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リトアニア第2のユニコーン「Nord Security」が誕生。躍進する同国のスタートアップエコシステムを探る

リトアニア第2のユニコーン「Nord Security」が誕生。躍進する同国のスタートアップエコシステムを探る

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人口約280万人と小国のリトアニアは、エストニア、ラトビアと共に「バルト三国」と呼ばれる。近年は、この地域のイノベーション戦略やスタートアップに注目が集まりつつある。

リトアニアの首都ヴィリニュスは、イノベーションをもっとも促進するヨーロッパの都市に送られる賞「European Capital of Innovation Awards 2021」で、3位を受賞。デジタル国家のエストニアと比較するとイノベーションランキング等の順位は落ちるが、国単体で見ると飛躍は明らかだ。

4月には、VPN製品のNordVPNで知られるリトアニアのスタートアップ「Nord Security」が、同国第2のユニコーンになったと報じられた。また、健康アプリを世界展開する「Kilo Health」は、ファイナンシャルタイムスの「Europe’s fastest-growing companies 2022」(ヨーロッパでもっとも急成長している企業)で2位となった。

世界の企業が取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第21弾では、躍進するリトアニアのスタートアップエコシステムを現地のレポートなどを参照して紐解きたい。

評価額16億ユーロ以上「Nord Security」がユニコーンに


▲Nord Security提供

VPN製品のNordVPNで知られるリトアニアのスタートアップ「Nord Security」は、4月7日、1億ドル(約130億円)を調達し評価額が16億ユーロ(約2000億円)以上に。2019年にユニコーンとなったオンライン古着市場のVintedに続き、リトアニア第2のユニコーンとなった。

VPNは特定ユーザーのみが利用できる仮想ネットワークを構築できることから、主にネットワーク接続のセキュリティ向上を目的に利用される。コロナ禍の影響で在宅勤務、あるいはリモートワークを導入する企業が劇的に増えたことから、VPNの利用が大幅に促進されたのかもしれない。

また、テクノロジーの急速な変化により、新たな発展があるごとに脅威が増えるという事情もある。Nord Securityによれば、2025年までにサイバー犯罪による世界経済の損失は10.5兆ドルに達するという。さらに、消費者の約半数がハッキングされるという驚異的な想定も。これまで以上にサイバーリスクにさらされている企業や個人は、資産を守るために適切なリスクヘッジが求められている。

海外在住者にとっては、セキュリティで保護された日本国内の情報を取得するためにVPNを利用するケースが多く、筆者も北欧在住時は、NordVPNを利用して日本の動画サイトを閲覧していた。非常に安定していて、速さもあり使いやすい印象だった。


▲Nord Security提供

2012年に創業したNord Securityは、多様な商品展開で消費者と企業向けのセキュリティ強化ソリューションを提供する。個人向けのVPNサービス「NordVPN」をはじめ、企業向けのセキュリティソリューション「NordLayer」、パスワード管理の「NordPass」、暗号化クラウドストレージ「NordLocker」など。

2022年2月には、消費者向けサイバーセキュリティ企業として世界的に人気の高いSurfsharkとの提携を発表している。この提携と資金調達により、チームの拡大やプラットフォーム機能の研究開発を見込んでいる。

EU成長企業2位。健康アプリの「Kilo Health」大躍進の理由

15種類の健康系アプリを提供し、大躍進している「Kilo Health」も要注目の企業だ。同社は、ファイナンシャルタイムスの「Europe’s fastest-growing companies 2022」(ヨーロッパでもっとも急成長している企業)で2位に、デロイトトーマツが選ぶ中央ヨーロッパの成長企業ランキング「Deloitte Technology Fast 50 Central Europe 2021」でも2位となった。

今回、同社の共同創業者でありCEOのTadas Burgaila氏にコメント取材を実施。その内容を紹介したい(回答の一部抜粋)。

ーー競合他社と比較した「Kilo Health」のサービスの特徴とは。

2013年の創業時、私たちは7人のチームで、郊外にあるオフィスで仕事をしていた。現在では550人以上の専門家、400万人以上のお客様、そして15種類のデジタルヘルス製品を有し、世界のほぼすべての地域の人々の疾病予防や健康増進に貢献している。

弊社では、慢性疾患を持つ人や総合的な健康増進を目指す人を支援しており、2型糖尿病の管理、血圧のモニタリング、メンタルヘルスの管理、一般的な健康維持に役立つ製品を提供している。

私たちの研究開発ラボでは、少なくとも20%の専門家が、より良い習慣の構築を支援したり、家族の健康管理を支援したりする製品の新しいアイディアを常に研究・開発している。こうして私たちは世界のトレンドを常に把握し、新たな問題に対する答えを提供する機会を逃さないようにしている。

弊社の企業文化もまた、特別なものといえる。自由、信頼、向上心という共通の資質がメンバーを結びつけており、そのため私たちはリトアニアでもっとも求められる雇用主の一つとなっている。他国にオフィスを構える際にも、同じ価値観を持ち込めるよう取り組んでいく。


▲「Kilo Health」CEOのTadas Burgaila氏のLinkedInページより

ーー急成長している要因は?

独立した企業であることは、成功の大きな要素だ。そのおかげで、新製品のテストや発売、新しい成長ソリューションの試行が迅速に行える。

また、過去12ヶ月間に他のデジタルヘルススタートアップに数百万ドルを投資している。私たちは、この急成長する市場に貢献する革新的なデジタルヘルスソリューションを開発する有能なチームを常に探している。

私たちは、実験、野心的で大胆であること、目立つことを恐れない。社員がそうすることを奨励している。これも、弊社が成功している要因だと考えている。15の製品の中には需要が減少したものもあるが、パンデミック以降に急増したものもある。

ーー日本市場をどう捉えているか?

世界のほとんどの国に顧客がいるが、現在はアメリカやヨーロッパで着実に成長し、より強固な基盤を築きながら、他国へ拡大させることが目標だ。他国でも最高のサービスを提供したいので、当然ながら製品の調査等には時間を要する。

翻訳だけでなく、新しい市場への参入には、その国の文化を深く理解する必要がある。現地の食材に合わせて栄養計画を調整する必要もあるかもしれない。オハイオ州の田舎に住む人と東京に住む人ではストレスのかかり方が違う、といった細かい点にも気を配らなければならないかもしれない。さまざまな要素が絡み合う中で、私たちは最高のカスタマーエクスペリエンスを提供することを目指している。 

デジタル製品のほとんどは日本ですでに販売されているが、今後、物理的な製品も展開していく予定だ。これまでのところ、もっとも人気があるのは、体重管理アプリの「Keto Cycle 」と「DoFasting」だ。


▲食事や運動の管理、専門家のアドバイスを提供する体重管理アプリ「Keto Cycle」(同社のHPより)

ーー今後のチャレンジは?

常に顧客の声に積極的に耳を傾け、顧客の悩みを聞き、もっとも役に立つ方向へ進むよう心がける。テクノロジーは単なるツールであり、私たちの焦点は常に人々の問題を解決することにある。未来は常に驚きに満ちている。私たちにできることは、顧客が健康上の問題を抱え込まないようにすることだけだ。

成熟するリトアニアのスタートアップエコシステム

続いて、現地のレポートを参照し、リトアニアのスタートアップエコシステムを探りたい。リトアニアの政府機関が運営する「Startup Lithuania」などが発行した「The Lithuanian startup ecosystem 2021」では、「リトアニアのエコシステムが成熟期を迎えている」と語られている。


▲現地のレポート「The Lithuanian startup ecosystem 2021」より(以下同)

リトアニアのスタートアップの合計企業価値は、現在71億ユーロ(約9,700億円)に達し、2016年から17倍に増加している。同レポートによれば、国内初のユニコーン「Vinted」の活躍が好影響をもたらしたという。

また、リトアニア企業へのベンチャーキャピタル投資額は、2021年までに4億2,800万ユーロ(約585億円)となり、過去最高を更新。それまでの過去最高記録であった2018年の2.2倍となった。アーリーステージの資金調達額は、昨年比2.4倍で1億1,800万ユーロ(約161億円)に達した。



現在、同国のユニコーンは、既出の「Nord Security」を加えて2社、イグジットした企業が5社、その他にユニコーン候補も存在している。



ヨーロッパ内の一人当たりのベンチャーキャピタル投資額ランキングでは、リトアニアが9位にランクイン。ヨーロッパ諸国と比較すると、エストニア、スウェーデン、スイス等のイノベーション国には遠く及ばないものの、リトアニア単体の数字を見ると大幅に飛躍している状況だ。



一方で、現地で活動するスタートアップが課題を感じている様子も見られた。リトアニアのスタートアップに「リトアニアのスタートアップエコシステムでもっとも欠如しているものは?」と訪ねた結果、1位が「事業所の金銭的サポート」(51%)、2位が「政府機関のサポート」(49%)、3位が「第三国からの人材を受け入れる際の簡単なプロセス」(31%)となった。

リトアニアのスタートアップエコシステムには、改善の余地はあるようだ。しかし、同レポートには、「バルト海沿岸地域は世界でもっとも優遇されたストックオプション規制がある。人材の確保と維持が容易で、かつ投資しやすい」とのコメントがあった。

実際、サンフランシスコとロンドンに本社を置くヨーロッパのベンチャーキャピタル企業「Index Ventures」は、「ストックオプションに有利なヨーロッパの国は、ラトビア、エストニア、リトアニアの3カ国」との分析を公表している。

今後ますますの活躍が期待されるリトアニアのスタートアップ。ヨーロッパの注目国の一つとして、引き続き注視していきたい。

編集後記

バルト三国というと、デジタル国家の印象が強いエストニアに注目が集まりがちで、筆者も正直エストニアのほうが気になっていた。しかし、第2のユニコーンが誕生したことを機に調べてみると、リトアニアの躍進は目覚ましかった。この流れに乗って投資額を増やし続け、企業価値を上げていけるのか。リトアニアの今後に期待したい。

(取材・文:小林香織) 

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世界のスタートアップが取り組むイノベーションのシーズを紹介する連載企画。