【eiicon支援事例/トヨタ車体】 「“トヨタ車体”に合ったカスタマイズされた柔軟なサポートで、全社へ新規事業創出基盤を醸成。社内風土までもが変わりつつある」――受託型のものづくりをしてきた“技術者集団”トヨタ車体が、新規事業/共創におけるeiiconの支援を支持する理由とその成果とは。
近年、企業の継続的な成長のために新規事業作りに励む企業が増えてきました。しかし、新規事業創出のための文化や風土も含めたシステム基盤が醸成されていなければ、取り組みが単発・短期で終わってしまい、目的である継続的成長には繋がりません。また属人的な取り組みで生み出してきたものから、企業として持続的にイノベーションを生み出していくために、取り組みの組織化・仕組み化が求められており、特にオープンイノベーションによる事業創出は、新たなシナジーを生み出せる反面、専門的なノウハウも必要なため外部からのサポートが重要になります。
そのような中、完成車両メーカーとして70年以上の歴史と実績を持ったトヨタ車体は2022年度に初めて“クルマづくりで培ったシーズを活用した”社内起案発のオープンイノベーションプログラムを実施。採択したパートナー企業との新しい価値の創出に今現在も継続して取り組んでいます。さらに2023,2024年度には“自動車製造に捉われない、顧客視点を軸にした”社会課題解決型の社内新規事業プログラム『HaCoBoost2023,2024』を実施し、新しい事業創出に取り組んでいます。
オープンイノベーションや新規事業の支援を行っている株式会社eiiconは、2022年度から現在も継続してトヨタ車体が取り組むプログラムの運営を支援し、持続的にイノベーションを生み出していくための、新規事業創出基盤構築支援(組織化・仕組み化)を続けてきました。
今回はトヨタ車体において社内新規事業プログラムやオープンイノベーションプログラムを牽引してきた山口氏に、eiiconの支援内容をどのように評価しているのか、そして、これまでの取り組みの成果について話を聞きました。
▲トヨタ車体株式会社 戦略企画室 主査 山口智史氏
「技術者集団」の変革!トヨタ車体が新規事業やオープンイノベーションに踏み出した理由
――まずはトヨタ車体さんが新規事業やオープンイノベーションに取り組み始めた背景を聞かせてください。
山口氏 : 自動車業界が大きく変化している中、「このまま既存事業の延長を続けていくだけでは変われない」という空気が社内にあり、数年前から風土改革の機運が高まったのがきっかけです。私たちトヨタ車体は技術者の集団なので、社内には技術シーズがたくさんあります。
それらを活用し他の企業と一緒に新たな価値創造に挑戦したいと考え、まずはeiiconが運営しているオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA」に登録しました。当時は登録をしただけで、具体的な共創には繋がりませんでしたが、自社の状況をお話しする中でeiiconからは「オープンイノベーションを取り入れた社内新規事業プログラム」の提案をいただいたのです。人材育成や組織の風土改革についても話し合っている時期だったので、そのような期待を込めてハンズオンでの支援をeiiconにお願いすることにしました。
――ちなみになぜ「AUBA」に登録いただいたのでしょうか?
山口氏 : 当時は「AUBA」以外のオープンイノベーションプラットフォームがほとんどなかったからです。「AUBA」は登録企業も多く、実績も豊富だったので登録してみようと思いました。また、eiiconはプラットフォームだけでなく、社内体制などの新規事業創出基盤構築~事業創出伴走まで一気通貫のハンズオンでの支援に力を入れているのも大きな理由です。私たちはオープンイノベーションや新規事業のノウハウがなかったため、ハンズオンで支援してもらえるのは魅力的なポイントでした。
――実際にeiiconの支援を受けてみた印象も聞かせてください。
山口氏 : とても満足しています。特に最初のころは、どこから手をつけていいかわらなかったので、eiiconのみなさんがチームの一員となって動いてもらえたのは非常に助かりました。また、私を含めトヨタ車体側のメンバーたちは本業を持ちながら、サイドプロジェクト的にオープンイノベーションや新規事業に取り組んでいたため、あまり時間をかけられずにいたんです。そのような状況も考慮しながら、柔軟に提案していただけたのはありがたかったです。
――支援のコストに関する印象はいかがですか?
山口氏 : トヨタグループでお付き合いのある支援会社以外で、あまり競合他社を見ていないので詳しい相場感を把握していませんが、コスト的にも満足しています。パートナー企業とのマッチング支援部分に関してはもっと安くサービスを提供している会社や無料のマッチングイベント等もありますが、事業創出までをゴールにしていたので、オープンイノベーションを用いた事業創出までの専門的な知見と実績が豊富で、パートナー企業とのマッチングプラットフォームも持っているeiicon以外に選択肢がなかったのです。
また、ハンズオン支援部分に関しては何社か検討しましたが、それでもeiiconを選んだのは、eiicon自身も成長過程だと感じたからです。私たちはオープンイノベーションや新規事業のノウハウがほとんどなく、既存のやり方・考え方に縛られている従業員も多く、かっちりと決められたコンサルティングの”型”に当てはめられるのに不安を感じていました。その点、eiicon自身も未完成だからこそ、私たちの現状を理解しながらブラッシュアップしつつ伴走してくれる柔軟性と安心感があったため、いい成果が出せると思ったのです。
プログラム成功の裏にあった「事業化までの組織化・仕組み化支援(ステージ&ゲート構築/経営陣の巻き込み/出口戦略設計)」
――トヨタ車体さんは、2022年度に初となる「“クルマづくりで培ったシーズを活用した”社内起案発のオープンイノベーションプログラム」を開催。2023年度には「“自動車製造に捉われない、顧客視点を軸にした”社会課題解決型の社内新規事業プログラム『HaCoBoost』を開催しています。これらのプログラムにおいて全体像とeiiconによる具体的な支援内容についてお聞かせください。
山口氏 : 2022年度の「“クルマづくりで培ったシーズを活用した”社内起案発のオープンイノベーションプログラム」では、初の取り組みだったので、本当にゼロベースからプログラムの設計から運営まで、eiiconの皆さんと一緒に作っていきました。その後、2022年7月に社内公募を実施。そうすると56件もの応募があったのです。
その中から、eiiconと選考を実施し「冷凍車技術」・「コムス(超小型EV)」・「TABWD(植物材料)」・「自動車生産のオートメーション」・「福祉車両」・「ふれ愛パークなどの敷地」といった社内シーズを元にした6件のビジネス案が選考を通過しました。
その後、eiiconの強み部分でもありますが、うち3案に対してオープンイノベーションとしての事業テーマブラッシュアップ・共創パートナーの公募・マッチングを行い、大企業からスタートアップまで多様な4企業を採択。ビジネスモデルの共創に挑みました。
後ほど詳しく紹介しますが、有限会社川助農園とluv waves of materials株式会社、各パートナー企業と取り組んでいる2つの共創プロジェクトはeiiconに継続伴走メンタリング頂きながら、事業化に向けて現在も継続して準備を進めている段階です。また、他の3案に関してもeiiconに伴走メンタリング頂きながら事業探索を行ったり、産学官連携プロジェクトと合流することで事業化検討を進めていきました。
▲2022年に実施されたオープンイノベーションプログラム。トヨタ車体のクルマづくりにおいて育まれてきた独自の技術を活用しながら、パートナー企業との共創で、社会課題を解決する新たな事業の創出に取り組んだ。(取材記事:https://tomoruba.eiicon.net/articles/3822)
次に2023年度の「“自動車製造に捉われない、顧客視点を軸にした”社会課題解決型の社内新規事業プログラム『HaCoBoost』では、2022年度プログラムの形をベースに、反省点を活かしながらeiiconの皆さんと一緒に新たなプログラムスキームを作っていきました。
設定したプログラムテーマは、「未来にしあわせを”ハコべる“ビジネスアイデア」というもの。2023年7月から説明会やセミナーなどを実施しながら社内公募型で起案者を集め、選考通過した起案者8名に対して9月〜10月にかけて実践型ワークプログラム「BUSINESS BUILD」を実施。eiiconメンター・外部有識者(VC)・社内役員が一堂に会し、2日間で一気に起案者のビジネスプランをブラッシュアップしていきました。
その後、eiiconのメンター陣などによるメンタリング(週1時間)を行いながら、12月と3月に審査会を開催し、継続してビジネスプランに磨きをかけていきました。
――そうした中で、eiiconによる支援で特に価値を感じた部分があれば、教えてください。
山口氏 : 裏側の体制システムの話にはなるのですが、初めてのプログラム立ち上げでゼロベースだったので、やはり事業化までの仕組み化のサポート(ステージ&ゲート構築/経営陣の巻き込み/出口戦略設計)も頂けたのはありがたかったと感じています。
これまで他の企業さんも含めて多くの成功事例・失敗事例を経験されてきたeiiconだからこそのメソッドもアドバイス頂き、今後の全社スタンダードとできるような“トヨタ車体だけのための新規事業創出基盤”を一緒になって構築できたのは大きい部分ですね。
具体的なアウトプットはお見せができないのですが、「事業アイデアの審査項目/基準」、「ニーズ起点の事業アイデアのステージ&チェックゲート構築(審査ゲート・事業アイデアの段階ステップ・検証項目・期間・検証費用・工数などの可視化/言語化)」、「経営陣の巻き込みプロセス」、「PoC以降の伴走プロセス」、「事業化後の拡大プロセス」などを構築していきました。
あとはそもそものプログラムの導入部分、つまり社内の起案者の応募を集めるノウハウから全く持ち合わせていなかったので、新規事業初心者向けの事業構築セミナーの実施やアイディエーションの個別相談会/壁打ち会など、eiiconによる支援は非常に心強かったです。
今年(2024年度)はさらに、社内でキャリアに悩んでいる方を取り込む施策も始めました。私たちの会社は、明確なキャリアビジョンを持っている従業員が多くないことが、人事が抽出したデータから分かっています。特に25~30歳は「クォーターライフクライシス」と言い、キャリアに絶望する方も多いとされる年代。そのような年代の方や、キャリアに悩みそうな入社年度の方を取り込むため、人事と連携しながら取り組みを広げています。
――人事も巻き込んでいるんですね。経営層の巻き込みも大事だと思いますが、その点についても聞かせてください。
山口氏 : 審査会に、プログラムとは直接関係のない役員や、起案者の上長にあたる方に入っていただくようにしています。審査の質を考えると、新規事業の経験者などをアサインした方がいいのでしょうが、会社全体を巻き込むための施策の一環です。
また、VCの代表の方やeiiconの村田さん(常務執行役員 村田宗一郎)など、外部の方にも審査会に入ってもらいました。当社の役員に、VC代表の方や村田さんのような”事業作りのプロ”がどう評価をして、どのようなアドバイスをするのかも知ってほしかったのも理由の一つです。このような取り組みを通じて、会社全体の風土も変えていきたいと思っています。
――実際に効果などは感じていますか。
山口氏 : 審査会のフィードバックの内容が変わってきたように感じます。私たちはモノづくりの会社なので、出来て当たり前の風潮の中、前向きな発言は多くありませんでした。
しかし、最近は新しいことに挑戦する姿勢を称えるコメントをいただけ、顧客視点でのフィードバックも増えてきた印象があります。審査会への出席や起案者の真剣な取り組みを目の当たりにして、役員も新規事業を生み出すプロセスや大事さを理解してくれている感じがしています。
「寄り添い」が創出するイノベーション。起案者のレベルに応じたメンタリングで成長を促す
――eiiconによる起案者に対してのメンタリングの印象についても聞かせてください。
山口氏 : eiiconのメンタリングは、起案者に寄り添ってくれているのを感じます。他社のメンタリングを受けた方の話を聞くと、時間が30分でシステマチックな印象を受けました。事業開発の経験がある方なら、それでも消化できると思うのですが、当社のように経験値の低い社員が多い場合には30分では難しい気がしています。
その点、eiiconのメンタリングはたっぷり1時間使って、伴走しながら一緒に考えてくれます。特に当社の起案者は、明確にビジョンが定まっているわけではないので、eiiconのように寄り添ってくれるスタイルの方がマッチしていると感じました。
――他社のメンタリングは、トヨタ車体さんにはマッチしにくいと感じたのですね。
山口氏 : 当社の起案者は、初めて新規事業にチャレンジする方がほとんどで、事業作りの経験もノウハウもほとんどありません。Willを失ってしまった起案者が途中で断念してしまうこともまだ多いです。eiiconでは、そのようなレベルにも合わせてメンタリングをしてくれるので、ステップを踏んで成長していけると感じました。
――支援の成果についてはいかがですか?
山口氏 : 社内でプログラムの認知度が上がってきているのは非常に嬉しいです。正直、以前は私が個人的に動いているだけで、プログラムを続けていくだけで必死でした。しかし、今はプログラムの意義や価値を理解してくれる人も増え、徐々に社内に浸透しつつあるのを感じます。
単にプログラムを続けていくだけのフェーズから、今はしっかり利益や会社の成長に繋げるフェーズに進みつつあるのは、eiiconに支援していただいたおかげだと思いますね。プログラム発のプロジェクトで売上が発生すれば、さらに大きな推進力になるでしょう。
2022年度の「オープンイノベーションプログラム」から2つの社内起案プロジェクトが事業化承認の最終段階へ
――過去に採択されたプロジェクトも順調に進んでいるのですね。詳しく聞かせてください。
山口氏 : 2つあります。まず一つ目は、日本で初めてトマト栽培を手掛けた農園であり、高い糖度と食味、栄養価が評価されている有限会社川助農園との『再生エネルギーの自動制御による農業の収穫量アップ』プロジェクト。二つ目は、ヘアケア製品・有機食品・化粧品・ファッションなどあらゆる分野において持続可能な製品をデザインし、発信し続けているluv waves of materials株式会社との『世界初の植物性容器を用いたリユースリサイクルシステムの構築』プロジェクト。――この2つが、現在事業化の準備フェーズにあります。
既にプログラムは卒業しており、今年中には社内の承認も得て正式に実績として載せられる段階です。実際に事業化した実績があれば、起案者の意識も変わるだろうと期待しています。過去には「プログラムを受けるとどうなるんですか」と聞かれたこともありますが、実績があることでプログラムへの期待値も高まるはずです。
――eiiconの支援について、定量的な成果があれば聞かせてください。
山口氏 : プログラムに応募した人数は年間約60人を超えています。私たちの会社はブルーカラーの方も多いので、それを考えると満足できる成果です。応募してくれた方たちを見て「自分もできるかも」と思ってくれる社員が増えると嬉しいですね。
また、定性的な効果にはなりますが、書類審査を受けて実際にeiiconメンターから伴走してもらっている社員の雰囲気が変わったのも大きな成果だと思っています。新しいスキルを得たことで、普段の仕事にも自信を持って取り組んでいるように感じています。
トヨタ車体が目指す持続可能な取り組みとは
――これからオープンイノベーションや新規事業をどのように発展させていきたいと考えていますか?
山口氏 : 正直、継続的に新規事業を立ち上げていくのは難しいと感じています。私たちは事業領域が狭く、ゼロから事業を作りやすい環境ではありません。しかし、例えば私たちの工場をアセットにして、困りごとを解決してくれるパートナー企業との取り組みを積極的に推進していきたいとは考えています。私たちの工場における課題が解決できれば、似たような課題を持っている工場にも提供できるので、そのような組み方をしていきたいですね。
一方で、社内には「スタートアップと組めば、何かできるんじゃないか」と考える人もいるのですが、私はそれを止めたくて。オープンイノベーションは手段でしかないので、まずは目的を明確にし、オープンイノベーションが適した解決手段と考えた時に組み先を探しにいく文化を作っていきたいですね。
――もし他社や他部署にeiiconをお勧めするなら、どのように紹介するか聞かせてください。
山口氏 : 一緒に寄り添って考えてくれる支援会社として紹介すると思います。支援会社の中には、固まった型やノウハウを教えてくれるだけの会社も少なくありません。事業者側のリテラシーが高ければ、それでもいいのですが、私たちのようにリテラシーがない会社ではうまくいかなかったと思います。その点、eiiconはビジョンが曖昧なままでも、一緒に考えてくれる柔軟性が心強かったです。同じように、漠然と「社内の雰囲気を変えたい」と思っている企業には、おすすめしたいですね。
――最後に今後の取り組みについて聞かせてください。
山口氏 : オープンイノベーションが継続的に続けられる仕組みを作っていきたいと思います。今でこそ社内でプログラムの認知度も高まってきていますが、それは私やeiiconがプログラムを推進しているからです。弊社はもともと新規事業のプライオリティが低い会社なので、私たちが止まれば元に戻ってしまうでしょう。今の取り組みを組織的に行い、私がいなくても継続的に新規事業やオープンイノベーションが生まれる文化を作っていきたいですね。
そのためは兼業的にプロジェクトに関われる社内体制が必要だと思います。他の会社のように事業開発専門の組織を立ち上げるのは、会社的にもキャリア的にもリスクが高く感じます。兼業をしながらオープンイノベーションを続けていくには、外部からの支援が欠かせないので、これからもeiiconには期待しています。
取材後記
「100年に一度の大変革期」と言われる自動車業界。トヨタ車体はこのような変化に対応するため、社内の技術を活用し新規事業に挑むべく、2022年からプログラムを通してオープンイノベーションに着手しました。外部支援としてeiiconのプラットフォーム「AUBA」やハンズオン支援を利用し、事業開発を推進しています。特にeiiconの柔軟な支援が役立ち、社内の意識改革や事業創出に実績が出つつあります。プログラム開催をきっかけにして、新規事業への意識が高まり、どのような新しい価値を創造していくのか?――引き続き、注目してきたいと思います。
eiiconは、アクセラレータープログラムやオープンイノベーションプログラムの支援実績も豊富です。各種プログラムの開催を、企画段階から支援してほしいというニーズにもお応えしていきますので、お気軽にお問い合わせください。
まずは、オープンイノベーションプラットフォームAUBAを知りたい方向けの資料請求はこちらから
(編集:眞田幸剛、文:鈴木光平)