20社以上の共創実績がある日本郵便が6回目となる共創プログラムを始動!郵便・物流、地方創生、みらいの郵便局という3つの募集テーマに迫る
日本郵便株式会社が、「JAPAN POST INNOVATION PROGRAM」を開催し、パートナー企業の募集を開始した(第1期応募締切 2023年1月22日)。「郵便局とともに創るみらいの社会」を掲げている同プログラムの開催は、今年度で6回目。過去5回の開催を通じて、全国のスタートアップとともに多種多様な共創を展開してきた。
事実、これまで実現した共創実績は20社以上。そのなかには、現在、全国約700ヶ所以上の郵便局で運用されるソリューションの創出も含まれる。今年度の募集テーマは以下の3つだ。各テーマに、現在、日本郵便が直面する課題が反映されているという。
【テーマ01】 郵便・物流
「社会経済の変化や新たなニーズに対応した、持続可能な郵便・物流サービスへの変革」(短期的テーマ)
「物流業界の構造変化を見据えた新たな郵便・物流ネットワークの構築」(中長期的テーマ)
【テーマ02】 地方創生
「郵便局が根差す地域の活性化を通じた地方創生の実現」
【テーマ03】 みらいの郵便局
「従来の郵便局の枠を超えた新たな価値・サービスの創出」
――そこで、TOMORUBAでは、今年度のプログラムを主導する日本郵便 執行役員の砂山直輝氏をはじめ、各テーマオーナーとなる担当者にインタビューを実施。今年度のプログラムの目的や募集テーマの狙い、提供できるリソースやアセットなどについて深掘りした。
厳しい事業環境を乗り越えるため「郵便・物流の効率化」と「郵便局の顧客体験向上」を目指す
▲日本郵政株式会社 執行役 新規ビジネス室長
日本郵便株式会社 デジタルビジネス戦略部 執行役員
砂山 直輝氏
――このたび、第6回目となる「JAPAN POST INNOVATION PROGRAM」が開催されます。プログラムについてお伺いする前に、主力事業である郵便・物流事業や金融事業の現状や、マーケットからどのような変革が求められているかについてお聞かせください
砂山氏 : 事業環境は総じて厳しいと認識しています。郵便・物流事業、特に荷物の宅配事業については、日々、競合他社との厳しい競争に晒されていますし、他方で郵便事業では人口減少に伴い、顧客数が日に日に減少しています。また、それらの事業を支えている郵便局に足を運んでいただけるお客さまも減少傾向にあることから、座していては事業全体がシュリンクしていくだけです。
しかし、その一方で、日本郵便は社会インフラとしての郵便・物流サービスを維持する責務も負っています。そうした責務を果たしながら、競合他社との競争に勝っていくためには、郵便・物流事業の効率化と、金融事業の窓口となる郵便局の顧客体験価値向上が必要不可欠です。
郵便・物流事業においては、たゆまぬスピードかつ正確なロジスティクスを構築し、郵便局の窓口においてはお客さまが積極的に郵便局を訪れたくなる顧客体験を実現します。これが、現在の日本郵便の成長戦略の根幹です。
――そうした状況を踏まえて今年度の「JAPAN POST INNOVATION PROGRAM」では、どのような共創を目指すのでしょうか。
砂山氏 : 本プログラムは、2017年に大きな危機感とともに立ち上げました。2017年といえば「宅配クライシス」というフレーズが流行し、物流業界の歪みが世間的に知られるようになった時期です。そのため、従来のプログラムでは、構内のロボティクスや自動ルーティングなど、比較的、郵便・物流事業にフォーカスした共創が中心でした。
その後、日本郵便にもスタートアップとの共創ノウハウが蓄積してきた昨年からは新たなるテーマとして金融事業にも焦点を当て始めました。今年のプログラムでは郵便・物流事業の業務改革、「地方創生」、さらに郵便局窓口における新たな価値提供を目指すみらいの郵便局をテーマに据えてより幅広い分野で共創を強力に推進していきます。
――「JAPAN POST INNOVATION PROGRAM」の特徴や参画するメリットについてお聞かせください。
砂山氏 : プログラムの最大の特徴は、日本郵便という非常に大きな組織とともに共創に臨めることです。日本郵便は全国津々浦々の約24,000ヶ所に郵便局を展開しています。これは国内シェアNo.1のコンビニエンスストアよりも多い数です。さらに、毎日、約11万台の車両が日本中の道路を走行しています。こうした膨大なリソースを活用して新規事業を構想できる機会は、極めて稀だと思います。
また、グローバル展開を期待できる点も特徴です。郵便・物流サービスは世界共通であり、多くの国が日本と同様の課題を抱えています。もし、仮に日本の郵便・物流サービスの課題を解決することができれば、その事業はグローバルにも展開可能です。壮大なビジョンを掲げるスタートアップには魅力的なプログラムだと自負しています。
そのほか、プログラムを通じた共創に加え、日本郵政グループのコーポレート・ベンチャーキャピタルである日本郵政キャピタルからの出資など、資本提携が可能である点も魅力の一つではないでしょうか。
――最後に「JAPAN POST INNOVATION PROGRAM」で目指しているゴールをお聞かせください。
砂山氏 : 私が考えるゴールは明確で「目に見える成果を、できるだけ多く出すこと」で、できるだけ多くの実証実験や実装を行うのが目標です。
そのうえで、パートナー候補の皆さんにお伝えしたいのは、ぜひ私たちの困りごと解決のために力を貸していただきたいということです。私たちは審査したり、上から評価したりする立場ではありません。パートナー候補の皆さんには、ぜひ当社を乗りこなしてほしいですし、もし、共創のなかで大企業特有の壁を感じるのであれば、事務局に遠慮なく申し付けていただきたいと思っています。
郵便・物流、地方創生、みらいの郵便局――各テーマの詳細や提供できるリソースとは?
――次に、本プログラムで設定されている3つのテーマ詳細について、各担当者に話を聞いた。
【テーマ01:郵便・物流】 短期的と中長期的の両面から物流を取り巻く課題解決にのぞむ
▲日本郵便株式会社 オペレーション改革部 担当部長 世羅 元啓氏
――「JAPAN POST INNOVATION PROGRAM」の郵便・物流のテーマでは、「短期的に取り組みたいこと」と「中長期的に取り組みたいこと」の2つの募集テーマを設定しています。このテーマを設定した背景や狙いについてお聞かせください。
世羅氏 : 本プログラムは今年度で6回目の開催ですが、郵便・物流の分野では一定の成果が得られています。例えば、2018年のプログラムで採択された株式会社オプティマインドのLoogiaは全国約700以上の郵便局に導入されています。
また、プログラム外の取り組みではありますが、配達員の業務進捗状況などを可視化するテレマティクスの導入も進みました。郵便・物流における人手不足が加速するなかで、DXにより現場の業務効率化や配達員の負担軽減に力を注いできたのがこれまでです。
しかし、そうした短期的な課題に取り組むなかで「今後の郵便・物流ネットワークはどうあるべきか」や「拠点集約を進めるべきか」といった中長期的な課題が浮き彫りになってきました。目の前の非効率や業務負担を解消するだけでなく、中長期的な課題解決にも向き合いたいというのが、二つのテーマを設定した理由です。
具体的には、短期的な課題としては内務業務と呼ばれる荷物の引受けや仕分け作業の効率化・可視化などに取り組み、中長期的な課題としては今後の業界構造の変化を見据えた、新たな郵便・物流ネットワークの構築を目指しています。
――共創パートナーとして想定している企業像や共創例をお聞かせください。
世羅氏 : 例えば、荷物の引受けを自動化・省人化するときに、1台百数十万円の自動引受け機を開発したとしても、2万ヶ所を超える全国の郵便局に導入するのはコスト的に困難です。実際に、これまでのケースでもコスト面への懸念から共創が見送られることがありました。そのため、スマートフォンやタブレットなどの一般的なデバイスを用いて自動化や解析が可能になるアイデアが理想だと考えています。
また、日本郵便が蓄積しているビッグデータを活用し、新たな価値を生み出すアイデアも求めたいです。ビッグデータの解析や活用に強みを有していたり、ビッグデータを掛け合わせられるプラットフォームを有していたりするスタートアップには、ぜひご応募いただきたいです。
そのほか、近年、日本郵便は他の物流事業者と同様に、カーボンニュートラルに向けた各種取り組みを進めています。中長期的な課題解決の手段として、カーボンニュートラルを実現するためのソリューションをご提案いただくのもよいかと思います。
――共創で活用できるリソースについて教えてください。
世羅氏 : 最も有効なリソースは、郵便局や車両などの広大な実証実験フィールドではないでしょうか。例えば、ある一つの郵便局で実証に成功すれば、その技術やソリューションを千倍や万倍にスケールすることが可能です。
また、その後には海外への展開も十分に期待できますし、共創としては非常にダイナミックな環境を提供できるかと思います。そのため「とりあえず実証実験をしてみたい」といった小さなモチベーションではなく「日本郵便と一緒に世界に羽ばたいていきたい」という強い気概を持って共創に臨んでいただきたいですね。
【テーマ02:地方創生】 社会的な課題の解決に向けた新規ビジネスの創出を目指す
▲日本郵便株式会社 地方創生推進部 係長 柿﨑 経一氏
――「地方創生」のテーマでは、共創を通じて、どのようなことを実現したいとお考えでしょうか。
柿﨑氏 : 人口減少、商店街や交通網の衰退など、地域がさまざまな課題を抱える中で、日本郵便でも、中期経営計画(JPビジョン2025)で「お客さまと地域を支える共創プラットフォーム」を目指しており、具体的な取り組みとして「社会的な課題の解決に向けた新規ビジネス等の創出」を掲げています。
そのため、近年では、社会的な課題の解決に向けた取り組みとして、地域に賑わいをもたらすことを目的とした地域PR商品の開発や郵便局ロビーでの無人農作物販売、自社所有の施設を活用したイベント開催など、複数の地方創生事業を展開していますが、日本郵便の豊富なリソースを活用しきれているとは言い難い状況です。
そこで、今回のプログラムでは、日本郵便の施設や郵便局ネットワークなどを活用し、地域のお客さまにより一層の価値を届けるサービスの開発を目指しています。
――共創パートナーとして、どのようなスタートアップを想定していますか。
柿﨑氏 : 共創パートナーには、日本郵便に不足している技術やアイデアを求めたいです。例えば、地域が抱える課題やニーズを抽出し、それを課題解決策として昇華させるノウハウや、全国の郵便局ネットワークを活用して新たなサービスを生み出すアイデアなどです。また、両者に収益性が見込め、Win-Winの関係性で共創を推進できることも重視しています。
――これまで地方創生事業において、スタートアップと連携した事例はありますか。
柿﨑氏 : 私が所属する地方創生推進部と日本郵政の新規ビジネス室が連携して「ローカル共創イニシアチブ」という枠組みを組成しています。これは、日本郵政グループから地域のスタートアップへ社員を出向させ、経営や事業運営のノウハウを学ばせると同時に、スタートアップの物流や金融を支援するものです。こうした事例の経験を生かして、今回のプログラムの共創を推進していきます。
――共創において活用できるリソースを教えてください。
柿﨑氏 : 大きく分けて二つのリソースがあります。一つ目は、全国各地の郵便局の施設です。施設内の窓口やロビー、空きスペース、郵便局ネットワークなどを利用したサービスの提供が可能です。二つ目は、窓口社員や配達員などの人的リソースです。郵便局にはさまざまな職種の社員が勤務していますので、柔軟なオペレーションを構築できるかと思います。
今回のプログラムでは、全国の郵便局や、そのネットワークを活用した共創アイデアを求めています。地域コミュニティの活性化や、郵便局のブランドや資産を活用した地域課題解決、地域間をつなぎ新たな価値を生み出すサービスの創出など、さまざまな形で共創パートナーとコラボレーションしていくつもりです。新たなサービスの創出につながるご提案を切に希望していますので、ぜひ多くのスタートアップからご応募いただければと思います。
【テーマ03:みらいの郵便局】 デジタル技術を活用し、あたたかく、安心できる顧客体験を創出する
【左】 日本郵便株式会社 デジタルビジネス戦略部 係長 袴田 優里子氏
【右】 日本郵便株式会社 デジタルビジネス戦略部 主任 塚本 麻由美氏
――お二人が担当される「みらいの郵便局」のテーマでは、どのような共創を目指しているのでしょうか。
塚本氏 : 日本郵便は地域に根ざした郵便局として、これまで郵便配達や窓口業務などの対面サービスを提供してきました。一方で、社会全体におけるデジタル技術の進化はめざましく、それらを活用したお客さまの利便性向上や体験価値のさらなる向上が強く求められていると考えています。そのため、日本郵便ではリアルの郵便局ネットワークとデジタル技術を融合させ、お客さまの体験価値を徹底的に高める「みらいの郵便局」というプロジェクトを推進しています。
しかし、日本郵便の真価は、地域の社会活動やお客さまのライフイベントに関わることによって築き上げてきた「安心感」や「信頼」です。これらなくして、みらいの郵便局は実現しないと考えています。
そこで、今回のプロジェクトでは、デジタル技術を活用し、郵便局をよりスマートで広い世代に受け入れられる存在に変革するとともに、デジタルだけでは実現できないあたたかさや安心感を提供できるような新たな事業をスタートアップの皆さんと作り上げたいと思っています。
――求めている共創パートナーや共創アイデアをお聞かせください。
袴田氏 : 日本郵便はこれからもお客さまの生活を支える存在であり続けたいと考えています。これまで、郵便・物流サービス、金融サービス、物販と、さまざまな商品を取り扱ってきましたが、それら以外にも郵便局と親和性の高いサービスがあるのではと考えています。私たちの目では見えなかったリアルな郵便局や郵便局ブランドを活用できるアイデア、それを実現しうる技術とともにご提案いただけることを期待しています。
例えば、お客さまの日常生活に密接に関係する教育、医療、福祉などのサービス。そのほかにも、一見、郵便局とは関係がないように思えても「お客さまの生活を支える」という点で共通するサービスに、郵便局のネットワークやブランド価値などを掛け合わせて、お客さまにとってより利便性の高いサービスを実現したいと考えています。
――共創で活用できるリソースについて教えてください。
袴田氏 : 全国津々浦々の郵便局や、そこで勤務している社員をリソースとしてご活用いただけます。過去のプログラムを振り返ると郵便局の空きスペースの活用を提案いただくことが多いのですが、今回は物理的な郵便局にとどまらず、150年にわたって地域のお客さまと育んできた安心感や信頼といった郵便局のブランド価値を活かしたサービスのご提案を期待しています。また、社内のさまざまな部署を巻き込む必要がある場合は私たちが中心となって関連部署との連携を進めますし、金融サービスに関わるご提案についてはゆうちょ銀行、かんぽ生命保険などとの連携も想定しています。
――最後に、応募を検討しているスタートアップに向けて、メッセージをお願いいたします。
塚本氏 : 郵便局のサービスは、公共性の高い社会インフラとして「確実に提供すること」が期待されています。そこには使命感や責任が伴うと同時に、チャレンジできる環境も広がっています。スタートアップの皆さんとは、日本郵便がこれまで取り組んでこなかった新しい分野に挑戦したいと考えていますので、ぜひご応募をお待ちしています。
袴田氏 : これからの郵便局は、私たちだけで実現できるものではないと考えています。サービスやソリューションの創出に留まらず「これからの社会のために」郵便局を使って何ができるのかをともに考えていけるような共創を期待しています。
▲プログラム事務局メンバーと各テーマオーナーが共創を推進していく。
取材後記
「JAPAN POST INNOVATION PROGRAM」の特徴の一つは、主催者側の共創に対するモチベーションの高さだろう。インタビューからは、単なるビジネスアイデアの募集ではなく、常にビジネス実装を念頭に置き、実現に向けて共創を継続的に支援する姿勢が伺えた。
スタートアップにとって、大企業との共創には不安も伴う。大企業特有の意思決定体制は、新規事業創出の足枷だと捉える向きもあるかもしれない。しかし、こうした熱意に燃えるメンバーによる支援があれば、組織の壁も無理なく乗り越えられるのではないだろうか。
今年度のプログラムは4期に分けて募集が行われる。第1期の募集開始は10月24日だ。応募を検討する企業は、以下のWEBサイトから募集の詳細をぜひ確認してほしい。
(編集・取材:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:齊木恵太)