ソニー・ミュージックエンタテインメント | アクセラレーションプログラム「ENTX」デモデイを開催!エンタメの爆発を予感させる7社のピッチをレポート。
設立50年を機に開かれた、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)のアクセラレーションプログラム「ENTX」(Entertainment Explosion)は2018年12月、東京都千代田区のSME六番町ビルでデモデイが開催され、採択された7社が6分間のピッチを実施した。
同プログラムは、SMEが培ったエンタテインメントのノウハウとスタートアップの斬新なビジネスアイデアを掛け合わせることで新たな価値を爆発的に生み出せるのではないか、との思いが込められている。2018年8月からエントリーを受け付け、約90社の応募があった。10月からはメンターと共にアイデアを磨き上げてきた。
デモデイの冒頭、経営企画グループ 事業創発推進チームの古澤純氏が登壇し、挨拶。「これまではCDやDVDなど『箱』にコンテンツを閉じ込めてきた。今後は箱を取り払い、外の世界に飛び出していきたい」と決意を語った。また、審査は【企画の魅力度】(事業新規性・市場の魅力度・実現可能性の総合判断)と【爆発力】(解決している課題の深さやインパクト、SME との相性、プログラムでの成長度合)の2つの基準で行われることが伝えられた。
なお、審査に関してはSMEの代表・水野氏をはじめとした下記の9名が務めた。
■SME 代表取締役 CEO 水野道訓氏
■SME CFO / コーポレートEVP 今野敏博氏
■SME コーポレート EVP 関島慶典氏
■SME コーポレート SVP 渡辺和則氏
■SME コーポレート SVP 石川恵子氏
■アーキタイプ 代表取締役 中嶋淳氏
■タグピク 代表取締役 安岡あゆみ氏
■バスケット代表取締役、ストライプインターナショナル CDO、エンジェル投資家 松村映子氏
■電通 CDC Future Business Tech Team 部長 事業開発ディレクター 中嶋文彦氏
ピッチの詳細と結果は以下にレポートしていく。
映画を観る仲間を見つける「Cinemally」
Stand By Me inc. 奥野圭祐氏
同社は一緒に映画を観る仲間を見つけるマッチングアプリ「Cinemally」(シネマリー)を開発。映画ファンは多いものの、現状、ほとんどの日本人が映画館に足を運ばないという点に着目した。
中でも、「一緒に行く人がいない」という人が多い状況を受け、「誘われ待ち市場」の創出に取り組む。Cinemallyでは見たい映画を登録し、同じ思いを持つ人とのマッチングが図れる仕組みだ。この結果、「年に数回映画館に行く」という人が増えれば、それだけで市場は一気に膨れ上がる計算になる。また、映画に限らず、他のエンタメ市場に横展開することが可能なのも特徴の一つとなっている。
奥野氏は「すべての人の隣に仲間がいる社会を創出したい。誘われ待ち市場の創出は、エンタメ業界の盛り上がりにつながると確信している」と意気込む。マネタイズは「ユーザー課金」「広告収入」「電子チケット決済・発行」を視野に入れている。
外国人旅行者の胃袋を掴む「FOOD PLAYLIST」
株式会社Super Duper 鈴木知行氏
同社は店舗での食事体験をシェアするアプリ「FOOD PLAYLIST」を開発。インバウンドが盛り上がりを見せ、日本食を楽しみにしている人が多い一方で、食事を楽しめている人が実は少ないという状況に着目した。同社によれば、その大きな要因は、メニューの文字や写真を見ても「知らないものは注文しづらい」ことにあるという。
同アプリでは、使用者が注文したメニューを写真と共に時系列に並べることで、一種のレコメンド機能を果たす。ホテルのスタッフが、旅行者に同アプリを通じ食事を提案することも可能だ。なお、既に173店舗に導入済み伝えられた。
鈴木氏は「エンタメの力で、外国人の心と胃袋を満たしたい。また、海外での展開も視野に入れている」と熱意を見せた。なお、マネタイズはデータの活用にあるとのこと。アプリを通じデータを収集し、その上で、店舗やホテルなど顧客獲得などの提案をしていくと話した。
子どもたちのスポーツ能力をデータ化し、スポーツへの可能性を広げる
ファンタムスティック株式会社 ベルトン・シェイン氏
同社は子どもの運動能力を開発・向上させるAIトレーナーアプリを開発。きっかけはゴールデンエイジと言われる時期に、子どもの運動能力を開発することに難しさを感じたことにある。アプリでは、まず子どもの基礎的な運動能力を向上させ、かつデータを収集する。次の段階としてどの競技が向いているかをデータをもとに分析する。その上で、動画を通じ指導者のレッスンを受けられる仕組みだ。アプリでは、指導者の活躍の場を広げる役割も持つ。
マネタイズは動画コンテンツの利用料のほか、将来的にはスポーツイベントなどリアルな場からの収益を視野に入れている。その際に、SMEとの協業が一つの重要なポイントになるという。シェイン氏は「子どもたちにとってスポーツがより身近になり、夢中になって自主的に取り組める世界を創出したい」と意気込みを語った。
旅行で役立つ情報を1分程度の動画で配信する「Dive Japan」
株式会社レアリスタ 和田ダイスケ氏
同社は、旅先で役立つ情報を1分程度の動画で配信する訪日外国人旅行者向け動画サービス「Dive Japan - 1minute Travel Guide」を開発。旅前の一番の情報源は個人ブログであるが、現状テキストでの発信がほとんどだ。同社では、テキストに比べ圧倒的に多くの情報を伝えられる動画を活用する。
同アプリは既にリリース済みで、国内の代表的なテキスト系のインバウンドメディアに比べて約5倍のエンゲージメントが取得できているという。プログラムの期間中にSMEとの協業で、萌えキャラ、イケメンキャラによるガイドなどを作り上げた。この結果、再生数が倍になるなどの成果を残した。
なお、マネタイズについてはまずは広告、将来的には「オンライントラベルエージェンシー」を目指す。和田氏は「動画を見てワクワクし、日本を好きになってもらえる、そんな流れを創造していきたい」と話した。
クリエイティブ配信プラットフォーム「Gridge」
グリッジ株式会社 籔井健一氏
同社はクリエイター・アーティスト・パフォーマーが集い、つながりながら、自身の才能を世界に発信できるWebサービス「Gridge」(グリッジ)を開発。籔井氏はかつてミュージシャンとして活動していたが、自身の音楽が広まったのは、「映画音楽に使われたこと」にあると話す。この経験がもととなり、同サービスの開発に着手した。
Gridgeはクリエイターが一種のギャラリーとして利用できるのはもちろんのこと、例えば、「音楽とイラスト」のように、別の文化・業界と出会い・結合が果たせる。そうすることで、これまで接する機会のなかったファンを取り込める仕組みだ。
現在までにベータ版がリリースされており、既に約350人が登録している。マネタイズはサブスクリプション(寄付)、広告、権利(IP)を考えている。籔井氏は「クリエイターの活躍を後押しし、世界を熱狂させていきたい」と熱意を見せた。
スポーツチームがファンから資金調達できる「電子トレカ」売買サービス
株式会社ventus 梅澤優太氏
同社は、学生で構成され、スポーツ選手の電子トレーディングカード「whooop!」を開発。同カードは売上の9割がチームや選手のものになり、ファンから直接資金調達ができる仕組みだ。ファンはカードを買うことで直接的にチームや選手を支援でき、また枚数に応じて選手と会うなどインセンティブが付与される。
こうしたサービスを作りだした背景には、ファンがチームや選手を応援し身近に感じたくても、手段がグッズの購入しかなく、しかも数が限られていることにあった。同カードは種類が豊富で、かつ購入履歴が残るためいつからファンであるか「ファン歴」を明かにすることができる。
梅沢氏は「whooop!はスポーツに限らずあらゆるエンタメ全体に広めていきたい」と意気込んだ。eスポーツの領域で試験運用した際には、見ている人の2人1人が約5000円の購入という実績を残した。
試着をエンタテインメント化する「KITEKU」
株式会社SPRING OF FASHION 保坂忠伸氏
同社は、店内にある服を着て外出ができるサービスアプリ「KITEKU」を開発。同サービスでは、利用者は服を無料でレンタルし、そのまま外出することができる。購入の義務はないが、店舗側は広告効果を期待できる。つまり、インフルエンサーが同サービスを利用し、SNSなどにアップすれば、アフィリエイトでの販売につながる仕組みだ。
保坂氏は「ニューヨークではアフィリエイトがメインのマーケティング」と紹介。また、同サービスは、営業をインフルエンサーたちに任すことになるので、人手不足の解消の一端になることを伝えた。さらに、「単なるアフィリエイトではとどまらず、最新の消費体験を届け、ファッションをエンタテイメントにしたい」と強調した。なお、同サービスは5月に本格スタートを切る予定。特に購入の垣根が高いラグジュアリーブランドでの利用促進を目指す。
最優秀賞はventusが受賞!
ピッチの後はパネルディスカッションが行われ、会場から「プログラムの期間中、大変だったこと」「メンターとどんなことを話したか、印象的だったことは何か」「採択企業間での交流はあったか」などの質問が投げかけられた。
そして、各賞の発表が行われ、最優秀賞は「whooop!」を提案したventusが獲得した。同社の梅澤氏は「ピッチイベントは何度か参加したが、優勝したのは初めて。これからが勝負になるので、今回の受賞を叱咤激励だと捉えたい」と受賞の喜びと今後の豊富を語った。
また、優秀賞は「Dive Japan」を提案したレアリスタが受賞。さらに審査員特別賞は「FOOD PLAYLIST」を提案したSuper Duperに贈られた。
取材後記
採択企業は映画、インバウンド、スポーツ、ファッションを主軸にしており、非常に「身近さ」が感じられ、すぐにでも使ってみたいと思うプロダクトやサービスが多かった。その意味で、エンタメ企業・SME「らしさ」あふれるデモデイだった。印象的なのは、最優秀賞を受賞したventusが今回初めて大きく評価されたということ。SMEだからこそ、見い出せた可能性があったのだと思う。SMEの古澤氏は「このプログラムを新しいビジネス、新しいエンタメが始まったきっかけにしたい」と語った。ventusをはじめとする採択企業とSMEには、ぜひエンタメ業界にエクスプロージョンを起こしてほしい。
(構成:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)