【宮崎県が挑む共創プログラムとは?<後編>】―県を代表するテレビ局・物流企業がデジタル技術を活用して思い描く「共創のカタチ」
宮崎県の県内企業とICT企業が連携し、デジタル技術を活用した新たなビジネスモデルを創出する「デジタル・イノベーションフィールド構築事業」。
その一環として開催されるオープンイノベーションプログラム「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD」(以下、BUSINESS BUILD)が、2021年10月から募集開始されている。
TOMORUBAでは、本プログラムのホスト企業にインタビュー取材を実施し、それぞれが抱える課題やプログラムへの想いを掘り下げている。前編では、ローカルスーパーチェーンの株式会社マルイチと近海かつおの一本釣りを手がける有限会社浅野水産に話を伺った。
後編に登場するのは、宮崎県の民放テレビ局である株式会社テレビ宮崎(以下、テレビ宮崎)と、全国に独自の物流ネットワークを構築する株式会社マキタ運輸(以下、マキタ運輸)。両社とも宮崎県内において確固たる地位を築いている地場企業だ。
豊かな自然、温暖な気候、豊富な食資源。恵まれた気候風土を持つ宮崎県において、メディア事業や物流事業を展開する両社は、今、何を求め、どのような変革を目指しているのか。両社が思い描く、共創のカタチに迫った。
【ホスト企業③:テレビ宮崎】――地域活性につながるメディアの新たな価値創造
テレビメディアとして日本唯一の3局クロスネット局(フジテレビ系、日本テレビ系、テレビ朝日系)であり、宮崎県内全域のテレビ視聴者(視聴可能47万世帯)、UMK(※1)アプリ(2021年8月時点 15万DL)利用ユーザー、広告関係のクライアント400社以上とのネットワークを保有するテレビ宮崎。BUSINESS BUILDでは、以下3つの募集テーマを掲げている。 ※1:テレビ宮崎の略称
・UMKグループが保有するリソースの有効活用
・県外在住の宮崎県出身者も繋がれるローカルコミュニティ形成
・ハイブリッドドローンを活用した、非常時/平常時で活躍するソリューション・サービスの共同開発
テーマ設定の背景や提供できるリソースなどについて、新規事業開発専門チームを牽引する谷之木氏と野中氏、山本氏の3名に話を聞いた。
――テレビ宮崎の事業概要や特徴についてお聞かせください。
テレビ宮崎・谷之木氏 : テレビ宮崎は、主に3つの事業で構成されています。一つ目がメディア事業です。地上波テレビ放送、インターネット配信、スマートフォンアプリ「UMKアプリ」を用いて、ニュースや天気予報、生活情報などのコンテンツをお届けしています。
二つ目がイベント事業。「アクサレディスゴルフトーナメント in MIYAZAKI」を始め、スポーツ、音楽、ビジネス、文化などに関する各種イベント・セミナーを開催しています。
最後に、三つ目が新規事業です。テレビ宮崎は2017年ごろから、新規事業開発に着手し、2020年には新規事業開発部を立ち上げるなど、取り組みを本格化させています。
新規事業はすでに複数の事業をローンチしており、一定の成果を収めています。その一例が、テイクアウト専用アプリ「FastPick(ファストピック)」の事業です。FastPickは、外部のコンサルティング企業が開発したアプリですが、テレビ宮崎の集客力を生かしてユーザー層を拡大しています。
一方で、そうした取り組みのなかで、「自社だけでは強力な新規事業は開発できない」と学びました。FastPickの事業についても、アプリの開発はパートナー企業、集客・広報宣伝はテレビ宮崎と、両社の強みを生かしてサービスが拡大していきました。そうした経緯から、現在、テレビ宮崎では、オープンイノベーションによる新規事業開発に注力しており、今回のプログラムへの参加を決めました。
▲株式会社テレビ宮崎 新規事業開発部 兼 コンテンツ開発部 谷之木 志章氏
――今回、三つの募集テーマを設定された理由を教えてください。
テレビ宮崎・谷之木氏 : 三つの募集テーマには、テレビ宮崎のリソースの新たな活用方法を見つけたいという意図があります。テレビ宮崎は様々なリソースを保有していますが、それを新規事業に生かすノウハウはまだ確立できていないのが現状です。
例えば、募集テーマの一つに「ハイブリッドドローンを活用した、非常時/平常時で活躍するソリューション・サービスの共同開発」を掲げていますが、テレビ宮崎はドローン開発のスタートアップにも出資するなど、今後のドローン市場の拡大に大きな期待を寄せています。しかし、自社が保有するハイブリッドドローンなどを、まだ十分に活用できているとは言い難く、事業開発にも歯止めがかかっています。
そこで、今回のプログラムでは、パートナー企業の提案やアドバイスを受けながら、テレビ宮崎のリソースの活用方法を見出し、新規事業の開発を加速させたいと考えています。
――パートナー企業に提供できるリソースについてお聞かせください。
テレビ宮崎・谷之木氏 : 一つは、メディア事業などを通じて得られたデータです。地上波テレビ放送の視聴率や接触率、イベント参加者の属性データ、UMKアプリの利用者データなど、宮崎県内でこれらのデータを収集・蓄積できる企業はそれほど多くないはずです。
また、全国の放送局へのネットワーク力も、テレビ宮崎ならではのリソースです。テレビ宮崎は、日本で唯一の3局クロスネットの放送事業者であり、3つの主要放送局及び系列局と繋がりを有しています。こうした広範なネットワークを活用した取り組みも可能です。
さらに、防災パートナーシップを通じた自治体との繋がりや、システム開発やOA機器関連などのグループ企業との関係性もリソースとして活用できます。特に、グループ会社とは、上層部だけでなく、実務担当レベルでも定期的に交流しており、スムーズな連携が期待できます。
――最後に、応募を検討している企業へのメッセージをお聞かせください。
テレビ宮崎・谷之木氏 : 今回のプログラムでは、テレビ宮崎の新たな可能性を探ると同時に、宮崎県における地域課題の解決も実現したいと考えています。私たちとともに、宮崎県民が喜ぶサービスやソリューションを創り上げましょう。
テレビ宮崎・野中氏 : テレビ宮崎のメディアの力を活用した事業アイデアをぜひお待ちしております。私たちとしても、継続的な共創を望んでいますので、長期的な視野で事業アイデアをご提案いただけると嬉しいです。
▲株式会社テレビ宮崎 事業部 兼 新規事業開発部 野中太樹氏
テレビ宮崎・山本氏 : 「宮崎県内でムーブメントを起こしたい」という意欲的なパートナー企業をお待ちしています。今回のプログラムは、私たちにとっての挑戦でもあるため、ともに手を取り合って、高い壁にチャレンジしていただきたいです。
▲株式会社テレビ宮崎 営業部 山本一成氏
【ホスト企業④:マキタ運輸】――テクノロジー活用による物流現場のアップデート
トラックによる運送を中心とした県内大手の物流系企業、マキタ運輸。同社は、宮崎をはじめ東京・大阪・福岡・鹿児島にも営業所があり、大小合わせて6棟の倉庫(冷蔵・冷凍・常温)を保有するなど独自のネットワークを構築している点が特徴だ。BUSINESS BUILDでは、以下2つの募集テーマを掲げている。
・物流現場のDX推進による業務効率化の実現
・ドライバー・整備・倉庫業務のマニュアル構築と人材育成の効率化
テーマ設定の背景や提供できるリソースなどについて、水元氏に話を聞いた。
――マキタ運輸についてご紹介をお願いいたします。
マキタ運輸・水元氏 : マキタ運輸は、宮崎県の都城市に本拠を構える食品輸送を主とした物流企業です。宮崎県のほか、東京、大阪、福岡に計6棟の冷凍・冷蔵・常温倉庫を設けており、それらの拠点を活用して全国に食品をお届けする「コールドチェーン輸送」を行っています。九州の地場企業のなかで、関東・関西に物流拠点を保有し、コールドチェーン輸送を実現している企業は数少なく、マキタ運輸の事業の強みとなっています。
また、独自で構築した混載輸送システムも特徴です。混載輸送システムとは、種類や保管温度の異なる荷物を合わせて積載する物流方法で、様々な荷物を同時に輸送できるため、お客様の幅広いニーズへの対応を可能にします。
そのほか、以前から、物流の効率化・省力化には注力しており、持続可能な物流ネットワークの構築にも取り組んでいます。農産物や畜産物を、宮崎県から大消費地である東京や大阪に運ぶためには、距離的・時間的な数々の制約をクリアしなければなりません。そのため、マキタ運輸では、カーフェリーを活用したモーダルシフト(※2)の取り組みなどを通じて、物流の効率化・省力化・CO2の削減を進めています。
※2:トラックなどの自動車で行われている輸送を、鉄道や船舶などに転換すること。物流の効率化のほか、環境負荷軽減の効果がある。
▲株式会社マキタ運輸 管理営業部 水元雅士氏
――今回のプログラムでは、二つの募集テーマを掲げていらっしゃいます。一つ目の「物流現場のDX推進による業務効率化の実現」を設定した理由や背景についてお聞かせください。
マキタ運輸・水元氏 : マキタ運輸では、以前から物流の効率化・省力化に取り組んでいたものの、デジタル技術を活用した施策については、まだまだ手付かずの状況と言えます。今回のプログラムでは、デジタル技術に強みを持つパートナー企業から事業アイデアを募り、物流の効率化・省力化をさらに加速させたいと考えています。
例えば、配車業務には「マキタシステム」という独自のシステムを利用しているのですが、マキタシステムは配車の状況やドライバーなど情報を管理するために用いられており、どの車両をどの輸送にあてるかといった配車作業自体は、過去の実績に基づき、配車係の経験とスキルを頼るところが多い状況です。
輸送のルートは一定ではありませんし、そのほか配車作業には様々なイレギュラーが発生します。ですので、配車作業は人間が行わなければいけないのですが、もし、こうした作業をシステムで自動化することができれば、物流の効率化・省力化を大きく押し進めることができます。そこで、マキタシステムに蓄積した過去10年分ほどの配車や輸送に関するデータを活用して、配車作業のデジタル化などのアイデアを求めたいです。
また、このテーマでは、ドライバーの健康管理や事故防止などに繋がるソリューションも求めています。マキタ運輸では、以前からコンプライアンスを遵守し、ドライバーの労働時間や体調確認などに最大限の注意を払ってきました。しかし、そのチェック方法は未だアナログなものが多く、リアルタイムでドライバーの健康状態を把握するといった手法は確立できていません。そうした課題を、画像認識やウェアラブルデバイスなどのデジタル技術で解決したいと考えています。
――二つ目の募集テーマは「ドライバー・整備・倉庫業務のマニュアル構築と人材育成の効率化」です。このテーマの背景についてもお聞かせください。
マキタ運輸・水元氏 : 現在、マキタ運輸の研修や教育はOJTが中心であり、従業員への育成の面では、まだまだ課題を残しています。そこで、OJTを効率化する技術や業務のマニュアル化を進めるソリューションの開発を通じて、強固な人材育成体制を構築したいです。
――パートナー企業に提供できるリソースについてお聞かせください。
マキタ運輸・水元氏 : 全国約160名の従業員、トラックを始めとした300台の各種車両、運搬設備、各地の冷凍・冷蔵設備や倉庫など、マキタ運輸が保有するリソースについては、可能な限りご提供できます。
また、約600社のクライアントや、約100社の協力会社に関するネットワークやデータについても、ご提供できるよう調整を進めています。実証実験などに必要なリソースがあれば、ぜひご相談ください。
――最後に、応募を検討している企業にメッセージをお願いいたします。
マキタ運輸・水元氏 : マキタ運輸は、宮崎県を始めとした南九州地域の農産物や畜産物を大都市に運ぶという、社会的にも重要な事業を担っています。そうした事業の価値を共有していただき、デジタル化の取り組みを通じて、より効率的で強固な物流ネットワークをともに構築してくださるパートナー企業をお待ちしています。
また、今回のプログラムが成功すれば、九州地方の物流企業のモデルケースとして、取り組みを県内外に発信していくことも可能です。私たちとしても、画期的な取り組みとなることを期待していますので、斬新な発想で事業アイデアをご提案いただければと思います。
取材後記
前後編の取材を通じて印象的だったのが、ホスト企業の多くが「リソースは豊富だが、活用方法が分からない」という課題を抱えていることだった。豊かな気候風土を持つ宮崎県だが、産業分野においても活用可能な資源にあふれていることが分かる。あとは、その資源をいかに活用するかだろう。今回のプログラムでは、そうした宮崎県の資源を最大限に活用し、イノベーションを生み出す事業アイデアが県内外から求められている。
プログラムの応募締切りは、10月29日が予定されている。応募締切り後は、書類選考などを通過した企業のみ、12月3日・4日のインキュベーションプログラム「BUSINESS BUILD」に進むことができる。さらに、BUSINESS BUILDで採択された企業は約3ヶ月のインキュベーション期間ののち、2021年3月のデモデイにのぞむこととなる。プログラムの詳細については、「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD」の専用サイトで紹介している。応募を検討している企業は、ぜひご覧いただきたい。
(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太)