【コーセーが挑む、初の共創イノベーションプログラム】 デジタル・先端技術などを募り、「新しい感動体験・未来のライフスタイル」を共創する
国内化粧品大手コーセーの快進撃が続いている。2018年3月期の連結決算では、売上高や営業利益など5年連続で過去最高を記録。3年前の2015年と比較すると、売上高は約1.5倍、営業利益は約2倍と、大きく伸長した。これは訪日外国人の増加によるインバウンド需要という追い風のみならず、トップが危機感を持ちスピーディーかつ堅実に社内の改革に取り組んできたからだ。
そんなコーセーが、未来に向けて新たな打ち手を講じる。それは、国内大手化粧品メーカー初となるアクセラレータープログラム「コーセーとの共創におけるInnovation Program」だ。経営トップの強力なコミットメントのもと、これまでにない価値を創出し、新たなビジネスに展開するために、幅広いスタートアップとの共創を推進していく。
全社的にイノベーションへの意識を高めている同社。そのプログラムの特徴や、提供リソース、意気込みなどを、執行役員 経営企画部長 兼 広報室長の原谷美典氏に伺った。
▲株式会社コーセー 執行役員 経営企画部長 兼 広報室長 原谷美典氏
トップコミットメントのもと、イノベーションに挑む
――創業80周年に向けた中長期ビジョン「VISION2026」を掲げ、着実に業績を伸ばしている貴社ですが、現業が好調な今、あえて外部との共創に挑戦する背景を聞かせてください。
コーセー・原谷氏 : 好調だからこそ、新たな挑戦に乗り出していくチャンスだと考えています。当社は2000年代の後半に業績の伸び悩みを経験しましたが、そこから既存ブランドの立て直しなど本業の改革に取り組むことでV字回復を果たすことができました。現在、確かに好調な状況ではあります。しかしそれはあくまで、従来のビジネスモデルの延長線上でしかありません。今後もさらに世の中に価値を提供していくには、この好調さに甘んじることなく新しいことに挑戦していかねばなりません。この危機感を、社長の小林自ら強烈に感じています。自社内で閉じているだけではいけない。異業種の方々とアイデアを膨らませていこう。そこで、このプログラムを実施することとなりました。
――トップ自ら危機感を持ち、イノベーションに挑もうとされているのですね。小林社長からは、今回のプログラムにあたりどのようなメッセージを社員に発信されたのでしょうか。
コーセー・原谷氏 : これまでは、化粧品を店舗でお客様に販売することが大前提でした。しかし最近では、化粧品市場もECが増え、デジタル技術の発達も消費行動を大きく変えています。またインバウンド需要に象徴されるように市場もグローバルかつボーダレスになっています。
そうした変化を踏まえ、これまでの延長線上ではない、全く新しい発想を、我々の強みや蓄積と組み合わせれば、これまでにない価値を創出できるのではないか。それにチャレンジしようではないか!
―――こうしたメッセージを社長から発信しました。当社では常日頃からトップのメッセージを社員に向けて丁寧に発信していますが、今回は全く新しい取り組みということと、社長の意気込みの強さに社員も反応したようですね。
変革への意欲に燃える社員、そしてコーセーならではの豊富なリソース
――次に、プログラムについて伺っていきたいと思います。「社内選抜メンバーとの強固な共創体制」というのが特徴として挙げられていますが、メンバーとはどのように選出されているのでしょうか?
コーセー・原谷氏 : 選抜というより、立候補ですね。元々当社には「Link」という社内ベンチャー制度があり、社員が自ら手を上げて事業創造に取り組む土壌を育んでいました。今回は外部共創ということで、よりイノベーション創出に強い熱意を持つ人材が集まってきています。また、研究開発、営業、企画など幅広い部門から立候補があり、多様な経験や技術、ノウハウや発想を結集できることも大きな特徴ですね。
――本気で変革に挑む意識が、社員に広く浸透しているのですね。また、経営層が自らメンターとして入るということからも、本気度が伝わってきます。
コーセー・原谷氏 : トップが強い意志で取り組んでいることは間違いありません。アイデア検討フェーズから、経営層が参画します。トップから若手まで、化粧品や美容が本気で好きな人ばかりです。こうして大々的に外部共創を実施することは初めてのことですが、外に開けたマインドを持つ人材が集まっているため、いい協業ができると確信しています。
――スタートアップに対して提供できるリソースについても聞かせてください。
コーセー・原谷氏 : 化粧品ビジネスには、科学的な裏付けといった「左脳」に訴えかける領域と、ブランドの世界観など「右脳」に訴えかける要素が、一体となって初めて成立するものです。当社はその両面の高次元な組み合わせに強みを持っており、スタートアップの方々には大きなメリットとして感じていただけると思います。
――「左脳」と「右脳」。具体的にはどのようなことですか?
コーセー・原谷氏 : まず「左脳」では、研究所のレベルの高さが挙げられます。日本の化粧品メーカーの研究開発力は、世界屈指のレベル。その中でも、当社はトップクラスの技術を持っていると自負しています。2017年には、研究所内に「価値創造研究室」を新設しました。また、化粧品という日常的に購買・使用するものに関わる消費行動データや嗜好データなどの活用も、今後スタートアップの方々と共に取り組んでいきたい領域の一つです。
――なるほど。では、「右脳」に関しては?
コーセー・原谷氏 : はい。次に「右脳」では、イメージを形にする力やブランドづくりのノウハウ、これには一日の長があると自負しています。現社長の小林はマーケティング畑出身で、就任以来「化粧品はコモディティではなくブランドだ」というメッセージを発信し続けています。例えば当社に『ジルスチュアート』というブランドがありますが、売り場から商品の細部にわたってブランド独自の世界観を徹底して打ち出し、たくさんの熱烈な愛用者の皆様に支持をいただいています。
――成長戦略としてグローバル展開の加速を掲げていらっしゃる通り、スタートアップとしてはグローバルへのアプローチも期待できるのでしょうか。
コーセー・原谷氏 : そうですね。国内といえども市場の1割以上がインバウンド需要といわれるように、市場は文字通りボーダレスに拡大中です。当社は海外売上の比率は現状それほど高くありませんが、今後は大きく拡大させる戦略を描いています。そのためには特に今後は、日本のブランドが高く評価されているアジア圏のみならず、“化粧品の本場”とも言える北米やヨーロッパでのプレゼンスを上げていくことが不可欠です。既にニューヨークやロンドンなどの高級百貨店への展開を進め、世界の一流ブランドと互角に競えるような取り組みを進めています。今回のイノベーションプログラムの一環で生まれた事業や商品など、スタートアップの方々と共にグローバル市場でブランド価値を高めていくチャンスはおおいにあると言えますね。
▲原谷氏を中心としたチームがイノベーションプログラムを牽引している。
多くの人を幸せにできる化粧品領域で、ぜひ共創を
――今回、どのようなスタートアップに応募して欲しいと考えていらっしゃいますか?
コーセー・原谷氏 : あまり狭めるのではなく、広く探っていきたいと思っています。化粧品は商品だけではなく、カウンセリングや接客などのサービスも内包しています。そのため、幅広い技術やサービスと組み合わせて多様な価値を提供できる無限の可能性を秘めていると思うのです。例えばデジタル×リアルで実現されるよりパーソナライズされた接客、テクノロジーを活用した既存の化粧品にとどまらないプロダクト、全く別業界の新素材を応用した美容商品など、様々な掛け合わせが可能だと思います。また、化粧品業界にいる我々にはない、異業界からの鋭い視点や提案も大歓迎です。
――改めて、応募企業に向けてのメッセージをお願いします。
コーセー・原谷氏 : 長く化粧品業界に携わっていますが、こんなに世の中を明るくする産業は他にないと思います。お客様を幸せにすることができて、世の中に良い影響を与えられ、その対価を喜んで払っていただける。いわゆる「三方よし」が、大きな規模でできるんです。さらには先ほどお話したように、様々な技術やサービスと組み合わせができる無限の可能性を秘めた業界でもあります。
共創により、「買う楽しさ」や「キレイになる喜び」など、お客さま一人ひとりに合わせた存在感のある新しい感動体験や未来のライフスタイルを届けたいと考えます。
その中で当社は、世の中に新しいものを提供し、未来を創っていこうという意識を経営トップからひとりひとりの社員に至るまで全員が共有し、イノベーションに取り組もうとしています。ぜひ私たちと共に、今までにないものを一緒に創り上げていきましょう。
※「コーセーとの共創におけるInnovation Program」についての詳細はこちらからご覧ください。
※応募エントリーフォームはこちらとなります。
(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)