SME「ENTX2019」デモデイ | 選ばれし5人の風雲児たちが登壇!エンタメに"爆発"を起こすのは誰だ?
「音楽・エンターテイメントの可能性を誰よりも信じている私たちだからこそ再定義して・拡張して新しい価値を作っていく」。このような覚悟を持ったソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)とスタートアップが手を組み、新たなエンターテイメント時代を築き上げる。最初の共創舞台となる場が、SMEが実施するアクセラレーションプログラム「ENTX2019」だ。
2018年からスタートした同プログラムは今年で2回目を迎える。プログラム名の「ENTX(エンタエックス)」は「Entertainment Explosion」を略したもので、プログラムコンセプトとなる。
音楽やエンタテインメントだけにとらわれず、幅広いテーマから募集し、131社の中から5社が採択された。5社は3ヶ月間のプログラム期間を経て今回、その集大成をステージで発表した。――そこで本記事では2019年12月18日(水)ソニー・ミュージックエンタテインメント本社にて開催された「ENTX2019 Demo Day」の様子を詳細レポートする。
「エンターテイメントの力とスタートアップが持つアイデア・テクノロジーがぶつかる時、爆発的な新しい価値が誕生する!」――プログラム主催者であるSME・古澤純氏の言葉が会場に響き渡りスタートした。SMEと共に最も大きな爆発を起こすのは一体どんなスタートアップなのか?
主人公はスタートアップ。SMEがプログラムに込めた覚悟。
各企業のプレゼンテーションに先立ち、SME・古澤氏が本プログラムに込めた想いを伝えた。古澤氏は「エンターテイメント時代を築き上げる主人公はスタートアップの皆さんです。」と話す。
激戦となった審査を勝ち抜いた5社は、2019年9月から3ヶ月間のプログラムを開始し、社内外メンターからのメンタリングや事業ブラッシュアップを経て、本日のデモデイを迎える。よりSMEとの接点を持ってもらうため、社内メンターと呼ばれる社員が各採択企業のメンターという形で参加しており、より一体感のあるチームとなっているという。
▲株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント 事業戦略グループ 事業戦略チーム シニアマネージャー 古澤 純氏
古澤氏は「スタートアップの皆さんが事業を進める上で課題と感じていること・障害となっているものはないか、それを解決するためにエンターテイメントの力が役に立つことはないか?これがプログラム開催した核となるテーマです。世の中の課題をみなさんとエンタテインメントの力で解決しましょう」と改めて共創に対する想いと決意を述べた。
3ヶ月に渡るメンタリングを経て、それぞれのプログラム成果を発表
いよいよ採択5社によるピッチがスタートする。審査員は、SME 代表取締役社長 COO 村松俊亮氏、SME 執行役員常務 石川恵子氏、SME 執行役員専務 妹尾智氏の3名が務めた。
また社外審査員は、電通 CDC Future Business Tech Team 部長 事業開発ディレクター 中嶋文彦氏、Spiral Innovation Partners 代表パートナー 岡洋氏、eiicon company 代表 中村亜由子氏の3名が務めた。
▲株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント 代表取締役社長 COO 村松 俊亮氏
審査員を務めた同氏は、「今日を非常に楽しみにしていた。斬新な発想に驚きたいし、成功のオーラをまとったビジネスの種を今日は見つけていきたい。」と意気込みを語った。
審査基準は、企画の魅力度(事業新規性、市場の魅力度、実現可能性)、企画の爆発力(解決している課題の深さやインパクト、SME との相性、プログラムでの成長度合、経営者のカリスマ性)の2軸となる。
それらを総合的に判断し審査員の評価を受ける。それでは以下に5社によるプレゼンテーションの内容を紹介したい。
●株式会社dinii https://about.dinii.jp
「モバイルオーダーでエンターテイメントビジネスをアップデートする。」そう語ったのは株式会社dinii(ダイニー)代表の山田氏だ。同社は店頭向けモバイルオーダー・プラットフォーム「dinii」を展開している。事前に注文・決済をすることで待ち時間なく、商品を受け取れるというサービス。実はエンタメ分野との相性が非常にいいという。ライブ会場での物販エリアには長蛇の列ができる。中にはライブ時間よりも長い時間並ぶものもある。この問題に同社は注目した。
▲株式会社dinii代表取締役 CEO 山田真央氏
今回、公式エンタメパートナーを務める B リーグの川崎ブレイブサンダースの協力を得て、同チームの試合で dinii の 実証実験を実施。観戦席の背中に貼り付けられたQRを読み取ることで、グルメやグッズが注文できるWEBアプリが立ち上がる。注文後は座席まで商品がデリバリーされる。WEBアプリのため面倒なダウンロードは一切必要ない。実証実験の結果、注文率は1回以上が78.2%、2回以上が30.7%といった数値も出ており、1試合で複数回注文するユーザーが多かった。
山田氏は、「diniiは単なる行列解消ソリューションではない。」と話す。オフラインであった購買データをオンライン化する。そうすることでユーザーのバリュージャーニーが可視化され、分析することができる。よって、新たな顧客体験の提案やクロスセルが実現可能となる。
これこそがdiniiの真価だという。SMEには、膨大なエンタメビジネスの現場があるため、現場のリアルなデータを有効に活用できる。今後、ファンクラブやコンテンツ配信サービスとの連携を検討中とのことだ。最後に山田氏は「リアルとデジタルを組み合わせた、新しいエンタメのインフラを一緒に創り上げましょう」とアピールした。
●株式会社BeatFit https://www.beatfit.jp/company/
フィットネスもいよいよサブスクの時代に突入する。トレーナーの声と音楽を合わせたフィットネスアプリ「BeatFit」は2018年にローンチ後、既に1万人のユーザーが活用している。累計で500以上のコンテンツを自社で配信し、月額980円のサブスクリプションモデルで販売。同社の強みは豊富なフィットネスコンテンツ・健康データ・ユーザーコミュニティとあるが邦楽のライセンスができておらず、またユーザー獲得も今後伸ばしていきたいという課題がある。SMEにおいても来たるサブスク時代に新たなビジネスモデルを模索しているなか、「BeatFit」は新たなビジネスの切り口となる。
▲株式会社BeatFit 代表取締役CEO 本田 雄一氏
3ヶ月のメンタリング期間中には、音楽と運動との関係性や、BeatFitとの相性の検証するための様々な実証を行なった。ひとつはモニター検証。利用者に専用コンテンツを使用してもらったという。検証パターンとして「①音声なしでのジョギング」、「②邦楽のみでのジョギング」、「③邦楽+音声ありでのジョギング」を試してもらったところ、「③邦楽+音声ありでのジョギング」が最も良い反響があった。
また人気声優がパーソナルトレーナーに扮し、フィットネスサポートを行う新たなプロジェクトも2020年2月にリリース予定。アニメファンにも大きな反響があると予想される。さらに、海外を中心に日本でもフィットネスインフルエンサーが台頭している中、BeatFit は SMEのアーティストに対し、楽曲・音声提供だけではなくインフルエンサートレーナーとしてのエージェント事業も提案している。
最後に本田氏は、「今後、アーティストとのタイアップ、アニメやゲームとのコラボレーション、ライブイベントなど多くの事業を共に進めていきたい」と語り、未来をSMEと共に創っていきたいと締めくくった。
●株式会社AsetZ https://asetz.jp
ENTX2019 に応募した段階では0からのスタートだった。プロダクトもユーザーもいなかったAsetZは、「ビジネス環境を引き継ぎから解放する」をコンセプトに、SMEと共に日本のビジネス課題を解決する。
人材の流動性・転職市場の拡大に伴い日常的に「引き継ぎ」が発生する。大量の情報を整理し、次なる担当に伝えなければならない。「引き継ぎの課題」は常に多くのビジネスマンを悩ませる。この課題を解決するために、業務における5つの課題に対し、ソリューション開発を進めた。今回、その中で「見つからない」という課題に焦点を当て、その解決策を発表した。
▲株式会社AsetZ founder・CEO 村上 智也氏
同社はタイムラインを活用し、引継ぎをゼロにする情報の一元管理ツール「AsetZ」を開発した。引き継ぎ、情報共有はSME の社員も日々の業務で抱える課題であった。開発にあたり、同社は調査・検証を繰り返しおこなった。AsetZの社内メンターであるSME社員の一人は、CDアルバム1枚をリリースするまで3ヶ月に360人以上が携わり、5,000通以上のメールと2,300個以上のファイルをやり取りしている。さらにSME社員100名を対象に調査したところ全国平均の6倍ものメールのやり取りをし、メールを探す時間においても全国平均の3倍かかっているという結果が出た。
仕組みとして、普段使用しているメーラーに紐付けると、リンクやファイルを全て取り込む。送信者やファイル識別など自動的に判別をして分類し、検索も可能。これまでファイルを探したいのに、検索結果はメール一通単位と時間がかかっていたものが、ユーザーが思い出せる情報のみを手掛かりにファイルを直接検索できるようにした。
プロダクトに対し、SME 社内の検証参加者の90%が業務で使いたいと回答しβ版として来春一般リリース予定。引き継ぎがスムーズになれば、異動コストも下がる。よって適材適所に合わせて人材を配置することができ、強い組織が生まれる。
村上氏は「今回SME社員の課題を地点として取り組んできたが、同じような働き方をしているビジネスマン約38万人を対象にアプローチしていく。今後はあらゆる情報を見つかる状態にし、簡単に共有ができる。そして引き継ぎがゼロになる世界を作っていきたい」と述べた。
●株式会社Parasol http://parasol-inc.com/
「世界一男女をくっつける会社になる」をビジョンに掲げる株式会社Parasolは「マッチングアプリのデートをもっとスマートに」をコンセプトに恋愛・婚活領域を一気通貫したビジネス展開を行う同社。
昨今、マッチングアプリはテクノロジーによって世の中の恋愛に大きなインパクトを与えている。ビジネス面でも大きな影響を与え、市場は4年で5倍。現在、結婚の約1割がマッチングアプリを通じたものになる。一見順調に思える領域であるが、実際、恋人がいる率は年々減少し、生涯未婚率も増加している。この原因は「デートのハードルが上がっている点にある」と伊藤氏は話す。
▲株式会社Parasol マッチアップ編集長 伊藤 早紀氏
これまでの結婚は職場にいる30人の中から相手を選んでいたが、今ではオンライン上の300万人の中から相手が選ぶこととなる。初対面で、共通の趣味がわからない相手とのデートは非常に難易度が高い。そんなマッチングデートにおける男性の悩みを解決させようと同社はオンラインデートコンシェルジュサービス「Forky」をリリース。マッチングアプリ利用者のデートをサポートする。
「ローンチの段階でたった1回のツイートで120名の男性が会員登録しました。ニーズがあると確信しています。」と伊藤氏。Forky はチャットボットではなく、人力で運用しているとのことだが今後は質問事項など、自動化できる部分は効率化していく。
検証段階では、実際に SME 社員にも使ってもらい、デートコースのアドバイスだけでなく、洋服のコーディネートの提案なども行い、「先生」と呼ばれるほどの信頼関係を構築していった。この信頼こそ、今後同社が提供した価値だという。
今後はデートコンシェルジュを皮切りに、信頼関係を構築し、旅行やジム選び、英会話、コンプレックス産業などの関連サービスへと展開していきたいと述べた。1年後にはデートコンシェルジュ会員数を増やし、3年後に月商3億円のビジネスを目指す。
SMEとの協業では、音楽と恋愛体験は親和性が高いことからアーティスト情報とデートとのマッチングや、未掲載のイベント情報なども然るべきタイミングでプッシュすることで、会員満足度の上昇を狙いたいと話す。伊藤氏は最後に、「SMEと共に全ての男性の頼れる存在になり、全ての女性を幸せにしたい」とアピールした。
●picki株式会社 https://picki.themedia.jp/
picki株式会社はファッションD2Cプラットフォームを展開している。インフルエンサーの影響力は非常に大きくなってきている。マスメディアの時代はコンテンツを配信できるのは一部の人間に限られていた。しかしSNSの普及により、誰もがコンテンツを発信できる時代がきた。
この影響力をファッション業界の新たなビジネスのチャンスに変えるべく、インフルエンサーのオリジナルブランドの企画、生産、EC販売、発送をサポートするプラットフォームを提供する。1ブランド50着からの小ロット生産を可能にすることで、小さくスタートし何度でも立ち上げられる仕組みを構築した。
▲picki株式会社 コンテンツ制作ディレクター 山口 裕生氏
ここで課題について山口氏は語った。それは「世界観がユーザーに届かない」という点。中には奇抜すぎるファッションや、インフルエンサーの持つ世界観がユーザーに正しく届かないケースも多くあった。そこでSMEのアーティストのイメージ・ブランド構築の体制からヒントを得て、インフルエンサーと伴走しながらのブランドづくりを進めるといった体制を再構築させた。また、ミュージシャンで例えるとライブでファンと交流するように、ファンと交流できる試着会を実践。ファンコミュニティも開設するなど様々な施策を展開した。
現在8つのブランドを展開しているが、Instagram を通じてファンの行動分析を行い、インフルエンサー自身がPDCAを回し、再現性を持ってブランドを成功させる手法を確率しようとしている。
すでにファッション雑誌「VOGUE」にも取り上げられ数多くの反響もあった。今後、インフルエンサー100人と100ブランドの創出を目指す。「ミュージシャンがインディーズからライブハウスを経て、メジャーデビューするように、それをファッションの領域でも必ず実現をさせたい」と語った。
栄えある賞に輝いた2社を発表
審査員による評価・審査を経て、【最優秀賞】(賞金100万円)と【ベストグロース賞】(賞金50万円)が発表された。各賞の受賞企業とコメントを紹介する。
【最優秀賞】株式会社BeatFit 代表取締役CEO 本田 雄一氏
「ENTXがなければ実現できない3ヶ月間のプログラムでした。この力をプログラムの後も事業の成長につなげてきていたい」という本田氏。今後への意気込みも話した。
【ベストグロース賞】株式会社dinii 代表取締役 CEO 山田 真央氏
山田氏は「まずはメンターの方々にお礼を言いたい。今日ここに立てると思っていなかった。昼夜休みを問わず取り組んでくれた、これはSMEさんと一緒に獲った賞だと思う」と喜びを語った。
取材後記
今回で2回目の開催となり、昨年のプログラム採択企業の3社とはすでに協業を進めているなど、爆発的な新しい価値を生み出し続けるENTX。各スタートアップのピッチの前には社内メンターからのリードプレゼンがあり、そのチームワークの強さも垣間見ることができた。見たことのない景色・味わったことのない体験を人の心に届けて続けてきたエンターテイメント業界。今回のプログラムで私たちが想像もつかなかったような、新しい感動体験が生まれるのであろう。その誕生の瞬間に立ち会えた成果発表会であった。
(編集:眞田幸剛、取材・文・撮影:保美和子)