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静岡からグローバルへ――2025年3月にIPOを果たしたトヨコーが、独自レーザー技術「CoolLaser」で切り拓くインフラメンテナンスの未来

静岡からグローバルへ――2025年3月にIPOを果たしたトヨコーが、独自レーザー技術「CoolLaser」で切り拓くインフラメンテナンスの未来

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静岡県富士市に本社を構える株式会社トヨコーは、もともと職人の手仕事で社会インフラを支えてきた中小企業だ。そのトヨコーが今、スタートアップ型の経営体制へと転換し、老朽化が進むインフラの現場に革新をもたらすレーザー技術「CoolLaser(R)」を武器に、新たなステージに踏み出した。

橋梁や鉄塔に発生するサビを、粉塵を出さずに除去する独自のレーザー施工技術は、環境負荷を抑えつつ現場の3K(きつい・汚い・危険)を3C(クール・クリーン・クリエイティブ)に変える可能性を秘めている。

2024年3月に開催された静岡県主催のビジネスプランコンテスト『WAVES』の最終審査会では、2ndグランプリを受賞(※)。その後の実証や行政連携の拡大、そして2025年3月のIPOと、着実に同社の技術は社会実装へと歩みを進めている。

そこで今回TOMORUBAでは、同社のCFOであり経営戦略の要を担う白井元氏に、CoolLaser開発拠点である浜松研究所で取材を実施。『WAVES』参加の意義、技術の強み、地方発の挑戦が社会をどう変えていくのかについて話を聞いた。

※レポート記事:「静岡時代」の到来を予感させるビジコン『WAVES』でリッパーが1stグランプリを獲得!――新たな波を起こすファイナリスト10社のビジネスプランに迫る

▲株式会社トヨコー 取締役CFO 白井元 氏

PwC、フロンティア・マネジメント、デロイトトーマツを経て、2020年よりトヨコーに取締役CFOとして参画。金融機関向けアドバイザリーや企業再生、IPOアドバイザリー業務の提供経験をもつ公認会計士。

「3K現場を、3Cに」──トヨコーが挑む“現場発イノベーション”

――まずは、御社の事業内容や技術的な強みについて教えてください。

白井氏 : 当社は「キレイに、未来へ」というミッションを掲げる技術系企業で、近年はスタートアップ型の経営体制へとシフトしています。1996年に静岡県富士市で創業し、現在は主に2つの事業を展開しています。

1つは、劣化したスレート屋根を特殊なコーティングで補強する「SOSEI(ソセイ)事業」。もう1つは、橋梁や鉄塔などのインフラに発生したサビをレーザーで除去する「CoolLaser(クーレーザー)事業」です。特にCoolLaserは、従来のサビ除去手法であるブラストに代わる革新的な技術です。粉塵を出さず、作業者への身体的負担も軽減されるため、環境面や人材不足といった社会課題の解決にもつながります。

私たちはこうした現場の革新性を「3K(きつい・汚い・危険)から、3C(クール・クリーン・クリエイティブ)へ」と表現しており、新しいスタンダードをつくる技術として期待しています。

――白井さんは、どのような経緯でトヨコーにジョインしたのでしょうか。

白井氏 : 私は もともとは会計士としてキャリアをスタートし、PwCやフロンティア・マネジメント、デロイトトーマツなどで企業再生やIPO支援といった業務に携わってきました。その後、独立して複数の企業に関わっていたなかで、あるとき前職の上司から「面白い技術を持つ会社がある」と紹介されたのが、トヨコーでした。ちょうど2020年頃のことです。

お話を聞いてすぐに感じたのは「本質的に社会課題を解決するポテンシャル」です。日本が抱えるインフラの老朽化という構造的な問題に対し、CoolLaserという独自技術で解決策を提示できる。そしてそれが“現場”から生まれている事実に非常に惹かれた私は、単なる支援ではなく、経営の中核に関わることを決意しました。

▲インフラ構造物の老朽化の社会課題に対し、世界最高峰5.4kWの高出力レーザーを用いたサビ・塗膜除去装置「CoolLaser」。(画像出典:プレスリリース

――CFOとして、どのようなビジョンをもって事業を進めてこられたのか聞かせてください。

白井氏 : 目指してきたのは「現場の技術を、社会に通用する事業に昇華させること」です。技術者の方々が地道に積み重ねてきたノウハウや発想には、社会を変えるだけの力があります。しかし、それを広く届けるには、資金調達や制度対応、チームビルディングといった“経営の仕組み”が不可欠です。私はその橋渡し役として、経営基盤の整備から上場準備までを担ってきました。

また、CoolLaserのような技術が本当に普及するには、「安全性」「信頼性」「行政や大手企業からの評価」といった多方面での信頼が必要です。そうした意味で、上場(IPO)は技術を社会実装するための“通過点”として必要だと捉えています。今後も現場の思いを、社会の言葉で翻訳しながら、事業としてしっかり伸ばしていきたいと考えています。

技術の社会実装が一気に加速──『WAVES』入賞で広がった“信頼”と“共創”の輪

――2023年度に入賞された静岡県主催スタートアップビジネスプランコンテスト『WAVES』について、応募の背景や入賞後の変化について教えてください。

白井氏 : 応募のきっかけは、浜松市の職員の方から「ぜひ出てみては」と提案があったからです。当初は正直、そこまで大きな期待はしていなかったのですが、実際に参加してみると、非常に意義のある機会になりました。CoolLaserという技術を対外的にしっかりとプレゼンすることで、社内にとっても自分たちの強みを再確認する機会になったのです。2ndグランプリという評価をいただけたことも自信につながりました。

入賞後は、静岡県主導でドイツやベルギーの企業と並ぶ技術比較の実証実験にも参加させていただきました。そのなかで、他社を上回る成果を残せたのは、社外への説得力につながっています。そのおかげで自治体との連携や、国土交通省をはじめとした官公庁案件にも広がりが生まれました。

▲『WAVES』の最終審査会ではファイナリスト10社がプレゼン。見事、トヨコーは2ndグランプリを獲得した。

――静岡県のスタートアップ支援については、どのような印象をお持ちですか?

白井氏 : 非常に熱量があり、かつ実効性の高い支援が多いと感じています。特に『WAVES』のようなビジネスコンテストは、単なる表彰で終わらず、県や市がその後の事業成長にしっかり関与してくれる点が印象的でした。入賞後には県主導の実証実験や、技術比較の機会をいただき、行政と実際の橋梁での検証を行っています。こうした取り組みが信頼獲得や社会実装への大きな一歩につながりました。

また、県内のスタートアップ同士をつなぐ機会も多く、私たち自身も他のファイナリスト企業と情報交換をしたり、コラボレーションの可能性を模索したりしています。静岡県は製造業の集積地であり、光学・機械系の優れた中小企業が多い。だからこそ、ディープテック領域のスタートアップにとっては非常に良い土壌だと思います。今後、支援策と企業側の挑戦がさらに噛み合えば、地域発のユニコーン企業も十分に生まれる可能性があると感じています。

「IPOは目的ではなく、通過点」。CoolLaserが目指す“社会実装の形”

――1996年の創業から約30年にわたる成長の過程で、御社がどのようにスタートアップ型の組織へと変革してきたのかお聞かせください。

白井氏 : 大きな転換点は、現場の技術力を「社会に届ける体制」へと再構築したことです。当社はもともと職人の集団として、1件1件の現場に対して丁寧に向き合ってきました。その姿勢は大切にしつつ、事業をスケールさせるためには、技術を“仕組み化”する必要がありました。

2018年に初のエクイティ調達を行って以降、開発投資と組織体制の強化を加速し、スピード感をもって動ける土台が整ってきたと感じています。今では、金融・製造・施工など多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まり、現場とビジネスの橋渡しを担ってきました。いわば「技術ドリブン」から「ソリューションドリブン」へと進化してきたのだと捉えています。

――2025年3月28日に、東証グロース市場に上場を果たしました。IPOを目指した背景や、その狙いについても教えてください。

白井氏 : IPOは、私たちにとって“ゴール”ではなく、“スタートラインを引き直すこと”だと考えています。CoolLaserを世の中に広く普及させていくためには、技術としての「信頼性」と「認知度」を確立していかなければなりません。特に私たちのようなBtoG・BtoB領域では、技術力と同じくらい“会社としての信用”が問われるからです。

上場によって社外からの信頼が増すことは、採用やパートナーシップにも良い影響を与えます。実際に、IPO承認後から企業説明会や応募の数が明らかに増え、「地方の技術系スタートアップでも、ここまでできる」という発信にもつながりました。IPOは“経営の覚悟”を社会に示す行為でもあり、それがあって初めて、技術を本当に社会実装するステージに立てると思っています。

▲静岡県浜松市に構えるトヨコーの「浜松研究所」。ここでは、CoolLaserの研究・開発が行われている。

静岡の技術を、世界のインフラへ──共創で描く新たな常識

――CoolLaser事業が本格的に立ち上がるなかで、今後どのような展望を描いていらっしゃいますか?

白井氏 : 私たちは「レーザー技術を核に、インフラメンテナンスの常識そのものを変えていく」ことを目指しています。CoolLaserは単なる装置ではなく、社会インフラにおける“維持管理の仕組み”を変革する可能性を持っています。今後はレーザーにロボットやドローンなどのテクノロジーを組み合わせることで、より効率的なインフラメンテナンスの手法を確立していきたいと考えています。

中長期的には、国内市場での導入拡大を進めつつ、腐食環境が厳しいアメリカや鉄道インフラが伸びている東南アジアなど、海外市場への展開も視野に入れています。日本の光学技術や加工技術の強みを生かしながら、世界で戦える社会インフラメンテナンスのブランドをつくっていくのが私たちの展望です。

――そうした技術の発信において、御社が本社を構える静岡県という土地の強みはどのようなところにあると感じていますか?

白井氏 : 静岡県は、実は全国的にも光学やレーザー分野に強みを持つ企業が数多く集積している地域です。たとえば浜松市周辺には、世界に誇る精密加工や光学部品のメーカーが存在しており、その基盤技術の上に私たちのCoolLaserも成り立っています。

また、製造業が盛んな土地柄ゆえに、加工技術や部品調達においても非常にスムーズです。ものづくりを実現するためのインフラが整っていることは、地方発スタートアップとして大きな追い風になっています。

――それでは最後に、今後はどのような企業や組織と連携していきたいと考えているのかお聞かせください。

白井氏 : 3つのタイプのパートナーとの共創を考えています。まず1つ目は、インフラを保有・運営している企業です。電力・通信・鉄道・プラントなど、腐食対策が欠かせない現場にCoolLaserが活用できる可能性は非常に高いです。

2つ目は、ロボット・ドローン・AIといった分野で独自技術をお持ちの企業です。CoolLaserと組み合わせることで、遠隔操作や自動化、サビの検知といった新しいソリューションを共創できると考えています。

そして3つ目は、実際にインフラの施工・点検を担う建設会社・ゼネコンの皆さまです。現場に最も近い皆さんの視点があることで、より実用性の高い新たな施工方法の確立などが期待できます。CoolLaserはまだ完成形ではありません。これから、パートナー企業とともに進化させていきたいと考えています。

▲白井氏の左横に立つのが、トヨコーの代表取締役CEO 豊澤一晃氏。東京でデザイナーとして感性を磨き、2003年に家業であるトヨコーへ。SOSEIやCoolLaserなどをデザイナーの感性を活かし発案、事業化してきた。

取材後記

インフラの維持管理は、日本国内においても、さらにグローバルでも大きな社会課題となっている。そうした問題に対しCoolLaserというプロダクトで、まさに“クール”な革新をもたらそうとしているのがトヨコーだ。そして、それを実現しているのが、現場の技術を社会に届ける仕組みを整えている白井氏だと実感したインタビューとなった。静岡の地で培われたものづくりの力が、世界のインフラを支える日も、そう遠くはないだろう。これからトヨコーが世界を舞台にどんなイノベーションを起こすのか楽しみだ。

(編集:眞田幸剛、文:鈴木光平、撮影:齊木恵太)

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