創出を狙っていきたいとした。
■アクロスロード株式会社(名古屋ウィメンズマラソンへの提案)
提案内容「全世界のすべての女性が輝く、あたらしい名古屋ウィメンズマラソン」
メタバース開発のアクロスロードは、出走するマラソンランナーに限らず、全世界すべての女性をターゲットに、仮想空間上でのコミュニティ形成を目指す。具体的には、「ウィメンズマラソンタウン」というメタバース空間を構築。そこに全世界から女性を呼び込んでコミュニティを形成する。「ウィメンズマラソンタウン」上では、大会当日に同時開催イベントを行うほか、大会終了後に「お疲れ様イベント」も開く計画だ。また、3カ月に1回程度の頻度でオフ会イベントも企画し、継続的なコミュニティへと発展させていきたいとした。
「スポーツクラブと共創するなら愛知、この認知をさらに高める活動へ」――閉会のあいさつ
メンターを代表して、株式会社MTG Ventures・藤田豪氏が登壇。藤田氏は、愛知でスポーツオープンイノベーションの機運が高まったのは4年前だが、今回の「地域版SOIP」を通じて「スポーツクラブと共創するなら愛知、という認知がさらに強まった」と話す。そして、今回の採択企業が成果を出すことで、さらに弾みがつくことに期待を寄せた。
続いて地域パートナーである中日新聞社・倉内佳郎氏が、ホストチームのTシャツや応援グッズを身につけて登壇。「ここにおられる皆さんと、さらに挑戦していけるように様々な環境づくりに取り組んでいきたい」と熱意を見せた。
最後にスポーツ庁・坂本弘美氏が壇上に立ち、名古屋グランパスが先駆けとして過去にピッチを実施したことに触れたうえで、「ここからがスタート。3月にデモデイが開催されるが、それに向けてKPIなどを立て、挑戦してもらいたい」とホストチームと採択企業らを激励した。
取材後記
ホストチーム・応募企業・メンターらが同じ場所に集まり、2日間で共創ビジネスの骨子を組み立てた本ビジネスビルド。最終的に、「街クラブのスポンサーマッチング」「ロゲイニング企画」「マスコットキャラクターを使ったミニゲーム」「ランナーズ向けデジタルマップ」と、ユニークな4つのプランが出揃った。次のステップは実証だが、その結果は、東京で開催される3月の成果発表会(デモデイ)で披露される予定だ。どのような成果が生まれるのか。楽しみに待ちたい。
(編集・取材:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:加藤武俊)