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代替肉で、食の未来を切り開く──日本ブランドで世界を目指すネクストミーツの挑戦

代替肉で、食の未来を切り開く──日本ブランドで世界を目指すネクストミーツの挑戦

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牛肉や豚肉、鶏肉など動物の肉ではなく、植物性原料を使って肉の食感と味わいを再現した「代替肉」。近年、ベジタリアンやヴィーガンなどの食嗜好の多様化、環境意識への高まりを背景に、急速に市場規模が拡大している。大手企業も続々と参入する中、2020年創業のネクストミーツ株式会社は、他業種と手を組み積極的な事業展開を進めている。代表の佐々木英之氏に、代替肉市場の現状と今後の展望、新市場に挑むために大企業・ベンチャー双方にとって必要な心構えを聞いた。

<プロフィール>

ネクストミーツ株式会社 代表取締役 佐々木英之氏

1980年生まれ。2008年10月株式会社ホワイトホール入社。早くから起業した経験を活かし、海外に目を向け、中国深センにて 12 年間、様々な事業に携わる。 大企業向けのアクセラレータプログラムや、メディア運営で培った経験を活かし、2020 年 6 月にネクストミーツを設立。

代替肉で人類を食糧危機から救う、社会問題解決型フードテックベンチャー 「ネクストミーツ」


──御社は2020年6月に創業されたばかりです。なぜ代替肉に注目されたのでしょうか。

佐々木英之氏(以下、佐々木):起業するにあたって、「環境」や「社会貢献」につながるビジネスを模索していました。しかし、環境ビジネスには大規模なインフラ設備や新技術が求められ、ベンチャー企業の新規参入は難しい側面があります。3年半ほど前、たまたま培養肉の存在を知りました。細胞を組織培養して製造する培養肉よりも、植物由来の代替肉なら自分たちにもチャレンジできそうだと思ったのが創業のきっかけです。

──これまでのご経歴は?

佐々木:実は食品業界のバックグラウンドは全くありません。前職では中国・深センを拠点に日本企業の海外進出、事業活性化などをサポートしてきました。

代替肉には将来性を感じるだけでなく、環境問題の解決にもつながるのではと考えています。世界の人口は2050年に90〜100億人に達するとも予測され、食糧危機の可能性が懸念されています。一方で、家畜で放出されるメタンガスは、地球温暖化の要因になっています。人類を食糧危機から救い、地球環境を守るために気候変動問題に立ち向かうべく、社会問題解決型フードテックベンチャーとして事業活動を行っています。

──未経験から開発のノウハウはどのように身につけたのでしょうか?

佐々木:初めは本当に手探りでした。最初は豆腐ハンバーグを作ることから始めて、とにかく手を動かして試作を重ねていくうち、少しずつ糸口が見えてきました。商品開発と並行してノウハウのある方にアプローチするなど人脈作りも進めていきました。結果、商品のプロトタイプができるまで3年半くらいかかりました。大学の研究室との連携も早い段階からスタートさせていました。

──組織の体制は?

佐々木:基本的にメンバーは業務委託です。フルコミットが私を含めて3人、マーケティング、営業、顧問などを含めてトータル35人くらいと、まだまだ小さな組織です。

──メンバーを採用する際の基準などはありますか?

佐々木:いちばんは自分たちの理念に共感してくれることです。ネクストミーツでは「地球を終わらせない」をミッションに、テクノロジーによって次世代の肉を作り、普及させることを理念に掲げています。人材に関しては募集もしていますが、「ぜひ参加したい」と声をかけてくれるケースが多いです。インターンも15名ほど在籍していますが、環境やSDGsに興味を持つ意欲的な学生が多く、事業拡大の体制も整っています。

焼肉チェーンと手を組み、代替肉を楽しむきっかけ作りに


──会社設立からまだ半年ほどですが、事業のフェーズはどのような状況ですか? 

佐々木:現在はECサイトをメインにBtoCの販売が中心ですが、ブランドの認知を高めるにはBtoBの流通が不可欠だと考えています。そこで、昨年11月から焼肉チェーン「焼肉ライク」と世界初の焼肉用代替肉「NEXTカルビ&NEXTハラミ」を共同開発し、店舗での提供をスタートしました。この商品は、一般的な焼肉と比べて脂質が半分以下、タンパク質は約2倍と栄養価も優れた商品です。また、焼肉ライク用にオリジナルの植物性のタレも開発していただきました。

──「焼肉ライク」との協業の経緯は?

佐々木:もともと代表とは面識があり、私たちから提案しました。飲食チェーン店の中でも新しい取り組みに積極的で、私たちの攻めの姿勢ともマッチすると思っていました。しかし、肉を提供する店で代替肉がどれだけ受け入れられるかは未知数でした。でも、まずはチャレンジかなと。

──「焼肉ライク」の展開の成果は?


佐々木:当初は数店舗のみの取扱いでしたが、提供開始後からメディアでも反響があり、翌月からは全店舗に拡大しました。お客様の反応も「パサパサしたイメージがあったけど、おいしかった」「自分はヴィーガンだったけど、おかげで6年ぶりに焼肉行けた」などの好意的な意見がSNS上に寄せられました。

飲食店なら気軽に注文できたり、通常の焼肉と食べ比べできたりする楽しみがあります。フェイクミートに馴染みのなかった方でも、気軽にトライしてもらえるきっかけになりました。今後も外食チェーン、小売を通した展開を視野に入れています。

──協業の提案を受けて、先方の反応はいかがでしたか?

佐々木:「これからの新しい選択肢として、焼肉店には代替肉が必要だ」と受け入れてくれました。その後、店舗での販売まではスムーズに進みましたが、初めての試みだったので、商品名や価格は悩みましたね。現在は基本的に冷凍流通のためコストがかかります。将来的にはチルド販売や常温流通の体制も整え、小売の可能性も模索したいと思っています。

「日本ブランド」の代替肉で差別化を図り、世界のマーケットに挑む


──商品開発にあたって苦労した点は?

佐々木:ネクストミーツの製品には添加物を一切使用していません。増粘剤を使わずいかに原材料を結着させるか、また、大豆特有の匂いを抑えて肉らしい味わいを出すかには苦労しました。そのあたりは研究を重ねた成果が出ていると思っています。

これまで焼肉用代替肉や牛丼「ネクスト牛丼1.2」など和の商品をリリースしてきましたが、海外の代替肉大手メーカーもやってないジャンルです。ハンバーガーやハムなどは大手の資金力には敵わないので、「日本ブランド」や「和食」の部分で差別化したいと思っています。麻婆豆腐のように一部に肉が入っている料理ではなく、素材メインで勝負したいですね。

これまで生産は工場に委託していましたが、昨年12月にはベトナム・ダナン工場の生産ラインが稼働するなど海外での生産も進めています。今後は日本でも生産力を強化し、世界流通のための新体制を構築している段階です。

──他社との共創を模索する際に、オープンイノベーションプラットフォームであるAUBAを活用していると伺いました。実際にAUBAを使ってみていかがですか?

佐々木:まだまだこれからですが、さまざまな業種と可能性があると思っています。販売網を持つ商社、小売・コンビニなどの食品関連業界、独自技術を持つ企業と協力し、商品開発に活かしたいです。

イノベーションは既存知の組み合わせから生まれます。ですから、食品に限らず異業種の方が面白い取り組みができるのではと思っています。例えば製鉄会社が持っている鉄を扱う技術が、もしかしたら応用できるかもしれません。協業においてもまずは理念が合致するかが必須です。その上で業界の枠にとらわれない出会いを求めています。

──優れた技術を持ちながらも、うまく活かしきれていない会社も多いと思います。そのジレンマをどう打破したらいいでしょうか?

佐々木:「うちは食品業界とは関係ない」と閉ざしてしまうのではなく、既存の枠組みに捉われないことだと思います。「製造だから」「食品だから」といって線引きせず、探究心があったほうがより可能性が広がると思います。私も交流会で偶然出会って話をしたら盛り上がった、なんてこともありました。

──共創の成功のポイントは?

佐々木:まず必要なのはスピード感だと思っています。大企業では、NDAを締結するのに決裁に半年かかることもあるようです。反面、結果は早く出すことが求められる。自分たちのプロジェクトスパンはもっと短く、今月中とか3ヶ月、長くて半年スパンです。新しいことに取り組むなら、ある程度スピード感がないとベンチャー企業のスピードと合わなくなってくると思います。これは共創あるあるかもしれませんけどね。

べンチャーが切り拓き、大手が地ならしすることで新しい市場が生まれる


──大企業とベンチャー、双方にとって共創がもたらすメリットとは?

佐々木:最近では大手企業も参入していますが、代替肉や大豆ミート市場はまだ具体的な数字が伴っていません。潜在顧客も市場規模も未知数なため、結果が出ず撤退するメーカーも出てきています。けれど、それでは一過性のブームで終わってしまいます。

だからこそ、ベンチャーはスピード感を持って市場を切り開き、大手は安定供給できるよう地ならしする役割が必要です。大手企業、ベンチャー双方の強みを活かしてこそ市場が育つと考えています。代替肉もヴィーガンの方だけではなく、あらゆる方が日常的に楽しんでいただけるよう、持続可能な形にしていくことを目標にしています。

──今後のビジョンは?

佐々木:まずは海外生産の安定と海外マーケットの展開です。台湾をはじめアジア圏には宗教的な背景からベジタリアンも多くご要望もいただいています。昨年12月には豊田通商株式会社と戦略的パートナーシップを結びました。日本ブランドを世界に発信すべく、代替肉製品の国内外への流通を強化していく予定です。

商品もさらに磨き上げていきます。ネクストミーツの商品はひとつのハードウェアだと思っていて、商品名には「ver.(バージョン)」をつけています。課題点を改善し、大学やベンチャー企業などとも研究を重ね、よりよい商品へアップデートしていきたいです。

代替肉の原材料は大豆のみに限りません。小麦や米、玄米由来のタンパク質もありますが、最近は海藻類の一種でさる微細藻類に注目しています。植物由来にこだわっているわけではなく、培養肉にも興味があります。お肉に近づけて終わりではなく、お肉を超えるおいしいものを目指します。

──御社のミッション「地球を終わらせない」のゴールとは?

佐々木:日本政府が「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」方針を発表しましたが、まだまだハードルは高いと考えられます。「地球を終わらせない」が大きなミッションであるがゆえに、まずは一歩ずつ、代替肉が日常の一つになるよう、食のありかたから変えていけたらと思います。

編集後記

昨年、農林水産省「フードテック研究会」において、「オープンイノベーションの枠組みで民間活力を最大限活用し、フードテック領域への研究開発・投資を促進していくべき」との提言がなされた。今後、産学官連携による「フードテック官民協議会(仮称)」が設立予定だという。

黎明期の代替肉市場だが、持続可能かつ安定的な食糧供給は世界全体の課題であり、今後もグローバルに拡大すると考えられる。技術とスピード感に強みを持つベンチャー、大規模な製造設備や流通インフラを持つ大企業の双方が補完しあい、世界に展開できる産業に成長することを期待したい。

(取材・文:星久美子)