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ヘルスケアの未来を渋谷から!約7.000種類の血中タンパク質データで行動変容を促す、フォーネスライフと渋谷未来デザインの実証に迫る<Be Smart Tokyo実装事例#2>

ヘルスケアの未来を渋谷から!約7.000種類の血中タンパク質データで行動変容を促す、フォーネスライフと渋谷未来デザインの実証に迫る<Be Smart Tokyo実装事例#2>

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東京都は、独創性・機動力にあふれるスタートアップ等への支援を通じて、都内全域をフィールドにスマートサービスを実装する「Be Smart Tokyo」プロジェクトを推進している。渋谷区の外郭団体である渋谷未来デザインと、NECグループのヘルスケアスタートアップ・フォーネスライフは、「Be Smart Tokyo supported by eiicon」の実証実験支援プログラムで採択され、実証実験の真っ最中だ。

この実証実験では、渋谷未来デザインの職員を対象に、フォーネスライフの約7,000種類の血中タンパク質の解析による将来の疾病リスク予測サービスを提供。このサービスの需要を調査し、ビッグデータを活用したヘルスケアの実現を目指していくという。

今回TOMORUBAでは、「Be Smart Tokyo supported by eiicon」の実装事例の第2弾として、渋谷未来デザインの菅野太郎氏と、フォーネスライフ株式会社の溝辺武史氏にインタビューを実施。渋谷から発信する、働く世代に向けた健康意識向上や行動変容についての取り組みについて語ってもらった。

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ターゲットは「渋谷民」。社会課題に挑む外郭団体としての渋谷未来デザイン

――まず、菅野さんにお話をうかがいます。渋谷未来デザインとはどのような組織なのでしょうか。

渋谷未来デザイン・菅野氏 : 一般社団法人渋谷未来デザインは2018年に渋谷区の外郭団体として立ち上がりました。自治体としての渋谷区は、基本的に区民の税金で区民に対してサービスを提供していますが、渋谷には働く人や遊びに来る人、外国人観光客など多様な人々がいます。

こうした人たちを私たちは「渋谷民」と呼んでいて、渋谷民に対して社会課題のソリューション提供を行い、新たなまちづくりをしていくべきだという考えから立ち上がった組織です。

▲一般社団法人渋谷未来デザイン プロデューサー 菅野太郎氏

――具体的に、菅野さんはどのようなプロジェクトを担当されているのでしょうか。

渋谷未来デザイン・菅野氏 : 主に3つの軸で活動しています。まず、「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA(SIW)」の開催です。これは、渋谷を拠点に社会課題の解決を目指す対話型イベントで、産官学が集まって未来の都市の在り方について議論します。次に、データ活用を基盤としたまちづくりです。都市に蓄積されるデータを活用し、より良い社会実装を目指しています。さらに、スタートアップ企業と協働し、社会課題を解決する新たな取り組みも推進しています。

――各プロジェクトにおいてさまざまな企業と連携していますね。具体例を教えていただけますか?

渋谷未来デザイン・菅野氏 : 例えば、名古屋や大阪でも開催されている「もしもプロジェクト」という防災の取り組みを渋谷でも横展開しています。防災と聞くと堅苦しいイメージがありますが、「もしもなにか災害が起こったら、どう行動すべきか?」というテーマで体験型のコンテンツを作っています。

また、飲み方の多様性を尊重し合える社会の実現を目指すべく、飲料メーカーと組んで「スマドリ」(スマートドリンキング)というノンアルコールを楽しめるバーの取り組みが、SIWを通じて生まれました。渋谷に「スマドリバー」という実店舗もあります。このように、社会課題に対する新しい視点を提供し、企業との共創によって具体的な形にしていくことが、私たちの大きな役割です。

フォーネスライフと渋谷未来デザインの連携で見えた行動変容

――次にフォーネスライフの溝辺さんにうかがいます。2020年に設立されヘルスケア事業を展開していますが、何を課題と捉えていて、どんなソリューションを提供しているのでしょうか。

フォーネスライフ・溝辺氏 : 働き方や対人関係が昔と大きく変化してきていて、その中で健康維持の重要性がますます高まっています。日本の20歳以上の方は約70%(※1)が毎年一度健康診断を受けていると言われていますが、それにも関わらず心筋梗塞や脳卒中などの循環器系の疾患や、がんの罹患が多いことを課題だと捉えています。この課題に対しては予防的アプローチを推進すること、ひいては健康意識を高めていくことが重要になってきます。(※1 厚生労働省『国民生活基礎調査』(2022年) )

そこで、フォーネスライフでは病気になる前に病気になる確率がわかる「フォーネスビジュアス」というソリューションを立ち上げました。コンセプトは、早期発見よりもっと前にリスクに気付き生活習慣を見直すことで病気にならない未来を目指すことです。 例えば、「あなたの心筋梗塞・脳卒中の4年以内の発症確率が21%で、認知症の発症確率が60%です」といったように、具体的な数字を出すことで行動変容につなげたい狙いがあります。これは、世界初(※2)の約7,000種類のタンパク質解析技術と我々NECグループのビッグデータ解析・AI技術を活用することで実現できています。(※2 米国SomaLogic社の約7,000種類のタンパク質を一度に測定する世界初の技術。)

検査をして終わりではなく、提携医療機関の医師よりご提供する検査結果報告書をもとに、保健師の資格を持つ弊社のコンシェルジュがオンラインまたは電話で面談し、検査結果を振り返りながら、一人ひとりに合った生活習慣改善メニューのご提案や伴走をしていくところまでがセットになっています。

▲「フォーネスビジュアス」は、少量の血液(約5mLの採血)から約7,000種類のタンパク質を一度に解析する世界初の技術を活用し、「将来の疾病リスク」と「現在の体の状態」を可視化するサービス。個人向けだけではなく法人向けにもサービスを提供している。(画像出典:「フォーネスビジュアス」サービスページ

――今回、「Be Smart Tokyo」を通じてフォーネスライフと渋谷未来デザインが連携し、ヘルスケア分野の実証実験に取り組まれていますね。

フォーネスライフ・溝辺氏 : はい。渋谷未来デザインの職員さんを対象として、フォーネスビジュアスを利用していただいてサービスの需要を調査しているところです。検査結果をスマートフォンのアプリで確認することや、コンシェルジュの面談などが働く人のライフスタイルにフィットするのかを検証させていただいています。

▲フォーネスライフ株式会社 マーケティング部 ゼネラルマネージャー 溝辺武史氏

――実際に菅野さんご自身も検査を受けられたとか。

渋谷未来デザイン・菅野氏 : そうなんです。私自身も検査を受けましたが、血液検査の結果「耐糖能(血糖値を正常に保つ能力)」の働きに異常がある可能性を指摘されました。炭水化物が好きなのですが、コンシェルジュとの面談で食生活に課題があるという気づきを得ました。

普段、健康診断では「問題なし」とされるレベルでも、より詳細に7,000種類もの血中タンパク質を解析することでリスクが見えてくることがわかりました。実際に私も面談をきっかけにひと駅前におりて歩くなど、行動変容しています。若者は「タイパ」を気にしますが、私の場合は実際に気づきがあったのでタイパが良かったと思います。

――菅野さんの行動変容を聞いて、溝辺さんはいかがですか。

フォーネスライフ・溝辺氏 : 若い方は健康維持のための行動変容を起こすことがなかなか難しいのですが、菅野さんはさっそく運動量を増やすなどしていて素晴らしいと思います。

先ほど菅野さんから耐糖能の話が出ましたが、耐糖能は実際に測ろうとしたら大変なんです。10時間断食して、その後に非常に糖度の高い液体を飲み干し、その後30分~1時間おきに採血を3~5回する、といった検査が必要になります。フォーネスビジュアスではそういった負担や、事前の食事や飲酒の制限などもなく、耐糖能をはじめとする現在の体の状態と、将来の疾病リスクを測ることができるのがメリットです。

ビッグデータを活用したヘルスケアの実現に向けて

――両者の今後の取り組みについて聞かせてください。今回の実証実験で見えた課題感であったり、都内全域に普及するために取り組むべきことなどありましたか。

フォーネスライフ・溝辺氏 : 渋谷未来デザインの方々にフォーネスビジュアスを利用していただいたところが現在地ですが、まずは働く世代の健康意識を向上させ、行動変容を促すために、どう活用してもらえるのかを検証しなければいけません。そのためには、利用していただいた方々からフィードバックを受け、サービスを叩いていただこうと考えています。その結果、私たちで改善点を洗い出してサービスに反映していきたいです。そして、さらに多くの人たちに使っていただくのが基本的なスタンスです。

具体的には、企業や団体への導入だけでなく、渋谷区さんを起点に東京エリア全域、さらには全国の働く世代もターゲットに広げていければと思います。渋谷というエリアは、非常にエネルギーがあって情報発信力もありますし、新しいことを他のエリアよりも先に行っていますから、渋谷未来デザインさんとの連携を通じて多くの人々にサービスを届けたいです。

――日本のヘルスケアの形はどうなっていくべきだと思いますか。

フォーネスライフ・溝辺氏 : 最終的には、東京都などが持つ自治体のビッグデータと連携して、そこにご自身のタンパク質解析データを掛け合わせることで、様々な検査結果や対応方法などが返ってくるサービスが日常的なライフスタイルに溶けこむといいなと思います。

日本は、社会保障や医療保険が充実していることもあり、欧米と比べて健康に対しての予防意識が低く、病気になってから対処しようという考え方が定着しています。そういった背景もあって、技術を使って予防を充実させるという一歩が重くなってしまっている部分があると思いますが、渋谷区さんや渋谷未来デザインさんと一緒にそこを打開していきたいです。

――実現するためにはやはりデータが重要でしょうか。

フォーネスライフ・溝辺氏 : はい。人間の体は水と油を除くとほとんどがタンパク質で構成されていて、いま発見されているだけで2万種類くらいのタンパク質があると言われています。そのうちフォーネスビジュアスでは約7,000種類を把握できます。それによって、「生活習慣をこう改善したらこのくらいリスクが下がった」とか、「この薬、もしくは健康食品を取り入れたことでこのくらい効果があった」といったような、健康行動と疾病リスクのエビデンスができあがっていきます。

このデータベースを作り上げていくことが重要です。現在では、ウェブで検索してもいろんな情報が氾濫していてどれが自分にとって効果的なのかがわかりませんが、それがわかる時代がくると信じて、大きなビジョンを持って邁進していきたいです。

――最後に菅野さんにうかがいます。今回、渋谷未来デザインはフォーネスビジュアスを実際に体験しましたが、今後、渋谷区としては健康意識向上や健康づくりの促進にむけてどのように展開していきたいですか。

渋谷未来デザイン・菅野氏 : 渋谷未来デザインでは「わたしたちのウェルネスアクション」という、主に20〜40代女性の健康を考えるプロジェクトを進めています。その中で「渋谷民」を対象にした調査を実施しているのですが、健康に気をつかっていて精神的には満足しているけれど、実際は健康に問題がある層が多いという結果が出ました。この結果が今後ウェルネスを考える上で重要になってくるはずです。

渋谷未来デザインとしても、この前提を踏まえて渋谷を中心に発展させていけたら理想かなと思います。その一環のプロジェクトとしても、「Be Smart Tokyo」を通じたフォーネスライフとの連携には大きな価値を感じています。

取材後記

渋谷未来デザインの菅野氏は、多様な人々が交差する渋谷という街において、いかに行政と民間が連携し、社会課題を解決していくかを意識している。一方で、フォーネスライフの溝辺氏は、テクノロジーを活用し、働く世代の健康意識を向上させることの重要性を語っていた。単なる健康診断にとどまらず、行動変容を促す仕組みを整えることが、より良い社会の実現につながるのだろう。「Be Smart Tokyo」を通じてスタートした両者の取り組みの今後に注目していきたい。

(編集:眞田幸剛、文:久野太一、撮影:齊木恵太)

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Be Smart Tokyo Supported by eiicon

東京都が推進する「Be Smart Tokyo」は、独創性・機動力にあふれるスタートアップ等への支援を通じて、都内全域をフィールドにスマートサービスを実装することで、都民の暮らしの利便性・QOL向上を目指す実装促進プロジェクトです。 2024年より、eiiconでは「マッチングプログラム」「社会実装プログラム」「スタートアップ支援プログラム」の3つの軸で実装促進支援を行っています。