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日本を代表する水産食品企業・ニッスイが挑む。健康・美容、持続可能性、顧客体験を変革する共創プログラムとは?

日本を代表する水産食品企業・ニッスイが挑む。健康・美容、持続可能性、顧客体験を変革する共創プログラムとは?

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創業から100年余、海の恵みを活用して漁業・養殖・調達から生産・加工・販売に至るバリューチェーンを築いてきたニッスイ。現在では水産物のほか、冷凍食品やフィッシュソーセージ・ちくわなど私たちの食卓に馴染み深い加工食品事業や、EPAを医薬品・健康食品などの原料として提供するファインケミカル事業も拡大している。

そんな同社はミッションである「健やかな生活とサステナブルな未来を実現する新しい“食”を創造する」ため、既存の枠を超え、より開かれた共創の海原へと舵を切る。具体的な取り組みとして、今年度推進するのが『Nissui Open Innovation 2025』だ。これは、海の恵みや食の無限の可能性を追い求めて新たな価値を共創することを目的としたオープンイノベーションプログラムである。以下のような募集テーマを掲げ、共創パートナーを全国から広く募集する。

(※早期応募締切:2025/6/30、最終応募締切:2025/7/31)

<募集テーマ>

●テーマ01-1 : 【健康】 新たなウェルネスソリューションの開発

●テーマ01-2 : 【美容】 食の可能性を引き出し、内側から輝く美しさを

●テーマ02 : 【持続可能性】 地球や海の持続可能性のための循環型フードイノベーション

●テーマ03 : 【顧客体験の変革】 手にする前から食べた後まで価値が続く体験の共創

TOMORUBAでは、本プログラムの運営を担う株式会社ニッスイ 事業開発部の4名にインタビューを実施。プログラムを開催するに至った背景や目的、共創で実現したい内容、共創実現に向け提供できるリソースなどについて話を聞いた。

水産から始まる100年以上の挑戦――そして今、次の新たな“食”の創造へ

――まず、御社の事業概要からお聞かせください。

杉山氏: 当社の創業は1911年、トロール漁業から始まった会社です。その後、遠洋漁業を中心に据えつつ、陸上では加工食品事業や冷蔵・冷凍事業などを幅広く展開してきました。1980年代以降は遠洋漁業に変化が生じたことから、“自ら漁獲する”という従来の形から、“グローバルに水産物を調達する”という方向に転換。あわせて、養殖事業にも積極的に取り組むようになりました。

また、イワシなどの青魚に多く含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)との出会いを機に、新たな展開が生まれます。ある大学の先生から共同研究のお声がけをいただき、EPAの研究をスタートさせました。この共同研究が源流となり誕生したのが、ファインケミカル事業です。結果として現在、ニッスイでは「水産事業」「食品事業」「ファインケミカル事業」「物流事業」の4つが主要事業となっています。

▲株式会社ニッスイ 事業開発部 部長 杉山公教 氏

入社32年目。R&D(リサーチ&ディベロップメント)部門で、水産や食品、ファインケミカル、健康食品などの研究開発に携わる。2025年3月より現職。

――2022年12月に「日本水産株式会社」から「株式会社ニッスイ」へと社名を変更されました。どのような事業戦略が背景にあったのですか。

杉山氏: 私たちは水産を強みとしてきましたが、その出発点を大切にしながらも、より幅広い領域に取り組む会社というイメージへと変えていきたい――そうした考えが、社名変更の背景にあります。この変更をきっかけに、事業部門間でのシナジーもより生み出しやすくなっています。

――ミッションに「健やかな生活とサステナブルな未来を実現する新しい“食”を創造する」を掲げています。このミッションに紐づくような、新規事業の事例はありますか。

杉山氏: 2つ例を挙げると、まず『PAWSOME DELI』(ポウサムデリ)という冷凍ペットフードブランドを立ち上げたことです。冷凍食品の技術と健康に関する知見を活かし、おいしさと健康を両立させたブランドとして展開しています。

また、『namino leather』(ナミノレザー)という魚の皮をアップサイクルしたフィッシュレザー素材も開発しました。これは、当社グループで養殖をしているブリの皮をなめし、アパレルやインテリア製品に活用する取り組みです。当社の養殖ブリは天然の稚魚に依存しない完全養殖で生産され、採卵から育成、加工までを一貫管理し、通年安定供給を実現しています。そのため、その加工工程で生じる皮は、トレーサビリティが確保された資源として活用できると考えました。これまで、加工時に発生する皮の活用方法は限られていましたが、当社の養殖ブリの特長に着目し、環境負荷を低減したサステナブルなフィッシュレザー素材として開発・事業化を進めています。

――次に、今年度新たに始まるオープンイノベーションプログラム『Nissui Open Innovation 2025』について、立ち上げに至った背景や目的をお聞かせください。

巽氏: 当社はトロール漁業から出発し、時代のニーズに応じて事業を広げてきました。例えば、家庭用冷凍食品市場が伸長し始めた頃には、他社に先駆けて冷凍具付きめん「ちゃんぽん」や冷凍米飯「焼きおにぎり」を発売。また、EPAの共同研究が源流となり現在のファインケミカル事業が始まりました。過去のこうした経緯を踏まえ、今後も変化する時代のニーズに応じ、今、必要とされる新たな事業を生み出していきたいと考えています。

ただ、自社だけで実現できることには限りがあります。だからこそ今回のプログラムを通じて、特に異業種のパートナーと連携をしながら、これまでアプローチできなかった新しいお客さまや業界に価値を届けていきたいです。

▲株式会社ニッスイ 事業開発部 巽鮎子 氏

入社7年目。フィッシュソーセージの工場などで品質管理や生産管理を担当した後、2023年に現在の事業開発部へ異動。担当テーマの推進に取り組んでいる。

――今年度のプログラムは、どのような体制で推進されるのですか。

巽氏: 今回のプログラムについては、私たち事業開発部だけでなく、R&D部門や経営企画IR部のメンバーも加わって取り組んでいます。新規事業の立ち上げを見据える中で、研究開発の段階から一緒に取り組むことや、将来的には出資を含むようなより深いパートナーシップを築くことも視野に入れているからです。こうした背景から、3つの部署が連携する体制とし、プログラムの推進力を強めています。

「健康・美容」、「持続可能性」、「顧客体験の変革」――多様なテーマで共創パートナーを募集

――続いて、今回のプログラムで掲げられている募集テーマの内容をお聞きします。まずは『テーマ01-1:【健康】新たなウェルネスソリューションの開発』について、設定背景や共創のイメージを教えてください。

片岡氏: 健康についてはこれまでも、機能性表示食品や特定保健用食品などの開発に取り組んできました。ただ、時代の変化にあわせて、健康に対してさらに深く向き合っていきたいと考えています。

例えば、今ではAIやIoT、デジタルデバイスなどの技術が注目されています。そうした他社の新たな技術を取り入れることで、より多角的に健康にアプローチしていきたいと思っています。私たちは商品を提供するので、それ以外のところでサポートいただけるような取り組みができればと思います。

また、当社の商品では練り製品が最もわかりやすい例だと思いますが、ユーザーの年齢層が比較的高めです。これに対して、デジタルデバイスなどを活用すれば、より若い世代にもアプローチできるのではないかと考えており、そうした展開にも期待しています。

▲株式会社ニッスイ 事業開発部 片岡明日香 氏

入社5年目。フィッシュソーセージなどの商品開発を経験した後、家庭用食品部門で企画・マーケティング、在庫管理や営業支援など幅広い業務に携わる。2025年より現職。

杉山氏: 当社のフィッシュソーセージやちくわなどの練り製品では、「速筋タンパク」というブランドを打ち出しています。原料に含まれる白身魚の「速筋由来タンパク質」は、加齢とともに衰えやすい速筋の増強に効果があるとされており、EPAと同様に、中高年層に向けたメッセージが強くなりがちです。もちろん中高年層のお客さまも大切にしていくのですが、今回のプログラムでは、若年層も含めたもう少し幅広い層に向けて、当社製品を届けていく方法を検討したいと思っています。

――具体的には、どのような共創をイメージされていますか。

片岡氏: 当社が直面している課題のひとつは、「一度は食べてもらえても、継続してもらうのが難しい」という点です。速筋由来タンパク質に関しても、食品由来の穏やかな機能性を持つ成分ですので、ヒト試験でも2〜3ヶ月継続した摂取によって変化が確認されるものです。この点はユーザーにもお伝えしているものの、日々の習慣に取り入れてもらうのは容易ではありません。こうした中、継続を促す解決策の一つとしてゲーミフィケーションの活用が有効ではないかと考えています。

巽氏: 例えば、継続使用の気持ちを持っていただけるよう、アプリ上でポイントが貯まったり、キャラクターが育ったりと、日々の食事の積み重ねを「見える化」する仕組みを開発できればと思っています。また、2〜3カ月継続して食べた後に、アプリを通じてご利用者自らが測定した何らかの生体情報のデータを整理してお伝えし、数値の変化を確認いただくことが、「食べ続けてよかった」という満足感につながるような仕組みも加えたいです。商品の価値をより強く感じてもらえるような、共創につなげることができればと思います。

――引き続き、『テーマ01-2:【美容】食の可能性を引き出し、内側から輝く美しさを』のテーマについてはいかがですか。

片岡氏: 美容についてはこれまでも取り組んできましたが、健康ほど注力はできておらず、まだ厚みが足りない分野です。当社にとっては新たに進出する領域でもあるので、まずは一歩踏み出していきたいと考えています。今回のオープンイノベーションにおいては、当社の美容に関する知見がまだ十分とは言えないため、外部の知見や技術を積極的に取り入れていくような共創に期待しています。

――具体的に、どのような共創をイメージされていますか。

片岡氏: 例えば、美容効果の数値化といった部分での共創をイメージしています。また、若年層であれば肌への関心が高い方も多いですから、そうしたニーズに対して、当社ができるアプローチを検討したいです。

例えば、当社では枝豆の研究に力を入れており、冷凍枝豆は国内でも有数の取扱量があります。枝豆は栄養素で見ると、豆と野菜の中間のような位置づけですから美容にも活用できると考えています。

枝豆以外にも、コラーゲンペプチドやEPA・DHA、アスタキサンチンなど水産物由来の幅広い素材を取り扱っています。これらを活用し、食品やサプリメントなどの新商品を開発し、インナーケアに貢献したいと考えています。当社では冷凍・冷蔵・常温いずれの温度帯の商品も取り扱っているため、さまざまな形態の商品開発が可能です。

巽氏: EPAには、紫外線による肌の炎症を抑制する作用があるという研究報告がありますが、これまで当社では「美容」という観点での訴求はしてきませんでした。そのため、美容領域での活用方法を探ってみても面白いと考えています。

――次に、『テーマ02:【持続可能性】地球や海の持続可能性のための循環型フードイノベーション』についてはいかがですか。

藤井氏: ニッスイグループのビジネスは、EPA・DHA、白身魚フライにしても基本的に天然資源に依存しており、さまざまな生態系の恵みを受けて事業を行っています。そのため天然資源の持続可能性が損なわれると、私たちのビジネスそのものが立ち行かなくなってしまい、当社にとって大きなリスクとなります。こうした背景から、このテーマを設定しました。

一方で、「持続可能性」となると、どうしてもサステナビリティな取り組みを実施して終わってしまいがちです。しかし今回は、持続可能性にプラスしてしっかりと収益性も見込め、ビジネスとして取り組めるテーマを検討したいと考えています。

▲株式会社ニッスイ 事業開発部 藤井健太郎 氏

入社11年目。営業部門を経験した後、養殖のR&D部門に移り、完全養殖の研究開発に従事。2024年度より現職。

――先ほどのフィッシュレザーのような取り組みをお考えということでしょうか。

藤井氏: そうですね。フィッシュレザーは活用方法が限られていた魚の皮の価値を高めるアップサイクルの取り組みですから、このテーマに近いです。これまで活用が難しかったものや廃棄物の付加価値を高めるビジネスも、もちろんこのテーマの対象となります。

――具体的には、どのようなパートナー企業と、どのような取り組みを進めたいと考えていますか。

藤井氏: 持続可能性の課題を解決する事業は、当社内でも過去にさまざまな検討をしてきましたが高収益を見込める段階には到達しませんでした。そのため、高収益性が見込めるようなパートナー企業が見つかればありがたいです。

杉山氏: 藤井らが取り組んできた養殖というのは、もともと持続可能性というテーマから立ち上げたものです。現在では、完全養殖が実現したものもあります。同じ持続可能性で言うと、最近では海藻養殖にも関心を持っています。

フィッシュレザーのようなアップサイクル事業も立ち上がってきましたが、水産業界は食品業界同様、廃棄量が多いことが課題です。例えば、ちくわの原料となる魚肉は、アラスカで加工していますが、実際に使えるのは3分の1程度で、非加食部分は肥料や飼料になっているのが現状です。これまでに社内でも多くの検討をしてきましたが、今回は社外の皆さんの知恵もお借りしながら、新しい方法を考えたいと思っています。

――最後に、『テーマ03:【顧客体験の変革】手にする前から食べた後まで価値が続く体験の共創』のテーマについてもお願いします。

藤井氏: 生活が多様化している中で、当社としては、利便性の高い食の提供方法や、単なる栄養摂取にとどまらない食事そのものの価値を高めることなど、新しい食のあり方を模索する取り組みをしていきたいと考えています。

――どのような共創イメージをお持ちですか。

藤井氏: 当社では現在、冷凍・冷蔵・常温の3つの温度帯の商品を製造し、販売していますが、従来のスタイルに必ずしもこだわる必要はないと考えています。例えば、お客さまのご希望の商品を、直接ご自宅にお届けしたり、時短につながりつつおいしさも実感していただける食のあり方を考えたり、そういったことをパートナーの皆さんと一緒に検討したいです。

世界26カ国に広がるネットワークや研究開発力を活かして共創を加速

――共創の実現に向けて、御社から提供できる強みやリソースについてもお聞かせください。

藤井氏: 提供できるリソースは、大きく3つあります。まず1つ目は「ニッスイグローバルリンクス」です。当社は、世界各地の水産資源にアクセスできる体制を整えています。例えば、白身魚では強固なバリューチェーンを構築しています。世界26カ国にグループ企業を展開しており、国内だけでなく世界中のお客さまに商品を届けることが可能です。

2つ目は「研究開発力」です。ブリの完全養殖はその成果のひとつですし、食品分野では作りたてのおいしい香りを長く保つ技術の開発にも取り組んでいます。これは、食べたときにおいしさを感じるだけでなく、鼻に抜ける香りでもおいしさを伝えることを目指した研究です。また、スケソウダラの速筋由来タンパク質の研究や、高純度EPAを生産する技術も当社の強みです。

最後に3つ目が「サプライチェーン」で、冷凍・冷蔵・常温の3温度帯の商品を展開しており、それぞれの商品に対応した物流網を整えています。国内外に複数の食品工場や養殖拠点を保有しており、サプライチェーンの観点でもさまざまな強みがあると考えています。

▲ニッスイグローバルリンクス。これは、ミッションを共有し、世界各地で独自の強みを活かして事業展開する各社で構築するグローバルネットワークのことだ。(画像出典:ニッスイHP

――御社のR&D部門に協力を求めたり、共創で新しい商品が生まれた暁には、御社のサプライチェーンを通じて海外にも展開できる可能性があるということですね。最後に、応募を検討中の企業に向けて、一言ずつメッセージをお願いします。

片岡氏: 当社だけでは実現できないことも多くありますので、皆さまのお力添えをいただきながら、「新しい食」というものを作っていけたらと思っています。たくさんのご応募をお待ちしています。

藤井氏: これまでも色々な新規事業を検討してきましたが、どうしても1社だけだと、当社の事業内容に似通ったものに落ち着いてしまうことが多くありました。ですので、今回は共創パートナーの皆さんと一緒に取り組むことで、一歩踏み出した思い切った事業ができればと考えています。

巽氏: 今回、社外の方々と共に、自社だけでは到達できない領域や、それぞれの会社だけでは実現が難しいことに挑戦し、今の世の中から本当に求められている事業につなげていきたいと思っています。

杉山氏: 私たちの想いに共感してくださる共創パートナーの皆さんに仲間になっていただき、自分たちだけでは成し得ない、時代や環境の変化によって生まれた課題の解決につなげていきたいと思います。そんな新たな事業に、ぜひ一緒に挑戦していきましょう。

▲『Nissui Open Innovation 2025』を推進する、事業開発部を中心としたプロジェクトメンバー。

取材後記

ニッスイは水産事業・加工食品事業など幅広い食の分野へ事業を展開しており、現在は海外所在地売上が約4割を占めるグローバル企業だ。八王子の東京イノベーションセンターなどのR&D拠点では、新しい食の価値を生み出す研究が日々進んでいる。そんな同社と共に未来の食を創る挑戦ができるのが、今回のオープンイノベーションプログラムだ。身近な食品を起点にした共創の機会を、ぜひ掴んでほしい。 

※プログラムの詳細や応募は以下をご確認ください。

https://eiicon.net/about/nissui2025/

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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