地上波テレビ局が放送外事業である「子育て家庭向けのプラットフォーム事業」に挑戦!かながわMIRAIキャンペーンを通じてオープンイノベーションに挑む【BAK NEWNORMAL PROJECT 2022】
深刻なテレビ離れによって、ビジネスモデルの転換を余儀なくされているテレビ局。様々なテレビ局が新たな取組を始める中で、テレビ神奈川が2020年より注力しているのが子育て支援だ。
核家族や共働き世帯の増加により、子育てに関する課題は増加・多様化している。そのような子育て世代に対し、より快適に子育てが行えるような取り組みをはじめ、わずか2年で3万5千もの子育てネットワークを築き上げた。
しかしその一方でネットワークを活用しきれていないのが同社の抱える課題。築き上げた子育てネットワークを有効活用するために参画したのが、神奈川県主催の「ビジネスアクセラレーターかながわ(通称:BAK(バク))」だ。
今回、TOMORUBAでは、テレビ神奈川で共創企業のカウンターパートとなる事業推進部の玉村氏・斎藤氏のお二方へのインタビューを実施。同社がBAKへの参加を決定した理由、今回の募集テーマの設定背景と目的、さらには共創アイデアや共創企業に関するイメージ、ベンチャーに提供できるリソースなどについて詳しくお聞きした。
【上画像/左】株式会社テレビ神奈川 事業推進部 事業推進部長 玉村裕之氏(2022年5月11日現在)
【上画像/右】株式会社テレビ神奈川 事業推進部 事業推進副部長 斎藤夏樹氏
リアルとオンラインを組み合わせ、ロイヤリティの高い「子育てコミュニティ」を作りたい
ーーまずは貴社の現状や課題などについて教えてください。
玉村氏:当社は神奈川県を放送対象地域とする地上波テレビ局であり、メインとなる事業はテレビ放送です。皆さんご存知のように、民間放送局は広告収入で成り立っているため、広告収入による放送を成り立たせることこそが、当社の基本的なビジネスモデルです。
しかし、近年言われているような「テレビ離れ」が進んでいる現状では、テレビ放送以外の新しい事業も展開していく必要があります。これは当社における長年の課題です。私たちはテレビ放送以外の事業を「放送外事業」と呼んでいますが、このような放送外事業の一環として、2020年より「かながわMIRAIキャンペーン」というプロジェクトをスタートしました。
ーー「かながわMIRAIキャンペーン」について詳しく教えていただけますか?
斎藤氏:「かながわMIRAIキャンペーン」は、私たちテレビ局が、神奈川県内で子育てをする方々をサポートするために始めたプロジェクトです。具体的には、神奈川県にお住まいの生後6カ月までのお子様に「はじめてばこ」というプレゼントを入れた箱をお配りしています。
他にも当社のテレビ番組やSNSを通じて子育てに役立つ情報を発信したり、さらにはお子様や親御様に楽しんでもらえるようなイベントを開催したり。様々な側面から子育てのバックアップにつながるような取り組みを展開しています。
ーーその「かながわMIRAIキャンペーン」が、BAKへの参画理由と関連してくるのでしょうか?
玉村氏:私たちは「はじめてばこ」を月間1500箱ほど、赤ちゃんのいるご家庭にお配りしています。プロジェクトがスタートした2020年から約2年で、累計約3万5000箱をお配りしてきました。しかし、せっかく作った子育て世代のネットワークをうまく有効活用しきれていません。
子育て世帯の皆様や子育てに関連する組織・施設などをつなぐ場を作り、尚且つビジネスとしても成り立たせたい。そのために一緒に取り組んでいただけるパートナー企業と出会いたいと考え、BAKへの参画を決めました。
ーー過去にも共創の実績はあるのでしょうか。
斎藤氏:共創に至った実績はまだありません。実際に数社のプラットフォーマーの方々ともお話をさせていただいたのですが、私たちの構想がまだ煮詰まっておらず「手を組んで一緒にやりましょう」というところまでは至りませんでした。
今は私たちもビジョンが固まりつつあるため、改めて共創パートナーと組んで一緒に新しい価値を作っていきたいと思っています。
様々な組織・団体と連携していくようなコラボレーションをイメージしている
ーー今回のBAKでは「子育て家庭向けプラットフォーム事業の促進」という共創テーマを設定されており、共創アイデアイメージとしては、「子育てコミュニティの創生」と「子育てに役立つコンテンツの開発」の2つを挙げていただいています。とくに先ほどからお話しいただいているコミュニティについてですが、どのような「子育てコミュニティ」をイメージされているのでしょうか?
斎藤氏:これはコロナ禍以前からの問題ですが、30〜40年前と比べて核家族化や共働き化が進んだことにより、多くのお父さん・お母さんにとって、今の社会は子育てをしづらい環境になっていると考えています。そのような環境を少しでも楽にして、子育て全般をサポートできるようなコミュニティを作りたいのです。
ーー昔に比べておじいさん・おばあさんの手を借りづらい、さらには地域の皆さんのつながりが希薄になっていることなどが、子育てのハードルを上げているということでしょうか。
玉村氏:その通りです。また、都市圏ゆえの子育ての難しさもあると思います。マンション住まいの方が増えたことで近所付き合いも少なくなったと聞いています。さらにはコロナ禍によって人に会いづらい状況になり、親御様同士が公園などで集まって話をする機会も減っていますからね。
斎藤氏:「孤独な子育て」という言葉もありますが、そのような状況を少しでも改善していきたいですね。このコミュニティに所属することで、多くの皆さんが楽しく子育てができるような環境を作っていきたいと考えています。
たとえば先ほどお話しいただいたおじいさん・おばあさんとのマッチングサービスなども、アイデアとしては十分に有り得ると思います。私たちが社内で議論をした際にも同じようなアイデアが出ていますので、そのようなサービスの提案も大歓迎です。
また、「子育てに役立つコンテンツ開発」という視点で言えば、お子様が熱を出したり、急病になったりした際に手軽に利用できるオンライン対応の医療機能もそうです。さらには共働き家庭の方々が使いやすい「お子様の見守り機能」などを搭載したアプリケーショやソリューションなども付随したコミュニティになればいいなと考えています。
ーー共創相手として、特定の技術を持ったベンチャーなどもイメージされているのでしょうか?
玉村氏:技術に関してはピンポイントで考えているわけではないのですが、様々な組織・団体と連携していくようなコラボレーションをイメージしています。コミュニティの参加者に関しても、「はじめてばこ」をお届けしたご家庭に限らず、神奈川県で子育てに関わる様々な方々に参加してもらうのが理想です。
神奈川県の市区町村には多くの地域子育て支援拠点が存在しています。親御様がお子様を連れて来て、2、3時間だけ遊んで過ごして帰るという使い方もできますし、別の親御様にお子様を預かってもらうためのマッチングを行っている施設もあります。
そのような施設や拠点とも連携することも、より多くの方々が参加しやすいものになるだろうと考えています。
ーーそのような機能を持った地域の子育て支援拠点は一般的には広く知られているものなのでしょうか?
玉村氏:全国の市町村に存在しているのですが、存在自体を知らない方も多いと思います。知っていても「使い方がわからない」「どういうときに行けばいいかわからない」という方も多いでしょうね。私たちはもともと放送局なので、そのような支援拠点の存在を上手く知らせたり、使い方を広めたりするだけでも大いに意味があると考えています。
斎藤氏:NPO法人などによって運営されているため、基本的には無料で利用できますし、様々なイベントも開催されているんです。お子様が産まれた後のパパ・ママの集い、これからお子様が産まれる家族の皆様のための集い、マタニティヨガなど。
ただ、やはり施設や拠点自体が世の中の皆様に広く知られていないので、私たちの作るコミュニティが、そのような子育て支援拠点を上手く紹介してあげられるようなハブになれたらいいですよね。
番組内でのPRなど、地上波テレビ局としての情報発信力もリソースとして提供したい
ーーBAKを通じてオープンイノベーションが実現した場合は、玉村さんや斎藤さんの所属する事業推進部がカウンターパートとなるのでしょうか?
玉村氏:はい。私たち事業推進部が主管部門となります。ただし、「かながわMIRAIキャンペーン」自体は社内横断的なプロジェクトであるため、営業部や編成部、製作部のメンバーも参加しています。そのため、様々な部門のメンバーがアイデアを出し合い、それぞれの持つノウハウを活かしながら共創を進めていくこともできるでしょう。
ーーテレビ神奈川として共創相手のベンチャーに提供できるリソースなどがあれば教えてください。
斎藤氏:「かながわMIRAIキャンペーン」の取り組みの一環として進めてきた「はじめてばこ」による子育て世代のネットワークがあります。毎月1500件、累計で3万5000件に配布している実績がありますので、何らかの形で活用いただきたいと考えています。
玉村氏:当社が持っている地上波テレビ放送やオンライン配信をベースとする情報発信力もリソースとして活用いただけます。また、トライアルの段階ではありますが、リアルとオンラインを組み合わせた音楽ライブイベントなども行っていますので、そこで得られたノウハウなども提供できると考えています。
▲5月28日、29日に横浜公園及び日本大通りで行われた「かながわMIRAIキャンペーン」の一環として開催したイベント「かながわMIRAIストリート」の様子
斎藤氏:SNSに関してはInstagramで定期的に投稿を行っています。「はじめてばこ」を受け取ったお子様や親御様の声を写真と共に投稿していますし、オススメの公園やスポットなど、自治体からの子育て情報も併せてお届けしています。フォロワーは2000人弱ですが、こちらもユーザーとの接点として活用いただけると思います。
ーー共創スタート後の取り組みなどについて、実際にテレビ番組などでアピールしていただくことも可能なのでしょうか?
斎藤氏:もちろんです。月曜〜木曜のお昼(12:00~13:30)に放送している『猫のひたいほどワイド』では、毎週水曜日に「かながわMIRAIキャンペーン」に関する情報発信を行っています。共創がスタートし、何か新しい事業を始めるということになれば、こちらの番組のコーナーでご紹介させていただきます。
ーー先ほどは、共創相手に関して「技術に関してはピンポイントで考えていない」と仰っていましたが、技術面以外でのカルチャーや特色などに関して、「こんなベンチャーと組みたい」という希望やイメージはありますか?
玉村氏:せっかく一緒に組むのですから、できるだけ長く続けられる方々とご一緒したいと思っています。
当社は資本こそ大きいものの、社員数は100名程度と小規模であり、良くも悪くもアットホームな会社です。また、誕生から約70年が経過しているテレビ放送は、どちらかと言えば古い産業ですし、当社自体も今年で開局50周年を迎える古い会社です。
当然、意思決定のスピードなどに関しては、ベンチャー企業の皆さんとは異なるかもしれません。お互いの違いを理解しながら、リスペクトをもって事業を進めていけるパートナーと出会えると嬉しいです。
ーー最後になりますが、貴社が掲げている共創テーマや貴社とのオープンイノベーションに興味を持っている方々へのメッセージをお願いします。
玉村氏:テレビ神奈川は、神奈川県に根ざした放送局ですので、まずは神奈川県の方々のお役に立ちたいという思いが一番にあります。神奈川県内で活躍している皆様同士を結びつけながら、当社としても新しいビジネスを作っていけるようなプロジェクトにしていきたいと考えていますので、私たちと同じような志を持った方々にご応募いただきたいですね。
斎藤氏:神奈川で生まれて良かった。神奈川で子育てをしていて楽しい。県民の皆様にそう思っていただくことこそが、「かながわMIRAIキャンペーン」の一番のテーマです。私たちの活動に心から賛同いただける企業様と一緒に仕事をしたいと考えています。ご応募お待ちしています。
取材後記
「自分たちだけでオリジナルのコミュニティを作るのではなく、子育て支援拠点なども含めて、子育てに関わっている様々な人々・拠点をつなげていきたい」と語ったように、今回のテレビ神奈川との共創は、「大企業×ベンチャー」という座組みの枠を超え、神奈川県で子育てに関わるあらゆる人々・組織を巻き込み、そのすべての人たちに貢献できるような大規模イノベーションに発展していくポテンシャルがあると感じられた。
また、同社が掲げた共創テーマが実現されることで、神奈川県のみならず全国の自治体が頭を悩ませている人口減少問題や少子化問題を解決する糸口が見つかる可能性もある。今回、同社の目指す世界観や志に共感された方は、ぜひエントリーを検討してほしい。
●「BAK NEW NOMAL PROJECT 2022」の詳細についてはこちら(最終応募締切:7/11まで)
(編集・取材:鈴木光平、文:佐藤直己、撮影:加藤武俊)