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【Startup Culture Lab. 2025年度 #4レポート】「スタートアップに求められるタレントマネジメントとは?」——スタートアップに必要な仕組みと視点

【Startup Culture Lab. 2025年度 #4レポート】「スタートアップに求められるタレントマネジメントとは?」——スタートアップに必要な仕組みと視点

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イノベーションを起こし急成長するスタートアップならではの、人材・組織開発に関する学びと知見を広くシェアする研究プロジェクト「Startup Culture Lab.」。2025年度で3期目を迎える本プログラムは、スタートアップ企業が急成長の過程で直面する“組織課題”に向き合い、解決策を共に探っていくことを目的としている。

8月13日に開催された第4回のテーマは「スタートアップに求められるタレントマネジメントとは?」。キャリア形成や人材育成をめぐる議論が深まりを見せるなか、スタートアップの経営幹部をはじめ、人材・組織開発に関する豊富な経験を持つ方々が登壇し、自社での取り組みや失敗、組織を成長させるための工夫について語った。

<登壇者>

・北井 朋恵 氏 / 株式会社プレイド 執行役員 Chief People Officer

・木下 治紀 氏 / ラクスル株式会社 執行役員 VP of Marketing & Business supply

・山崎 唯 氏 / 元 株式会社LIXIL 人事総務統括部長 LIXIL Water Technology

・茂野 明彦 氏 / 株式会社ビズリーチ(当日モデレーター)

各登壇者の自己紹介

モデレーターを務めたのは、株式会社ビズリーチの茂野氏。セールスフォースやビズリーチでマーケティング・新規事業に携わり、HRMOS(タレントマネジメント事業)に関わった経験を持つ。冒頭では「企業は、採用・配置・事業戦略に伴って人が大きく動きます。だからこそ、タレントマネジメントは我々自身にとっても喫緊の課題です」と語り、各登壇者からの自己紹介に移った。

▲茂野 明彦 氏 / 株式会社ビズリーチ(当日モデレーター)

株式会社プレイドの北井氏は、リクルートやクックパッドを経て現職に至る。事業畑での経験を経て人事に転じたユニークな経歴を持ち、現在はCPO(Chief People Officer)として組織戦略を統括する。事業畑での経験を持ちながら、人事領域に転じ、組織戦略の立案・実行を統括。プレイドの「データで人の価値を最大化する」という企業ミッションを実現するため、データドリブンな人材開発を推進している。

▲北井 朋恵 氏 / 株式会社プレイド 執行役員 Chief People Officer

ラクスル株式会社の木下氏は2016年当時、社員数40名ほどの時期に入社。調達プラットフォーム事業の印刷・ソリューション領域やエンタープライズ領域の拡大をリードしてきた。複数事業の同時成長を支えるため、事業経営者の育成を中心に据えた組織戦略を実践している。

▲木下 治紀 氏 / ラクスル株式会社 執行役員 VP of Marketing & Business supply

最後に自己紹介したのは元 株式会社LIXILの山崎氏。LIXIL、フィリップモリスなど大手企業で人事・タレントマネジメントを担当した後、現在は独立してコンサルティングを行う。大企業的な成功体験をそのままベンチャーに持ち込む危険性を指摘し、規模や文化に応じた柔軟な人材戦略の重要性を説いた。

▲山崎 唯 氏 / 元 株式会社LIXIL 人事総務統括部長 LIXIL Water Technology

「そもそもタレントマネジメントとは何か」――タレントマネジメントの定義と捉え方

冒頭、茂野氏は「そもそもタレントマネジメントとは何か」という問いを投げかけた。試しにAIに聞いてみたところ、「社員や候補者の情報を管理し、採用から育成、評価、配置、定着までの人材ライフサイクルを戦略的に運用する仕組み」という回答があったと紹介。これを出発点に、各登壇者が自社におけるタレントマネジメントの捉え方を語った。

北井氏は基本的にはAIの定義と大きくは変わらないが、『人の力を最大化する』という視点を重視しているという。そのなかでプレイドにおける組織戦略を紹介。それが、「3:6:1」というフレームだ。

これはバリューを発揮できてない人を減らし、深化や探索でリーダーシップを発揮できる人を増やすことでミッションの達成を目指すもので、従来の2:6:2の法則を刷新したものである。「バリューを出し切れていない人を半分に」「事業をダイナミックにリードする人を1割増やす」という中長期目標を表しており、データ活用を前提に個人の成長ポテンシャルを最大化する仕組みだ。

さらに北井氏は「データを蓄積することで、経営と人事の距離を縮め、意思決定を先回りできる人事を目指す」と語った。具体的には、行動データやプロジェクトでの貢献度を可視化し、リーダー候補を早期に抽出・育成する取り組みを紹介した。「3:6:1」の比率を意識することで、組織の健全性と推進力を同時に高めようという発想だ。

この背景には、プレイドが掲げる「データで人の価値を最大化する」という企業ミッションがある。同社は事業面でのミッションの体現だけではなく社内においても膨大なデータを独自のシステム上に収集・分析したいと考えている。単なる人事管理ではなく、社員の様々なデータを可視化し、成長や適性をリアルタイムで把握できる仕組みを検討。ここでのポイントは、社員一人ひとりの成長ポテンシャルを主観ではなく平等に見つけ出すこと、マネージャの経験や熟練のスキルに関係なく、誰もが強い組織を作り出し、リーダーシップを発揮できる機会を創出することだ。

この点に関して、茂野氏は「タレントマネジメントのキーワードは何か?」と問いかけ、北井氏は「人の可能性を見つけ出すこと、リーダーシップを強化すること、バリューを発揮できる環境を設計すること」と回答した。

一方で、グローバル企業や大手企業でのタレントマネジメントは、より体系的かつ戦略的に運用される。山崎氏は、タレントマネジメントの主な目的を「ビジネスで勝つために、重要ポジションに適切な人材を必要なタイミングで配置できる状態を持続的に作ること」と定義する。

その実践手法として、まず事業戦略上でどの人材が必要かを定義し、社員を分類する。典型例は9ボックスのフレームワークで、縦軸にパフォーマンス、横軸にポテンシャルをとり、各ボックスごとに育成施策を決定する。さらに、中長期的にどの人材に投資すべきかを見極め、教育機会やチャレンジを与えることで、重要ポジションに適切なタイミングで人材を配置できるようにする。

このプロセスは、トップダウンの戦略とボトムアップの人材育成の両輪で成り立つもので、戦略と人材を接続することが本来の目的だ。大企業の成功体験をベンチャーにそのまま持ち込むリスクや、柔軟な設計の必要性についても言及し、「戦略と人材育成の接続が曖昧なまま人材分類をしても意味はない」とし、ビジネス戦略ドリブンの視点を強調した。

木下氏は、 「事業戦略の実行に必要な人材をどう確保・配置するか、そのための議論と仕組みがあれば十分。だからラクスルでは“タレントマネジメント”という言葉をあまり使わない」と語る。体系的な分類は行わず、各セクションのマネージャー単位で現場の情報を把握していると述べた。

しかし複数事業を展開する中で「事業経営者」の育成がやはり核となる。そのため、組織計画を立案する際は、3年後にどのレイヤーで何人必要かを明確にし、現状とのギャップをもとに採用や育成施策を検討。半期ごとに「人材育成会議」を開催している。

そこでは役員や事業責任者が集まり、将来の事業を担う人材候補を特定し、育成計画や配置の方針を徹底的に議論する。具体的なキャリアパスを描きつつ、挑戦の機会をどう提供するかまでを検討するのが特徴だ。この事業フェーズに応じた人材配置や挑戦の機会提供が組織成長に直結していることを強調した。

特にアーリーフェーズでは即戦力の採用を優先し、成熟フェーズでは既存メンバーの底上げに重点を置いている。「事業戦略と人材戦略が分断されると、組織はすぐに歪む。私たちは“人”を事業の主要リソースと捉え、戦略と直結させてマネジメントしている」と木下氏は語った。このプロセスでは、タレントマネジメントシステムよりも、個々の社員の能力や成長可能性を直接把握することが重視される。

「タレントマネジメントはスタートアップ企業に必要か」

トークテーマは次に、「タレントマネジメントはスタートアップ企業に必要か」に移った。

これまでの議論から明らかになったのは、タレントマネジメントの手法や投資の仕方は、企業の事業フェーズや時間軸に強く依存するということだ。スタートアップやアーリーフェーズの企業では、長期的な育成や中長期投資よりも、直近の事業を遂行するためのチーム編成やスキル補完が優先される。この段階では、ポテンシャル評価よりも具体的なスキルの粒度で人材を把握する方が有効といえる。

木下氏は「アーリーフェーズでは即戦力の採用が不可欠。だが事業が成熟すれば、人材の底上げと育成がカギになる」とフェーズごとの差異を提示。山崎氏も、自身のベンチャー企業での失敗経験から、「会社の状況や時間軸に応じたマネジメントが不可欠」と同意した。

一方、北井氏は「早い段階からデータを蓄積することが重要。人事が経営を先回りできる存在になれる」と述べ、むしろスタートアップこそ取り組むべきだと強調した。全体を通して、タレントマネジメントを「導入すべきか否か」という二項対立ではなく、「事業の状況に応じてどう設計するか」という視点へと議論をシフトさせた。

人材の抜擢と評価のあり方― 「失敗を許容する文化」をどうつくるか

さらに議論は、「人材の抜擢と評価のあり方」へ。企業の持続的成長を支えるためには、重要ポジションに適切な人材を配置するだけでなく、その後継者や次世代リーダーを計画的に育成する必要がある。

木下氏は、「上場前の企業では短期的な成果に注力し、サクセッションプランニングや長期育成を重視しない場合が多い」と指摘する。結果として、事業成長の持続可能性を損なうリスクが生じる。木下氏は「抜擢で重視するのは“レディー(準備ができているか)”。最大の失敗は“何も起こらないこと”だ」と語った。挑戦する姿勢があるかを見極めることが肝心だという。

山崎氏は「成果だけでなく、挑戦のプロセスや変革への取り組みを評価すべき」と指摘。単なる数字だけで評価すれば、挑戦する人がいなくなるリスクを強調した。

北井氏は「失敗を許容する文化の重要性」を語り、特にリーダー層が自ら失敗経験とそこから学んだことを共有することを奨励して取り組んでいると述べた。また、プレイドが導入する自主的な異動制度の仕組みも紹介。グループ全体で異動を通じてより活躍できる場所を見つけ、中長期的な全体最適を目指す取り組みも参加者の関心を集めた。

質疑応答では参加者から質問が寄せられ、茂野氏が読み上げた。「3:6:1をさらに拡張して4:5:1を目指せないのか?」との問いに、北井氏は「探索と深化のバランスが重要。中長期的に事業価値を上げていくには3も6も大事だからこそ、この比率を変え過ぎると、組織や目的が不安定になる」と回答。また、「チーム編成において、どのような組み合わせを重視するか?」という質問に対しては、木下氏が「立ち上げ期はオールラウンド型、成熟期は専門性重視」と整理。事業フェーズごとに最適解が異なることを示した。

最後に各登壇者から締めの言葉で締めくくられた。木下氏からは「事業フェーズと時間軸を誤らないこと。先を見越した仕組みづくりが鍵」、山崎氏は「自社の現状を正しく把握し、そこから逆算してタレントマネジメントを設計すべき」、北井氏は「経営戦略と人事戦略を一致させ、失敗を恐れず挑戦する文化を育てることが成長につながる」と登壇者それぞれが参加者に向けてメッセージを送り、セッションは終始和やかな雰囲気のなか、拍手で幕を閉じた。

取材後記

今回のセッションで浮き彫りになったのは、スタートアップにおけるタレントマネジメントは単なる制度やシステムの導入にとどまらず、事業戦略と密接に結びつけて考えるべきだということだ。データを活用した人材価値の最大化、事業責任者の育成、そして企業文化に合った仕組みづくり――、理想的な仕組みを一気に整えることは難しい。だが、フェーズごとに必要な組織状態を見極め、挑戦を許容しながら人材を育てることは可能で、不確実性の高い環境だからこそ、失敗から学び続ける文化が競争力になる。各登壇者の語りからは、スタートアップが直面する多様な人材課題に対し、実践的な知見が提示された。

次回以降も「Startup Culture Lab.」では、人材・組織開発をテーマに議論を深め、成長企業ならではの学びを共有していく。

※過去の「Startup Culture Lab.」の関連記事をシリーズとしてまとめています。こちらからご覧ください。

(編集・文・撮影:入福愛子)

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