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TOKYO モデル×5G。東京都とつくる、官民連携で始動する新プロジェクトとは

TOKYO モデル×5G。東京都とつくる、官民連携で始動する新プロジェクトとは

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今よりも100倍近い速度の通信を実現する「5G」。この環境整備が進みつつある――。

東京都は2019年12月 「『未来の東京』戦略ビジョン」を発表し、その中の目指すべき姿のひとつとして、デジタルの力で東京のポテンシャルを引き出す「東京版Society 5.0 『スマート東京』の実現」を打ち出した。そのための戦略として、 「スマート東京・TOKYO Data Highway戦略」を掲げている。

この戦略では、東京都の保有する建物などのアセットを5Gアンテナ基地局設置場所として開放していくほか、東京都みずからも「ローカル5G」の免許を取得。江東区青海にある東京都立産業技術研究センター内に、5Gに関連する製品の社会実装や5G技術の普及啓発を支援する拠点「DX推進センター」を、2020年11月に設置した。この拠点は都内のスタートアップや中小企業に対し、共同研究や実証実験のフィールドとして提供される予定だ。

それだけではない。「Tokyo 5G Boosters Project(5G技術活用型開発等促進事業)」と題した、5G技術を活用したスタートアップの製品開発等を支援するプロジェクト(期間:3ヵ年度)もスタート。民間企業(開発プロモーター)とタッグを組んで、5Gビジネスの担い手となるスタートアップや企業をサポートしていく考えだ。それに向けて、今年度は約2.8億円の予算も確保しているという。

本記事では、東京都 産業労働局の堀江氏と、開発プロモーターとして採択されたクリーク・アンド・リバー社(以下C&R社)の松永氏を中心とした以下4者を迎え、「Tokyo 5G Boosters Project」立ち上げの背景や描いている構想について、詳しく話を伺った。


<写真左→右>

■東京都 産業労働局 商工部(創業支援課) 技術連携担当課長 堀江暁氏 

創業支援課では、中小企業の創業支援、ものづくり技術の振興などに注力する。本プロジェクト「Tokyo 5G Boosters Project」を主催。

■きづきアーキテクト株式会社 代表取締役 工学博士 長島聡氏

1996年より、戦略コンサルティング・ファーム、ローランド・ベルガーに参画。同社日本代表、グローバル共同代表を歴任。2020年7月、新事業の量産を目的とした会社、きづきアーキテクト株式会社を創業。同年10月、C&Rグループへ。本プロジェクトでは、C&R社とともに5G関連スタートアップの伴走型支援を担当。

■株式会社クリーク・アンド・リバー社 事業開発グループ プロジェクト推進室 室長 松永雄氏

大手保険会社、化学メーカー、総合電機メーカーなどで、事業開発や経営管理を経験後、クリーク・アンド・リバー社へ。本プロジェクトでは、開発プロモーターとして5G関連スタートアップの伴走型支援に携わる。

■株式会社エボルト 代表取締役 検見崎裕氏 

株式会社キーエンスにて法人営業に従事。全国トップの営業成績を収める。その後、WEBマーケティング会社、コンサルティング会社を経て独立。2019年、既存展示会への課題感から“進化する「見本市」”をコンセプトに、株式会社エボルトを創業。本プロジェクトでは、5G関連スタートアップとして、オンライン展示会のさらなる革新を目指す。

東京都×開発プロモーターで、5G関連スタートアップを支援

――まず、「Tokyo 5G Boosters Project(5G技術活用型開発等促進事業)」を立ち上げた背景からお聞きしたいです。

東京都・堀江氏: 数年前から5Gという言葉が頻繁に使われるようになりましたが、それにともない「5Gを使って何かしたい」という声が、スタートアップを中心に数多く寄せられるようになりました。

5G技術は、今後大きな成長を見せる自動運転や遠隔医療などの領域において活用されることが期待されています。我々はスタートアップをはじめ中小企業を支援する部署です。スタートアップがいち早く5G技術を活用した技術、サービスを開発することで、このビジネス領域において大きなアドバンテージを築くことが可能、これはスタートアップにとって大きなチャンスです。

ただ、5Gはまだまだ実装エリアも限定的で、技術開発を進める上では、5Gを実際に提供できる大手キャリアやローカル5G環境を持った事業者等の協力が必要です。しかし、スタートアップ単体ではなかなか様々な事業者に協力を仰いで開発を進めていくことは困難です。

そこで、開発プロモーターという事業の先導役を核として、こうしたスタートアップの開発を様々なプレーヤーを巻き込んで支援をしていく必要があると立ち上がったのが、この「Tokyo 5G Boosters Project」です。

――本プロジェクトでは、C&R社を含む民間企業3社を「開発プロモーター」として採択されました。

東京都・堀江氏: はい。スタートアップが事業を進めていく上で、実証実験の場所や資金、ビジネス機会など多方面からの支援が必要だということが分かってきました。そうした場合、東京都だけでは実現が難しい。そこで、事業開発支援が得意な人たちと手を組んで、一緒にスタートアップの支援をしていこうと考えたわけです。

東京都は現在、都が保有する建物などのアセットを5Gアンテナ基地局の設置場所として開放するなど、環境の整備に力を入れています。しかし通信環境だけが整備されても、それを使う人がいなければ意味がありません。今の段階から、5Gを活用する事業者を育てていくことも重要です。

開発プロモーターとともに5G関連スタートアップを、プロモーション面、資金面、事業面など多方面からご支援し、将来的には、5Gの技術を活用して、都民の豊かな生活、おもしろい未来、安全な未来、充実した未来を実現したい。こうした考えから、本プロジェクトを進めています。


▲「Tokyo 5G Boosters Project」のスキーム(東京都による報道発表資料/2020年10月より抜粋)


――C&R社の松永さんにお聞きします。なぜ、「開発プロモーター」の公募に応募しようとお考えになったのですか。

C&R社・松永氏: 理由は3つあります。1つ目に関してですが、当社は「プロフェッショナルの生涯価値の向上」をグループのミッションに掲げていて、医師や弁護士、会計士、エンジニア、デザイナーなど約30万人のプロとつながっています。しかし現状では、領域毎にそれぞれの事業部が分かれて担当しています。

そうではなく、もっとプロ同士をかけ算して、一緒に何かしたいとの思いを抱いていました。今回のプロジェクトは、3年かけて構想を実現するものです。これなら、プロ同士が垣根をこえて一緒に取り組めるのではないか、と考えました。これが応募を決めた理由のひとつです。

2つ目ですが、こういった取り組みは発信しないと広がっていきません。当社はテレビ番組の制作やYouTubeの動画制作、SNSマーケティングなどにおいても実績を保有するので、取り組みの発信という意味においても力を発揮できます。当社の強みを活かせることが2つ目の理由です。

3つ目ですが、私たちは創業者である井川(現・代表 井川幸広氏)の起業家精神を受け継いでいます。起業家精神旺盛なスタートアップを上から目線で支援するのではなく、同じ目線に立って支援したい。一緒に社会課題の解決に取り組みたいとの思いから、応募を決めました。

スタートアップの事業を加速させるには、何が必要なのか?

――スタートアップの5Gビジネスを加速するために、何が必要なのでしょうか。開発プロモーターとともに支援を行う上で、どのようなスタートアップ支援を行っていくのか、構想をお伺いしたいです。

きづきアーキテクト・長島氏: スタートアップの成長支援を主な目的としているプロジェクトなので、5Gはあくまで道具として使うべきだと考えています。そんな中で、スタートアップの様子を見ていると、志や想いはあるものの、少しずつ足りない部分があるんですね。私たちは、そこを埋めていく必要があると感じています。ただ、それぞれのスタートアップに対して、ゼロベースで用意をするのは非現実的です。

たとえば支援するスタートアップの中に、高額なハードを使う会社があるとします。高額なハードを自分たちで揃えようとしたら、いつまでたっても事業を始められない。自分たちでアセットを持たずに進められる方法があれば助かるはずです。また、高額なものを使うなら単価を上げたいですよね。こうした場合にも、私たちのほうで単価を上げる仕組みを10個程度用意しておいて、スタートアップが好きに選べるようにしておけばいい。

スタートアップを観察していると、共通の落とし穴があります。その落とし穴に落ちないよう、すばやく解決策を提示できれば、事業化を加速できると思うんですね。こうした考えから、「事業化を加速できる空間をつくろうじゃないか」と。それは、リアルな空間だけではなく、バーチャルな空間でも実現します。扉を開けると、単価を上げる仕組みが並んでいるような、そこに行くと何でもほしいものを得られる、いわば「ドラえもんのポケット」のような空間をつくろうとしています。


▲C&R社による構想イメージ。資金やアセットを持った大企業や投資家はもちろん、スタートアップやプロのスキルを有した個人が集まって協業し、「社会課題を見える化する空間」を目指す。


――なるほど。スタートアップの必要とするものが、何でも揃っている空間ですね。リアルとバーチャル両軸で空間をつくるとは、具体的にどういうことですか。

C&R社・松永氏: この構想については、まだディスカッションをしている段階ですが、たとえばコワーキングスペースにヘッドマウントディスプレイを置き、それを被れば情報交換ができる空間、何か常にプロトタイプを可視化しながら議論を深められるような空間をイメージしています。

そこには、課題を発信する地方自治体の方たちや、それに向けて想いを語るスタートアップの方たち、事業を加速するために人材が必要なら当社のプロ人材、技術を補完するパートナーが必要ならそういう人たち、さまざまな人たちが集まって、一緒に事業を創造するというイメージです。

私は可視化したり表現したりすることが重要だと思っています。リアル空間だとプロトタイプを可視化・表現することは難しいですが、バーチャル空間であれば容易でしょう。当社には、プロデューサーやクリエイターが多数在籍しているので、具現化するためのサポートもできます。


きづきアーキテクト・長島氏: 臨場感が大事だと思うんです。よりリアリティのある動画を見たくなる。でも行くのが大変だったり、行ってもタイミングが合わなくて見られなかったり、早送りで見たかったり…。そもそも、上から眺めたい時もありますよね。リアルとバーチャルを足し算すると、見たいものが見えるようになる。

C&R社が抱える約30万人のプロフェッショナルの力を借りて、理解のスピードを上げる。必要とする情報を、自分の目の中に、どうやってより速く焼きつけるのか。そんなことに、リアルとバーチャルで挑戦していきたいと思っています。


スタートアップに聞く、プロジェクトに参画した理由

――続いて、C&R社のもとで支援を受けておられるエボルトの検見崎さんにお伺いします。このプロジェクトに参加することを決めた理由は?

エボルト・検見崎氏: 参加を決めた理由は3つあります。1つ目は、テーマが5Gだったから。オンライン展示会の事業構想を練っている際、会議などで「こういうことがやりたいね」という話になったら、すぐにその場にデジタルで人が呼べて、バーチャルブースが立ち上がって、AIが人間のように説明してくれる。そんなオンライン展示会を、テクノロジーを活用して実現したいと考えていました。オンラインであれば、世界中から色んな言語の人たちを呼べますし、大企業でもベンチャーでも同じフラットな空間にすることができます。

でも、当初の構想と、現状自分たちのできることには乖離があります。まずはできるところから始めて進化していくという意味で、“進化する「見本市」”というコンセプトを掲げましたが、オンライン展示会のコンテンツを進化させるために、5Gというテクノロジーはドンピシャなんです。

2つ目は、自力で進めることに限界を感じていたからです。エボルトは2019年10月に創業した会社ですが、約1年でイメージしている未来のゴールに対して感覚的に2%ぐらいの進捗。1年かけて、これだけしか進められなかったことに、自分たちの弱さを痛感しました。自分たちだけでやる発想はなくなり、どこかと一緒にやろうと思うようになりました。

3つ目ですが、C&R社の関わり方が素晴らしかったからです。私は人に何か言われたり、型にはまることが極めて苦手です。よくあるピッチイベントなどは、私にとっては大きなストレスで、ピッチのためにリソースを割きたくない。どこかと組みたいと思っても、そのパートナー企業と一緒にうまく取り組める自信がなかったんです。

そんな時に松永さんと面談させていただいて、真っ先に「やるべきことにしかリソースを割けません」とお伝えしたんです。そこに関して理解をしていただき、「むしろ、うちを利用してください」とまで言ってもらえました。「めちゃくちゃおいしい話だけど、大丈夫かな…」と感じるほどでしたね(笑)


――実際に、C&R社からはどのような支援を受けていらっしゃるのでしょうか。

エボルト・検見崎氏: 「こういう会社に会いたい」と言えば、紹介してくださいます。5Gに関係なくても、私たちのやりたいことをくみ取って支援していただいています。それ以外にも、ディスカッションで得られる気づきも大きいです。社内のチームで考えられることは、自分たちの知識や経験の範囲を出ません。

でも、C&R社からは、「こんなことができるね」と自分たちにない視点から提案をいただける。実際にC&R社とのディスカッションの中から、まだ国内で広まっていない概念を伝える展示会のアイデアも生まれています。

――松永さんが、参画スタートアップとの関わり方で注意していることはありますか。

C&R社・松永氏: まさにお話しいただいたことですが、スタートアップには実現したいビジョンや本業があります。ですから、「スタートアップの方たちがやろうとしていること」と、「私たちのやろうとしていること」を行ったり来たりしながら、バランスを見て進めるようにしています。


想像もしなかった分野で、新しいイノベーションを

――最後に、本プロジェクトに参画したいと考えるスタートアップに向けて、一言メッセージをお願いします。

C&R社・松永氏: 開発プロモーターの公募時、東京都からは「健康」「楽しむ」「暮らし」の3つのテーマが提示されました。その中で、「楽しむ」が、もっともC&R社らしいと思っています。まずは、「一緒にこういうことがやりたい」という想いを共有してもらい、どう一緒に実現するかを考えていきたい。ワクワク感を一緒に共有して、社会課題を解決していけるようなパートナーと出会いたいですね。

きづきアーキテクト・長島氏: スタートアップの皆さんは情熱で突っ走っていて、素晴らしいものをお持ちだけれども、足りないものも多いですよね。そういった時に、足りないものを提供していけるような存在になりたい。ネットワークを広げながら、「C&R社がつくった空間は、いつも賑わっているね」と言われるような場所をつくりたいと思っています。エコシステムで重要なのは、会社の数ではなく、対話の数です。対話がたくさん生まれるように、精一杯支援していきたいです。

エボルト・検見崎氏: このプロジェクトは、「見えないものを見たい人」におすすめです。自分たちだけだと視野が狭くなりがちですが、この事業を通じて、色々な人たちと関わることで、たくさんのことが見えてくるはずです。そんなスタートアップが参画すればいいのではないでしょうか。

東京都・堀江氏: 東京都の一番の狙いは、この事業を通してスタートアップに成長してもらうことなんですね。誰もが想像しなかったような分野で、新しいイノベーションが生まれて、周囲の企業を巻き込んでいって欲しいなと。

巻き込みながら、新しい事業分野や市場が育っていく。かつ、都民の生活の質が向上して、東京都がより便利で安全になる。そんな結果を生み出せればと思っています。


取材後記

2021年に入り、いよいよ本格化するであろう5Gビジネス。東京都が掲げる「スマート東京・TOKYO Data Highway戦略」には、ICT教育や遠隔教育、遠隔診療、自動運転、xRライブ、テレワークなど、さまざまなキーワードが登場する。「高速大容量」「超低遅延」「多数同時接続」の特徴を活かせる新しい5Gビジネスを生み出したい、あるいは事業成長に5Gを活用したいという企業はコンタクトをとってみてはどうだろうか。

なお、2/26(金)に実施されるオンラインカンファレンス「JAPAN OPEN INNOVATION FES 2020→21」でも、本テーマに関連するセッションを開催する予定だ。


(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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