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「静岡時代」の到来を予感させるビジコン『WAVES』でリッパーが1stグランプリを獲得!――新たな波を起こすファイナリスト10社のビジネスプランに迫る

「静岡時代」の到来を予感させるビジコン『WAVES』でリッパーが1stグランプリを獲得!――新たな波を起こすファイナリスト10社のビジネスプランに迫る

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静岡県は、新産業創出によるさらなる発展を目指すため、県を挙げてのスタートアップ・エコシステム形成を推進している。それが、2023年9月に発表された「静岡県スタートアップ支援戦略」だ。同戦略の一環として、スタートアップのビジネスプランを募集し、事業化・成長を支援することで成功事例の創出を目指す『静岡県主催スタートアップビジネスプランコンテスト WAVES(ウェイブズ)』を実施した。

『WAVES』の賞金は1位1,000万円、2位500万円、3位300万円と、国内でもトップクラスのスケール感を誇る。2023年12月14日から2024年1月29日まで、全国からビジネスアイデアを募ったところ、250件を超えるプランが集まった。その後、書類審査を経て、ファイナリストに10社を選出。

3月26日には、グランシップ(静岡市駿河区)にて『WAVES』の最終審査会が実施され、ファイナリスト10社がピッチに挑んだ。本記事では、熱いピッチが繰り広げられた最終審査会の模様を紹介する。

「静岡から新たな『波』を起こしていく」――静岡県 副知事・森氏

冒頭、静岡県副知事の森貴志氏が挨拶。「ファイナリストたちは、いずれも日本に限らず世界的な課題と向き合い、解決策を提案している。非常に壮大なスケールで、静岡から新たな『波』が起こることが期待される。ぜひ共に『静岡時代』を作っていこう」と力強く呼びかけた。

ファイナリストとして登壇した10社は以下の通りだ。

<ファイナリスト(発表順)>

・株式会社CULTA 代表取締役 野秋 収平氏

・株式会社Magic Shields 代表取締役 下村 明司氏

・株式会社トヨコー 取締役CFO 白井 元氏

・株式会社ストラウト 代表取締役社長 平林 馨氏

・リッパー株式会社 代表取締役 鈴木 幹久氏

・株式会社TOWING 取締役COO 木村 俊介氏

・株式会社さかなドリーム 代表取締役CEO 細谷 俊一郎氏

・株式会社NearMe 代表取締役社長 髙原 幸一郎氏

・株式会社スペース 代表取締役 村井 美映氏

・Yellow Duck株式会社 代表取締役CEO 中山 繁生氏

なお、審査員を務めたのは、森貴志氏(静岡県 副知事)、池野文昭氏(MedVenture Partners株式会社 Chief medical Officer、スタンフォード大学主任研究員)、加藤史子氏(WAmazing株式会社 代表取締役CEO)、篠原豊氏(エバーコネクト株式会社 代表取締役)、田所雅之氏(株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO)の5名。厳正な審査の上、スタートアップ10社の中から、1st、2nd、3rdの各グランプリが決定した。

賞金総額1,800万円。1st~3rdグランプリを獲得したスタートアップとは?

1stグランプリに輝いたのは、ナノセルロースタイヤ素材事業を手がけるリッパー株式会社となった。同社には、賞金1,000万円が贈られた。続く、2ndグランプリ(賞金500万円)はレーザー技術に強みを持つ株式会社トヨコーが獲得、3rdグランプリ(賞金300万円)は、魚の養殖スタートアップ・株式会社ストラウトが獲得した。――ここからは、3社が行ったピッチの内容を紹介する。

【1stグランプリ受賞】 リッパー株式会社『タイヤを黒から白へ』

▲リッパー株式会社 代表取締役 鈴木幹久 氏(写真左)

リッパーは「石油系黒色タイヤに革新をもたらすこと」をミッションに掲げ、事業を展開している。同社によるとタイヤが黒いのはタイヤを強化するカーボンブラックを使用するためだという。カーボンブラックは石油を燃焼して製造されるため、年間3,800万トンものCO2を排出するとのことだ。さらに海洋マイクロプラスチックの原因の7割がタイヤの粉塵に由来すると説明された。このため、EUでは2025年からタイヤ粉塵規制が開始。これに加え、タイヤは処分が難しく、現状では埋め立てるか燃やすしかないという問題もある。

鈴木氏は「100年以上技術革新のないタイヤ強化剤市場にイノベーションを起こす」と熱を込める。同氏は東京で勤務の後、富士市で起業。紆余曲折もあったが、2021年に「タイヤプロジェクト」を始動させた。プロジェクトを支えているのは、「静岡県のナノセルロースのエコシステム」と話す。ナノセルロースのファイバー構造をタイヤの強化剤に用いており、CO2とマイクロプラスチックの排出を80%減らすと試算される。鈴木氏は「エコシステムのおかげで競合よりかなり先行して開発を進めている。いくつも世界最先端の研究開発を手がけており、国家プロジェクトにも採択されている」と伝えた。

2023年にはタイヤの試作・検証を実施した。600キロメートルの走行検証を行い、タイヤの基本性能の確認を終えているとのことだ。2024年はいよいよ事業化のフェーズに入る。公道を実験的に走ることが決まっており、プレセールも開始している。コンタクトしたタイヤメーカーはすべてサンプル検証のステージに進んでいるという。

同社が目指すのはクリーンなタイヤ強化剤4.1兆円の市場。気になる価格についても、従来品を下回るタイヤ末端価格を5年で実現する見通しだ。国内での販売を行いながら、2026年にはヨーロッパへの進出を目指す。鈴木氏は「タイヤに国境はない。私たちの目の前にはブルーオーシャンが広がっている」と未来に向けて思いを馳せた。

【2ndグランプリ受賞】 株式会社トヨコー『レーザー技術で社会インフラメンテナンスの3Kを3Cに』

▲株式会社トヨコー 取締役CFO 白井元 氏(写真左)

同社は静岡県富士市に本社を構え事業を展開する。「レーザー技術で社会インフラメンテナンスの3Kを3Cに」をテーマにピッチを行った。3Cとはクール、クリーン、クリエイティブを指し、橋梁などインフラ構造物のサビの除去について変革を起こそうとしている。

通常、サビの除去には研削材を吹き付けるブラストの手法が用いられる。一方、ブラストは大量の粉塵が排出される、作業者の肉体的負荷が大きい、サビの再発原因となる塩分を除去しきれないなどの課題がある。こうした課題を解決するのが、「CoolLaser」と銘打った同社の独自技術だ。光は研削材等の二次産廃物が出ないため環境に優しく、体力に自信がなくてもボタン一つで簡単に操作できる。さらにレーザーは塩の沸点である1400度より高い温度で作用するため、従来の手法よりも高い塩分除去性能を発揮し、次にメンテナンスが必要となるまでのインターバルを延ばすことができる。また、レーザー光を円形照射する特許技術を日米欧で取得しているため、照射範囲が広く、ボルト周りなどブラストでは作業が難しかった部分でも、綺麗にサビを取り除くことができる。

同社が見据えるマーケットは広大だ。国内では、道路、鉄道などの橋梁や鉄塔などが対象となる。加えて、港湾設備、造船所、プラント、発電所などでも活用が見込まれ、4兆円規模と試算する。CoolLaserを応用した製品(市販モデル)は昨年に完成し、現在は装置の販売・レンタル、保守、消耗品販売などが進められている。

同社によれば、製品完成後の第一期は受注ベースで887%の成長を見込んでいるとのことだ。同社はスタートアップを対象にした賞を複数、受賞しており、今後の成長も期待されている。このほか、米カリフォルニア州を始め海外からも多くの引き合いがあると伝えられた。

同社では今後、国内の自治体などに提案を行っていく考えだ。一般的に橋梁は全面塗り替えが基本だが、同社の技術を用いれば足場をかけずにサビの生じている一部分だけの塗り替えで済ますことも可能となる。この結果、地方自治体所有の橋梁だけでも2100年までの間に約15兆円のライフサイクルコスト削減が可能と説明。白井氏は「財政が厳しい地方から、無駄なコストを取り除くこともできる」と強調した。

【3rdグランプリ受賞】 株式会社ストラウト『魚の病気検知を経験則からAIに 静岡発、世界の養殖をDXする』

▲株式会社ストラウト 代表取締役社長 平林馨 氏(写真左)

同社は、地域資源利活用と陸上養殖技術による地域養殖産業を展開している。平林氏は、「日本の水産養殖業の再成長に静岡から挑戦する」と意気込みを見せる。同氏はコンサルタントとして会社勤めをした後、富士宮市で90年続く家業の養鱒場を引き継ぐと共に、自身が所属する漁業協同組合の組合長なども務めている。当初、家業は4000万円の赤字、漁協も10年連続赤字だったが、培ったコンサルタントのスキルで黒字化。さらなる向上を目指し、「レガシー企業発の養殖スタートアップ『ストラウト』を作った」とのことだ。

同社が解決を試みるのは、国内の養殖場を悩ます赤潮と魚の病気(魚病)である。赤潮と魚病の被害は日本のみならず、世界でも大きな課題となっている。一方、養殖場は風評被害を恐れ被害の実態を隠し、解決が遅れるという悪循環に陥っている。同社によれば、赤潮の対策はあるが、勘と経験に頼るところが大きい。

魚病に関しても、目視で魚病の発生や投薬の判断を行うが、判断できる人材は一部のベテランに限られるという。加えて、世界的なアニマルウェルフェア(動物福祉)の流れから、将来的には魚病予防の義務化もあり得ると紹介された。

そこで同社では「データ駆動型養殖を現場に実装するべき」との考えで、養殖の現場をDX化するプラットフォーム「UMIDaS」を開発。UMIDaSは水温や溶存酸素、有害プランクトンなどをリアルタイムで観測する。データを継続して取得することで、水質の変化を読み取ることができ、水域の異常な傾向や兆候も把握しやすい。既に国内の漁協で運用されており、大手企業の新規養殖場にも導入する予定となっている。

さらに、魚病の兆候を検出するAIプロダクトを開発中という。目標は魚病検知AIで魚が病気で突然死する「へい死」率の20%の減少である。この結果、例えば、売上1億円なら2,000万円の増収が期待できるとのことだ。開発は沼津工業高等専門学校などと連携して進められている。

同社では今後、国内のみならず成長が期待できる東南アジアの養殖産業への展開を見据える。ゆくゆくは「半自動的なAIにとどまらず、飼育管理全体のAI化を実現したい」と意気込む。平林氏は、「当社には現場の知見がある。現場起点のトータルソリューションを手がけ、養殖現場のすべてをUMIDaSでDX化し、魚も人も幸せな世界を創り上げる」と熱弁を振るった。

独自のビジネスプランを披露した、スタートアップ7社のピッチを紹介

ここからは、惜しくも1st〜3rdグランプリは獲得できなかったものの、独自のビジネスプランを披露した7社の模様を紹介していく。

●株式会社CULTA『静岡から世界へ 気候変動時代の新・農作物ブランド』

▲株式会社CULTA 代表取締役 野秋収平 氏

CULTAは「気候変動時代」に対応した新たな農産物の創出を試みる。静岡県の名産であるイチゴ、メロン、サツマイモなどは、海外でも人気となり、経済成長を遂げる国々では高価格で取引されている。一方、気候変動が原因でこうした農産物に危機が訪れていると話す。

世界的に農産物の生産量の減少が目立ち、日本国内でも例えば30年後には長野県でリンゴが生産できなくなるとの予測もあるという。このため、経営不安に陥り、離農を余儀なくされるケースが増加すると伝えられた。

同社では、解決の鍵として「新品種」を取り上げた。通常、品種改良には10年以上の歳月がかかるが、同社の技術を用いれば「ゲノム編集、遺伝子組み換えを行わず、5倍速で進められる」と強調した。CULTAではAIを活用するなどしながら、品種改良を高速化。これまでにわずか2年でイチゴの新品種の開発に成功した実績を持つ。それも長距離輸送に耐えられる貯蔵性と、従来の品種と比べても優れた甘さを備えているとのことだ。

野秋氏は、「これからは、その土地の気候に合った作物を作れば良いという『適地適作』の概念は通用しない。気候変動のある環境下でもクオリティの高い生産をできるような新品種が必要」と熱を込める。同社では品種改良から生産管理・販売まで一気通貫で手がけ、生産を行う農家から農産物を高単価で仕入れる仕組みを構築。さらに生産体制をマレーシアに展開し、1年を通してブランドの供給を維持する。野秋氏は「静岡出身の私が静岡という土地を新しい農作物ブランドの発信地にする」と意気込んだ。

●株式会社Magic Shields『高齢者の転倒骨折を防ぐ、転んだときだけ柔らかい新素材「ころやわ」』

▲株式会社Magic Shields 代表取締役 下村明司 氏

Magic Shieldsは高齢者の転倒による骨折を防ぐため、転んだ時だけ柔らかくなる新素材「ころやわ」を開発している。同社によれば、高齢者が転倒して骨折する事故は日本や世界で起こっている。2000年以降、国内で2倍、世界でも先進国中心に急増している。

そこでMagic Shieldsでは、通常の歩行時には一定の堅さを保つが、転倒や衝突など、衝撃が加えられると柔らかくなる新素材「ころやわ」を開発した。下村氏はヤマハ発動機での勤務経験を持ち、その時の経験や培った技術を応用して、新素材が開発されたと話す。

「ころやわ」は独自の可変剛性構造体「メカニカル・メタマテリアル」で構成されており、国際特許を出願している。現在までに、国内560以上の病院や介護施設などに導入され、欧米にも広まっている。利用者からの評判は良く、導入後に大きな骨折事故などが起こっていないと紹介された。

ころやわを使用したマットは、病院や介護施設のほか、一般家庭向けにサブスクリプションでの提供(レンタル)も進められている。レンタルのため、回収後に素材が再利用される。このため、製造費を大きく削減できると説明された。同社では、BtoBに加えBtoCビジネスも行うようになったことで、2030年までに国内での売上は50億円規模になると試算。さらに、新素材を活用し将来的には他の分野に向けた開発も行っていきたいと意気込む。

下村氏は「ころやわは手すりやバリアフリーと同じく、グローバルスタンダードになると考えている。誰もが転んでも安心して立ち上がれる世界を作るつもりだ」と熱弁を振るった。

●株式会社TOWING『脱炭素・減化学肥料を両立し農業生産性を向上する高機能バイオ炭の普及』

▲株式会社TOWING 取締役 COO 木村俊介 氏

TOWINGは土壌微生物の機能を使い、世界の食糧問題、環境問題の解決に挑む。得意とするのは土壌微生物を扱うことだ。同社がグローバルな農業の課題として挙げるのが、「化学肥料の原料の枯渇」と「農業セクターでの温室効果ガス」である。農業はクリーンなイメージがあるものの、実際は温室効果ガスの排出量が多い産業の一つだという。

現在、環境負荷を減らすために有機肥料の活用が推進されているが、国内では有機農地が全体の0.5%と極めて小さい。理由として、有機肥料では収穫量が落ちることと、有機肥料を使える土地にするには5~10年かかることが挙げられた。

この課題を解決するのが、同社の高機能バイオ炭だ。高機能バイオ炭を農地に入れることで、有機肥料でも収穫量が向上する上に、土づくりの期間をわずか1カ月に短縮できる。同社は「画期的なプロダクトで、世界でも他に類する技術はない」と強調する。

また、炭は炭素の塊で、農地に入れると100年貯留される。炭素は二酸化炭素と見なされるため、カーボンクレジットを創出することも可能。同社では静岡県産のカーボンクレジットを完成させ、脱炭素に直接的に貢献している。木村氏は、「温室効果ガスの削減のインパクトは大きい。土壌微生物・有機肥料による生産性向上とバイオ炭を活用した農業の脱炭素化はもちろん、公園、ゴルフ場、森林などにも活用できる。静岡県発で次世代の緑に革命を起こしたい」と意気込みを見せた。

●株式会社さかなドリーム『日本一のマアジ養殖地・沼津における次世代養殖アジの展開』

▲株式会社さかなドリーム 代表取締役CEO 細谷俊一郎 氏

同社は「近ごろの魚はやせているのに高い」と指摘する。背景には、天然の生産量が頭打ちになっているのに対し、世界の人口がこの30年で25億人も増加していることがあるという。このため、昔は獲れなかったやせた魚や小さな魚が水揚げされているとのことだ。こうした状況を受け、「今後世界の水産需要を支えるのは養殖業」と強調する。

一方、養殖の生産量は激減している。例えば、沼津市の内浦湾で生産されているマアジは1991年の1857トンから2021年は278トンにまで減少している。要因は地球沸騰化とも言われる海水温の上昇で、餌となる魚が減少し、魚病や酸欠死が増加している。この結果、生産コストは過去最大に膨れ上がっているとのことだ。

さかなドリームはこうした事態を解決すべく、品種改良に乗り出した。一般的な品種改良の手法は膨大な時間がかかり、近年は遺伝子組み換えやゲノム編集も進んでいるが、海面養殖をすることが認められていない。そこで、同社は魚の代理出産ともいうべき独自の「代理親魚技法」で味、高成長性、耐病性、高水温耐性を備えた次世代養殖アジの展開を目指す。

まず初めに手掛けるのはマアジと、幻のアジとも称される「カイワリ」の掛け合わせの新品種。代理親魚技法を用いれば、精子や卵の肝細胞の移植で一尾の希少魚からでも次世代集団を生産可能で、同社は「世界で唯一の技術」と胸を張る。既に静岡県温水利用研究センターを借りて、稚魚生産を始めているとのことだ。細谷氏は「静岡の水産業の新たな柱を生み出す」と意気込んだ。

●株式会社NearMe『タクシーの「シェア乗り」で、静岡県の観光と日常の移動課題を解決する』

▲株式会社NearMe  代表取締役社長 髙原幸一郎 氏

NearMeは「移動の『シェア』で静岡県の社会課題を解決する」ことを目指している。着目しているのがオーバーツーリズムや、タクシーやバスなどが使えない交通弱者の課題だ。移動の問題の背景として、ドライバー不足とインバウンドの急回復が挙げられた。

一方、「タクシーの使い方がもったいない」とも指摘する。ほとんどの場合、乗車は一人でタクシーの輸送量が活かし切れていない。こうした事態を受け、同社では1台に複数人が乗る「シェア乗り」を手がけている。地元のタクシー会社と連携して、利用者をつなぐマッチングプラットフォームを開発。現在、主要なサービスとして、エアポートシャトルがある。

使い方はこうである。フライトに合わせてWebで予約。注文から一つの運行グループをAIが自動生成。前日になったら乗客予定者にピックアップの時間を伝える。当日はバンで空港に向かう――。既に全国15空港、65万人が使うサービスに成長したとのことだ。

今後は、観光向けや夜間の移動、日常の移動などに利用を広げたいと意気込む。現在までに複数の自治体と連携が進んでいるとのことだ。髙原氏は「デマンド交通の仕組みを提供できるようになった。移動のシェアで、住んでいる方、交通事業者、地域、三方よしのモデルを作り上げる。多くの方が自由に移動でき、住みたい街に住み続けられる社会の実現を目指す」と熱意を見せた。

●株式会社スペース『静岡から物流2024年問題に挑む!中継輸送プラットフォーム「ドラ基地」』

▲株式会社スペース 代表取締役 村井美映 氏

同社は「長距離輸送の課題に着目し、物流の2024年問題に挑む。長距離輸送は例えば、片道500キロメートルを40時間かけて往復する。この間ドライバーは2泊3日となり、「合計18時間もの無駄な時間」が発生しているとのことだ。この課題の解決策とされているのが、出発地と目的地の中間で荷物を受け渡す「中継輸送」である。ドライバーは日帰りが可能となるが、全国に拠点がある大手だけができる仕組みという。

そこで同社は、中小の運送会社が中継輸送できるプラットフォーム「ドラ基地」を開発した。運送会社が中継したい荷物情報を入力すると、相性のいい荷物と運送会社、最適な中継拠点をデータベースから抽出して提案する。輸送の実行日は、スマートフォンを活用してドライバーの位置や配達の状況が追跡管理できる仕組みだ。

積み替えの現場では荷物の写真を撮ることで正しく荷物が引き継がれたかを分析。さらに荷役誘導員が円滑な積み替えをサポートする。ドラ基地の利用で運送会社は売上が向上するのはもちろん、中継地のロケーションオーナーは空き地の利用の収益化も実現される。

静岡県は東名・名神の高速道路の中間地にある好立地。中継輸送市場に参入することで、産業の活性化が見込まれると強調する。既に、県内の複数の自治体と拠点の設立について具体的な協議が進められているという。同社では今期売上3,000万円を視野に入れ、2027年には単月黒字を目指す。村井氏は、「ハードとソフト、両面を持っているのが当社の強み。日本のインフラを静岡から支える」と熱い思いを伝えた。

●Yellow Duck株式会社『波エネルギーによる発電システム 洋上パワーステーション』

▲Yellow Duck株式会社 代表取締役CEO 中山繁生 氏

同社は「シンプルなアイデアで、世界をやさしく」をミッションに、波エネルギーによる発電システムを手がけている。現在、全世界で年間510億トンとも言われている温室効果ガスの排出を、ゼロにする目標が掲げられている。複数の世界的企業や国内の大手企業では、使用するエネルギーを100%再生可能エネルギーとする宣言も行われている。一方、太陽光と風力の再生可能エネルギーは発電装置の設置場所に制限があり、電力の供給にも限界がある。

この問題を解決するのが、同社が開発する、海の再生可能エネルギーを利用する洋上パワーステーションだ。洋上パワーステーションは「パワーセル」と呼ばれる直径約4メートルの装置で構成され、約10世帯分の発電量が可能。これは同じ面積で設置した太陽光発電の5倍の発電量とのことだ。

洋上パワーステーションはこのパワーセルを横や縦に連結させることで、必要とする電力量に応じてサイズや形状を変化させられる。仮に10キロメートル四方に展開すると、「原発約10基分になる」と説明された。このため、10キロメートル四方のパッケージの洋上パワーステーションを日本に15カ所展開するだけでクリーンエネルギー100%を達成するという。

これまで海の再生可能エネルギーは実用化には至っておらず、その理由として設置・固定にかかる甚大な建設コストと設置場所の制限があった。しかし、洋上パワーステーションは設置と固定が不要。海全体を利用地域とすることができる。さらに事業の計画から開始までわずか6カ月しかかからないことも大きなポイントだ。2030年に300兆円に達するとされる再生可能エネルギー市場には、陸上風力、メガソーラー、洋上風力のメインプレイヤーが存在するが、新たなプレイヤーとして参入に挑む。

中山氏は「洋上パワーステーションは、膨大なエネルギーを秘めながらも今まで有効活用できなかった海の再生可能エネルギーを利用する。気候変動とエネルギーに翻弄される世界をより豊かで安定した新しい循環型社会へと導く礎になると確信している」と述べ、ピッチを締めくくった。

【トークセッション】 静岡の可能性・魅力とは?――静岡キャピタル・久野氏×eiicon・中村氏

ピッチの後、静岡キャピタル株式会社 代表取締役社長 久野託司氏と、株式会社eiicon 代表取締役社長 中村亜由子氏が登壇し、「静岡の可能性」と題したトークセッションが行われた。モデレーターはeiicon 東海支援事業本部長 伊達達彰氏が務めた。

1つ目のテーマ「静岡の魅力」について、久野氏は交通アクセス、穏やかな気候、海と山のグルメに加え、戦後多くの世界的企業を生み出したベンチャースピリットを挙げた。さらに世界遺産の富士山など観光にも強みを持ち、インバウンド誘致に大きな可能性を秘めていることも指摘した。

▲静岡キャピタル株式会社 代表取締役社長 久野託司 氏

2つ目のテーマ「地域の活性化」について、久野氏はスタートアップへの融資を積極的に行っていることに触れながら、「スタートアップの力を借りながら産業を活性化させたい」と強調した。中村氏はオープンイノベーションの事例を取り上げながら、「スタートアップは経営資源がない状態でスタートする。サポートする体制があるのは心強い。スタートアップは課題の発見者でありチャレンジャー。足りないところを補える仲間がいることがとても大事」との見解を示した。

▲株式会社eiicon 代表取締役社長 中村亜由子 氏

3つ目のテーマ「エコシステム形成に向けて」について、久野氏は静岡県内にエコシステムが形成されつつあることを述べた上で、「熱量を持って新しい価値の創出に挑んでほしい。ユニコーンが生まれるよう、私たちも後押しする」と述べ、静岡県のさらなる活性化に向けて、思いを新たにした。

【総評】 産業基盤が強く、高い技術力を有する静岡県。グローバルにも挑戦してほしい

会の締めくくりとして、審査員の総評があった。副知事の森氏は「非常にハイレベルなコンテストで、順位は付いたが、4位以下との差は本当に微差だった」と述べ、株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO 田所雅之氏も同意し「課題の捉え方と熱量は、いずれのファイナリストも満点だった。スケーラビリティがあり、これからの展開に期待できる」と伝えた。

WAmazing株式会社 代表取締役CEO 加藤史子氏は「1~3位の企業が偶然にも富士市に本社を構えており、静岡県の産業基盤の強さがうかがえる。いずれも高い技術を保有しており、世界を目指す企業が出てくるのではないか」と期待をにじませると、エバーコネクト株式会社 代表取締役 篠原 豊氏も「本当にレベルの高い発表だった。ファイナリストたちは社会課題に向き合い、解決したいという強い思いを持っていた。今日をスタートラインにして静岡県の資産をフルに活用しグローバルにチャレンジしてほしい」とエールを送った。

最後に、MedVenture Partners株式会社 Chief medical Officer スタンフォード大学主任研究員 池野文昭氏は「静岡はもちろん、日本におさまらず、世界で活躍が見込まれる。大きく羽ばたいてほしい」と熱く語り、「静岡時代」の到来に思いを馳せた。

▲MedVenture Partners株式会社 Chief medical Officer スタンフォード大学主任研究員 池野文昭氏

取材後記

審査員が異口同音に述べるように、質の高い発表ばかりだった。課題の捉え方、それを解決する斬新で高い技術力に圧倒された。これまで見てきたビジネスコンテストの中でもトップクラスだったのではないか。いずれも社会実装に向けて取り組みが進められている。ファイナリストたちはこれから、世界にどのようなインパクトを与えていくだろうか。「静岡時代」が、もうそこまで来ていることを予感させられた。

(編集:眞田幸剛、文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)

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  • 眞田 幸剛

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