デジタルテクノロジーの活用で、“最高の顧客体験”を生み出す共創プログラム | 三越伊勢丹ホールディングス
1673年に呉服店「越後屋」を創業して以来、時代の変化とともに歩んできた三越伊勢丹。首都圏を中心に店舗網を広げ、他社に先駆けて海外展開も行ってきた。百貨店・小売業界で確固たる地位を築いているのはご存知の通りだろう。しかし、その一方で、時代の流れと共に価値観が多様化し、百貨店に求められるものも大きく変わってきている。
こうした変化を日々、顧客と接する中で感じている同社は、革新を求めてイノベーション活動に着手。その一手として、2016年にはCVCである株式会社三越伊勢丹イノベーションズを設立した。さらに、2018年度にはアクセラレータープログラムを実施している。現在は採択企業5社が決定し、PoCが進められているという。――同社ではさらなる進化を目指し、本年度も第二期となるアクセラレータープログラムを開催することが決定した。
『IT・店舗・人の力を活用した「新時代の百貨店」(プラットフォーマー)を目指し、人と時代をつなぐ三越伊勢丹グループとなる』ことを掲げる同社は、百貨店や小売事業にどんな未来を描いているのか。また、生み出したい新しい価値とは。同プログラムを主導する運営メンバー4名に、抱いている思いや意気込みをお聞きした。
※三越伊勢丹グループアクセラレータープログラムの詳細については以下をご覧ください。
https://www.imhds.co.jp/imap/index.html
■株式会社三越伊勢丹ホールディングス チーフオフィサー室 事業企画推進ディビジョン ディビジョン長(兼 株式会社三越伊勢丹イノベーションズ 取締役投資開発部長) 菅沼武氏 <写真左から2番目>
2000年入社。店頭販売、催事運営、経営インフラの統合業務、ECサイトの統合・拡充などを担当。その後、アクセラレータープログラムや、新規事業開発を手がける。
■株式会社三越伊勢丹ホールディングス チーフオフィサー室 事業企画推進ディビジョン プランニングスタッフ 塚谷一貴氏 <写真右>
2003年入社。ベビー用品、婦人・紳士向け雑貨、食品などに携わる。2013~14年はビジネススクールに通う。その後、人事部門を経験。2019年から現職。
■株式会社三越伊勢丹ホールディングス チーフオフィサー室 事業企画推進ディビジョン プランニングスタッフ 川西恵理子氏 <写真右から2番目>
2006年入社。婦人服、食品、EC事業などに携わった後、2016年に復興庁に出向。2018年に経営企画部に異動し、新規事業開発に携わる。
■株式会社三越伊勢丹ホールディングス チーフオフィサー室 事業企画推進ディビジョン 渋谷和果氏 <写真左>
2013年入社。紳士服、食品事業に関わった後、シンガポールに研修出向する。2018年から新規事業開発に携わる。
■新時代の百貨店(プラットフォーマー)として、新たな価値創造を目指す。
――三越伊勢丹ホールディングスはCVCの設立や他社との共創など、百貨店・小売業界の中でもイノベーションへの取り組みがとても積極的です。アクセラレータープログラムを行う背景には、やはり業界を取り巻く変化が挙げられますか。
川西氏 : そうですね。現在、小売業全体の売上における百貨店のシェアが縮小してきており、その反面伸びてきているのはECです。消費者行動は大きく変化し、今はネットで商品について調べることが当たり前となっています。一方で、当社はあまりそうした動きに対し、出遅れているという課題を抱えています。
菅沼氏 : 当グループでも、ECに注力しようと試みているのですが、お客さまの新しい動きやニーズに十分に対応できているとは言えず、こうした状況を打破したいとの思いが強くありました。その思いから、2016年にはCVCを立ち上げるなど、業界としては早い段階からベンチャー企業との接点を作ってきました。ただ、まだまだ共創の事例は多くはありません。まさにこれからという段階です。
川西氏 : 私たちは小売や接客のプロとして自信も誇りもあります。ですが、新しいビジネスモデルやテクノロジーに関してはまだ知見も浅く、技術力も開発力も十分に持ち合わせていません。そこから目を逸らし続けることはできないので、外部から力をお借りしたいと考えたのです。
菅沼氏 : 弊社は、昨年度より「私たちの考え方」という三越伊勢丹グループの存在意義であり、目指す姿を打ち出しており、その中で「変化せよ」というキーワードにもあるように積極的に新しい事業にも挑戦しています。定期宅配サービス「ISETAN DOOR」や化粧品オンラインストア「meeco(ミーコ)」をはじめ、富士通株式会社との共創で運営しているシェアリングサービス「CARITE」などが、その一例です。これからさらにイノベーションを加速させるため、アクセラレータープログラムを通じて、共に成長を目指せるパートナーと出会えればと思っています。
――アクセラレータープログラムでは「オンライン・オフラインで顧客に最高の体験を提供するコンテンツ・サービス」、「テクノロジーを活用した効率化・生産性向上」の2つを募集テーマに設定していらっしゃいますね。このテーマに合わせて、注目されているテクノロジーや新しいビジネスモデルなどはありますか?
菅沼氏 : テクノロジーの観点で言えば、省人化や業務の効率化は重要なポイントの一つです。ただ、それだけを目指しているのではありません。私たちが提供したいのはシームレスな顧客体験です。「顧客に寄り添いまごころを提供する」という、百貨店が培ってきたこれまでの良さは残したいと思っています。その上で、プラットフォーマ―として新たな価値を創造したいと考えているのです。
百貨店はただものを売るだけの場所ではない。人生に寄り添う場所であり、人と人、人と時代とのつながりを作る場所。そんな思いを具体的な形やビジネスに落とし込んでいきたいですね。
塚谷氏 : さらにイチからビジネスモデルを構築していくことも必要だと感じています。小売はどうしても薄利多売になってしまいます。もし当社が一方的に利益を追求してしまうと、メーカーをはじめ、取引先やステークホルダーと良好な関係を築くことはできません。ブランドや品質を保ちながら、お客さまを含め、関わる全員の価値や満足度を向上させていきたい。そのために、これまでのBtoCビジネスだけではなく、新たな、BtoB、BtoBtoC、BtoBtoXなどの新たなビジネスモデルに積極的に乗り出すことも視野に入れています。
■店舗、顧客基盤をはじめ、多彩な事業がアセット。
――今回のアクセレータープログラムを通じて、三越伊勢丹ホールディングスが共創パートナーに提供できるアセットはどんなものがありますか。
菅沼氏 : 大きなものは、もちろん、リアルの店舗です。百貨店を国内に24店舗を展開しており、年間の入店者数は延べ約2.5億人以上ですので、非常に有効なデータが集められるはずです。それも、リアルならではの声のトーンや表情などもその場で見ることができるので、アンケートやネットからは収集できない、顧客の生の声を収集することが可能です。また、グループ全体で約2万4000人の従業員がいますので、人的リソースも一つの大きなアセットとなります。
渋谷氏 : このほか、グループでクレジット・金融、人材サービス、旅行、美容、不動産管理、製造・卸売など多種多様な事業を展開しています。百貨店などの店舗を持っていることは、皆さんご存知だと思いますが、このほかにもさまざまなアセットがあることも知っていただければと思っています。
塚谷氏 : 「そんなこともやっていたんですか!?」と言われることは多くあります(笑)。例えば、スタジオアルタの運営管理は当社グループが手がけています。これまで、グループとしての事業の広さなどはあまり強調してきませんでしたので、この機会に積極的にPRしたいと考えています。お取引先も事業ごとに幅広くありますので、様々な共創ができるのではないでしょうか。
川西氏 : もちろん、主事業が百貨店であり、最大の強みであることに変わりはありません。店舗に足を運ぶことが可能であれば、ぜひ一度見ていただき、「ここでこういうことができるのではないか、こんなことをしたら面白いのではないか」と想像を膨らませていただければ、ありがたいですね。
■応募企業とより多くの接点を持つ。
――アクセラレータープログラムは今回が第二期となります。昨年実施された第一期と今回の第二期では、どのような違いがあるでしょうか?
川西氏 : 前回は初めての試みということで、運営側の私たちに不慣れなところが多々ありました。応募いただいた企業様と十分に密なコミュニケーションが取れていたかというと、改善の余地が残るところです。最後の最後になって、ようやくお互いが本音で話せるようになり思わぬ発見ができた、ということもありましたね(笑)。互いに寄り添う機会を多く持ち、より早い段階で互いのことを十分に理解したいと思っています。
渋谷氏 : 第一期を通して、応募企業が三越伊勢丹にどんなことを期待しているか、あるいは三越伊勢丹がどんなふうに見られているかも掴めました。今回は前年の実績を加味した上で、テーマの設計を行っています。
菅沼氏 : 実施して、意外と言いますか、嬉しい反応だったことに、社内からの反響が大きかったことが挙げられます。どんな企業から応募いただいたのかと、興味を持ってくれる方々が多くいたのです。そうしたことを受け、今回は早い段階から応募いただいた企業について、社内の各部門に知ってもらおうと考えていますね。
採択する企業は限られていますが、各部門が興味を持った場合、自由に接点を作ってもらい、場合によってはすぐにでも協業を始めてほしいと思っています。私たちの最大の狙いは、当社グループの新しい価値を創造し、顧客の体験価値を上げることです。その目的が達成されるなら、途中過程はそれほど重要ではありません。
川西氏 : そうですね。あくまで協業重視で、柔軟性のあるプログラム運営を目指していきます。実は前回も、プログラムの採択とは別に、各部門の担当者が興味を持ち協業が始まったという事例が出ています。今回はそういった事例をより多く作りたいですね。
塚谷氏 : 何より、今回は自分たちの手でやり切ってやろうという思いを強く持っています。成功するためにはやり切ることが必要ですし、社内の協力も必要です。全社を巻き込んだ活動にするつもりです。
――前年のプログラムの実績や成果はいかがだったでしょうか。
菅沼氏 : 採択企業が5社決まり、今はPoCを実施するなどしているところです。各部門でミーティングを重ねており、具体的な成果をこれから作っていく段階と言えます。
■三越伊勢丹だからこそできる共創を実現したい。
――最後になりますが、どのような企業からの応募を期待するか。メッセージを兼ねてお伺いできればと思います。
渋谷氏 : 協業の具体的なビジョンのある企業からご応募いただければありがたく思います。「人と時代をつなぐ」など三越伊勢丹の考えに共感いただき、一緒に未来を考えていければ嬉しいですね。
塚谷氏 : そうですね。さまざまな企業からのご応募いただければと思っていますが、なぜ三越伊勢丹のアクセラレータープログラムなのか、その理由が明確であるほうが、協業は実現しやすいです。
川西氏 : 私たちは応募の内容を精査するのはもちろんのこと、応募いただいた一社一社について、ホームページなどを丁寧に拝見します。仮にどんなに多くご応募いただいたとしてもこの姿勢は変わりません。ですので、ぜひ私たち三越伊勢丹のことも知っていただければと思っています。
菅沼氏 : ベンチャー企業のスピード感や大胆な発想には、私たちが見習うべきところが多くあります。私たちは皆さまから刺激を受けながら、三越伊勢丹をイノベーティブにしていきたいという思いを強く持っています。ぜひ私たちと一緒に百貨店のみならずお客さまを起点に小売業界のあたらしい未来を一緒に創造していきましょう。
■取材後記
ここ10年ほどの間に、「買い物」に対する考え方が大きく変化している。インターネットの発展と共に、ECが大きく台頭してきたのが変化の大きな要因である。今やいつでもどこでも、その場にいながらにして買い物ができ、わざわざ店頭に出向く必要がなくなっている。しかし、だからと言って、リアルな場の買い物がまったく不必要になるとは思えない。
三越伊勢丹ホールディングスでは、新しい時代のプラットフォーマーとして新たな価値を創造したいという思いを強く持っている。「今変わらなければ」、という思いもひしひしと伝わってきた。同社は伝統も格式もある業界の雄である。そんな同社とだからこそ、行える挑戦、生み出せる変化が多くあるのではないか。少しでも興味を持ったのなら、ぜひプログラムに応募いただきたい。
※三越伊勢丹グループアクセラレータープログラムの詳細については以下をご覧ください。
https://www.imhds.co.jp/imap/index.html
(応募締切:2019年7月31日)
(構成:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:古林洋平)