気鋭の採択5社が集合。3/18に迫る「IBM BlueHub」DemoDayで披露するビジネスとは?
日本IBM(以下IBM)が展開する「IBM® BlueHub」では、国内スタートアップの事業を支援するインキュベーション・プログラムを実施している。第5期となる今回は「テクノロジーによる日本発の革新的事業の創出」をテーマに掲げており、2018年10月に「プロジェクト型海外展開プラットフォーム」「疲労分析サービス」「SaaS型RPA」「口腔内情報によるデンタルチェック」「通話内容の記録・分析・自動入力サービス」といった事業を展開する5社が選定された。
半年間のメンタリング期間を経て、ビジネスやプロダクトの進捗・成果を発表するDemoDay(※)の開催を3/18に控えた2月某日、5社の代表メンバー、中心メンバーの方々にお集まりいただき、IBMのインキュベーション・プログラムを選んだ理由や現在のビジネスの状況、IBMやVCからのメンタリングで得られた成果、DemoDayに向けた意気込みなどについて伺った。
※3/18(月)15:00〜18:40、東京ミッドタウン日比谷 BaseQにて開催。詳細はコチラをご覧ください。
▲株式会社IMPAKT 代表取締役 朽木恵子氏
事業:中小企業とプロ人材をつなぐプロジェクト型海外展開プラットフォームの運営
▲株式会社グレースイメージング 取締役CBO 林田大造氏(上写真)/取締役COO 藤岡昌泰氏(下写真)
事業:MRIおよび乳酸の測定による疲労分析サービスの提供
▲株式会社チュートリアル 代表取締役 福田志郎氏
事業:SaaS型RPA「Robotic Crowd」の提供
▲歯っぴー株式会社 代表取締役 小山昭則氏
事業:口腔内情報を価値へ変換するデンタルチェックの提供
▲pickupon株式会社 代表者 小幡洋一氏
事業:通話内容を記録・分析し、SFAへ自動入力するサービス「pickupon(ピクポン)」の提供
数あるプログラムの中から「IBM BlueHub」を選んだ理由
――現在、大手企業などが積極的にスタートアップの支援プログラムを開催しています。まずは、数あるプログラムの中から「IBM BlueHub」を選んだ理由やキッカケについて教えてください。
IMPAKT・朽木氏 : IBM BlueHubの第3期採択企業であるアンター株式会社の中山代表と私たちは他のアクセラレーター・プログラムの同期でした。アンターと当社はマッチングビジネスを手がけているという共通点もあって互いに知った仲だったのですが、中山さんから「VCとIBMの社員が徹底的にサポートしてくれる」とIBM BlueHubを推薦いただいたことが大きなきっかけになりました。
また、アンターがIBM BlueHubに採択されたときは本当にアイデアだけで参加していたのですが、その彼らが僅か5カ月でサービスをリリースするという圧倒的な成長を実現していたことからも、リアリティを持ってIBM BlueHubの良さを感じていました。
グレースイメージング・林田氏 : 私たちは2018年7月に会社を設立しましたが、ベースとなるテクノロジーはあったものの、ビジネスの立ち上げについては試行錯誤している状態でした。とくにCEO、CTOが大学の医学部の先生なのでビジネス経験がないこともあり、このようなプログラムを通じてサポートを受けるべきだろうと考えていました。また、私たちはMRIという医療系の画像をベースにしたサービスを展開するつもりですので、将来的には画像解析でAIを使わなければならないだろうとも考えていました。「AIと言えばIBM」というイメージを持っていましたし、IBM BlueHubに採択されればIBMのAI技術を無料で活用することができますからね。
チュートリアル・福田氏 : 私は第4期の採択企業だったコネクテッドロボティクス株式会社の沢登代表と高校の同級生だったので、彼の紹介でIBM BlueHubを知りました。テクノロジー、ビジネス、ファイナンスという3つの側面からサポートを受けることができ、彼の会社の事業にその3つが非常に上手くハマったのを知っていたので、これはいいなと思ったんです。
また、私たちは2018年9月にサービスをリリースしていたのですが、RPAは大規模ベンダーのシェアが非常に高い状況だったので、ビジネス面でのアドバイスがほしいと考えていました。さらにはテクノロジー面に関してもロボットは機械学習がキーワードとなっている部分もあるので、そうした面でもIBMの技術を活かしたいという期待を持って応募しました。
――4期以前のIBM BlueHub採択企業の方々からご紹介を受けて…というパターンが意外に多いことに驚きました。歯っぴーの小山さん、pickponの小幡さんはいかがですか?
歯っぴー・小山氏 : 私もBlueHubの第1期採択企業であるテラスマイル株式会社の生駒代表からご紹介いただきました。当社はハードウェアを中心としたスタートアップであり、ソフトウェア領域に苦手意識を持っていたのですが、生駒さんからBlueHubについてお聞きしたので「とりあえず申し込んでみよう」という軽い気持ちで応募したのがきっかけです。
私たちはこれまで物理的な検査に頼っていた歯周病などのチェックを画像だけで判断できるサービスを提供しようとしているのですが、検査の精度を上げることに苦労していたので、IBMのAI技術を活用することで検査制度を向上させたいという期待はありました。
pickpon・小幡氏 : 私は普通にググって知りました(笑)。応募理由としてはIBMのメンター陣の中に自然言語処理など、当社の事業・技術領域において注目すべき技術者・研究者の方々が多数揃っていたことが大きいですね。私たちが進めようとしている事業には音声認識エンジンを使った自然言語処理が必要なのですが、IBMの技術との親和性が 非常に高いですし、専門家の方々から直接話を伺えるのではないかと考えました。
IBMやVCのメンタリングによってビジネスはいかに進化したか
――プログラム開始から約4カ月が過ぎようとしていますが、このメンタリング期間で自社のビジネスやサービスがどのように変化・進化したかについて教えていただけますか?
IMPAKT・朽木氏 : 私たちは中小企業とグローバル人材というツーサイドのマーケットを見ながら両者をマッチングさせていくというサービスを展開しているのですが、「そもそも企業側に刺さっているのか」という部分でソリューション自体の検証が必要だと考えていました。
そこで、プログラム開始を機に、一度すべてを壊してゼロベースからスタートしようということになったのです。プログラム開始直後から毎週のようにユーザーヒアリングを重ね、メンターの方々からも多様な視点からフィードバックをいただいて試行錯誤をした結果、現時点で企業向けのUXを大幅に改善することができました。これはプロダクト的には大きな成果であると考えています。
――IBMやVCのメンターからのアドバイス、サポートでとくに助かったことなどはありますか?
IMPAKT・朽木氏 : 不確実性の高い状況の中で答えを探さなければいけない場合、どうしても考え方が一点に集中してしまいがちになるんです。そうした凝り固まった考え方を2週間に一度リセットしてくれる場があるだけでも助かりました。「こんな考え方、こんなアプローチの方法があるんだ」と気づかされることも多かったですし、私たちが一番苦しんでいるときにIBMの経営コンサルタントの方をアサインしてもらったり、VCの方からマーケットに関するアドバイスをいただいたりもしました。
――グレースイメージングさんはどうですか。
グレースイメージング・林田氏 : 私たちの会社にはデザインを考えられる人間がいません。そこで案の定壁にぶつかったのがUIデザインだったのですが、IBMさんに相談したところ、IBMのUIデザイナーの方にサポートいただけるということになりました。実際にデザインシンキングのワークショップなどを開いていただけたことでUIデザインに関する考え方を学ぶことができ、ようやくサービスとしてのUIが固まってきたかなという感じです。また、画像認識に関してはIBMのVisual Recognitionを活用させていただくことで、AI解析によるサービス提供の可能性が見えてきたというのも大きな成果ですね。
――チュートリアル・福田さんはいかがでしょうか?
チュートリアル・福田氏 : ビジネス面については、ターゲット顧客の絞り込みからご協力いただきました。以前は大企業への提供、ソリューションベンダーとの協業、大規模BPOへの導入などを考えていたのですが、メンターの方々とのブレストやインタビューを重ねていった結果、私たちのターゲットはRPAの既存マーケットではなく新興のWeb企業に上手くマッチすることを実感しました。現在はそうした企業に対する営業に注力しているのですが、大企業相手の営業とは違ってスムーズに話が進むので営業効率も上がっています。
――テクノロジー面でのサポートはありましたか?
チュートリアル・福田氏 : 私たちのサービスはソフトウェアなのでサポートを充実させたいと考えており、IBMのチャットボットを活用するための検証を進めているところです。現在もチャットでユーザーサポートを行っているのですが、チャットボットを使うことで簡単な質問に関しては24時間対応できるような体制にしたいと考えています。
――歯っぴー・小山さんはいかがでしょうか。IBMのAI技術で検査の精度を上げたいということでしたが。
歯っぴー・小山氏 : これまでオフラインの画像処理で行っていたことをIBMのAIによってオンラインで行うための検証を進めています。これから詰めていかなければならない部分も多いのですが、IBM BlueHubのメンタリング期間中に検査の精度が大きく向上しました。私たちは精度のことを「確度」と呼んでいるのですが、プログラム開始前に60%程度だった確度が現在では90%近くまで上がっていますからね。IBMの技術者の方々にさまざまな視点からアドバイスを受け、技術の使いこなし方を学ばせていただいたことが何より大きいと感じています。
――ビジネス面でのメンタリングはいかがでしたか?
歯っぴー・小山氏 : 「誰に、どのような価値を提供するのか」という部分についてはVCのメンターさんに徹底的に叩き込まれました。現在もターゲットセグメントに関する議論を重ねているところであり、プログラム卒業後も含めて継続的に追求していかなければならないテーマだと考えています。
――pickpon・小幡さんはどうですか?
pickpon・小幡氏 : あらゆる場面で、専門家やキーマンに一瞬でつないでいただけることに驚きました。例えばVCのメンターさんは当社の事業の話をした段階で「この人と話をした方がいい」と、その場でfacebookでつないでくれました。
また、私たちのサービスはSalesforceとの連携がポイントになっているのですが、IBMの社内でSalesforceの導入支援に関わっているチームの方を紹介いただき、インタビューをさせてもらったこともありますし、私たちが使わせてもらっているIBMのPersonality Insightsを開発した自然言語処理系の研究者の方ともつないでいただきました。自分たちのアプローチが正しいのか、間違っているのかについて、第一線で活躍している研究者の方から話を聞き、アドバイスをいただけていることは私たちの事業にとって大きな意義を感じていますね。
スタートアップ5社が実感する「IBM BlueHub」の最大の特徴は?
――他社のプログラムに参加された方もいらっしゃると思いますが、IBM BlueHub独自の特徴・メリットはどんなところにありますか?
pickpon・小幡氏 : 私が以前に参加したプログラムのメンタリング期間は3カ月程度でしたが、BlueHubは半年の期間がありますし、IBMのテクノロジーを活用できる点が大きいと思います。
チュートリアル・福田氏 : 私はメンタリングを通してVCさんとフランクに話せる機会を持てたことが良かったですね。IBM BlueHubを通じてVCさんとの良い関係を築くことができたので、プログラム終了後も継続的にやり取りをさせていただこうと思っています。
IMPAKT・朽木氏 : これまで私たちは中立性の高い自治体や公共機関のプログラムにしか参加していませんでしたが、 IBMの場合はテクノロジーの会社ですし、ニュートラルな形で支援いただけると考えて参加を決めました。また、今回の「テクノロジーによる日本発の革新的事業の創出」というテーマにも共感できましたし、テクノロジーとビジネスの両面でサポートを受けられたことは、私たちにとって非常に有難い機会となりました。
歯っぴー・小山氏 : IBMというとかつてはハードウェアの会社というイメージがありましたが、現在はソフトウェアが非常に強い会社ですよね。私たちが苦手としている領域をしっかり補完していただけていると感じます。
グレースイメージング・林田氏 : 私たちはこのようなプログラムに参加するのは初めてですが、VCの方々のメンタリングに対するコミット力が高いと感じていますし、IBMのテクノロジー関係の方、戦略コンサルタント、あるいは先ほどお話ししたUIデザイナーなど、想像以上にさまざまな専門分野の方々からご支援いただけることに驚きました。テクノロジー、ビジネス、さらにはIBMの顧客ネットワークの活用など、会社やサービスを立ち上げていくために必要なリソースをここまで潤沢に提供してもらえるプログラムは珍しいのではないかと考えています。
グレースイメージング・藤岡氏 : また、メンターの皆さんが私たちと同じチームの一員として、グイグイ中に入ってきてくれるという印象を受けました。お会いするのは2週に1回程度ですが、Slackなどで絶えず情報交換しているような状況なので本当に距離が近いんですよ(笑)。
――最後になりますが、3/18に迫ったDemoDayへの意気込み、来場者の方々に見ていただきたいポイントなどについてお聞かせください。
IMPAKT・朽木氏 : プログラム開始前と現在とでは事業が大きく変わっているので、その進捗を見ていただきたいと思っています。また、当社は金融機関とのアライアンスを強く求めていますので、そうした方々に当社のビジネスを知っていただきたいですし、事業を一緒に作り上げていけるようなパートナーと出会いたいと思っています。
グレースイメージング・藤岡氏 : デモ機の製品化を進めているところなので、その成果をお見せしたいですね。
グレースイメージング・林田氏 : 私たちはスポーツの分野で今までになかったようなサービスを提供するために努力しています。最先端のスポーツに求められているテクノロジーを知っていただくとともに、多くの企業の方々に協業の可能性について考えていただきたいと思います。
チュートリアル・福田氏 : 私たちのサービスのリリースは、IBM BlueHubのプログラム開始時期と重なっています。プログラムを経て、サービスがどのように進化したかについてご紹介したいと思います。
歯っぴー・小山氏 : 私たちのサービスをご紹介することで「未来の健康診断がどのように変わるのか」について少しでもイメージしていただければいいなと考えています。
pickpon・小幡氏 : 私たちはプログラム開始3カ月目でプロダクトを完成させました。現在は「完成したプロダクトをどんなところで使っていただこうか」ということを考えるフェーズにあるので、DemoDayはプロダクトのお披露目の場として非常にタイミングがいいんです。デモもお見せできると思うので、プログラムにおける成果を見ていただきたいですね。
取材後記
2014年に始まった「IBM BlueHub」のインキュベーション・プログラムも今回で5期目を迎える。IBMの高度かつ広範囲をカバーするテクノロジー支援はもちろん、経営・戦略コンサルタントによるビジネス面でのメンタリング、VCによるファイナンス面のメンタリングを受けられることもあり、ベンチャーやスタートアップの関係者はもちろん、オープン・イノベーションを実践しようとしている大企業からの注目度も期を追うごとに高まっている。
2018年10月のプログラム開始から僅か4カ月余りで採択企業5社の事業やサービス、プロダクトは大きな変化と進化を遂げている。事業の方向性はバラエティに富んでいるが、いずれも将来性が高く、可能性を秘めたスタートアップであることは間違いない。DemoDayに向けて5社のメンバーとメンターは、ビジネスやサービスの完成度を高めるための追い込みに入っている。大手企業の新規事業担当やVC関係者の方々は、ぜひDemoDayに足を運び、彼らの成果を見届けるとともに共創の可能性を探っていただきたい。
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【IBM BlueHub Incubation Program Demo Day】
3/18(月)15:00〜18:40、東京ミッドタウン日比谷 BaseQにて開催。詳細はコチラをご覧ください。
(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:古林洋平)