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【第5弾】「渋沢MIX」発!埼玉県が牽引するOIプログラム『Canvas』を深掘り――「大企業テーマ提示型」に参画したホスト企業4社(ロッテ、マツダ、リンテック、丸文)が語る、実現したい未来

【第5弾】「渋沢MIX」発!埼玉県が牽引するOIプログラム『Canvas』を深掘り――「大企業テーマ提示型」に参画したホスト企業4社(ロッテ、マツダ、リンテック、丸文)が語る、実現したい未来

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明治期の資本主義勃興を支えた実業家・渋沢栄一。その出身地である埼玉県では、彼の名を冠したイノベーション創出拠点「渋沢MIX」を2025年7月、さいたま新都心駅前に開設した。

「渋沢MIX」は、「オープンイノベーションの創出・促進」「スタートアップの創出・成長支援」「イノベーションを担う人材の育成」のコンセプトを掲げ、県内外の多様な企業や人々の出会い・交流を促してイノベーションの創出を目指している。同施設による「オープンイノベーションの創出・促進」事業としてスタートしたのが、【渋沢MIXオープンイノベーションプログラム『Canvas』】だ。

本プログラムは、埼玉県内の中堅・中小企業・スタートアップ企業がホストとなる「中小企業プロジェクト提案型」(11社)と、全国区の大企業がホストとなる「大企業テーマ提示型」(4社)とに分かれ、それぞれ、各ホスト企業が設定した事業テーマに基づき、パートナー企業のエントリーを募っている。(※応募締切:2025年10月10日)

TOMORUBAでは、パートナー企業募集開始に先立ち、ホスト企業各社に取材を実施。全5回のシリーズ企画を掲載する。――最終回となる第5弾記事では、全国区の大企業がホストとなる「大企業テーマ提示型」において参画した4社(ロッテ、マツダ、リンテック、丸文)にインタビューを実施。各社が本プログラムに参画した背景、課題意識や共創テーマ、求めるパートナー像について聞いた。

【ロッテ】 カカオ豆残渣(カカオハスク)の香りと繊維を活かしたアップサイクル商品の開発

国内外で菓子・アイスクリーム事業を展開する大手メーカー、株式会社ロッテ。浦和工場(チョコレート製造)と狭山工場(ガム製造)の2工場が埼玉県内にあり、地域と共に新たな価値創造を目指している。同社は、「カカオ豆未利用残渣(カカオハスク)のアップサイクル」をテーマに掲げ、共創パートナーを求めている。

▲【左】株式会社ロッテ 経営戦略部 事業開発課 課長 久保隆史氏、【右】株式会社ロッテ 経営戦略部 事業開発課 主査 佐藤崇晴氏

――まず、事業内容と特徴について教えてください。

ロッテ・佐藤氏 : ロッテは「菓子・アイス」の製造販売を行っているメーカーで、ガム、チョコレート、キャンディ、ビスケット、アイスクリームの5品目を中心に事業を展開しています。

特にガムとアイスクリームでは国内トップシェアを維持し続け、チョコレートも国内トップクラスのシェアがあります。その背景にあるのは、ロングセラーかつカテゴリーを代表するブランドの存在です。「キシリトール」「ガーナチョコレート」「コアラのマーチ」「TOPPO」「雪見だいふく」などは多くのお客様に長く愛されており、当社のブランド力を支えています。

――お二人とも経営戦略部 事業開発課に所属されているとのことですが、部署の役割についてお聞かせください。

ロッテ・佐藤氏 : 事業開発課は2022年に発足し、現在4年目を迎えました。いわゆる「両利き経営」の考えのもと、既存事業に次ぐ収益の柱を見つけることをミッションとしており、社内外双方から新規事業を創出していきます。

社内向けには「ミライノベーションプロジェクト」というビジネスコンテストを毎年開催し、ステージゲート法で社員のアイデアを事業化へと導いてきました。一方で、社内アイデアだけではカバーできない領域も多く、外部との共創によるオープンイノベーションにも注力しています。

――今回、『Canvas』に参画を決めた背景を教えてください。

ロッテ・佐藤氏 : 当社には全国に4つの製造拠点があります。そのうち浦和工場と狭山工場の2つは、埼玉県内にあります。浦和工場は当社では国内唯一のカカオ豆加工拠点としてチョコレート原料を製造し、狭山工場ではガム製造を行っています。こうした地域との結びつきを背景に、埼玉県を舞台にした共創プログラムに参加することは大きな意義があると感じました。

また、当社はこれまで個別企業との対話型で共創を進めることが多く、本格的なアクセラレーションプログラムへの参加はほとんどありませんでした。今回の『Canvas』は、県内外の多様な企業と出会える機会であり、外部アイデアを取り入れる絶好のチャンスだと考えています。

ロッテ・久保氏 : 加えて、オープンイノベーションの経験を社内に蓄積することも重要な目的です。スタートアップや中小企業と共に新たな価値をつくり、その知見を社内に蓄積することで、既存事業にも波及させたいと思っています。

――今回の募集テーマ「カカオ豆残渣(カカオハスク)の活用」について、どのような課題感をお持ちでしょうか。

ロッテ・佐藤氏 : カカオハスクはチョコレート製造の過程で必ず発生する外皮部分で、年間数百トン単位で生じます。現在は飼料や肥料として活用しており、焼却処分は行っていませんが、その用途は限定的です。一部では染色や異業種とのコラボ素材として使う事例もありますが、本格的な高付加価値化には至っていないというのが現状です。

当社としては、単なる素材の転用ではなく、カカオポリフェノールや香りなど「カカオならでは」の特性を活かす方向性を模索しています。たとえばカカオポリフェノールはチョコレートの原料であるカカオ豆に含まれていますが、カカオハスクにも含まれています。この成分を活かすことや、チョコレートの香りを残渣から抽出して活用するなど、カカオ由来の特性を生かしたアップサイクルが望ましいと考えています。

▲カカオ豆の外皮「カカオハスク」は、チョコレート製造過程で年間数百トン発生するという。

――どのようなパートナー企業との共創を想定していますか。

ロッテ・佐藤氏 : カカオハスクは他素材でも代替可能な分野が多いため、「なぜカカオである必要があるのか」を一緒に突き詰め、新たな価値を創出できる企業とぜひ共創したいですね。

食品分野に限らず、農業資材やバイオマス素材、ライフスタイル製品など多角的な可能性を探りたいと考えています。具体的には、香気固定や放散制御技術、食物繊維を活かした食品加工、農業資材開発、バイオマス成形などの技術を持つ企業を想定しています。

▲「チョコの香りがする子ども用玩具など新活用提案」も、共創イメージのひとつとなる。

――提供できるリソースやアセットについても教えてください。

ロッテ・佐藤氏 : まず、浦和工場はカカオ豆加工の唯一の拠点であり、実証実験フィールドとして活用可能です。中央研究所やカカオビジネス開発部とも連携し、研究・分析体制を整えています。また、経営戦略部は社長室と同じフロアにあり、意思決定スピードも速いです。そしてサステナビリティ推進部と同じ役員が管掌しているため、テーマに対する社内の理解・支援も得やすい環境があります。

さらに、当社は国内の多くの卸売業、小売業との関係性を持っており、全国の卸売・小売網でテストマーケティングが可能です。高いブランド認知度を活かしたPRも強みです。

――最後に、応募を検討している企業へのメッセージをお願いします。

ロッテ・久保氏 : 私たちは、「会社」対「会社」で本気でオープンイノベーションに取り組み、互いに成長できる関係を築きたいと考えています。新しい価値を共に創造し、社会にポジティブな影響を与えるチャレンジができることを楽しみにしています。

ロッテ・佐藤氏 : 埼玉県は当社の主力事業を支える重要な拠点です。地域とともに未来を描き、カカオハスクという未利用資源から新しい価値を生み出すという挑戦を、共に進めていただけるパートナー企業との共創を期待しています。

【マツダ】 「CO2回収技術を活かし、循環社会や自然再生に向けた共創の実現」

広島県の自動車メーカーであるマツダ株式会社は、独自開発のCO2回収技術を用いた、「炭素循環エコシステム」の構築を目指している。今回は、そのビジョン実現に向けて、共に取り組むパートナーを募集する。

――まず、御社の事業概要と特徴をご紹介ください。

マツダ・佐藤氏 : 弊社は1920年に広島で創業し、自動車製造や販売を中心に発展してきました。創業者の松田重次郎が掲げた「工業で社会に貢献する」という志を受け継ぎ、広島の歴史とともに成長し、戦後の復興過程で重要な役割を果たしてきた会社です。

「飽くなき挑戦」という精神が根づいており、独自技術としてロータリーエンジンや高圧縮比エンジンを開発し、コアなファンに支持されています。パーパスには「前向きに今日を生きる人の輪を広げる」ことを掲げ、「走る歓び」や「生きる歓び」を価値として提供することを目指しています。

――『Canvas』に参加しようと考えた理由もお聞かせください。

マツダ・佐藤氏 : 私たちは、CO2回収技術の開発に取り組んでおり、その方法を模索する中で、埼玉県にCO2を多く吸収し,成長が早い木を栽培する企業があることを知りました。調査を進めると、その企業がさいたま市や埼玉大学と協定を結び、『見沼たんぼ』におけるグリーンカーボン推進事業に取り組んでいることが分かりました。興味を持って関係を深める中で、その関係者から『Canvas』を紹介していただきました。そこで、応募をすることにしました。

――『Canvas』では、どのような共創を実現したいとお考えですか。

マツダ・佐藤氏 : 大きなテーマとして、「弊社が保有しているCO2回収技術を活かし、循環社会や自然再生に向けた共創の実現」を掲げています。その中で、取り組みたいことは3つあり、CO2の“削減促進”と“カーボンリサイクル商品”“自然再興”です。

世の中には大型装置による回収方法DAC(Direct Air Capture)もありますが、私たちが行いたいのは小型で可搬式装置での回収です。私たちが開発しているこの小型の装置を、埼玉県内のCO2を多く排出する場所に導入・回収し、回収したCO2を活用することでカーボンリサイクルな商品の開発や自然再興に繋げることを目指しています。

――御社のCO2回収技術の特徴について、詳しくお伺いしたいです。

マツダ・佐藤氏 : 将来的には車両にCO2回収装置を搭載し、CO2濃度の高い排出ガスからCO2を回収することを目指しています。この自動車搭載レベルの小型可搬式のCO2回収装置をクルマ以外のCO₂排出源(発電所、工場、醸造所、畜産施設など)に適用し,低炭素社会の実現に向けて取り組みを行っていきます。さらに排出源や排出削減希望量に応じて、CO2回収装置を最適な仕様にカスタマイズできます。装置の内部に関しては、CO2の吸着と脱離を繰り返し、脱離後のCO2をタンクに貯める構成を取っているため、CO2濃縮が可能です。

――今回のプログラムでは、御社の小型・可搬式のCO2回収装置を、どんな場所へと導入していきたいとお考えですか。

マツダ・佐藤氏 : 例えば、埼玉県内にある商業施設や醸造所、小規模発電所、それに農場などです。特に埼玉県では清酒や醤油が有名であり、こうした発酵食品の醸造過程で、CO2が多く発生していると考えています。また農業も盛んな地域であるため、農業機械等から排出されるCO2も多くあると考えており、私たちの装置でそれらのCO2を回収できればと思っています。

――回収したCO2の再利用についてはいかがですか。どのようにCO2を活用するイメージでしょうか。

マツダ・佐藤氏 : 回収したCO2でつくるカーボンリサイクル商品の開発やCO2を活用した自然再興の促進を想定しています。まずカーボンリサイクル商品では、炭酸飲料などの飲食物や資源として農業用肥料などに活用できると考えています。

また、炭化水素系の工業製品や例えば、CO2を再生可能電力で分解し,カーボンナノチューブなどの炭素素材として析出させ、電池の電極などに利用する。CO2を吸収した植物からセルロース繊維を取り出し、樹脂化すれば車のボディ、内装などにも使用することができると考えます。こうした形で車に戻し、車づくりに役立てたいと思っています。

続いて自然再興の促進では、例えば、ビニールハウス栽培において、光合成によって低下したハウス内のCO2濃度を補給するため、化石燃料やガスを燃やしてCO2を施用しているところもあり、こうした場所に回収したCO2を活用することで、燃料コストの削減や収量増加,作物の品質向上に貢献できたらと考えています。

またバイオマス(作物残渣など)を炭化させ,バイオ炭を生成することで、農林業等の土壌改善に役立て、将来的には、カーボンクレジット化により、さらに価値を高めることも考えています。

――清宮さんは、どんな共創を実現したいですか。

マツダ・清宮氏 : 私たち自動車業界として、将来を見据えた事業展開が必要だと考えています。CO2の再利用先は今後さらに広がっていくと考えられるので、活用先が生まれた際に柔軟に転用できるよう、今回のプログラムでは活用の第一歩となる成功事例を築きたいですね。

――御社と協業するメリットについてもお伺いしたいです。

マツダ・佐藤氏 : 技術の強みは先ほど申し上げた通りですが、加えて、モデルベース開発(Model-Based Development)を行っており、実証検証の前に机上計算で本エコシステムの最適化を行うことができます。CO2分離回収,削減,カーボンリサイクル商品化,自然再興についても、まず机上で議論してから、実証を進めるというアプローチが可能です。また、横浜にテスト走行などができる実証試験場があり、この施設を共創に活用することもできます。

▲実証試験場(マツダR&Dセンター横浜)

――最後に、応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。

マツダ・佐藤氏 : 私たちは、カーボンニュートラルの実現に向けて、CO2の排出源から回収・再利用・製品化・販売までをつなぐ、炭素循環のエコシステム構築を目指しています。そのためには、新技術・サービス・ビジネスモデルの掛け合わせが不可欠です。パートナー企業様とともに、環境保全と社会価値の共創に向けて一緒に取り組んでいければと思います。

【リンテック】 「ウェルビーイング社会の実現に向けた、粘着技術を用いたカラダに優しいヘルスケアデバイス・グッズの開発」

“あらゆるものをくっつけて、無限の可能性を生み出す”粘着素材のリーディングカンパニー、リンテック株式会社。1934年に創業し、海外売上高比率が6割を超える同社は、スーパーで見かける食品用ラベルから、半導体製造に欠かせない特殊粘着テープまでを手掛けている。今回は、超高齢化社会を見据え、パートナー企業と共に粘着型のヘルスケアデバイス、ウェアラブルデバイスの開発を目指す。

▲リンテック株式会社 次世代技術革新室 田村謙介氏

――最初に、御社の事業内容や特徴を教えてください。

リンテック・田村氏 : 主にシールやラベルなどの粘着材料を製造している企業です。特徴としては、粘着材そのものだけではなく、粘着製品を貼り付けるための専用装置なども製造しており、剥離やコーティングの技術も持つ、粘着材のトータルソリューション企業だという点です。

売上としてはラベル製品が大きいですが、最近では半導体製造工程用のテープや装置などが伸びています。連結売上高は3,160億円、海外売上高比率は約64%です。東証プライムに上場もしています。

▲日常から最先端まで、人々が「気づかないけどなくてはならない」を支えているリンテック。

――今回、『Canvas』に参加された狙いをお聞かせください。

リンテック・田村氏 : 私たちが所属している次世代技術革新室のミッションは、5年から10年先を見据えた新規ビジネスを立ち上げることです。そのため、いくつかの大学との共同研究、共同事業を進めてきました。しかし、他社とのオープンイノベーションは、極めて少なかったのです。

たまたま、あるイベントで埼玉県庁の方と名刺交換をさせていただく機会があり、その時に渋沢MIXや本プログラムのことを教えていただき、オープンイノベーションに取り組むきっかけとして応募させてもらいました。

――御社は東京が本社所在地ですが、埼玉県のプログラムに参加したことに何か狙いはあったのでしょうか。

リンテック・田村氏 : 本社は東京ですが、埼玉県内にも研究所や工場があり、県内に住む社員も多くいます。埼玉県に親和性を感じ、参加を決めました。

――今回、「粘着技術を用いたカラダに優しいヘルスケアデバイス・グッズの開発」を募集テーマに掲げています。ヘルスケア領域は、御社の事業からすると少し離れているようにも感じます。

リンテック・田村氏 : 実は十数年前、当社にはヘルスケア事業部門があったのです。部門は廃止されてしまったのですが、ヘルスケア用の粘着剤の知見を持っている社員はまだ在籍しています。また、私たちがいま開発しているマイクロニードルという極細の針があります。体の間質液を吸引するための針なのですが、こういったものはヘルスケアやライフサイエンスの領域なので、関連が無いというわけではないのです。

共創イメージの一例として挙げている「転倒時のふらつき、角度検知デバイス開発」に関しては、個人的な体験も関連しておりまして。というのも、私の父が80歳なのですが、最近、よく転んで怪我をしているのです。

そんな話を社内でしていたら、別の社員からも、高齢の家族が転んで大怪我をしたといった話がいくつか出てきて、「これは困っている人が多い課題ではないか」と感じました。先ほどお話ししたように、過去にはヘルスケア部門があり、人体用の粘着材などの技術はありますので、そういった技術を応用して何かできないかと思ったのです。

――「こんなプロダクトやサービス、技術を持つ企業に応募してもらいたい」といった具体的なイメージはありますか。

リンテック・阿部氏 : まず、フレキシブルエレクトロニクスですね。体に貼れるような、柔軟性のあるプリント基板や電子部品の技術を持つ会社さんです。センサーやジャイロデバイス、センシング技術を持つ会社さんも非常に助かります。また、身体状態や体組成などのヘルスケアデータの測定や分析の技術を持つ会社さんも親和性が高いと思います。

▲リンテック株式会社 次世代技術革新室 阿部智也氏

――応募企業に対して、御社から提供できるアセットや技術には、どんなものがあるでしょうか。

リンテック・田村氏 : 粘着材については、人体に貼れるものもありますし、半導体装置プロセスに使うものでは紫外線をあてることで硬化する粘着材テープなど、様々な技術、知見があります。また、粘着だけではなく剥離技術もあります。剥離紙に剥離剤を塗る技術などはかなり高度なものがあります。さらには、紙の表面のコーティング技術や、紙製品そのものを作る技術もあります。

アセットということでいえば、全国にある工場の協力を得て実証実験も可能です。海外売上比率が高く海外拠点も多いため、事業化後はグローバル展開の可能性もあります。

リンテック・阿部氏 : パートナー企業の方からすると、大企業と組むと意思決定などに時間がかかるのではないかという危惧があるかもしれません。しかし、私たちの次世代技術革新室は社内の様々な部門から集まったメンバーで構成されており、開発から事業立ち上げまでチーム内で一貫して取り組むことができます。

15名ほどの小さなチームで、それこそスタートアップのような機動力がありますので、その点は応募企業の方にとってもメリットに感じられるのではないかと思います。

――最後に、応募企業へのメッセージをお願いします。

リンテック・田村氏 : 私たちはもうすぐ創業100年で、いろいろな分野での技術的な蓄積があります。ぜひそれを使っていただいて、高齢化社会の課題を一緒に解決していきましょう。

リンテック・阿部氏 : 目先のことだけではなく、長い目で見て良い関係を作っていけるパートナーと出会えることを楽しみにしています。

【丸文】 「AIコミュニケーションロボ/空間電力伝送技術を活用した、高齢化・人手不足に対応するソリューションの開発」

江戸時代に日本橋で創業した歴史ある企業で、時代とともに変化を遂げてきた丸文株式会社。現在は最先端のエレクトロニクス製品を扱う商社としてグローバルに活動している。今回は、同社の取り扱う2つの製品・技術に絞り、社会実装に向けたパートナーを募集する。

▲【左】丸文株式会社 ディオネカンパニー カンパニー長 樋口智昭氏、【中】丸文株式会社 ディオネカンパニー 越智創氏、【右】丸文株式会社 ディオネカンパニー 担当部長 篠尚樹氏

――まず、御社の事業概要からお伺いしたいです。

丸文・樋口氏 : 弊社は1844年、東京・日本橋の呉服問屋として創業し、現在は半導体や官公庁向けシステム機器などを国内外で販売しています。「デバイス」「システム」「アントレプレナ」の3事業を柱とし、私たちはその中のアントレプレナ事業のディオネカンパニーを運営しています。

――『Canvas』に参加しようと考えた理由もお聞かせください。

丸文・樋口氏 : 当カンパニーでは、半導体や機器の販売にとどまらず、社会課題の解決につながるソリューションを提供する活動にも取り組んでいます。その手段として、海外スタートアップの技術を日本に持ち込むことも行ってきました。このプログラムの説明を聞き、私たちの取り組みと目指す方向性が近いと感じて応募しました。

――次に、このプログラムを通じて実現したい内容について伺います。今回は、御社で取り扱う2つの製品・技術を軸に募集テーマを設定されました。それぞれご紹介いただけますか。

丸文・樋口氏 : 1つ目は、AIコミュニケーションロボット『Kebbi Air』を活用した共創です。AIが搭載されたこのロボットは、私たちが取り扱う他のコミュニケーションロボットの中でも、性能と拡張性の高さにおいて群を抜いています。ノーコード開発にも対応しており、さまざまな機能やサービスを柔軟に追加できる点も特徴です。

これを介護分野に展開していきたいと考えています。なぜかというと、この分野は人材不足が非常に顕著だからです。有効求人倍率も高く、深刻な状況が続いているにもかかわらず、ITやAIといった先端技術の活用はまだ十分とは言えません。そこで『Kebbi Air』を導入することで、介護スタッフの業務をより生産的かつ質の高いものにし、利用者のQOL向上にもつなげたいと考えています。

――介護のどのような場面で役立ちそうですか。

丸文・樋口氏 : 例えば、ご高齢者の話し相手としての活用です。私たちが実施したある実証実験では、高齢者施設の1人部屋で暮らす入居者さんの部屋にこのロボットを設置したところ、1日に長い日では2〜3時間も会話されているというデータが得られました。会話の中で「ありがとう」が多く使われており、入居者さんの生活に寄り添えていると感じています。

また、介護施設の受付対応にも活用が期待できます。現在は手書きで対応する施設が多いですが、このロボットを導入することで来訪者の情報をデータとして記録できるようになります。どのご家族が頻繁に訪れているかといった傾向分析も可能になるでしょう。

――どのようなパートナー企業との共創を想定していますか。

丸文・樋口氏 : Kebbiのプラットフォームでは、新しいソフトウェアを次々と開発できます。そのため、ソフトウェアの共同開発が可能な企業を想定しています。あるいは、このロボットと連携できるハードウェアを製造する企業との協業も可能性があると思っており、例えば心拍や血圧を測るセンサー機器と連携することで、新たなサービスが作れるのではと考えています。

丸文・篠氏 : 『Kebbi Air』は、タブレットのような無機質な対応ではなく、ロボットならでの愛嬌やかわいらしさを活かした温かみのある対応ができます。そのキャラクター性を前面に出しつつ、バックヤードではさまざまな技術やサービスと組み合わせ、新たなユースケースを生み出していきたいです。

――2つ目の空間電力伝送技術についてはいかがですか。

丸文・樋口氏 : パソコンを使う際、今では当たり前のようにWi-Fiの無線通信が使われていますが、以前は有線のLANケーブルを挿して通信していました。私たちが取り扱う『Wi-Charge』は、その“電源版”とも言える技術です。

まだ供給できる電力自体は、5mの距離で300mW、10mの距離で100mWと大きくないものの、無線で電力を供給できるという利便性に大きな可能性を感じています。パソコンやスマホの充電は難しいですが、センサー類に対しては十分給電できるでしょう。

丸文・越智氏 : ユースケースの一例としてスマートロックがあります。近年、ホテルのドアや公衆トイレ、ロッカーなど屋内外でスマートロックの設置が進んでいますが、これらには通常、後付けの配線や電池交換が必要で手間がかかります。しかし、この技術を使えば、そうした手間を省くことができますし、コードレスによってレイアウトの自由度も高まります。

想定している共創パートナーは、この技術を実際に活用できる現場を持つ企業や、無線化によるレイアウト改善など新たな価値をともに提供できる施工業者などです。

――御社が提供できるリソースや強みについても教えてください。

丸文・樋口氏 : 先ほど挙げた2つの製品・技術を提供できるほか、弊社はエレクトロニクスを中心に扱う商社ですから技術力を持っており、技術提案ができます。また、国内で幅広く事業展開しているため、営業面でのネットワークも提供可能です。特に当カンパニーは海外のスタートアップとのお付き合いが多く、スタートアップと同じマインドセットを持つメンバーばかりなので、波長よくスピード感を持って協業できるでしょう。

――最後に、応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。

丸文・越智氏 : 私の担当する『Wi-Charge』の技術は他に類を見ません。将来、空間からの電力供給が当たり前になることを見据え、今回はその第一歩を共に踏み出せるパートナーと出会えればと思っています。

丸文・篠氏 : 今回のプログラムでは、社会課題が解決されるような魅力的なユースケースを一緒に作っていければと思います。

丸文・樋口氏 : チャレンジ精神が旺盛で、失敗を恐れず、前向きに共創してくださる方と、新しいものをゼロから一緒に作っていきたいです。ご応募をお待ちしています。

取材後記

シリーズ最後となる本記事では、全国区の大企業がホストとなる「大企業テーマ提示型」において参画したロッテ、マツダ、リンテック、丸文の4社を取り上げた。分野もアプローチも異なる4社だが、いずれも既存の枠を超えた挑戦に踏み出している姿が印象的だ。埼玉県を舞台に、どのようなイノベーションが生まれるのか注目したい。パートナー企業のエントリー締切は10月10日を予定している。

(編集:眞田幸剛、文:佐藤瑞恵・椎原よしき・中谷藤士・林和歌子、撮影:齊木恵太)

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シリーズ

渋沢MIXオープンイノベーションプログラム「Canvas」

渋沢MIXオープンイノベーションプログラム「Canvas」は、埼玉県内企業の成長を支援するため、 県内企業と全国の企業をマッチングし、新規事業創出や企業の課題解決に向けた伴走支援を行うプログラムです。 プログラムを通じて、持続的にイノベーションが創出される共創のエコシステム構築を目指します。