セッションレポート―5Gを活用してリアルとバーチャルで「賑わい」を創出!C&R社が東京都と仕掛ける「圧倒的に事業が加速する空間」とは?
Society5.0を具現化するための要素技術として、必要不可欠な高速通信規格「5G」。東京都は2019年、民間企業などと連携して5Gを推進する基本戦略「TOKYO Data Highway」構想を発表し、5Gインフラの整備と5Gビジネスの創出に邁進してきた。
これに伴い、「Tokyo 5G Boosters Project」(5G技術活用型開発等促進事業)というプロジェクトも始動。このプロジェクトに開発プロモーターとして参画しているのが、株式会社クリーク・アンド・リバー社(以下、C&R社)だ。同社はこのプロジェクトにおいて、「圧倒的に事業が加速する空間」の構築を目指しているという。
――この「圧倒的に事業が加速する空間」とは、具体的にどのようなものなのか?今回は本構想をリードする、株式会社クリーク・アンド・リバー社 松永雄氏。きづきアーキテクト株式会社 代表 長島聡氏の2名に加え、最先端デジタル技術に知見のあるIoTNEWS代表 小泉耕二氏をまじえてのトークセッションの模様をお届けする。
※このトークセッションは、2月26日に開催されたオープンイノベーションカンファレンス「JAPAN OPEN INNOVATION FES 2020→21」にて実施されたものです。
※関連記事:TOKYO モデル×5G。東京都とつくる、官民連携で始動する新プロジェクトとは
<登壇者>
▼写真左→右
■株式会社クリーク・アンド・リバー社 プロジェクト推進室 室長 松永雄氏
大手保険会社、化学メーカー、総合電機メーカーなどで事業開発や経営管理を経験後、C&R社へ。現在、きづきアーキテクト 長島氏とともに、東京都が推進する「5G技術活用型開発等促進事業」の一環として、5Gを活用したイノベーションの創出や新たなビジネスの確立に取り組む。
■きづきアーキテクト株式会社 代表取締役 長島聡氏
1996年より、戦略コンサルティング・ファーム、ローランド・ベルガーに参画。同社日本代表、グローバル共同代表を歴任。2020年7月、新事業の量産を目的とした会社、きづきアーキテクト株式会社を創業。同年10月、C&Rグループへ。現在、東京都が推進する「5G技術活用型開発等促進事業」の一環として、5Gを活用したイノベーションの創出や新たなビジネスの確立に取り組む。
■株式会社アールジーン代表取締役/IoTNEWS代表 小泉耕二氏
アクセンチュアなどグローバルコンサルティングファームを経て現職。メディアでコメンテーターとして活躍するほか、YouTubeで解説動画配信なども手がける。著書に『2時間でわかる図解IoTビジネス入門』『顧客ともっとつながる』など。
■株式会社クリーク・アンド・リバー社 事業企画室 加藤寛之氏 ※モデレーター
情報メディアの企画制作・SP広告代理店の企画営業を経て、2014年にC&R社へ。2017年にコピーライターからプロデューサーへ転身し、広告の枠に留まらない総合的な企画・プロデュースを行う。 2018年より、クリエイターのアイデアで中小企業を活性化させるプロジェクトのエグゼクティブプロデューサーに就任。事業を承継した経営者からの新商品・サービス開発における相談に向き合い、企画提案を行なっている。
「Society 5.0」とは? 「5G」はどう機能するのか?
セッションは「Society 5.0」と「5G」に関する問いからスタート。モデレーターのC&R社・加藤氏が、「Society 5.0は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)と定義されているが、要はどういうことなのか。また、そこで5Gはどう機能するのか」と質問を投げかけた。
これに対し、デジタル技術全般に造詣が深いIoTNEWS代表の小泉氏は次のように説明する。「デジタル庁の創設やマイナンバーの普及などによって社会全体のデジタル化が進展しつつあるが、単にデジタル化されるだけでは意味がない。デジタル化で、様々なデータが様々なサービスと結びつき、社会が便利になることが重要だ」と指摘。「最初は小さな変化かもしれないが、小さな変化が連なることで大きな変化を生み出す――これこそが、Society 5.0の本質だ」との見解を示した。
「Society 5.0」と「5G」との関連については、「1個だけのデータでは意味を成さないため、様々なデータをインターネット空間に集める。それがいわゆるサイバー空間と呼ばれる場所だが、そこでシミュレーションを行って未来を予測したり、データ連携によって新たな価値を生んだり、そういったことが起きる」と解説。
そうした中、5Gのもたらす変化は「二次元から三次元への変化」だという。過去を振り返ると3Gから4Gへの変化はテキストから動画、つまり一次元から二次元への変化だった。一方、4Gから5Gへの変化は二次元から三次元への変化だとし、5Gが普及すると「空間が転送されてくる」「より立体的なものが我々の目の前にやってくる」ような世界になるのだと話す。その分かりやすい例が「VRや仮想現実」だと説明した。
そのうえで、Society 5.0の定義には「人間中心の社会」という言葉が出てくるが、どんな技術を活用しても人間が豊かにならなければ意味がないため、「技術の力で生活の豊かさを実現することが重要だ」と述べた。
これに対しモデレーターの加藤氏は、Society 4.0は単に情報社会だったが、Society 5.0は「人間中心の社会」が定義に盛り込まれ、人の幸せや豊かさに直接結び付けていると指摘。この4.0と5.0の違いに対する見解を尋ねたところ、きづきアーキテクト・長島氏は「目的が明確にあるかどうかの違い」だと返答。目的を明確に据えて、みんなで力を合わせて取り組もうとする世界が、Society 5.0だと語った。
スタートアップを支援する「圧倒的に事業が加速する空間」とは?
続いて、C&R社が東京都と協働して昨年10月から取り組みを進めている「Tokyo 5G Boosters Project(5G技術活用型開発等促進事業)」に話題が移る。C&R社は同事業において「『事業を加速する空間』を梃子にした5G関連スタートアップの量産」をテーマに据えているが、具体的にどのような構想なのか。
モデレーターの加藤氏が、その構想の立案をリードするきづきアーキテクト・長島氏に尋ねたところ、「賑わい」がキーワードだと答える。
具体的には、C&R社ときづきアーキテクトがリードする形で、スタートアップの事業を加速させるための「賑わい」を構築するという。賑わいを生むために役立つ道具も揃える。たとえば、スタートアップが困難に直面した際に、即座に使える様々なソリューションなどだ。豊富なリソースを持つ大企業に力を借りることも想定する。道具を組み合わせて活用してもらいながら、一過性で終わることのない持続的な「賑わい」の創出を目指すのだという。
スタートアップにとっての参加メリットは、人が集まる空間であることから「注目を集められること」、場合によっては「機材の融通などもできること」「資金調達を行える可能性もあること」などを挙げる。加えて起業家仲間が集まる「コミュニティに加われること」などもポイントだと話す。
「このような賑わいのある空間を、バーチャルとリアル空間の両方で構築していくことが、本構想の骨子だ」と説明。リアルだけではなくバーチャルも盛り込むことで、地方など遠くにいる人に対しても、臨場感のある賑わいの場を提供する考えなのだという。
長島氏とともに本構想の実現に向けて奔走するC&R社・松永氏は、「賑わいのアーキテクト(構築)」と同時に「賑わいのブースト(拡散)」も重要だとし、賑わいブースターズという表現を用いて、協力企業を募っていることを共有した。
モデレーターの加藤氏が「この空間にどのような人たちが集まってくると、構想はより進むのか」と質問を投げかけたところ、C&R社・松永氏はスライドをもとに次のように説明する。
中央の赤い部分は「賑わいを量産するためのアプローチを一緒に考えてくれるアーキテクト」だとし、一緒に賑わい創出に向けて取り組んでくれる人たちに関わってほしいと話す。その外側の青い部分は「C&R社がネットワークしている約30万人のプロフェッショナル、スタートアップ、中小企業など」を想定しているという。賑わいの量産という共通の目的に対して、中央のアプローチから相性のよい仲間を募ってプロジェクトを前進させるイメージだ。
さらに外側の緑の部分には「大企業」を描いているが、プロジェクトの足りない部分を補完する存在として期待しているという。こうした人たちとともに、持続的にプロジェクトを回していきたいと語る。加えて、実際にプロジェクトを動かす場所は、地方なども含むため地方自治体の方たちとも協業したいとつけ加えた。
具体的な事例にも話題が及び、C&R社・松永氏は現在進行中のプロジェクトについて共有した。松永氏の話によると、「力触覚技術」という触る感覚を遠隔地に伝える技術を持つスタートアップとゲーム会社、ホテルとタッグを組んで、遠隔での釣り体験を提供するプロジェクトを進めているという。実証実験も行う予定だと伝えた。これに対し、モデレーター・加藤氏は、「5G技術を使って東京と他地域を接続し、双方に賑わいを生むひとつの事例になりそうだ」と感想を述べた。
「リアル×バーチャル」をビジネスのスキームに載せる
続いて「グローバルも含めて、同じような取り組みはあるのか」との質問に対し、IoTNEWS・小泉氏は、リアルでコワーキングスペースが流行っていることに触れ、人が集まって何か行動を起こそうとすることは、人の営みとして必然だと話す。一方で、バーチャルな要素が加わったり、ブーストするという点においては新しい取り組みだとコメント。リアルだけではなくバーチャルとのハイブリッドで、お祭り騒ぎのようなことが起こると、非常に新しい体験になると述べた。
さらに小泉氏は、リアルをバーチャルで見る場合、現状だとカメラで撮影したものを「見る」しか方法はない。しかし5Gが普及すると「触ったり動かしたり」ができるようになる。物理的に集まっている人もいれば、地球の裏側から参加している人もいて、知恵の集まり方が今までと変わってくるとし、インターネット黎明期に「世界中の情報にタッチできる」といわれたが、これからは「世界中の体験にタッチできる」ようになると話した。
モデレーター・加藤氏も小泉氏の発言に同意しつつ、「エンターテイメントの世界でリアルとバーチャルを融合する取り組みはあるが、今回の構想のようにビジネスのスキームに載せるのは新しいのではないか」と自身の考えを示した。
さらに議論は盛り上がり、新たに構築しようとしているコミュニティの原理原則に話が展開。きづきアーキテクト・長島氏は、ここでは「常識を持たない生き方を大事にしたい」と話す。志が間違っていないのであれば、常識にとらわれず「好きにやればいい」との考えだという。
またマッチングの仕方について、IoTNEWS・小泉氏は話題のClubhouseを例にあげながら、単に数字の向上が見込めるだとか、新しいテクノロジーを持っているだけでは難しく、「相手の人となりを理解できること」が大事なのではないかとの見方を示す。したがって、パーソナルな関係性を構築できるようなコミュニティは重要性を増すとした。同じ質問に対し、きづきアーキテクト・長島氏は「コミュニティがあって、それぞれに志があれば、何か行動を起こそうとしている人たちは勝手に惹かれ合うのではないか」と話した。
セッションの締めくくりとして、C&R社・松永氏から視聴者に向けて次のメッセージが伝えられた。
「賑わいを生み出したいという想いを持つスタートアップの方、また私たちのプロジェクトに興味を持っていただける大企業の方、あと賑わいのプロジェクトを実験してみたいとお考えの自治体の方、そういった方々と協議していきたいと思っています。興味を持っていただけましたら、ぜひお声がけください」
取材後記
昨年10月にスタートしたばかりのプロジェクトだが、松永氏の話によると、すでに5Gを活用した「遠隔釣り体験」の実証実験について検討を始めているという。物理的に離れた場所にいる魚を釣るというものだが、これは高速通信規格5Gがあってこそ実現できるものなのではないだろうか。現在、急ピッチで整備が進む5Gだが、これからどのような5G関連ビジネスが生まれるのか。今後の動きに注目していきたい。
(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:齊木恵太)