宮崎発で、全国の「地域課題」解決へ!メディア・水産・小売・物流の地場企業4社が採択した新規事業アイデアとは?
2021年12月3日、4日の2日間、宮崎県宮崎市において「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD」が開催された。
MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILDは、宮崎県を拠点とするホスト企業が募集するテーマに、全国のICT関連企業がデジタル・テクノロジーを活用したビジネスアイデアを応募し、新たなビジネスモデルの創出を目指すプログラム。宮崎県庁の「デジタル・イノベーションフィールド構築事業」の一環として開催されている。
応募企業は、2日間に渡って、ビジネスアイデアのブラッシュアップを行い、プログラムの最後にプレゼンを実施する。その結果、ビジネスアイデアが採択された企業は、ホスト企業との実証実験・インキュベーションに進むことができる。
今回、ホスト企業に名乗りを挙げたのは、株式会社テレビ宮崎(以下、テレビ宮崎)、有限会社浅野水産(以下、浅野水産)、株式会社マルイチ(以下、マルイチ)、株式会社マキタ運輸(以下、マキタ運輸)の4社。メディア、水産業、小売、物流と、幅広い業界から宮崎県を代表する地場企業が集っている。
TOMORUBAでは、MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILDを2日間に渡って密着取材。「日本のひなた」宮崎県で、どのようなビジネスの種が芽生えようとしているのかを追った。本記事では、2日目の最終プレゼンを中心に、プログラムの模様をお届けする。
2日間のプログラムでビジネスアイデアが研ぎ澄まされていく
プログラムはJR宮崎駅からほど近いイベント会場で開催された。1日目のプログラムは、宮崎県庁からの挨拶やホスト企業によるテーマ説明などを経て、ビジネスアイデアのブラッシュアップが始まる。応募企業は、各界の最前線で活躍するメンター陣からのメンタリングを受けながら、ビジネスアイデアを研ぎ澄ましていった。
そして、プログラム2日目。応募企業は午前中から会場に集まり、最終プレゼンに向けた準備を進めた。各社のプレゼン資料には、2日間の試行錯誤の成果が詰め込まれ、宮崎県の未来をひらく新たなビジネスモデルとして描き出されていく。
最終プレゼンは2日目の午後2時30分からスタート。最終的に7社(6チーム)が登壇し、2日間で築き上げたビジネスアイデアを披露した。続いては、採択企業のプレゼンの内容を紹介する。
【テレビ宮崎】 「関係人口創出」「探究学習」をテーマにした2社を採択
宮崎県の地上波テレビ局であり、日本唯一の3局クロスネット局(フジテレビ系、日テレ系、テレ朝系)でもあるテレビ宮崎は、テレビ局という立場に捉われない、新たなビジネスモデルの確立を目指した3つの募集テーマを設定した。
■募集テーマ「地域活性につながるメディアの新たな価値創造」
・UMKグループが保有するリソースの有効活用
・県外在住の宮崎県出身者も繋がれるローカルコミュニティ形成
・ハリブリッドドローンを活用した、非常時/平常時で活躍するソリューション・サービスの共同開発
その結果、関係人口創出による地域経済活性化を提案した「株式会社3rdcompass」と、教育分野のオンラインソリューションを提案した「株式会社Study Valley」が採択された。
■株式会社3rdcompass
提案内容「宮崎を全員で応援!オンラインバーチャル県人会(ちょい緩)ローカルコミュニティ創出!」
D2Cサービス「エドノイチ」を展開する3rdcompassは、テレビ宮崎のコンテンツなどを活用したオンラインコミュニティの創出を提案した。
現在、宮崎県が直面する大きな課題に人口減少がある。少子高齢化と人口流出により、宮崎県では毎年2万人ほどの人口が減少し続けており、県内経済は縮小傾向だ。その影響は、宮崎県を中心とした放送エリアを有するテレビ宮崎にも及んでおり、県内外からの新たな収益源の確保が急務となっている。
3rdcompassは、そうした課題を解決するためには、県外から宮崎県に関わりを持つ「関係人口」の創出が必要だと訴える。そこで、同社が提案するのが、マルチ地域情報配信サイト「ほぼ県人会(仮)」だ。
「ほぼ県人会(仮)」では、テレビ宮崎の制作コンテンツのほか、宮崎県の食材や商品などを展開。地元ならではの希少価値の高い情報や商品を発信することで、幅広い層に宮崎県の魅力をアピールし、関係人口の創出を図る。さらに、県外でのオフ会開催など、オフラインイベントなどを組み合わせることで、宮崎県を「第2の故郷、第3の居場所」とするライトなユーザー層も関係人口として拡大し、県産品の拡販、県内経済の活性化を狙う。
<ホストチーム・受賞者コメント>
採択理由について、テレビ宮崎の谷之木志章氏は「すぐにすべてを実現できるわけではありませんが、将来的な可能性に富んだビジネスアイデアだと思いました。ぜひ、長期的な関係で取り組みを進めていきたいです」と述べた。
これを受けて、3rdcompassは「今回、採択いただけた理由は『どうすれば宮崎県のためになるか』を真剣に考えたからだと思います」と宮崎県への熱い想いを語り、今後は宮崎県のステークホルダーを巻き込みながら事業創出を果たしたいと話した。
■株式会社Study Valley
提案内容「地域に根ざした探究学習を用いた新しい地域価値創造」
探究学習特化型EdTechプラットフォームを展開するStudy Valleyは「探究学習」をテーマとしたビジネスアイデアを提案した。
探究学習とは、探究的の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成することを目指す教育科目だ。2022年から高等学校での必修化が予定されており、全国の高校で授業開始に向けた対応が進んでいる。
一方で、探究学習は、教育現場の大きな課題でもある。教材準備にかかる手間や、授業ノウハウの不足などがネックとなり、探究学習への対応に頭を抱える高校や教員は少なくないという。
そこで、Study Valleyは自社が展開する探究学習特化型EdTechプラットフォーム「Time Tact」と、テレビ宮崎の豊富な企業接点などを融合させた、宮崎県オリジナルの探究求学習プラットフォームの開発を提案する。
このプラットフォームでは、テレビ宮崎が接点を持つ県内企業が探究学習のテーマを提供。生徒は、そのなかから自由にテーマを選び、探究学習に取り組むことができる。これにより、高校側は探究学習にかかる手間を軽減できるほか、企業側は若年層への認知度向上を図ることができる。
さらに、プラットフォームでは、テレビ宮崎のアーカイブニュース映像などを展開。メディア・学校・地元企業が連携した探究学習ソリューションとして、他地域にも導入を進めていき、事業の拡大を目指す。
<ホストチーム・受賞者コメント>
テレビ宮崎の山本一成氏は「私たちの課題、宮崎県の課題、どちらにもフォーカスされていた点が採択理由でした。この共創を必ず成功させ、ここ宮崎県から全国に向けて発信していきたいです」と、今後の取り組みに強い意欲を見せた。
一方、Study Valleyは「教育は責任が重い分野だと常々、感じています。使命感を持って、共創にのぞみたいと思います」と、力強く受賞コメントを語った。
【浅野水産】 2社合同による「船舶操業の最適化支援ソリューション」が見事、採択
近海かつお一本釣り漁船「第五清龍丸」を操業し、宮崎県内有数の水産業者である浅野水産。これまでも、デジタル技術を活用した先進的な取り組みを進めてきた同社は、水産業のさらなるICT化を実現するための募集テーマを3つ設定した。
■募集テーマ「船舶ICT化の基盤構築、漁業の未来を切り拓く」
・沖合でのオンライン通信環境の構築
・テクノロジーを活用した船舶の機関業務の効率化
・テクノロジー活用による水産バリューチェーンの再構築
この募集テーマに対して、株式会社オーシャンアイズと株式会社ライトハウスが合同でソリューションを提案。見事、採択企業に選ばれ、実証実験・インキュベーションに進むこととなった。
■株式会社オーシャンアイズ、株式会社ライトハウス
提案内容「水産業のニュースタンダードを社会実装」
当初、オーシャンアイズとライトハウスは、別のチームとしてプログラムに参加していたが、1日目のメンタリングを通じて、両社のビジネスアイデアに強い親和性が確認されたため、共同提案の形を採った。
今回、提案された「船舶操業の最適化支援ソリューション」には、そうした両社の強みが十二分に生かされている。
このソリューションは、ライトハウスが保有する海洋船舶IoTサービス「ISANA」による船舶データの自動収集と、オーシャンアイズによる高度な海洋関連データの解析技術が組み合わされたもの。船舶の操業データ、漁獲データ、魚倉の機器データなどをリアルタイムでクラウド上に集積し、独自アルゴリズムで解析した内容を水産基地に共有することで、操業判断の最適化を支援する。
これにより、漁業者は、経験や勘に左右されがちな魚倉の温度管理や漁場の選定などをデータに基づいて実施できるほか、船舶操業の最適化による魚価の最大化も期待できる。
両社は、このソリューションを、まずカツオの一本釣りやマグロ延縄などの高付加価値漁法の漁業者向けにサブスクリプションサービスとして展開すると想定。徐々にサービスの拡大を図り、最終的には国内漁船10万隻に向けた展開を目指すとした。
<ホストチーム・受賞者コメント>
浅野水産の浅野龍昇氏は「日本の水産業を変革するうえで、これ以上ないチームが出来ると確信しています。ぜひ、エポックメイキングな事業を実現しましょう」と採択企業に力強く語りかけた。
これに答えて、ライトハウスは「私たちがいくら技術を提供しても、水産業者さんにご協力いただかないと何も変わりません。ぜひよろしくお願いします。そして、日本を変えましょう!」と頼もしく宣言した。
【マルイチ】 「オーガニック野菜の購買を促進するライブコマース」が採択
宮崎県内最大級のローカルスーパーチェーン・マルイチ。グループ内(日向百姓会)で農園を保有しており、オーガニック野菜を生産・販売を実施している同社は、生産者や消費者との関係を強化し、WIN-WINの関係を構築するためのビジネスアイデアを求めた。
■募集テーマ「生産者と消費者をつなぐプラットフォーム構築」
・オーガニック食品や特産品の購買促進を実現するソリューション開発
・サプライチェーン上での双方向コミュニケーションの実現
最終プレゼンの末、採択企業には、オーガニック野菜の購買促進アイデアを提案した「株式会社クリップス」が選出された。
■株式会社クリップス
提案内容「オーガニック野菜の潜在顧客の発掘」
クリップスの提案は、ライブコマースを活用したオーガニック野菜の購買促進アイデアだ。
マルイチは、約5年前からオーガニック野菜事業を展開。自社農園で有機農法を行い、流通から販売までを一貫して担うことにより、一般的な野菜と同程度に近い価格でオーガニック野菜を提供している。しかし、顧客層にオーガニック野菜の長所や特徴がなかなか伝わらず、売上や認知度が頭打ちにあるという。
そこで、クリップスは、自社が展開する動画配信プラットフォーム「SharingLive」などを活用したライブコマースの実施を提案する。
具体的には、宮崎県内の子供を持つ30〜40代の女性をターゲットに、「オーガニック野菜を使った離乳食の作り方」や「野菜嫌いの子供に野菜を食べさせる方法」などをテーマにしたライブ動画コンテンツを提供し、オーガニック野菜の魅力を訴求していく。さらに、プラットフォーム内のチャット機能を活用して、双方向のコミュニケーションを交えることで、オーガニック野菜への理解や認知をより深める。
こうした施策を通じて、オーガニック野菜の潜在需要を顕在化し、購買促進を実現するのがクリップスのアイデアだ。
<ホストチーム・受賞者コメント>
マルイチの高木資子氏は「マルイチが取り組みたいけど、なかなか取り組めていなかった施策をご提案してくれました」と高く評価。今後の取り組みに期待をのぞかせた。
一方、クリップスはプログラムについて「ずっと悩み続けた2日間でした。しかし、その結果として、マルイチさんに喜んでいただける提案ができたので、今は満足感でいっぱいです」と受賞の喜びを語った。
【マキタ運輸】 バラバラの物流システムを「まとめる」アイデアが、インキュベーションに進出
宮崎県内大手の物流企業であり、全国複数ヶ所に拠点を有するマキタ運輸は、物流のDXによる業務効率化や人材育成促進などを可能にするビジネスアイデアを求め、2つの募集テーマを設定した。
■募集テーマ「テクノロジー活用による物流現場のアップデート」
・物流現場のDX推進による業務効率化の実現
・ドライバー・整備・倉庫業務のマニュアル構築と人材育成の効率化
最終プレゼンの結果、物流システムの統合化を提案した「一般社団法人スマートシティサーベイ」が採択企業に選ばれた。
■一般社団法人スマートシティサーベイ
提案内容「総合物流システムの1stステップ実証『まとめる君』」
スマートシティサーベイは、総合物流システム「まとめる君」の開発を提案する。
まとめる君は、複数の物流系業務システムが統合されたシステム。配車や受注、勤怠や労務など、さまざまな業務管理が一つのダッシュボード上で行えるほか、その他ITサービスとの連携も可能となる。業務全体がシステム上でシームレスに繋ぎあわせられるため、物流企業のDXを大幅に押し進めることができる。
特に、まとめる君が効果を発揮するのが配車業務だ。配車業務は、当日の人員や車両の位置、交通状況などによって対応を変化させなければいけない、イレギュラーの多い仕事だ。そのため、経験豊富な配車担当者が業務に当たらなければならず、スキルが属人化しやすい領域だった。
しかし、まとめる君を活用すれば、配車業務をデジタル化できるため、配車担当者の負担削減や人手不足解消が可能となる。
▲「まとめる君」の導入イメージ
スマートシティサーベイは、まとめる君をマキタ運輸との実証を通じて開発し、2025年までには基幹システムを含めたほとんどの物流系システムの内製化を目指す。システム開発後は、南九州の物流企業を中心に導入を進めていきたいとした。
<ホストチーム・受賞者コメント>
マキタ運輸の水元雅士氏は「ご提案内容はもちろんのこと、スマートシティサーベイの皆さんのお人柄に惹かれました」と、チームの真摯な姿勢が採択の決め手だったと話した。
オープンイノベーションプログラムへの参加が初めてだったというスマートシティサーベイは「こういう場は初めてで、当初は迷走ばかりしていましたが、マキタ運輸さんやメンターの皆様のおかげで最終プレゼンにたどり着くことができました。本当にありがとうございました」と感謝の念を述べた。
宮崎県庁・総評―「2日間とは思えない、プレゼンの完成度だった」
このほか、最終プレゼンには1社(まちコイン株式会社)が登壇。厳正な審査の末、採択には至らなかったものの、独自性の高いビジネスアイデアは会場から高い評価を得ていた。
■まちコイン株式会社(マルイチへの提案)
提案内容「『特別なお願い』から始まる共感マーケティング」
まちコインはオーガニック野菜の購買促進を促すため、店舗と顧客の繋がりを強化するビジネスアイデアを提案。同社が特許を取得したクローズドなクラウドファンディング「カスタマーファンディング」に特定の顧客を招待し、店舗と顧客の心理的距離を縮めるほか、主婦(夫)向けのスマホサイトによる情報発信を行うなどして、マルイチのオーガニック野菜にかける想いや苦労を顧客に届け、顧客の購買意欲向上を図るとした。
プログラムの最後には、MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILDを主催した宮崎県庁の商工観光労働部企業振興課の湯淺伸弘氏が登壇し、挨拶を述べた。
湯淺氏は冒頭、応募企業、ホスト企業、メンターなど、プログラムの関係者全員に感謝の言葉を述べたのち「2日間、カンヅメでビジネスアイデアを練り上げていく皆様の意欲には圧倒されました」とプログラムを通じての感想を述べた。
続けて湯淺氏は「応募企業の皆様のプレゼンは、2日間の期間で作り上げたものとは思えないほどの完成度でした。採択企業の皆様には、その完成度をより高め、ぜひ事業の社会実装を実現していただきたいです」と話し、2日間に渡るプログラムを締め括った。
取材後記
宮崎県に限らず、今、地方は数えきれないほどの課題を抱えている。人口の減少や流出による労働力不足や地域経済の縮小といった問題は年々深刻さを増し、待ったなしの局面を迎えていると言っていいだろう。
今回のプログラムからは、そうした地方の課題を解決するヒントが垣間見える。行政、地場企業、デジタル技術に強みを持つ企業の三者が力を合わせ、地域に根付く課題の解決策を作り上げる。その営みこそが、地方に大きな力をもたらし、積み重なる地方の課題を解決していくのではないだろうか。MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILDでは、その雛形が提示されたと感じた。
2022年3月中旬には、採択された各プロジェクトのDEMODAY(成果発表会)の開催も宮崎市内の会場で予定されている。TOMORUBAとしても本事業のその後についても迫っていく予定だ。
(編集・取材:眞田幸剛、文:島袋龍太、撮影:齊木恵太)