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【JOIF2023セッションレポート】 セイノー×ハコベル――物流業界を革新する物流プラットフォームを目指し、ジョイントベンチャーを設立。共創を成功に導くコツとは?

【JOIF2023セッションレポート】 セイノー×ハコベル――物流業界を革新する物流プラットフォームを目指し、ジョイントベンチャーを設立。共創を成功に導くコツとは?

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9月29日〜30日の2日間にわたり、オープンイノベーションカンファレンス「Japan Open Innovation Fes 2023」(JOIF2023)が東京・渋谷にて開催された。約4年ぶりにリアル会場で実施された同カンファレンスは、多数のオープンイノベーション担当者や新規事業担当者が集結。多くの交流が生まれた。

本記事ではJOIF2023より、「セイノー×ハコベルから学ぶ、オープンイノベーション思考」をレポートする。2022年8月、ラクスル株式会社(以下、ラクスル)とセイノーホールディングス株式会社(以下、セイノーHD)は、ハコベル株式会社(以下、ハコベル)を共同設立した。運送手配サービスなど物流プラットフォームを提供するハコベルは、もともとラクスルの一事業部門。セイノーHDから出資を受ける形で分離独立し、ジョイントベンチャーとして新たにスタートした。

国内有数の物流企業であるセイノーHDは、なぜスタートアップとのジョイントベンチャーに乗り出したのか。提携にあたって、ラクスルとセイノーHDを隔てる壁はなかったのか。そして、提携の先に3社はどのようなビジョンを描いているのか。オープンイノベーションを成功に導くヒントに詰まったセッションの模様をお届けする。

登壇者はセイノーHD執行役員の河合秀治氏、ハコベル代表取締役CEOの狭間健志氏、セイノーHDのCVC「Value Chain Innovation Fund」の運用を担当するSpiral Innovation Partners代表パートナーである岡洋氏。モデレーターは、eiicon 執行役員の村田宗一郎が務めた。

<登壇者> ※写真左→右

・Spiral Innovation Partners 代表パートナー 岡 洋氏

・セイノーホールディングス株式会社 執行役員 オープンイノベーション推進室室長 兼 事業推進部 ラストワンマイル推進チーム担当 河合秀治氏

・ハコベル株式会社 代表取締役社長CEO 狭間健志氏

・株式会社eiicon 執行役員 Enterprise事業本部・公共セクター事業本部管掌 村田宗一郎 ※モデレーター

出資比率は50.1%:49.9%。セイノーHDとラクスルがジョイントベンチャー」を立ち上げた理由

セッションはハコベルの設立経緯からスタートした。ハコベルが事業を開始したのは2015年。印刷シェアリングプラットフォームを運営するラクスルの一事業として創業した。物流業界の「多重下請け構造」「低い生産性」などの課題に着目したラクスルは、荷主と運送会社を繋ぐ「運送手配サービス」や、運送会社のオペレーションをデジタル化する「物流DXシステム」を開発。サービスの提供を通じて、物流業界の課題解決に貢献してきた。

リリース以来、ハコベルは右肩上がりで成長を続け、創業から7年で売上高は50億円以上にのぼる。しかし、物流業界は売上高が数千億円規模の企業がひしめく巨大市場。業界全体にインパクトを与えるには、さらなる事業のスケールが求められた。ハコベル・狭間氏は、ジョイントベンチャーの設立には、そうした背景があったと説明する。

「順調に事業の規模は拡大していましたが、全国各地に営業拠点を展開するほどの資金力もケイパビリティも、私たちにはありませんでした。そこで、セイノーHDさんの強大な顧客基盤で、ハコベルのサービスを広げていただきたいと思ったのが、ジョイントベンチャーの設立に至る経緯です」(狭間氏)

2022年8月、セイノーHDとラクスルはジョイントベンチャーとしてハコベルを共同設立した。出資比率はセイノーHDが50.1%、ラクスルが49.9%。セイノーHDがマジョリティ出資を行い、ラクスル社の中でハコベル事業部長であった狭間氏が代表取締役CEOに就任した。この決定について、Spiral Innovation Partnersの岡氏は、「特異なジョイントベンチャーの事例だと思います」とコメントする。

「まず、これまで基本的には自前で事業・組織を拡大してきたラクスルが、ハコベルの分離独立を受け入れたのが一つ。さらに、セイノーHDが狭間さんを代表に招き、いわゆる『セイノー化』をしない意思を示したのが一つ。この2点を備えたジョイントベンチャーの事例はとても珍しいと思います。両社が相互にリスペクトを持っていなければ、成り立たない構図ですね」(岡氏)

「オープンパブリックプラットフォーム」で、物流業界の慢性的課題の解決を目指す

ここで、モデレーターの村田から狭間氏と河合氏に質問が飛んだ。「なぜ、お互いをジョイントベンチャーのパートナーに選んだのか」。国内に大手物流企業や物流プラットフォームを提供するスタートアップは数多い。そうしたなかで、なぜこの2社が提携に至ったのだろうか。まず、狭間氏は「最もコミットしてくれたのがセイノーHDさんでした」と説明した。

「私たちとしては、もしジョイントベンチャーを設立するのであれば、パートナーに最低でも数十%の資本参加を望んでいました。それほどのコミットがなければ、私たちが目標とする事業成長は見込めなかったからです。その点、セイノーHDさんは、最終的に50%以上の資本参加を決断してくれましたし、提携の検討案も非常に具体的でした。同時に、セイノーHDが目指す、業界・企業の垣根を超えたオープンプラットフォームという長期的なビジョンにも非常に共感しました。ラクスルも『仕組みを変えれば世界はもっと良くなる』というビジョンのもと、巨大産業をテクノロジーでよくする、という事業を志していたので、志の部分でも非常に共感できたのが大きいです」(狭間氏)

一方で、セイノーHDの河合氏は「当社の戦略上、ハコベルは重要な位置付けだったため、将来を見据えてしっかり資本参加すべきだと考えました」と話した。物流業界が直面する慢性的な課題を解消するためには、ハコベルと一体となった事業推進が必要不可欠だったという。

「現在、国内には約6万3000社の運送会社が存在しますが、その一方で営業用トラックの平均積載率は40%弱です。つまり、積載量の4割程度しか荷物を載せておらず、非効率が慢性化しています。従来は、こうした課題を各社ごとに解決しようとしていましたが、運送会社の分散が進んでいるため、なかなか成果が得られません。現状を打開するためには、業界全体で課題解決に取り組める社会性の高いプラットフォームが必要です。そうしたなかで、当社はオープンパブリックプラットフォーム(O.P.P.)を構想し、その共創相手としてハコベルが最も適任だと考えました」(河合氏)

O.P.Pとは、セイノーHDが構想する物流プラットフォーム。従来、運送会社の分散などにより分断していたバリューチェーンを、一つのプラットフォーム上で繋ぎあわせ、IT企業やスタートアップなどの業界外の知見を取り込みながら、物流業界の課題解決を目指す。このO.P.Pの構築に向けて、セイノーHDはハコベルとの共創を決断。過半数以上の資本参加による、ジョイントベンチャー設立に至った。

セイノーHDがハコベルを“品質保証”した。ジョイントベンチャーだから得られた成果

ハコベルの共同設立から約1年が経過し、セイノーHDにはハコベルの物流プラットフォームが急速に浸透している。今後は、社内への完全な定着を狙うとともに、社外への展開も進める。ハコベルの物流プラットフォームを導入する同業他社は増えつつあり、O.P.Pの構築に向けた滑り出しは順調だ。

ここまでの成果を振り返り、岡氏は「ハコベルさん単体では実現が難しかった成果だと思います」と指摘。セイノーHDの存在が、物流プラットフォームの普及に大きな役割を果たしていると話した。

「ハコベルが単体で物流業界に乗り込んで『物流プラットフォームを作りましょう』と提案しても、受け入れる企業は少なかったと思います、しかし、そこにセイノーHDが加わることで、受け入れやすさが一変しました。業界の有力企業が資本参加しているという信頼感は絶大だと思います」(岡氏)

この岡氏のコメントに、狭間氏も同調。「『セイノーHDが使っているなら』と、導入を決めてくださる同業他社は多いです。ハコベルのソリューションにセイノーHDが“品質保証”をしてくれたといっても過言ではありません」と話し、ジョイントベンチャーの成果だとした。

また、ハコベルの設立を契機に、セイノーHDにも変化がもたらされた。現在、セイノーHDはハコベルに出向者を送り出すなど、人材交流を積極的に行っている。これによる教育効果は計り知れないと河合氏は説明する。

「ハコベルに出向したメンバーに話を聞いたところ『仕事のスピード感がまったく違っていた』と驚いていました。大企業で長年勤務していると、スタートアップのスピード感や意思決定をなかなか経験できません。社員にそうした機会を与え、スキルアップを図る場としても、ジョイントベンチャーは有効だと思います」(河合氏)

一方で、出向者の存在は、事業拡大にも一役買っている。出向者はハコベルがセイノーHDやグループ各社などと繋がるためのハブ役を担い、セイノーHDとハコベルの懸け橋として重要な役割を果たした。「やはり大企業とベンチャー、まったく異なる会社同士が1つになって前に進もうという時に、出向をはじめとする人の交流は非常に大きかった。人的交流なくして互いの信頼関係は築けなかった」(狭間氏)

「契約で縛らなくても、目的さえ共有できていれば、ジョイントベンチャーはうまくいく」

セッションの終盤、モデレーターの村田は「なぜ、これほど共創がうまくいったと思いますか」と尋ねた。ハコベルは、セイノーHDが過半数以上の出資を行っているが、その一方でラクスル出身の狭間氏が代表を務めている。両社の関係はフラットであり、組織一丸となってハコベルの事業拡大に取り組んでいるという。なぜ、こうした絶妙なバランスが保たれているのか。河合氏と狭間氏は、大企業とスタートアップのそれぞれの立場から、共創を円滑に進めるポイントを述べた。

「当初から『既存のメンバーが動きやすい環境を作る』という点は留意していました。当社のルールや仕組みを押し付けて、事業の成長が止まってしまっては本末転倒です。そのため、組織体制はできるだけ維持したまま、ともに事業を創り上げていくことを意識しました」(河合氏)

「スタートアップ側としては、既存の体制を維持できるのは非常にありがたかったです。一方で、気をつかいすぎることとのバランスが難しかったです。今まで通り自由にと言われても、実際には親会社であり、送客してくれる超大口のお客様であるので、目に見えないことも含めたいろんな作法や制約がある中で、相手方の意向を忖度してしまうわけですね。そうしたときに、セイノーHDは『それは事業にとって正しい選択ですか』と何度も声をかけてくれました。その時に、セイノーHDの期待値は、自分たちの色に染めることではなくて、我々にしかできない新たなサービス・事業を生み出すことなんだということに改めて気づきました。その目的のため、スタートアップ側はもちろんガバナンスやルールは守りつつも、いい事業・サービスを作るという目的を常に最優先し、大企業のルールに気を使いすぎないことが大切だと思います」(狭間氏)

2023年、セイノーHDは「中長期の経営の方向性〜ありたい姿とロードマップ2028」を策定。2028年に向けた中長期の経営戦略を発表した。そのなかで、物流プラットフォームの構築は重要な位置を占めており、ハコベルの事業拡大も見据えられている。今後、IPOなども視野にセイノーHDとラクスルは連携を強化していく方針だ。

最後に、モデレーターの村田が登壇者に会場に向けたメッセージを求めると、3名はそれぞれの立場からジョイントベンチャーを成功に導くコツを述べ、セッションを締め括った。

「ご来場の皆さんには、ぜひハコベルの事例を自社内で広めてほしいです。『大企業がマジョリティ出資をしているにも関わらず、スタートアップに自由な裁量を与えたら事業が伸びた』と。VCの立場から見ても、ハコベルの事例は非常にエポックメイキングだと思いますし、業界を問わず、多くの大企業の役に立つはずです」(岡氏)

「私は、どちらがマジョリティでどちらがマイノリティといった上下関係ではなく、ともにチームを作っていくことが何よりも大切だと思っています。この事例の一番のポイントは、大企業とスタートアップが互いの立場を超えて、同じチームを作り上げたことに尽きるのではないでしょうか」(河合氏)

「大企業側が、厳しい契約条件を科して出資先を統制したいという気持ちは理解できます。しかし、目的さえ共有していれば、スタートアップ側に自由な裁量を与えても、事業は十分伸びていくと私は確信しています。そして、そうしたときにスタートアップ側は、大企業側に裁量を与えられていることをしっかり自覚して、感謝とリスペクトをもって大企業に接し、その感謝は大企業単独では生み出せないようないい事業・いいサービスを生み出すことで相手にも貢献し還元するんだという思いを持ってほしいと思っています」(狭間氏)

取材後記

「スタートアップは大企業に気を使いすぎてはいけない」。狭間氏から、この発言が出た直後、壇上の岡氏は「それはめちゃくちゃいい話ですね…」と感嘆の声を漏らした。ジョイントベンチャーという組織の壁を超えた取り組みにのぞむとき、最大の障壁は悪意や策謀ではなく「よかれと思って」の気づかいなのだろう。大企業とスタートアップという、規模や文化の大きく異なる二つの組織が真の意味で手を組むには、心の内を見せ合う正直さが何よりも求められる。そう気付かされたセッションだった。

(編集:眞田幸剛、文:島袋龍太、撮影:加藤武俊)

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