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【共創プログラムで「街」はどう進化するのか?】短期実装で成果を出せる、共創プログラムの手応えとは。

【共創プログラムで「街」はどう進化するのか?】短期実装で成果を出せる、共創プログラムの手応えとは。

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さまざまな産業×最先端テクノロジーによって、次々とイノベーションが生まれる都市を目指し、仙台市が取り組む「SENDAI X-TECH Innovation Project」。その一環として仙台市は、事業アイデアを社会に実装する共創プログラム「SENDAI X-TECH BUSINESS BUILD(ビジネスビルド)」を開催している。

今年度で3回目のプログラム型での開催となるが、今期のプログラムでは、コロナ禍で多大な影響を受けたエンターテインメント、スポーツ、飲食業界にフォーカスし、ニューノーマル時代の新たなビジネス創出に挑戦。「アフターコロナ最速実装都市」を掲げ、スピード感のある社会実装を目指している。

持ち寄ったアイデアをブラッシュアップするオンラインイベント「BUSINESS BUILD DAYS」の“その後”を追った前編に続き、後編ではパートナー企業3社(楽天野球団/ベガルタ仙台/ハミングバード・インターナショナル)と仙台市の各担当者にお集りいただき、今期プログラムの全体を振り返ってもらった。

ご参加いただいたのは、株式会社楽天野球団 一ノ瀬玲奈氏、株式会社ベガルタ仙台 磯田敦氏、株式会社ハミングバード・インターナショナル 青木聡志氏、仙台市 荒木田理氏の4名。ビジネスビルドを通して見えてきた「共創の可能性」とは。

※関連記事:仙台市を舞台に「ニューノーマルの最速実装」を目指す4つの共創プロジェクトの“その後”を公開!――「SENDAI X-TECH BUSINESS BUILD DEMODAY」


多彩な角度からの提案で、短期間で多くの気づきを得られたプログラム。

――まず、1月15日・16日の2日間にわたって開催されたオンラインイベント「SENDAI X-TECH BUSINESS BUILD DAYS」の感想についてお聞きしたいです。

楽天野球団・一ノ瀬氏: 丸2日間、非常に濃密な時間だったと記憶しています。さまざまな企業の意見やアイデアを聞ける機会は、社会人になるとそう多くありません。オンラインでの面談にたくさんの時間を割いたこと自体が、我々にとってニューノーマルでした。

チャレンジする企業にとっては、パートナー企業や仙台市と同時に意見交換をしながら、自らのアイデアを仕上げていかねばならなかったので、大変だったと思います。そんな中でも、各企業が積極的にヒアリングを行い、工夫を凝らしておられる様子が印象的でした。採択されなかった企業も含めて参加された皆さんが、有意義な時間だったと感じておられるのであれば、我々としてもうれしいです。


▲株式会社楽天野球団 プロモーション部 部長 一ノ瀬玲奈氏

ベガルタ仙台・磯田氏: 今回、初参加でしたが、こうした多様な企業と接点を持つ機会が、今まであまりなかったので、非常に貴重な2日間でした。いい出会いもありましたし、気づきもたくさんありました。「こんな角度から、こんな提案ができるのか」と驚くことも多かったです。

すべてを採用したい気持ちではありましたが、マンパワーの問題もありますし、じっくり取り組まないと失礼になると考え、1社(スピードリンクジャパン)を採択しました。現在、採択企業とともに、サポーターとの新しいタッチポイント創出に向けて取り組んでいます。


▲株式会社ベガルタ仙台 運営・事業本部 事業・営業部 営業課長 磯田敦氏

ハミングバード・青木氏: さまざまな角度から話を聞けて、非常によい機会でした。参加された皆さんには、飲食店に対して色々な切り口からアイデアを考えていただき感謝しています。

一方で、今後の課題だと感じた点は、仙台の企業からの応募が少なかったこと。仙台企業の参加が増えてくると、より共創という意味において密接に絡みながら、Win-Winの関係性を築きやすくなるのではないでしょうか。とはいえ2日間、とても有意義な時間でした。


▲株式会社ハミングバード・インターナショナル 代表取締役 青木聡志氏

――プログラムの主催者である仙台市は、どのような感想をお持ちですか。

仙台市・荒木田氏: ビジネスビルドを開催する前段階で、40件以上のご提案をいただきましたが、どの提案もコロナ時代に即し、パートナー企業の課題に真剣に向き合い考え抜かれたものばかりでした。一方で、青木さんのお話にもある通り、仙台の企業からの応募が少なく、我々としても課題感を持っています。仙台・宮城・東北から提案が増えるよう、地元企業の成長を後押ししていきたいです。

また、2日間のビジネスビルドに関しては、急遽オンライン(バーチャルオフィス「oVice」を使用)での開催となりましたが、スムーズに進めることができました。ニューノーマル時代の新しいツールを使うという意味で、私自身も勉強になりましたね。


▲仙台市 経済局産業振興課 主幹 荒木田理氏

それぞれの採択の決め手、PoCや事業化に向けての展望とは

――次に、採択の決め手についてお聞きします。楽天野球団は、3社(GATARI/toraru/D harbor)を採択されましたが、どのような点がポイントだったのでしょうか。

楽天野球団・一ノ瀬氏: ポイントは一貫していて「自社で取り組んだことのないこと」「自社では実現できないこと」を基準に選びました。それに当社の場合、PoCを行う際、社内向けではなく、実際スタジアムに来場されるお客様向けにサービスを体験していただくことになります。

ですから、我々にもそれなりの責任があります。そういう意味では、自信を持ってお客様に提供できるもの、ゼロから作り上げるというよりは、ある程度実績のあるもののほうが有利になったと思います。また、仙台市が主催するプログラムですから、街中に広げていけるかどうかも念頭に置きました。

――いつ頃、どのような取り組みを実施される予定ですか。

楽天野球団・一ノ瀬氏: 現在、3社のうち2社(GATARI/toraru)と取り組みを継続しています。GATARIさんとは「声でつながるスタジアム」をコンセプトとしたイベント、toraruさんとは「プレミアム打撃練習見学会」を実施する予定です。いずれも開発が絡む案件なので、今すぐの実施は難しいのですが、今シーズン中の開催を目指して、スケジュールを詰めながら進めています。

――スタートアップと共創するにあたって、気をつけている点などはありますか。

楽天野球団・一ノ瀬氏: やはり「費用対効果」ですね。楽天野球団はこの部分をかなり細かく指摘していると思います。「PoCで試しにやってみて終わり」なら指摘することもないのですが、今後サービス化した際や、スタートアップの方たちが他社に売りに行くとなったときに、「初期投資でいくらかかって、本当にその費用が回収できるかどうか」は大事なポイントです。手前味噌ではありますが、楽天野球団と関わることで、PLの考え方は深まるのではないかと思います。


▲楽天野球団は、様々な先進技術や新しいアイデアでスタジアムをエンターテインメントな場所にしようと挑戦を続けている。


――なるほど。ベガルタ仙台では、スピードリンクジャパンを採択されました。採択の決め手はどこにありましたか。

ベガルタ仙台・磯田氏: コロナ禍で私たちが直面している課題は、スタジアムへの来場者が減っていることです。私たちベガルタ仙台は、選手やOB、マスコット、チアリーダーなどと、直接触れ合えるイベントを提供させていただいていましたが、コロナの影響で実施が難しくなっております。

どのように来場者をスタジアムに呼び戻すのか、サポーターとのタッチポイントを増やすのかを考えたとき、スピードリンクジャパンが提供している「GayaR」が有効なのではないかと思い、採択に至りました。

「GayaR」に魅力を感じたポイントは、音声とチャットの双方向性です。音声同士でもなく映像配信でもない、音声とチャットの掛け合いに、興味を持ちました。

――いつ頃、どのような配信を予定しておられるのでしょうか。

ベガルタ仙台・磯田氏: 当初、今年4月の実証実験を目指していましたが、仙台市に独自の緊急事態宣言が発令されたことや、サーバー負荷に対する懸念があり、予定よりも少し遅れる見込みです。とはいえ、今シーズンの夏頃には実施したいと思っています。

配信内容としては、試合後にGayaR上で「オンライン反省会(飲み会)」を開催するというコンテンツを検討しています。元選手が音声の配信者となり、サポーターの皆さんにはチャットでご参加いただきます。「あのシーンよかったよね」と双方向で振り返るコンテンツを提供できれば、サポーターの皆さんに喜んでもらえるのではないでしょうか。オンラインなので人数の際限なくそれぞれの場所から参加できますし、サポーターは声を出さないので、コロナの感染リスクも低減できます。

また、スタジアム周辺の飲食需要が減っているという「街としての課題」もあります。それらとも掛け合せ、たとえばスタジアムから帰る途中にSELVA(スタジアム最寄りの商業施設)に寄っていただき、そこでひとり飲みをしながら、チャットで参加してもらうという方向に持っていけたらと思っています。これにより、周辺地域の活性化にもつなげたい考えです。


▲スピードリンクジャパンとの共創により、ベガルタ仙台や周辺の商業施設が抱える課題の解決を目指す。

――磯田さんは、スタートアップとの共創が初めてとのことですが、取り組みを通じてお感じになったことはありますか。

ベガルタ仙台・磯田氏: 皆さん意欲的で「あれやりたい、これやりたい」とガンガン来られます(笑)。元気のある方たちと一緒に取り組むことで、私たちも刺激になっていますね。当社はリソースや場を提供する側ではありますが、決して受け身にならず皆さんの想いにしっかり向き合って、いいものをお返しせねばと思っています。いい意味で、プレッシャーを感じていますね。

――ハミングバード・インターナショナルでは、地元企業であるミヤックスを採択されましたが、採択の理由はどこにあったのでしょうか。

ハミングバード・青木氏: コロナ禍で、飲食業のビジネスモデルそのものが危機に瀕しています。これに対処するには、小手先な販促策ではなく、根本から我々のビジネスを見つめ直すことが必要です。「枝の部分」ではなく「幹の部分」を、再構築しなければならないと感じていました。

再構築するためには、購買層など現状のデータを読み解き、次のステップにつなげていく必要があります。こうした考えから、今回はデータの収集・分析から活用、AIを使った需要予想まで、一緒に取り組んでいただけるミヤックスさんを採択しました。

加えて、飲食業界にはITリテラシーの高い人材がほとんど存在していません。このことをビジネスビルドでお伝えしたところ、プランをブラッシュアップしていただき、データ分析に長けた学生さんも、本取り組みにご参加いただけることになりました。この点も、採択に至った大きな決め手です。

――「人材」もセットで提案してもらえたことが、決め手になったと。

ハミングバード・青木氏: はい。IT人材をどれだけ取り込めるかは、これから飲食業界が勝っていくために重要なポイントです。今回、高度な専門知識を有する学生さんにデータ分析をご担当いただくことで、飲食というものが劇的に変わる可能性もあると思っています。もしかしたら、飲食業界において一つのサービスを構築できる可能性も秘めているのではないでしょうか。

――今後、どのように進めるご予定ですか。

ハミングバード・青木氏: 何月に何かを導入するというよりは、毎月定点で進捗を確認しながら、データをもとに商品設計や営業方法を、徐々に再構築していく考えです。これまでもデータの取得は行ってきましたが、部分的なものだったので、天候や気温といった外部要因も含めて多面的にデータを取得し、分析を行います。従来とまったく違う結果が生まれることもありえるのではないかと、非常に期待をしていますね。


▲ミヤックスと共創し、EBILABの提供する「TOUCH POINT BI」を用いて、POSデータ分析と来店予測を行う予定だ。(※画像はデモ画面)

共創は「短期実装で成果を出せる」時代に合った手法

――今期はコロナの影響で、新たな課題が次々と生じました。そうした状況下で事業共創に取り組んでみて感じた「共創の可能性」についてお伺いしたいです。

仙台市・荒木田氏: 今期はコロナ禍で厳しい状況にある業界の皆さんに、パートナー企業としてご参加いただきました。ですから、より短期間で実装ができて成果の出せる提案をいただかねばならないとの思いがありました。

そうした中、全国から数多くの提案をいただき、課題解決に直結するソリューションを選ぶことができました。事業共創は、中長期で仕上げていく共同研究などとは異なり、短期間で実装できる点がキーポイントです。この時代に合った手法だと思いましたね。

――たしかに、共創は「短期実装型」との見方もできますね。一ノ瀬さんは、共創のメリットをどうお考えですか。

楽天野球団・一ノ瀬氏: 何か新しいことに取り組まねばならないときに、自分たちだけでアイデアを練っても、一辺倒になってしまいますし、限られた範囲のアイデアしか出ません。色々な企業から多彩な提案をいただいたり、それを実現する際にスピード感を持って取り組めたりすることは、共創のメリットだと思います。

――なるほど。磯田さんはどうでしょうか。

ベガルタ仙台・磯田氏: コロナ禍は誰にとっても前代未聞の事態で、非常に難しい課題を投げかけられた状態でした。1球団や1リーグ、スポーツ界だけでは、とても乗り越えられるようなものではありません。そういう意味において、色々な考えや発想を組み合わせていく事業共創が、重要な役割を果たすと思いましたね。

――コロナ禍のように単独では太刀打ちができない「大きな課題」の場合、共創が価値を発揮すると。青木さんはいかがでしょうか。

ハミングバード・青木氏: コロナ前から共創やコラボレーションの重要性は感じていました。なぜなら、各企業に強み・弱みがありますし、リソースにも限りがあります。1社ですべてをまかなおうとするのではなく、共創でスピード感を持って進めることは、ビジネスを展開するうえで大切だからです。

こうした考えから、当社ではコロナ禍において、クラウドファンディングに取り組んだり、タクシー会社と提携して「タクデリ」というサービスを開発したりしました。自社単独ではなく何百店舗が一緒に活動したことで、注目を集められましたし、集客につなげることもできました。こうした取り組みからも、共創の重要性や可能性を、身をもって感じています。

――共創に「注目度や集客力を高める効果」があったと。ビジネスビルドは、今後どのように発展していくと、より有意義なものになりそうですか。

ハミングバード・青木氏: 今回のビジネスビルドについては、我々が提案を受ける側で、1対1の関係性でしたが、パートナー企業、サポーター企業を含めて、もう少し面的にビジネスプランを広げていけると、おもしろくなると思います。たとえば、「楽天さんと当社」や「ベガルタ仙台さんと当社」をクロスする中で、出てくるビジネスアイデアもあるかもしれません。間をつなぐものがテクノロジーだと思うので、そこに必要な技術をスタートアップの皆さんに求めるような形もできるのではないでしょうか。

――なるほど。最後に荒木田さんより、共創によってどのような街づくりをしていきたいのか、メッセージをいただきたいです。

仙台市・荒木田氏: たとえば、「仙台市の泉中央地区は、ベガルタ仙台さんを中心に特色のある街づくりをする」「仙台駅東口周辺は、楽天イーグルスさんを中心に特色のある街づくりをする」というように、エリアを起点とした街づくりができればと思っています。それらの起点から、テクノロジーを使ったサービスが市民へと広がり、市民サービスが向上することを期待しています。そして、街の活性化や新規ビジネスの創出に発展させたいです。

そのためには、色々な業種の人たちが共創でビジネスを創出する場であったり、実証をするフィールドが必要です。行政としてできることは、フィールドの提供や各企業をつなぐ機会の提供ですから、引き続き注力していく考えです。また、アイデアは実装しなければ意味がありません。市として実装までをしっかりとサポートしていく予定です。将来的には、この取り組みから生まれた事例が、仙台をはじめ全国で同じ悩みを抱える人たちにとって、モデルケースになり、希望となることを願っています。

取材後記

短期実装が可能な共創という手法が、コロナ禍において従来以上に効果を発揮したのではないかと感じられる取材だった。3回目を迎える本プログラムだが、過去のプログラムからは、街を巻き込む形で新たなサービスが続々と生まれ、すでに社会に実装されている。「アフターコロナ最速実装都市」を掲げる仙台市から、ニューノーマル時代を象徴する新たなビジネスが生まれ、実装される日も近いのではないだろうか。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)