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”幸齢社会”の実現を目指す大府市・東浦町の『ウェルネスバレー推進協議会』が「STATION Aiパートナー拠点」に――スタートアップ連携の積極的な推進で目指す未来とは?

”幸齢社会”の実現を目指す大府市・東浦町の『ウェルネスバレー推進協議会』が「STATION Aiパートナー拠点」に――スタートアップ連携の積極的な推進で目指す未来とは?

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愛知県は「Aichi-Startup戦略」に基づき、スタートアップ中核支援拠点「STATION Ai」と県内各地域の「STATION Aiパートナー拠点」とが相互に連携・協力し、県内全域にわたるスタートアップ・エコシステムの形成を目指している。

そして愛知県大府市と東浦町では、「あいち健康の森公園」とその周辺地区を「ウェルネスバレー」と名付け、2011年に「ウェルネスバレー推進協議会」を設立。ヘルスケア分野の実証フィールドに特化したオープンイノベーションのプラットフォームとして活動をしている。そのウェルネスバレー推進協議会が2023年9月、「STATION Aiパートナー拠点」となり、スタートアップ支援体制をさらに強化していくこととなった。

そこでTOMORUBAでは、ウェルネスバレー推進協議会を担当する戸田稔彦氏(大府市)と村上智恵氏(東浦町)にインタビューを実施。協議会の概要やスタートアップとの取り組み実績、そしてパートナー拠点として目指すことなどを聞いた。

【右】 大府市商工業ウェルネスバレー推進課担当課長 戸田稔彦氏

【左】 東浦町商工振興課商工観光係長 村上智絵氏 

大府市と東浦町、2つの基礎自治体により誕生した「ウェルネスバレー推進協議会」

――まずは、ウェルネスバレー推進協議会設立の経緯をお聞かせください。

戸田氏 : 愛知県大府市と東浦町には、健康・長寿に関する研究機関や施設が集積しています。まず1997年に県営の「あいち健康の森公園」が開園し、周辺地区から愛知県民の健康を推進する活動がはじまりました。そして2001年には「あいち小児保健医療総合センター」、2004年には「国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター」が設立されるなど、医療・健康関連施設が集積していったのです。

そうした背景から、大府市と東浦町が手を携え、2011年に基礎自治体発のコンソーシアム「ウェルネスバレー推進協議会」を立ち上げました。医療・介護関係機関、教育・研究機関を中心に構成されています。

▲「あいち健康の森とその周辺地区」で構成されているウェルネスバレー(画像出典:ウェルネスバレーの取り組みについて/ウェルネスバレーに関する広報資料より)

――ウェルネスバレー推進協議会では、どのような取り組みをしているのでしょうか。

戸田氏 : 理念としては「幸齢社会」の実現です。「ここに生まれて来てよかった」「ここで暮らしてきて幸せだった」と思える社会にすることを目標としています。取り組みの内容としては、健康づくり、医療、福祉、新産業育成、農と食という分野の中で、社会が抱える課題解決に向けた取り組みをしていきます。

――村上さんは昨年からウェルネスバレーの担当になったということですが、どのような印象をお持ちですか?

村上氏 : 私はもともと福祉分野に長く携わっていたのですが、現場の課題は複雑で、これまでは課題解決の糸口がなかなか見出せないということが多くありました。しかし、ウェルネスバレーでは、施設の方が視野を広げ、ロボットなど新しい技術を取り入れながら課題解決に取り組んでいる姿が見られます。既存のものだけではなく、新しいものを取り入れる姿勢が、素晴らしいと思っています。

現場のニーズが変わる中、スタートアップ連携を積極化

――続いて、ウェルネスバレーの発展に向けて、スタートアップ連携に取り組むに至った背景をお聞かせください。

戸田氏 : ウェルネスバレーはスタートアップに限らず、ヘルスケア分野の実証フィールドに特化したオープンイノベーションのプラットフォームです。たとえば、最近はトヨタ自動車さんなど誰もが知る大企業との共創も始めました。そういった中でなぜスタートアップとの共創が必要なのかというと、医療・福祉現場の課題の変化が一つの理由として挙げられます。

私たちにはアイデアボックスという、現場の課題を吸い上げる仕組みがあります。数年前は、用具や器具に対する課題が多かったのですが、最近はシステム系の課題が増えてきました。これまで、用具や器具の課題については、モノづくり系の展示会で探したり、商工会議所に「こういうことができるモノづくり系企業はないか」と相談したりするアプローチ方法をとっていました。しかし、システム系のアイデアの場合、そういったアプローチができないことに気が付いたのです。そうした課題は、ヘルステックやIT系、つまりスタートアップが多く参入している領域と組んで解決していく必要があります。そこで、スタートアップとの共創を積極的に推進していくことにしました。

また、愛知県もそうですが、日本全体、そして世界中でも政策資源がスタートアップに投入されていることが、もう1つの理由です。こうした潮流を取り入れることで、地元の力になりたいと考えています。

――スタートアップ連携による期待についてもお聞かせください。

村上氏 : 戸田さんともよく話しているのですが、それぞれの市町において地元の企業が抱えている課題を、スタートアップの技術や革新的なアイデアで解決していくことを期待しています。また、地域や行政が抱える課題も一緒に解決していったり、スタートアップと地元の企業がつながることで新しい事業が立ち上がったりなど、その地域に対応したサービスや技術で、活性化につなげていきたいですね。

――スタートアップ連携の取り組みは、どのように進めているのですか?

戸田氏 : 愛知県が主催するスタートアップ×地域のビジネス共創プログラム「AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM」に参加したり、AUBAのようなオープンプラットフォームを活用したりと、接点を増やしています。また、2023年1月には、ウェルネスバレー初のスタートアップイベント「Wellness Valley Startup Day 2023」を開催しました。スタートアップとの接点は、徐々に広がっています。

▲2023年1月31日に開催された「Wellness Valley Startup Day 2023」の様子(画像出典:ウェルネスバレーホームページ

――スタートアップの間でも、ウェルネスバレーの取り組みが徐々に浸透している実感はありますか?

戸田氏 : ウェルネスバレーの「ウ」の字くらいは認知されてきたという印象です。参加しているネットワークの中では、認知度もだいぶ上がってきました。しかし、県外のスタートアップの方とお話しする時は、やはりゼロから説明をしなければなりません。まだまだこれからですね。

ヘルスケアに特化した実証フィールドとして、既に複数の共創が誕生

――スタートアップ連携を進める中で、ウェルネスバレー推進協議会は、どのような支援を行っているのでしょうか。

戸田氏 : スタートアップに対しては、「実証フィールドの提供」、製品ローンチの際の「ウェルネスバレーブランド認定」、そしてプレスリリースやピッチイベントといった「広報」の3領域で支援をしています。

「実証フィールドの提供」には、大きな価値があると思います。ウェルネスバレーには様々な医療・福祉施設があり、サービスが本当に必要とされているのか、現場でユーザー視点を得ることができます。また、協議会の構成員として研究機関などスペシャリストが多く所属しているため、科学的・学術的な知見を提供できることも、スタートアップの方にとっては大きな魅力だと思います。

――ウェルネスバレー推進協議会における、スタートアップ連携の実績について教えてください。

戸田氏 : ウェルネスバレー推進協議会構成員との実証や連携事業については、2021年から多くの実績があり、スタートアップとの連携も生まれています。まず、福祉体験のマッチングサイトを提供するスタートアップ(株)musbunさんと、ウェルネスバレー内の介護施設との連携です。これによりmusbunさんの事業は福祉施設のみならず他の領域にも広がっています。

また、シニア向けアプリケーションつきタブレット「carebee」は、高齢者のデジタルデバイドの解決、認知症の予防、あるいは高齢者と社会とのつながりをつくるデバイスです。こちらを展開するHubbit(株)さんとの実証実験が、9月からスタートしています。

大府市の自動車関連部品メーカー(株)松尾製作所さんから生まれたスタートアップ(株)Field Allianceさんの事例もあります。こちらは、自動車業界での技術を応用した非接触消毒商品「SAWANNA」を、あいち小児保健医療総合センターと用途や課題抽出を行う実証実験を行ったものです。その結果、ある程度製品として確立でき、ウェルネスバレーブランド認定となりました。今後は、医療や介護だけではなく、飲食店にも展開すべく支援をしています。

また、VRリハビリツール「RehaVR」を展開する東京のスタートアップsilvereye(株)さんと、国立長寿医療研究センター健康長寿支援ロボットセンターとの連携により、VRを活用したリハビリ実証・体験事業が誕生しています。こちらも、ウェルネスバレーブランド認定の事業です。

村上氏 : 東浦町で実証を行ったのが、安城市の電気設備工事会社ワコー電気(株)発のスタートアップ、(株)ニコラスの、医福工連携マッチングです。ポータブルトイレの悩みを解決する泡スプレー「シューポン」の実証実験を、老人福祉施設で行いました。こちらは実証実験が終了し、ウェルネスバレーブランド認定に向けて進んでいるところです。

――ウェルネスバレーブランド認定の製品・サービスが少しずつ増えているのですね。

戸田氏 : スタートアップの方がウェルネスバレーブランド認定の価値を認めてくださっていると感じることも増えてきました。期待の高まりを個人的にも実感しています。協議会としてブランド価値を一緒に高め、事業を後押しできることは、とても嬉しいことですね。

――スタートアップに実証フィールドを提供する中で、どのような感想をお持ちですか?

村上氏 : やはり、スタートアップは潜在的なニーズへのアプローチが非常にうまいと思いました。施設側では「仕方ない」とあきらめていたことに対して、「こういう方法はどうですか」と提案し実証をすることで、「こんなものがあればいいね」と現場のニーズを顕在化していく様子を目の当たりにしました。私たちが実証フィールドを提供することで、現場の課題とスタートアップの技術・アイデアがつながり、ステップアップしていくと感じています。

「STATION Ai」との連携により、支援体制をさらに強化していく

――既にスタートアップとの連携実績も複数ある中で、なぜ「STATION Aiパートナー拠点」を目指されたのでしょうか。

戸田氏 : 今、スタートアップと連携しようとしている組織は、自治体・大学・企業など多種多様で、どんどん増えていると思います。そのなかでウェルネスバレーを選んでいただくには、「発信力」、ウェルネスバレーそのものの「ブランド価値」、そして「支援機能」、これら3つを引き上げていかねばなりません。「STATION Aiパートナー拠点」となることにより、それが実現できると考えたからです。

▲2023年9月、愛知県と連携・協力に関する覚書を締結。ウェルネスバレー推進協議会は尾張・知多地域初となる「STATION Aiパートナー拠点」となった。

――それぞれ、どのように向上させていけると考えていますか?

戸田氏 : まず「発信力」については、昨年の活動実績としてメディアのカバー件数は10件となっています。基礎自治体で10件というのは、頑張っている方だと思います。ただ、スタートアップ関連での露出はまだ少なく、知名度は高くありません。そこで、日本最大のスタートアップ支援拠点である「STATION Ai」と連携することで、スタートアップに対する発信力を上げていくことができるはずです。

「ブランド価値」についても、「STATION Ai」のようなシンボリックな場と組むことで、向上していくでしょう。ウェルネスバレーは全国的に見ても有数のヘルスケア実証フィールドだと自負していますから、「STATION Ai」で連携先を探すスタートアップの目に留まることを期待しています。

「支援機能」についても、「STATION Aiパートナー拠点」となることで、強化できます。私たちはヘルスケア実証フィールドに特化したオープンイノベーションプラットフォームであるべきだと考えていますので、実証フィールドに関わるところは自分たちで用意していきます。しかしスタートアップの専門家はいませんし、アクセラレータープログラムがあるわけでもありません。そこは自前で用意するのではなく、「STATION Ai」との連携でカバーしていくことが最適だと考えています。

――東浦町としても、これから強化していきたいこと、展望についてお聞かせください。

村上氏 : 大府市と比べると、東浦町はまだスタートアップに対するアンテナが低いです。だからこそ、これから私たちが情報を発信しながら気運を高めていくことが大切だと思います。ウェルネスバレー推進協議会という環境や立地を活かしていくことは当然のことながら、やはり大府市と東浦町それぞれの地域の強みをPRして、スタートアップに興味を持っていただけるようにしていきたいですね。スタートアップと地元の企業がつながれば、より大きな化学反応が起こると期待しています。

取材後記

スタートアップ支援体制について、「単独ですべてを用意する必要はない時代だと思う」という戸田氏の言葉が印象に残った。基礎自治体発で、医療・介護に関する機関や、大学、研究機関が名を連ねる「ウェルネスバレー推進協議会」は、ヘルスケア領域の実証フィールドとしては大きな強みを持つ。しかしスタートアップに対するメンタリングなどの機能は自前で持っているわけではない。

そこで「STATION Aiパートナー拠点」となることで、単独では持ちえなかった支援機能を強化していくことができる。スタートアップ支援体制自体も、オープンイノベーションで強化していくということだ。これからスタートアップ連携をさらに積極化するウェルネスバレー推進協議会の今後に注目していきたい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵)

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