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自治体・金融機関・商工会議所によって生まれた『刈谷イノベーション推進プラットフォーム』が、愛知県内第3号の「STATION Aiパートナー拠点」に――地域企業とスタートアップの連携で描く刈谷の未来とは?
愛知県は、「Aichi-Startup戦略」に基づき、スタートアップ支援拠点「STATION Ai」と県内各地域の「STATION Aiパートナー拠点」とが、相互に連携・協力し、県内全域にわたるスタートアップ・エコシステムの形成を目指している。
一方、愛知県刈谷市では、刈谷市や西三河地域においてスタートアップ連携やオープンイノベーション推進を主体的に実施している機関が一体となり、イノベーション・エコシステムの形成推進に取り組むことを目的とした 『刈谷イノベーション推進プラットフォーム』を2024年8月に設立した。
そして同年11月、『刈谷イノベーション推進プラットフォーム』は、県内第3号(※)のSTATION Aiパートナー拠点に認定され、スタートアップ支援体制をさらに強化していくこととなった。
今回、TOMORUBAでは、『刈谷イノベーション推進プラットフォーム』の構成機関である刈谷市役所の山田氏、碧海信用金庫の増田氏、刈谷商工会議所の杉浦氏へのインタビューを実施。プラットフォームの概要や構成機関それぞれの役割、現在の活動状況、さらにはSTATION Aiパートナー拠点として目指すことなどを聞いた。
※STATION Aiパートナー拠点の県内第1号は「東三河スタートアップ推進協議会」、第2号は「ウェルネスバレー推進協議会」となる。
地域の中小企業支援に対し、同じベクトルで活動を行っていた3つの組織が集結
――まずは、『刈谷イノベーション推進プラットフォーム』の設立経緯をお聞かせください。
刈谷市・山田氏 : 刈谷市は、全国でも屈指の自動車産業集積地であり、市内だけでも330社ほどの製造業事業所(※)が活動しています。しかし、昨今の「100年に一度」と言われるような自動車産業の大転換期を迎えるにあたり、産業構造の変化への対応が迫られていることも事実です。(※従業者4人以上の事業所)
そのため刈谷市では、2021年より、地元企業や支援機関を交えた意見交換会、オープンイノベーションミーティングを実施し、持続的に発展する産業都市を目指す姿とする「産業イノベーション構想」(※)を策定しました。
「産業イノベーション構想」では、市内の中小企業が、大手企業やスタートアップ、新しいビジネス・人材との交流を通じたイノベーションを起こし、それが地域全体に波及していくようなイノベーション・エコシステムの形成を目標に掲げており、企業人材や次世代育成の推進、多様な連携・交流を促す場の提供など、様々な取り組みを進めてきました。
※参考ページ:刈谷市・産業イノベーション構想 〜縦糸×横糸が織りなす力強い地域経済をめざして〜
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▲刈谷市役所 産業環境部 商工業振興課 主任主査 山田崇人氏
――プラットフォーム設立の前段として、「産業イノベーション構想」というものがあったのですね。
刈谷市・山田氏 : その通りです。一方、愛知県では、2018年より「Aichi-Startup戦略」に基づく施策を進めており、そのような県の取り組みの一環として、私たち刈谷市も「STATION Aiパートナー拠点」に関するお声掛けをいただきました。しかし、刈谷市単独ではパートナー拠点としての役割を果たすことが難しいことも事実です。
そこで、碧海信用金庫さんや刈谷商工会議所さんなど、地域の中小企業支援に対し、私たちと同じベクトルで活動を行っている団体様に協働いただく形で、スタートアップ連携も含めた中小企業支援の基盤となるコンソーシアム的なプラットフォームを立ち上げるとともに、STATION Aiのパートナー拠点となることで、支援の取り組みを一層加速させていこうと考えました。このような一連の流れが、『刈谷イノベーション推進プラットフォーム』の設立背景となります。
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▲2024年11月、STATION Aiにおいて、愛知県と『刈谷イノベーション推進プラットフォーム』は相互に連携・協力することについての覚書を締結した。(画像出典:刈谷市HP)
市役所・信用金庫・商工会議所がプラットフォームで担うそれぞれの役割
――碧海信用金庫が、今回のプラットフォームに参画した目的・背景をお聞かせください。
碧海信用金庫・増田氏 : 碧海信用金庫では、2022年1月に起業家・ベンチャーの育成拠点である「なごのキャンパス」(名古屋市)に入居した当時からスタートアップ支援を行ってきました。最初はスタートアップに関する情報収集から始めましたが、2023年頃から、スタートアップに対する地方金融機関の支援のあり方について、ある程度の方向性が見えてきました。
スタートアップは、事業を起こし、成長して全国に羽ばたいていきますが、私たち地方金融機関は、単にそのようなスタートアップの活動を支援するだけでなく、「スタートアップのソリューションを地域の企業に届け、地域の活性化につなげていくことが重要である」と考えるようになったのです。
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▲碧海信用金庫 名古屋営業部 ビジネスイノベーショングループ 係長 増田圭亮氏
――地域を支える金融機関だからこその発想の転換ですね。
碧海信用金庫・増田氏 : そのため当庫では、2023年度より、そのような方向性でのスタートアップ支援の方法を模索し、県の事業に関するワークショップなどに参加していました。その際に刈谷市役所の山田さんや刈谷商工会議所の方々と出会い、今回のプラットフォームに関するお声掛けをいただいたのです。
当庫は、碧海5市と呼ばれる碧南市・刈谷市・安城市・知立市・高浜市をはじめ西三河地域を地盤とする信用金庫であり、刈谷市は中核エリアの一つです。その刈谷市が、当庫と同じように地域企業の活性化のためのスタートアップ活用を検討されていると聞き、同じ目線で活動を推進していけると感じたため、プラットフォームへの参画を決めました。
――刈谷商工会議所が、今回のプラットフォームに参画した目的・背景についてお聞かせください。
刈谷商工会議所・杉浦氏 : 刈谷商工会議所は、市内の中小企業や小規模事業者の経営支援を行っている地域経済団体です。そのため、刈谷市役所さんとは、以前から市内企業の支援に資する各種事業に取り組んできました。今回のプラットフォーム参画もそのような協働の一環であると考えています。
山田さんからお話があった「産業イノベーション構想」のスタートは、私たち商工会議所にとっても大きな転換点となりました。それ以前は、市内企業とスタートアップの接点はまったくなかったと思います。だからこそ、市内企業の皆さんには、今回のようなスタートアップ連携を支援するプラットフォームを積極的に活用いただきたいと考えています。
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▲刈谷商工会議所 中小企業相談所 相談所長 杉浦恭章氏
――『刈谷イノベーション推進プラットフォーム』の構成機関である、市役所・金融機関・商工会議所それぞれの役割について教えてください。
刈谷市・山田氏 : 市役所としては、一つひとつの事業・取り組みにおける参加者や利用者数、そこから生まれた新規事業やスタートアップの連携といった「成果の見える化」を行っていくつもりです。
また、行政では必ず人事異動が発生します。事業の担当者が変わった場合でも、事業自体が目的化してしまわないよう、そもそもの事業の目的を組織の中にしっかりと落とし込み、確実に浸透させていかなければならないと考えています。
碧海信用金庫・増田氏 : 私たちの役割は、金融機関としての資金面のサポートに加え、地域における強固なネットワークの活用・提供であると考えています。碧海信用金庫は愛知県内に77店舗を展開しており、各店舗にて様々な企業様とお取引をさせて頂いております。
多くの地域企業との太いパイプこそが、地方金融機関の一番の強みであることは間違いありません。スタートアップのソリューションを地域に還元する際にも、このような結び付きを活かして貢献していくつもりです。
刈谷商工会議所・杉浦氏 : 商工会議所の役割は、スタートアップの方々が持っている技術・プロダクト・アイデアを、市内の中小企業の皆さんに活かしていただくための「つなぎ役」になることです。今後は、セミナーや交流会といった様々な場を設けることで、両者をつなぐ役割を果たしていきたいと考えています。
プラットフォームの取り組みを地元企業の主体的な動きにつなげていきたい
――100年に一度と言われる自動車産業の大転換期のお話もありましたが、プラットフォームを通じて刈谷市の課題を解決するには、どのようなポイントに力を注いでいくべきだとお考えですか?
刈谷市・山田氏 : 先ほどもお話しした「成果の見える化」ですが、イベントや取り組みに対して「どのくらいの人が参加したのか」までは追えるとしても、その後の「企業の売上に貢献する事業は生まれたのか」「企業や組織に貢献する文化醸成ができたのか」といった部分は非常に見えづらい成果となります。それでも、私たちとしてはそこまで追っていく必要があると考えています。
また、今回のような事業や取り組みを、地元企業の主体的な動きにつなげていくことも重要です。極端な話、『刈谷イノベーション推進プラットフォーム』がなくなっても、地元企業が自ら支援機関やスタートアップを活用して新規事業を創出するなど、スタートアップ活用が各企業の事業活動の中に落とし込まれている状態を作っていくことで、本当の意味での持続的な取り組みにつなげていきたいと考えています。
――増田さんはいかがですか?
碧海信用金庫・増田氏 : 自動車産業の事業転換は、刈谷市だけでなく、西三河エリア共通の課題であると捉えています。自動車部品メーカーの中にも、コロナの流行を境に既存事業に課題感を持つ企業が少なくありません。
地方金融機関としては、10年後、20年後を見据えた新しい事業の創出に関して、ある程度のお節介を焼くことも必要だと思っていますし、生産性向上や生産プロセスの改善といった既存事業の強化も支援していく必要があると考えています。
スタートアップとの共創は、それらを解決する手段の一つであり、新規事業創出と既存事業強化の双方をカバーできる可能性も秘めているので、私たちとしても連携に向けての積極的な取り組みを進めていくつもりです。
――杉浦さんはいかがですか?
刈谷商工会議所・杉浦氏 : 中長期的にはEV化による外部環境の変化が想定されるため、増田さんがお話しされたような新規事業創出の支援が重要になると考えています。ただし、その一方では人手不足や後継者問題といった、目の前の課題で苦労している中小企業も少なくありません。
刈谷市を支えてくれている中小企業をこれ以上減らさないためにも、スタートアップの皆さんの力をお借りしながら、将来に向けた新規事業創出と直近の課題解決の両面をカバーする支援を行っていく必要があると考えています。
――今回のようなプラットフォームを立ち上げたり、参加されたりする中で、スタートアップの方々とコミュニケーションを取る機会も増えていると思います。彼らとの出会いの中で、刺激を受けたり、影響を受けたりすることはありますか?
碧海信用金庫・増田氏 : 私は今年の4月からスタートアップ業務の専任担当を務めていますが、新しい事業を生み出そうとするスタートアップの方々は、既存事業を守ろうとする経営者とは異なるタイプのパワーやマインドを持っていると感じます。
また、スタートアップ企業の方々はもちろんですが、その支援者も前向きな方々が多いようです。そのような方々と一緒に仕事をする中で、私自身も以前より前向きな姿勢で仕事に取り組めるようになったと感じます。
刈谷商工会議所・杉浦氏 : スタートアップの方々と中小企業の社長様が情報交換をしている場面などを見聞きしていると、実際に現場の役に立ち、現場の生産性を上げ、DX推進につながる技術やアイデアというものを肌で実感することができます。「他の企業様にも、ぜひ活用してもらいたい」と思えるような技術も多く、スタートアップの皆さんの実力には驚かされるばかりです。
刈谷市・山田氏 : 行政は、ヒト・モノ・カネのような大きな課題については把握できるものの、より本質的な現場の課題に対してのアプローチは容易ではありません。もちろん、「設備投資に対して補助金を出す」といった支援は行っていますが、補助金では手の届かないデジタル支援の領域などは、スタートアップの本領が発揮されるタイプの課題解決が可能です。
また、そのような課題解決に際して、ビジョンやミッションなど、しっかりと言語化した上で向き合っていくスタートアップの方々のスタンスは、自分たちにとって非常に良い刺激になっていると感じます。
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スタートアップの提案と地元企業の課題を把握し、両者を丁寧につないでいく
――現在、プラットフォームとして取り組んでいる活動内容について教えてください。
刈谷市・山田氏 : プラットフォームとしては、「(1)定例ミーティングの開催」「(2)産業イノベーション推進に向けた連携協力」「(3)スタートアップ連携促進に向けた連携協力」「(4)西三河オープンイノベーションコミュニティSNSの開設」「(5)西三河オープンイノベーションコミュニティ機運醸成イベントの開催」といった活動を推進しています。また、STATION Aiに入居しているスタートアップや事業会社との個別相談会(オフィスアワー)なども行っていく予定です。
現在、定例ミーティングでは、地元企業の課題感の把握や共有を行っているほか、今後はスタートアップ界隈やイノベーション分野に関する勉強会なども開催したいと考えています。
直近では、2024年12月に、同じSTATION Aiパートナー拠点である東三河スタートアップ推進協議会さん、ウェルネスバレー推進協議会さんと合同で、プラットフォームとして初めてのオフィスアワーを開催する予定で動いています。
――直近での合同イベントも予定されているとのことですが、今後、STATION Aiパートナー拠点として取り組んでいきたいことがあればお聞かせください。
刈谷市・山田氏 : 私たちは「地元の中小企業のためにスタートアップの力をお借りする」という目的を持って動いていますが、STATION Aiのパートナー拠点として愛知県のスタートアップ・エコシステムに参画した以上は、STATION Aiに入居するスタートアップの支援にも、可能な限り取り組んでいくつもりです。
今後は、碧海信用金庫さんや商工会議所さんと緊密に連携しながら、スタートアップの皆さんの提案内容と地元企業の課題を十分に把握した上で、互いの期待値を損なうことのないよう、丁寧に両者をつないでいきたいと考えています。
碧海信用金庫・増田氏 : 当庫はSTATION Aiの入居企業でもあります。すでに100社以上の西三河エリアの企業様をSTATION Aiに招いており、各社様のために見学ツアーやスタートアップピッチを行うなど、STATION Aiと西三河エリアの企業をつなぐような取り組みを進めています。
STATION Aiは名古屋にあり、スタートアップも名古屋に集積していますが、名古屋だけで盛り上がるのではなく、愛知県全体にスタートアップ連携の活用を広めていき、各地域の機運を盛り上げていくような役割を果たしていきたいです。
刈谷商工会議所・杉浦氏 : 碧海信用金庫さんとは逆の動きになりますが、商工会議所としては、STATION Aiのスタートアップを刈谷市に招き、セミナーやピッチを行ってもらう機会を設けるなど、様々な形で地元企業とスタートアップがつながる場を作っていきたいと考えています。
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取材後記
『刈谷イノベーション推進プラットフォーム』の活動はスタートしたばかりだが、構成機関である刈谷市役所・碧海信用金庫・刈谷商工会議所の信頼関係は非常に強固であり、刈谷市および西三河地域のイノベーション・エコシステム形成に向けた3団体の決意と熱量が窺える取材となった。
また、今後はSTATION Aiパートナー拠点としての取り組みにも注目が集まる。プラットフォームを起点とするスタートアップ×地元企業との連携はもちろんのこと、西三河地域や愛知県全域、さらには日本全国の地域企業にとってのロールモデルとなるようなイノベーションが生まれることを期待したい。
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(編集:眞田幸剛、文:佐藤直己、撮影:齊木恵太)