中小企業・スタートアップの挑戦を“信頼”と“発信力”に変える──上場企業も輩出してきた「勇気ある経営大賞」。挑戦への支援とスタートアップ部門新設に込めた想い
スタートアップ支援やオープンイノベーション推進の機運が高まる一方で、見落とされがちなのが企業の挑戦の中身だ。大きなリスクを背負い、常識や業界慣行という壁を乗り越え、変革に挑戦し続けている企業は数多い。しかし、その挑戦が社会に可視化される機会は決して多くない。
そうした挑戦の現場に光を当て、次なる挑戦を後押しする仕組みとして、東京商工会議所が2003年から運営しているのが「勇気ある経営大賞」だ。さまざまな障壁の打破に挑んだ中小企業を顕彰し、広く周知することで、後に続く企業を勇気づけることを目的としている。
前回(第21回)からは創業10年以内の企業を対象とした「スタートアップ部門」も新設され、売上規模だけでは測れない“創業者の想い”や社会課題への挑戦も評価の対象に含まれている。
第21回では、総合部門大賞に株式会社日本メディック、スタートアップ部門大賞にヒューマンライフコード株式会社が選出された。前者は民事再生を経て業務用マッサージチェアの開発という独自領域を切り拓いた点が、後者は臍帯由来細胞を用いた再生医療の実用化に挑む点が評価された。一方で、これまでの受賞企業の中には、業界のパイオニア的存在となった企業や、その後に上場を果たした企業もある。
そして、第22回「勇気ある経営大賞」は2025年10月より募集が始まった(※募集締切:2026年2月20日(金)23:59まで)。本記事では東京商工会議所で同賞を推進する渋谷氏、山本氏に、創設の背景、審査の観点、受賞後に起きる変化、そしてエントリー企業へのメッセージを伺った。
▲東京商工会議所 中小企業部副部長 渋谷 貴司氏
▲東京商工会議所 中小企業部 調査役 山本 輝之氏
「勇気ある挑戦」を社会に可視化するために
――まず、「勇気ある経営大賞」が創設された背景と狙いを教えてください。
山本氏 : 本事業を創設した2003年当時は、東京商工会議所として、革新的・創造的な経営により”勇気ある挑戦”に取り組む中小企業を応援する、という機運が高まっていた時期でした。そこで”勇気ある挑戦”をしている中小企業を顕彰し、後に続く企業に勇気を与え、ひいては経済の活性化に資することを目的にとしています。
――まさに挑戦を見える形で残し、広げる必要があるということですね。
山本氏 : はい、そうですね。チャレンジしている中小企業は多くあるのに、その挑戦を皆さんに知っていただく機会がなかなかない。だからこそ、そういった企業があるのだと知っていただくことに意味があると思っています。
――その先の広がりも意識されているのですね。20年以上続いてきたからこそ、受賞企業同士のネットワークも作れそうです。
山本氏 : まさにそこは強化していきたい点です。そこで、受賞企業の特典のひとつとして、受賞企業限定の交流会・視察会を開催しています。企業同士の交流を通じて新しい気づきを得る、ネットワーク作りにつながる、場合によってはビジネスが生まれる。そうした機会を提供していきたいです。
第21回から「スタートアップ部門」を新設。その狙いと位置づけ
――前回(第21回)からスタートアップ部門が新設されたと伺いました。
山本氏 : 第20回までは部門分けはせずに運営していましたが、20回という節目を機に本事業のリニューアルを行い、「総合部門」と「スタートアップ部門」の二部門制にしました。新設したスタートアップ部門は、創業10年以内の企業を対象にしています。
渋谷氏 : リニューアルする以前からスタートアップが受賞することはありました。ただ、国の経済成長戦略に「スタートアップ育成5か年計画」が掲げられている流れもあり、スタートアップの成長支援や認知度向上という観点から、部門として明確に設ける形になりました。
――スタートアップ部門では、成長スピードだけでなく、別の評価軸も重視しているのでしょうか。
山本氏 : はい。「スタートアップ」というと、”短期間で急成長を目指す”というイメージがありますが、本事業のスタートアップ部門は「創業10年以内」であることを要件としており、スモールスタートアップなども応募いただけます。まだ業歴の短い企業でも、積極的に応募していただきたいという思いがあります。
渋谷氏 : 急成長しただけがスタートアップではありません。まだ小さいけれど創業者の思いが取り組みに反映され、軌道に乗りつつある企業は多い。規模が小さくても、挑戦内容が特筆されるなら、しっかり見ていきたいという考えです。
▲総合部門の大賞には賞金200万円、スタートアップ部門の大賞には賞金100万円が贈られる。
「勇気ある挑戦」とは何か。評価の核にあるのは“覚悟”と“結果”
――実際に受賞した企業には、どのような反応や変化が生まれているのでしょうか。
山本氏 : 受賞企業を発表すると、メディアからの取材依頼が入るケースもありますので、その場合はおつなぎしています。また、展示会への出展を支援することで、様々な方に知っていただく機会を設けています。それらの結果として商談につながったり、認知度向上につながったりしているのではないかと思います。
渋谷氏 : 中小企業はメディアに取り上げられる機会がそもそも多くありません。だからこそ、受賞をきっかけに露出が増え、事業が拡大したり、より強い企業になったりする例をこれまでも見てきました。受賞したことで代理店や販売店が増えた、という話もあります。受賞企業を見た別の企業が「こんな企業になりたい」と思ってくれれば、本事業の役割はさらに大きくなるはずです。
▲東京商工会議所の「勇気ある経営大賞」ページでは、第21回「総合部門大賞」を受賞した 日本メディックや「スタートアップ部門大賞」を受賞したヒューマンライフコードの動画インタビューが公開されている。その他、過年度に受賞した各社のインタビューが掲載中だ。
――受賞企業には、どのような特徴や評価ポイントがあるのでしょうか。
山本氏 : 選考に際して、①大きなリスクへの挑戦、②高い障壁への挑戦、③常識の打破に挑戦し、高い理想を追求することを「勇気ある挑戦」として評価しています。選考は、外部の専門家や有識者に参画いただいています。
たとえば、既存事業に固執せず、リスクがありながらも新しい事業に踏み出しているか、世の中にない発想や革新的な方法で新製品・新サービスを生み出しているかといった点です。。
渋谷氏 : 挑戦して終わりではなく、結果が伴っていることも大切です。結果は、売上や利益といった数値だけではありません。社内の風土が変わった、独自の価値を創出できた、世の中にこれまでなかったものを生み出した。そうした変化も含めて、困難な挑戦をやり切っているかどうかが、審査員には強く印象に残ります。
――共通するのは「今のままではダメだ」という経営者の思いということですね。
山本氏 : はい、まさにそうです。今のままでは続かない、変えないといけないという思いをもとに変革にチャレンジした。その結果、何らかの成果が出た。その流れ全体が、重視されているのではないかと思います。
「勇気ある経営大賞」の応募要件と審査について
――応募要件について教えてください。
山本氏 : 応募要件は、東京都内に事業拠点があること、上場していない中小企業であること。応募企業は、従業員が数十人ぐらいの企業が中心です。以前は製造業からの応募が多かったのですが、産業構造が変化する中で、情報通信業、サービス業、卸売業など、様々な企業からの応募があります。
――応募のされ方にも傾向はあるのでしょうか。応募要領には自薦・他薦どちらも可能とあります。
山本氏 : 総合部門については、金融機関などからの推薦が多い傾向があります。一方で、スタートアップ部門は前回、自薦と他薦がほぼ半々でした。ただ、どちらの部門も自薦で応募いただけます。
渋谷氏 : 企業を見ていると、自社の強みをどう見せるかに悩むケースが少なくありません。金融機関や公的支援機関から見て「この会社は光るものがある」と思われ、応募を勧められる。そうした推薦の仕組みも、この賞の重要な入口になっています。
――審査プロセスと審査員構成について教えてください。
山本氏 : 一次選考は中小企業診断士による書類審査です。二次選考は、公的支援機関で中小企業を支援している方などの専門家による実地調査で、経営者と面談する形で審査します。最終選考は、経営者自身によるプレゼンテーション形式で、企業経営者や学識経験者、これまでの受賞企業の経営者など、幅広い方々に審査いただく形です。
渋谷氏 : 実行委員長は本田技研工業株式会社 特別顧問、東京商工会議所 副会頭の倉石氏が務めています。審査員は毎年何名か入れ替わりがありますが、極端に構成が変わるわけではありません。多様な視点で見ていただく体制になっています。
――スタートアップの中には、まだプロダクトが完成していない企業も多いと思います。それでも応募できるのでしょうか。
山本氏 : スタートアップに関しては、”勇気ある挑戦”の内容や、企業に至った背景や動機、起業してからの実績・成果に加え、事業計画の実現可能性、事業の新規性、成長性、社会貢献性も含めて選考を行います。プロダクトができているか、ということだけで判断するものではありません。
渋谷氏 : 創業支援施設に来られる方には、地域課題・社会課題の解決を志向して創業する方が多いです。課題があり、思いがあり、困難があり、それでも挑戦して形になりつつある――その一連の流れをしっかりアピールしていただきたい。売上規模が小さいから無理、という話ではないです。特にスタートアップ部門では、そうした応募を増やしたいと思っています。
――最後に、本年度の募集に込める思いと、応募を検討する企業へのメッセージをお願いします。
山本氏 : ”勇気ある挑戦”という言葉は少しハードルが高く聞こえるかもしれませんが、実際には経営する中で、新しいことにチャレンジし続けているはずです。これまで取り組んできたことを、多くの方に知っていただく機会として応募していただきたいです。特にスタートアップは、創業者が「こういう世の中を変えたい」という思いで起業しているケースが多いと感じています。その思いに至った部分、そして形にしてきた取り組みを、ぜひぶつけていただきたいです。
渋谷氏 : 総合部門もスタートアップ部門も、元気な企業は必ず何かしら挑戦しているはずです。そこをしっかりアピールして応募してもらいたいですね。受賞企業には、東京商工会議所としてPRにも力を入れていきます。スタートアップの方は特に、創業時の思い、それを形にするための取り組みをしっかり伝えていただければと思います。
取材後記
「挑戦」は、往々にして表に出ることが少ない。だからこそ、挑戦を社会の言葉に翻訳し、次の挑戦者へ手渡す仕組みが必要になる。「勇気ある経営大賞」は、その役割を20年以上にわたり担ってきた。総合部門では「高い障壁を越えた変革」と「結果」を、スタートアップ部門では「創業者の思い」と「実現可能性」をそれぞれのフェーズに合わせた見方でフラットに審査している。
応募の締め切りは、2026年2月20日(金)23:59まで。受賞企業の発表は同年10月、顕彰式典は11月を予定している。
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「勇気ある経営大賞」についての詳細は、下記URLをご確認ください。
https://www.tokyo-cci.or.jp/market/keieitaisyo/
(編集・文:入福愛子、撮影:眞田 幸剛)