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既に約80件のスマートサービスを都内に実装。「Be Smart Tokyo」3期目で得られた手応えと展望とは

既に約80件のスマートサービスを都内に実装。「Be Smart Tokyo」3期目で得られた手応えと展望とは

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東京都は、独創性と機動力にあふれるスタートアップ等への支援を通じて、都内全域にスマートサービスを実装する「Be Smart Tokyo」事業を推進している。この取り組みは、都民の暮らしの利便性や生活の質(QOL)の向上を目指すものだ。

「スマート東京実施戦略」に基づき、2022年度(令和4年度)にスタートした本事業は、3期目を迎えている。これまでの取り組みから、すでに約80件以上のスマートサービスが都内に実装され(※)、目立った成果にもつながっているという。一方で、多種多様な課題を持つ東京都では、まだ解決しきれていない課題も依然として多く残っており、今後さらに力を入れていきたい考えだ。

そこでTOMORUBAでは、「Be Smart Tokyo」を主催する東京都 デジタルサービス局を訪問し、デジタルサービス推進部長 巻嶋國雄 氏にインタビューを実施。「Be Smart Tokyo」の実施背景や概要、目的、これまでの成果のほか、今後のビジョンについても伺った。(※2025年1月現在)

▲東京都 デジタルサービス局 デジタルサービス推進部長 巻嶋國雄 氏

東京都デジタルサービス局が掲げる「スマート東京実施戦略」の全貌

――まず、2019年度(令和元年度)に策定された「スマート東京実施戦略」の概要や目的についてお聞かせください。

東京都・巻嶋氏: 東京都は2019年度(令和元年度)、「未来の東京」戦略という長期戦略を掲げました。その戦略では、2040年代の東京の姿を描き、未来の姿からバックキャストして戦略に落とし込んでいます。「スマート東京実施戦略」は、そのビジョンを具体化したもので、デジタルの力で東京のポテンシャルを引き出し、都民が質の高い生活を送る「スマート東京」の実現を目指しています。

「スマート東京」の実現に向けては、3つの施策を展開しています。1つ目は「つながる東京(TOKYO Data Highway)」です。これは電波や光ファイバーといった通信環境を整備し、いつでも、誰でも、どこでもつながる環境の構築を目指しています。2つ目が「街のDX」で、東京の街中にスマートサービスを埋め込んでいこうとする取り組みです。3つ目は「行政のDX」で、行政のデジタル化を推進するもの。都庁のDXから開始し、現在は東京全体へと広げている段階です。

これら3つの施策の推進によって、東京のスマートシティ化を実現しようとしており、私たちデジタルサービス推進部は、3つのうちの「つながる東京」と「街のDX」を担当しています。これからお話する「Be Smart Tokyo」は、「街のDX」の一環となる活動ですね。

――「街のDX」は、具体的にどう進めているのですか。

東京都・巻嶋氏: さまざまな施策を進めていますが、大きく3つに分けて考えています。1つ目は、スマートシティのエリアの育成です。先行実施エリアとして、西新宿、都心部(大丸有・竹芝・豊洲)、ベイエリア、南大沢、島しょ地域の5つのエリアを選定し、各地域特性を活かしたモデルの構築を進めてきました。先行エリアでは取り組みが進んできたため、東京全体へと広げていくフェーズとなっています。

2つ目は、都民に届けられるサービスの実装です。例えば、西新宿では産学官連携でコンソーシアムを組成し、多様なスマートサービスの開発に取り組んでいます。機動力や発想力の高いスタートアップの皆さんも参加されています。

3つ目ですが、それらの活動を支えるデータ基盤の整備も行っています。2024年1月に「東京データプラットフォーム(TDPF)」という情報基盤をサービスインしました。ここでは、官の持つ公共データだけでなく民間のデータも集めて提供しています。官民のデータをつなぎ合わせることで、新たなサービスが創出されることに期待しています。

――実際にどのような活動成果が生まれているのでしょうか。

東京都・巻嶋氏: 先行実施エリアである大丸有では、非常時と平常時の両方に対応できるような形で、デジタルマップを作成し、展開しています。その他にもさまざまなソリューションを使いながら、街の魅力を高める取り組みを実施しています。

例えば、ウォーターフロントエリアの竹芝では、人流データをもとに雨の日にクーポンを発行し、人流を誘導する取り組みを実施。また、scheme verge社の「Horai」というエリアマネジメントのDX・データ利活用に特化したサービスを活用し、船の予約と決済を手軽に行えるようにもしました。「東京データプラットフォーム」に関しては、現時点で300社を超える企業・団体が参画し、コミュニティが形成されています。そこでは、データの活用に関する積極的な議論が行われていますね。

スタートアップと実装促進事業者で街に新たなサービスを導入する「Be Smart Tokyo」とは

――「街のDX」施策の一環で、2022年度(令和4年度)より「Be Smart Tokyo」というスマートサービスの実装を加速させるための活動に注力されています。「Be Smart Tokyo」は、どのようなスキームで推進されているのですか。

東京都・巻嶋氏: 「Be Smart Tokyo」は、「スマートサービス実装促進事業者(以下、実装促進事業者)」の力を借りながら進めています。

具体的には、東京都と実装促進事業者が3年の期間で協定を締結します。そして、実装促進事業者には、スタートアップ等と共に20件以上のスマートサービスを、都内に実装していただくことをお願いしています。成果に応じて、東京都が実装促進事業者に協定金を支払います。

実装促進事業者は、優れたスタートアップ等のサービスを見つけ、都内においてそれを実装できるエリアと結びつけます。エリアというのは、区市町村の場合もありますし、エリアマネジメント団体や企業の場合もあります。そうした人たちの多様な課題を、スタートアップのサービスで解決していくという内容になっています。こうした実装促進事業者を、毎年度3社ずつ採択し、実証実験から実装までの一連の流れを支援いただいています。

▲東京都スマートサービス実装促進プロジェクト「Be Smart Tokyo」の概要

――「Be Smart Tokyo」では、これまでの3年で具体的にどのようなサービスが、どう実装されたのでしょうか。取り組みの成果についてお聞きしたいです。

東京都・巻嶋氏: 例えば、Liquitous社が提供するオンライン市民参画プラットフォーム「Liqlid」は、日野市、東村山市、多摩市に実装されています。Liquitous社を含めて15社以上の実装支援を行っているTIS社は、地方自治体をスマートシティ基盤提供者と捉え東京都内の53区市町村に対し架電や導入交渉を行い、営業面で強力にサポートをされました。スタートアップは人的リソースが不足しがちだと聞きますから、TIS社の支援はそれぞれのスタートアップの大きな推進力になったと思います。

また、実装促進事業者であるunerry社は、自社の持つ人流データとINFORICH社のモバイルバッテリーのシェアリングサービス「ChargeSPOT®」を組み合わせたサービスを実装されました。具体的には、「ChargeSPOT®」のデジタルサイネージを「街メディア」として活用し、地域の魅力を発信する活動です。西武鉄道社と連携し、沿線の街巡りコンテンツを配信。地域の回遊促進につなげています。

――都民の利便性向上に寄与した例としては、どのようなものがありますか。

東京都・巻嶋氏: 空き情報を検知、可視化する「VACAN Maps」を提供するバカン社は、TIS社の支援を受けて西東京市と三鷹市で避難所マップを導入しました。デジタルマップにて避難所情報が簡単に確認でき、スムーズな避難が可能なことから、都民の安心感向上に寄与したと考えています。

また、ボーンレックス社の支援のもと、cynaps社の「BA CLOUD」を大田区の公共施設などに導入。このサービスは、センサーを用いた二酸化炭素濃度計測により換気状況を可視化し、IoT技術により部屋の利用状況に応じて換気空調設備の自動制御を行えるもので、空調のエネルギーロスを最大50%以上削減することも可能です。

「Be Smart Tokyo」ではこのようなサービスを、2022年度から今年度末(2025年3月)までトータルで100件以上都民に届けることができる見込みです。

――「Be Smart Tokyo」は、スタートアップを主な支援対象とされていますが、東京都にとってスタートアップ支援も、重要な戦略のひとつということでしょうか。

東京都・巻嶋氏: その通りです。東京都は「未来を切り拓く10x10x10のイノベーションビジョン」を掲げ、スタートアップ戦略を推進しています。この戦略のもと、5年間でユニコーン企業の数を10倍、起業数を10倍、公共調達(官民協働)を10倍に増加させる施策を実施しており、スタートアップを非常に重要な存在と位置づけ、その成長を後押ししています。

都市部だけでなく離島や多摩エリアにもスマートサービスを実装、3期目の「Be Smart Tokyo」が目指す姿

――3期目となる「Be Smart Tokyo」ですが、今後、特に注力したい領域や目指すビジョン、参画する実装促進事業者やスタートアップ等に対する期待についてお聞かせください。

東京都・巻嶋氏: 2024年6月に、3期目となる実装促進事業者を3社採択し、計9社の実装促進事業者が決定しました(※)。先ほど申し上げたように、各実装促進事業者には20件のサービス実装をお願いしているため、令和4年度から令和8年度末までで、計180件のスマートサービスが都内に実装される予定です。最初に採択された令和4年度の実装促進事業者3社は、3年間で目標としていた20件を達成できる見込みで、順調に進んでいます。

3期目の実装促進事業者には、都民の方々や、エリアの課題に向き合っていただき、区市町村や企業とも協力して、さまざまな課題を解決していただくことを期待しています。エリアごとに課題は異なりますから、それぞれの課題に寄り添いながら、必要に応じてサービスのカスタマイズも検討し、より社会性・公共性の高いサービスを提供していただくことを望んでいます。

※スマートサービス実装促進事業者

【令和4年度採択】 TIS株式会社/Plug and Play Japan株式会社/株式会社ボーンレックス

【令和5年度採択】 株式会社unerry/CIC Institute(CIC Toranomon合同会社)/株式会社デジタルガレージ

【令和6年度採択】 大日本印刷株式会社/ReGACY Innovation Group株式会社/株式会社eiicon

▲「Be Smart Tokyo」のスケジュール。2026年度に向けて180件以上のスマートサービスの実装を目標に掲げている。

――特にどのようなエリアに注力したいとお考えですか。

東京都・巻嶋氏: 現状だと23区部へのサービス実装が多いため、多摩エリア、島しょ地域へも、ぜひサービスを実装してほしいと思っています。島しょ地域でいうと、伊豆諸島や小笠原諸島が東京都の島しょ部に該当しますが、スマートサービスが十分に届いていないところが多く、課題も山積しています。

一括りに島といってもさまざまな特徴があり、例えば、伊豆諸島や八丈島など大きな島もあれば、青ヶ島のような人口160人規模の小さな島もあります。小笠原諸島は都心から1,000km離れており、航空路がなく、24時間かけて船で行きます。

このように、サービスの受け手の数は少なくなるものの、島ごとに課題や環境が異なるため、それぞれに適したサービスが必要です。利用者に直接サービスを届けるという方法以外に、行政が間に入るという方法も考えられますので、ぜひ積極的に取り組んでいただきたいです。

――多摩エリアに関してはいかがですか。

東京都・巻嶋氏: 多摩エリアは多様で、都市部や商業地域がある一方で、住宅地もあります。住宅地の中には、多摩ニュータウンのように開発から数十年が経過した場所もありますし、新しい住宅地も誕生しています。西多摩には過疎地域も存在しており、それぞれの地域ごとに課題はさまざまです。ですから、高齢化対策やにぎわい創出、過疎地対策に資するようなサービスを実装できるフィールドもあることが特徴です。

このように、東京都にはインバウンドが集中してオーバーツーリズムが問題となっている人口集中地域もあれば、中山間地域や離島といった過疎地域もあり、幅広い環境が存在しています。東京都は日本が抱える課題の縮図とも言えるでしょう。「Be Smart Tokyo」は、実装できるフィールドの多様さが強みのひとつであり、東京でサービスの実装に成功すれば、全国展開も実現できると思います。

――最後に「Be Smart Tokyo」に参画したいと考える皆さんに向けて、一言メッセージをお願いします。

東京都・巻嶋氏: 「スマート東京」の実現には、スタートアップの皆さんの力が不可欠だと考えています。街というものは、そのエリアのデベロッパーさんだけではなく、多様な立場の人々が関わることで作られていくものだと思います。ぜひ、機動力や発想力があり、先進的な事業展開をされているスタートアップの皆さんにも、東京のスマート化に参加していただきたいです。一緒に東京をより良くしていきましょう。

取材後記

取材を通じて、東京都の地域ごとに抱える課題の多様性を改めて実感した。都市部や商業地、高齢化が進む住宅地、過疎地域、離島など、それぞれが異なる課題を抱えている。スタートアップにとっては、解決すべき課題が豊富に存在し、ビジネスチャンスが広がっていると言える。「Be Smart Tokyo」は、こうした多様な環境で自社のプロダクトを実証・実装する絶好の機会だ。実装促進事業者からの力強いサポートや、サービス実装に活用できる支援金があるため、単独での実装よりも遥かにスムーズに進めるだろう。多くの成功事例が生まれていることも、手厚い支援体制の証だ。ぜひ、「Be Smart Tokyo」に参画し、東京都、ひいては全国へのサービス実装を目指してみてはどうだろう。

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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東京都が推進する「Be Smart Tokyo」は、独創性・機動力にあふれるスタートアップ等への支援を通じて、都内全域をフィールドにスマートサービスを実装することで、都民の暮らしの利便性・QOL向上を目指す実装促進プロジェクトです。 2024年より、eiiconでは「マッチングプログラム」「社会実装プログラム」「スタートアップ支援プログラム」の3つの軸で実装促進支援を行っています。