コーセーの共創プログラム・デモデイ開催 | 量子コンピューティングで化粧品づくりを進化させる提案を採択!
化粧品の製造・販売を手がけ、40以上のブランドを展開している株式会社コーセー。同社の中に蓄積されたリソースと、広くオープンに募集した社外の力を組み合わせ、共創による新たな価値創造を実現することを目的として、2018年6月よりアクセラレータープログラム「コーセーとの共創における Innovation Program」をスタートさせている。
同プログラムで募集したのは、「デジタル×美」「美×先端技術」を軸に、今後連携を強化していきたい3つの領域(①テクノロジーを活用したユーザーコミュニケーション、②新しい美容サービスの創造、③先端技術・素材によるプロダクト・サービス開発)でのアイデアだ。
スタートアップ企業80社以上の応募があり、その中からコーセーの選抜社員が加わった6つの「共創チーム」が2018年10月の中間答申会に挑み、MDR/アロバ/Insight Tech/ASTERISKの4チーム(以下詳細)が通過。――その模様は以前の記事でお伝えした。
■MDR株式会社
2008年設立。量子コンピュータのアプリケーション、ミドルウェア、ハードウェアをフルスタックで開発。
■株式会社アロバ
2015年設立。”みえるをカタチに”をコンセプトに掲げ、ネットワークカメラ管理ソフトウェア事業を手がける。
■株式会社Insight Tech
2012年設立。同社が手がける「不満買取センター」で独自に収集した生活者の声を、最先端のAI技術を駆使して解析。課題解決に役立つ統計的な示唆を抽出するサービスを提供している。
■株式会社ASTERISK
国際市場での不動産関連取引での専門的なバックグラウンドをもとに、日本の不動産市場へ投資する海外金融機関・機関投資家・個人投資家、及び国内投資家に対して幅広いサービスを提供している。
上記の4チームは中間答申会後にリサーチや検証などを繰り返し、アイデアをブラッシュアップ。2019年1月30日に開催されたデモデイでそれぞれのプランをプレゼンテーションした。――デモデイでは、コーセーの代表取締役社長・小林一俊氏を初めとする役員から構成されるメンバーに加え、外部有識者として株式会社WiLのGeneral Partner・松本真尚氏が加わった審査委員が各プランを評価。
審査基準としては、市場への差別性・優位性や実現性があり、当社とスタートアップ企業の双方にとって協業に意義があるかという点を重視した。ファシリテーターには、中間答申会に引き続き、株式会社インキュベータの石川明氏を迎えた。
トップがコミットしている共創プログラム。
デモデイの冒頭で、WiL・松本氏が挨拶。「数々のアクセラレータープログラムの審査員などを担当してきたが、今回のプログラムは小林社長を筆頭に経営幹部が全員参加しているのは非常に珍しい。トップマネジメントが新しいものを生み出すことにコミットしているし、本気度の高い取り組みだと感じる」とコメントした。
▲株式会社WiL General Partner・松本真尚氏
また、ファシリテーターを務めるインキュベータ・石川氏は中間答申会後に4チームに伴走。「デモデイまでに各チームが、新しい価値を生み出すプランを仕上げてきた。今日は真剣な事業提案の場になる」と話し、4チームのプレゼンテーションに繋いだ。
▲株式会社インキュベータ・石川明氏
各チームは、デモデイまでの短い期間の中で、テストマーケティングの実施や試作品の作成、プランの精度を高めるためのヒアリングなどに注力。中間答申会で提示したプランに、さらに磨きかけており、審査委員に対して熱意の溢れる提案を行った。
▲コーセーの社内ベンチャー制度である「Link」の社内公募により、部門の垣根を越えて選抜された意欲的な人材を起用。スタートアップ企業とコーセー社員の共創チーム体制によって取り組んでいるのが本プログラムの特徴だ。
▲コーセーの経営トップたちが審査委員として、各プレゼンテーションを真剣に聞き入れ、評価した。
採択されたのMDRチームの「きれいCAD構想」!
4チームによるプレゼンテーションの終了後、予定時間を超える白熱した審査を経て、採択された企業が発表された。――採択されたのは、わずかに1社。量子コンピュータに強みを持つ、MDRチームとなった。
同チームが提案したのは、「きれいCAD構想(CAD;Computer−Aided Design)」。コーセーが70年間に培った研究開発を進化させた「新しいモノづくり」を実現する提案となっており、量子コンピューティングの最先端技術をコーセーのR&Dに取り込み、「人間とコンピューターとの共創」によって、これまでに無いモノづくりにつなげるだけでなく、ヒトの可能性そのものを拡張していくというものだ。
採択されたMDRチームのプランについて、コーセー代表取締役社長・小林一俊氏は次のように話した。「私たちが手がけている化粧品というものづくりにおいて、大きな夢を感じさせるプラン。審査委員の満場一致で決定した。新しい研究所が本年稼動するという中、従来の延長線上にない“モノづくり”につながると期待している」。
さらに外部審査員のWiL・松本氏は、「4チーム共に、誰がスタートアップの担当者で誰がコーセーの社員かが見分けがつかないくらい、両者が良い補完関係になっていると感じた。また、各チームともにテックな事業プランを提案していて、デジタルトランスフォーメーションに真摯に向き合っている。イノベーションを起こそうという熱意を感じることができたプログラムだった」と感想を述べた。
これからMDRチームはコーセーと二人三脚となって提案プランの実用化に向け、前進していくこととなる。実際にどのような形でコーセーのものづくりに実装されていくのか、引き続き注目していきたい。
また、コーセーでは人々のより豊かで充実した生活を、「美」によって実現することを目指し、アクセラレータープログラムだけでなく、スタートアップとの協業によるオープンイノベーションの取り組みを幅広く進めていく方針だ。次回のアクセラレータープログラムに向けても検討を行い、実施の際は広く募集していくという。
(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:古林洋平)