2期目はハイドロヴィーナス、AC Biode、IMP3GNO、JOYCLE、カクノウの5社が採択!広島を舞台に環境・エネルギー分野で新潮流を生み出す2日間の共創プログラムに密着
広島県は瀬戸内海に面し、これまで自動車・鉄鋼・造船・農漁業を主要産業として発展してきた。現在、これらに続く新たな産業の柱の育成に取り組んでおり、そのひとつと位置づけているのが、グローバルで変革が進む「環境・エネルギー」分野だ。そして、広島県内から新たなグリーンオーシャンビジネスを創出すべく始まったのが、県内企業と全国のパートナー企業で、環境・エネルギー分野のオープンイノベーションに取り組む『HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD』である。
広島県の呼びかけで設立された「ひろしま環境ビジネス推進協議会」が主催する本プログラムは、今年で2期目。今回は、広島県内企業5社(常石商事/広島トヨペット/カイハラ産業/サンフレッチェ広島/マエダハウジング)がプログラムに参加し、ホスト企業として環境・エネルギーに関連する新規事業のテーマを提示し、共創パートナーを募集した。そして、数多くの応募の中から選ばれた合計10社が広島市内のイベントスペース「CLiP HIROSHIMA」に集結。ここで、ホスト企業と共に共創ビジネスの骨子を描くイベント(BUSINESS BUILD)が、10月24日・25日の2日間にわたって開催された。
TOMORUBAでは、広島県内企業と全国の応募企業が対面で議論を交わし、ひとつの共創ビジネスにまとめあげた2日間のイベントを現地で取材。本記事では、両社で描き上げたビジネスプランの内容を中心に、イベントの様子を紹介する。広島からどのようなグリーンオーシャンビジネスが生まれるのか、ぜひ注目してほしい。
両社でビジネスプランの骨子を策定し、最終プレゼンテーションで発表
BUSINESS BUILDの初日は、両社で目指すビジョンのすり合わせからスタートした。大きな絵を描いた後には、ターゲットや課題を明確にしながら、ソリューションの方向性を検討。時にはメンターからの厳しい指摘もあり、初めに設計したビジネスプランを大きく見直すチームもあった。2日目は、ビジネスモデルの骨子を策定し、最終プレゼンテーションに向けた準備に注力。ビジネスプランの実現に必要なステークホルダーやコストを確認するなど、議論が深められた。
そして迎えた最終発表会。合計10の共創チームが前に立ち、2日間で磨きあげたビジネスプランを披露するとともに、審査員の質疑にも応じた。審査員を務めたのは、ホスト企業やメンター、プログラム主催者からなる合計11名。審査基準には、「課題とソリューションの整合性」「経済的インパクト・収益性」「環境・エネルギー分野に対する貢献度」「事業共創性」「実現可能性」などが盛り込まれた。
厳正なる審査の結果、ホスト企業ごとに1社が採択され、合計5つの共創チームが事務局の費用サポートを得ながら次のステージに進出することが決定した。採択された5社は、2025年3月に開催されるDEMO DAY(成果発表会)に臨む。――ここからは、採択企業から順に、10チームの発表内容を紹介する。
【常石商事 × ハイドロヴィーナス】潮流発電による新たな活用方法の創出とインフラの構築
<ホスト企業>常石商事株式会社
<募集テーマ>瀬戸内海の潮流を活かした、環境にやさしい再生可能エネルギーの創出
●採択企業:株式会社ハイドロヴィーナス
プロジェクト名「潮流発電による新たな活用方法を創出しインフラを構築する」
良質な漁場でもある瀬戸内海において、潮流発電を導入するには漁業関係者との関係構築が避けられない。そこで今回、常石商事とハイドロヴィーナスの共創チームは、漁業関係者をファーストターゲットに、沖合での電力と通信ネットワークの提供を目指すビジネスを描いた。
<ホストチーム・受賞者コメント>
常石商事は、一緒に実証実験に取り組めることに期待を寄せた。また、ハイドロヴィーナスは、海で同社の技術を試すのは初めてとなることから、同社としても大きな挑戦になると意気込んだ。
【広島トヨペット × AC Biode】独自触媒を用いて有機廃棄物を200℃の低温でケミカルリサイクル
<ホスト企業>広島トヨペット株式会社(カーディーラー)
<募集テーマ>カーディーラーが目指すサステナブルな地域社会の実現に向けた事業創出
●採択企業:AC Biode株式会社
プロジェクト名「触媒を用いて、廃プラ、廃油等有機廃棄物を200°Cでケミカルリサイクルするビジネス」
AC Biodeは化学に強みを持つグリーンテック企業で、京都に研究施設を有し、EUを含む国内外に拠点を展開している。今回、同社は「身近な未来拠点へ、リサイクルでつながる広島コミュニティ」をビジョンとした共創事業を発表した。
広島トヨペットでは、通常の事業活動から多くの廃プラや廃油が発生しているが、現状では十分に活用されていない。また、トヨタ自動車はモビリティ・エネルギー・コミュニティーの3つを掲げた「MECハブ構想」を進めており、この構想においては新車購入に限らず、地域の人々が多様な目的で来店できる販売店づくりを目指している。
こうした背景を踏まえ、今回は広島トヨペットから出る廃プラや廃油に加え、地域のファミリー層から回収した衣類やおもちゃなどをケミカルリサイクルする。回収物は、AC Biodeの独自触媒を用いて水素やモノマーにし、エンジンや発電、コンロなどに使用する。AC Biodeの技術の特徴は、約200℃の低温でリサイクルができ、有機溶媒を使わず、触媒に貴金属を使っていないこと。この活動を通じて、持続可能な地域社会への貢献を目指す。
<ホストチーム・受賞者コメント>
広島トヨペットは、同社の自動車整備事業から出る廃棄物の問題を解決できる点が、採択のポイントになったと伝えた。一方、AC Biodeは、広島のみならず日本でも有名になれるような事例を作りたいと力を込めた。
【カイハラ産業 × IMP3GNO】世界中から情報を収集し、常識はずれのデニムイノベーションを起こす
<ホスト企業>カイハラ産業株式会社(デニムの製造)
<募集テーマ>水資源の使用量削減・循環を実現するデニム製造方法の構築
●採択企業:IMP3GNO LLP
プロジェクト名「常識はずれのデニムイノベーション」
デニムの世界的メーカーであるカイハラ産業は、その製造工程において年間30万トンもの水を使用しているが、現状では再利用が難しく、排水せざるを得ない状況にある。使用水を再利用するには水質改善が必要で、カイハラ産業社内で試行錯誤を続けているものの有効な技術は見つかっていない。
シンガポール拠点のコンサルティング会社であるIMP3GNO(インペグノ)は、この課題に対して世界中の文献や研究調査を含めた情報収集を行い、今までにない形のシンプルな解決策を研究していくことを提案。具体的な解決策(水質改善剤)については国産、出来れば広島県で入手できる素材による改善剤の研究に着手し、有効性を確認するためにカイハラ産業の持つ既存施設を活用した実証実験を進めていきたいと話す。
実証実験で効果が確認できた上で製品を含めたソリューションとして開発を進め、カイハラ産業のネットワークを活かして同様の問題を抱える国内生地メーカーへの提案も視野に入れることを目指しており、将来的には海外展開を目指すための合弁会社の設立も検討する予定だという。IMP3GNOの登壇者は海外でのビジネス経験やネットワークを活かし、「広島発・日本発のソリューション」を積極的にグローバル市場へ発信していきたいと述べた。
<ホストチーム・受賞者コメント>
カイハラ産業は、IMP3GNOの提案力と国際的なコネクション、そしてカイハラ産業社内の課題解決だけではなく、新規事業の共同開発にまで広がった提案内容を評価した。また、IMP3GNOのCo-Founder平野氏は、「今までにない業界同士の連携によるこの取り組みを、日本から世界へどのように大きく育てていくか。カイハラ産業さんとの協業により広島発・日本発のビジネスとしてスタートできることを非常に楽しみに進めていきたい」と伝えた。
【サンフレッチェ広島 × JOYCLE】ファン・市民も巻き込んだ循環型廃棄物処理モデル
<ホスト企業>株式会社サンフレッチェ広島(プロサッカークラブ運営)
<募集テーマ>地域貢献に繋がる、スタジアムを起点としたスポーツチームならではの環境ビジネス創出
●採択企業:株式会社JOYCLE
プロジェクト名「ごみ処理をエコにより効果的に! ファン・市民も巻き込んだ循環型廃棄物処理モデルのビジネス」
CO2削減効果を可視化できる小型のアップサイクルプラントを開発しているJOYCLEは、サンフレッチェ広島とともに、「広島県のごみ問題を解決する、循環型の廃棄物処理モデルを構築する」ことを中期ビジョンに掲げて活動を開始する。具体的には、スタジアムで回収したごみを、JOYCLEの小型プラントで処理を行い、CO2削減量を可視化する。さらに、炭化したごみをスタジアムの芝や植栽の肥料、スタジアム雨水再利用における水質浄化剤などとして再資源化することにも挑戦するという。
サンフレッチェ広島は、2024年2月に開業した新スタジアム「エディオンピースウイング広島」の指定管理を担っている。都心部に位置するスタジアムを拠点として取り組める環境ビジネスプロジェクトとして、課題である「ごみ処理」のコスト削減とアップサイクル、そしてスタジアムに足を運ぶ方々を巻き込む取り組みを行うことで、地域社会に貢献していきたいとした。
<ホストチーム・受賞者コメント>
サンフレッチェ広島は、スタジアムでは初となる実験に取り組める点と、ごみというネガティブなものをポジティブに変えることができる点に魅力を感じ、採択に至ったことを伝えた。一方、JOYCLEは、絵に描いたことを実現し、クラブに貢献できる活動にしていきたいと熱意を示した。
【マエダハウジング × カクノウ】空き家対策×おうちファームで繋ぐ家族のココロ
<ホスト企業>株式会社マエダハウジング(建築会社)
<募集テーマ>空き家の解消や建築資材の有効活用による持続可能な社会の実現
●採択企業:カクノウ株式会社
プロジェクト名「おうちファームビジネスで繋ぐ家族のココロ」
カクノウは、一畳でできる小さな室内野菜栽培装置を開発している企業だ。同社とマエダハウジングは、遺産相続に関する事前準備を手伝うことで、広島県内で問題化している空き家の増加に対処するビジネスプランを提案した。
想定ターゲットは、広島県内に住む高齢の親世代と遠方に住む相続予定の子供世代。まず、親世代にカクノウの室内野菜栽培装置(おうちファーム)を購入してもらい、親世代からその対価を得る。親世代の没後は、その住宅を相続した子供世代と、この共創チームが賃貸契約を結び、物件の提供を受けるとともに、野菜を育てて販売する。
これにより、高齢の親世代は野菜生産という趣味が増えると同時に、住宅の相続準備もできる。子供世代も相続後の固定資産税などが節約でき、住宅のメンテナンスも考えなくて済む。このビジネスモデルを導入することで、空き家問題の解決と、家族の笑顔がある暮らしを提供していきたいとした。
<ホストチーム・受賞者コメント>
マエダハウジングは、空き家対策に農業を組み合わせる提案が非常に斬新だったと評価のポイントを伝えた。一方、カクノウは、農業に貢献するとともに、地球課題を解決する技術も持っているので、それをリフォームや空き家対策に活用するこの取り組みを楽しみにしていると語った。
その他、独自性のある提案を行った5社のビジネスプランを紹介
今回は惜しくも採択に至らなかったが、アンヴァール株式会社、株式会社テックシンカー、東北ウェイストエナジー株式会社、forent株式会社、家いちば株式会社もBUSINESS BUILDに参加し、ホスト企業と共に共創ビジネスプランを創り上げた。各社の技術やサービスを活用した独自性ある提案内容を、以下にて紹介する。
●アンヴァール株式会社(常石商事株式会社への提案)
プロジェクト名「目指せ『海の資源化』」
アンヴァールは、日本をグリーン資源大国にすることを目指し、海水からの水素生成やマグネシウム回収、バイオマスかからの水素生成とDACの両立などに取り組んでいる。今回の共創では、常石商事がアンモニアで動く「アンモニア船」を製造中であることから、そこに燃料として供給するグリーンアンモニアの生成に挑戦したいとした。
●株式会社テックシンカー(広島トヨペット株式会社への提案)
プロジェクト名「走るたび、広島を守る~カーボンオフセットをより身近に~」
テックシンカーは、カーボンオフセット文化の普及に取り組む企業だ。今回の共創では、新車購入時における「カーボンクレジットつきオプションサービス」を提案。オプション購入者には、特設サイトでの情報発信やコミュニティ形成を通じて環境意識を高めてもらう。広島トヨペットは、この環境配慮活動を通じてブランドイメージの向上を図ることができるとした。
●東北ウェイストエナジー株式会社(カイハラ産業株式会社への提案)
プロジェクト名「水の長寿社会の実現~水を捨てない循環型システム~」
繊維業界では大量の水を使用しているが、水の使用量に対する海外企業からの要求が高まっている。そこで、東北ウェイストエナジーの持つインクとノリの処理技術(国内外で特許申請中)などを活用しながら、染色排水の再利用率向上に挑戦していきたいと語った。
●forent株式会社(株式会社サンフレッチェ広島への提案)
プロジェクト名「サンフレッチェ広島 グリーンクエスティバル」
LINEでできるクエスト型ゲーミフィケーションアプリの開発で実績のあるforentは、環境意識を高めるための「グリーンクエスティバル」を企画。メインターゲットはファミリー層。家族での参加を促す仕組みを導入し、来場者数向上を目指す。また、小口でクラブのスポンサーになれる仕組みも設け、地域の飲食店などを巻き込んでいきたい考えを示した。
●家いちば株式会社(株式会社マエダハウジングへの提案)
プロジェクト名「管理不全の空き家を予防する」
家いちばは、家を売る人と買う人が直接やりとりできるCtoCサイトを運営している企業で、「売ります掲示板」は月間600万PVを誇る。今回の共創では、空き家になる前の「予備軍」にアプローチし、リフォームや相続セミナー、AI査定のほか、家いちばのサイトなどを紹介する。これにより、空き家の増加による防犯リスクの高まりや景観の悪化などを未然に防いでいく考えだ。
【総評】「広島にイノベーションのエコシステムを形成していくことが重要」
すべての発表と表彰が終わった後、総評として、主催者や審査員から参加者にメッセージを投げかけた。
メンターの鎌田氏は、ホスト企業と採択企業の2社間だけの関係性構築にとどまらず、ここに集まったさまざまな企業と意見交換を行い、オープンイノベーションを進めるための横のつながりを築くことが重要だと述べた。
▲鎌田 和博 氏/Spiral Innovation Partners ジェネラルパートナー
岩田氏も、気候変動や脱炭素の課題は一部の企業や自治体だけでは解決できるものではなく、エコシステムが形成されてお互いに盛り上がる中で解決策が見出されるものだと述べ、こうしたエコシステムの振興にも注力してほしいと促した。
▲岩田 紘宜 氏/東京大学・技術経営戦略学専攻 博士課程/未来ビジョン研究センター リサーチ・アシスタント
照井氏は、こうした共創の場では、自社のプロダクトやサービスをそのまま提供するのではなく、変えたり、分解してパーツを組み合わせたりすることが重要だとアドバイスした。
▲照井 翔登 氏/テルイアンドパートナーズ株式会社 取締役副社長
村田氏は、広島県におけるイノベーション・エコシステムの構築に取り組みたいと述べ、これで終わりではなく、広島の各地でさまざまなイノベーションが生まれる状況を一緒に作っていきたいと呼びかけた。
▲村田 宗一郎 氏/株式会社eiicon 執行役員
下薗氏は、ここに集まる全員が仲間であり同志なので、横のつながりを大切にしてほしいと語った。また、参加者らが真剣に議論を交わす様子に心を打たれたとし、この熱量のままで走り続けてほしいと伝えた。
▲下薗 徹 氏/株式会社eiicon Quality of Open Innovation Officer
早田氏は、広島から新しい環境ビジネスを創出することが「ひろしま環境ビジネス推進協議会」の目的であると述べ、ホスト企業の課題解決が最初のステップではあるが、その後、ホスト企業と共に新しい事業モデルや新しい価値を作ることに取り組んでほしいと語った。また、協議会もそうした活動を応援していくと力を込めた。
▲早田 吉伸 氏/ひろしま環境ビジネス推進協議会 会長
最後に、広島県の増廣氏が登壇し、採択されたプロジェクトについて、「今日がスタートだ」と述べ、2025年3月開催のDEMO DAY(成果発表会)に向けて、しっかりと共創を進めてほしいと呼びかけた。
▲増廣 浩二氏/広島県 商工労働局 イノベーション推進チーム 環境エネルギー 産業集積促進担当課長
取材後記
環境やエネルギー問題は、ひとつの企業や自治体だけでは解決できない大きな課題だ。だからこそ、こうした志のある人たちが集まった地域コミュニティにおいて、全体で解決していく必要があるのだろう。多様な業種から集まった企業が持続可能な社会を築くために前向きに議論を交わす様子は、これからの未来に希望を感じさせるものだった。『HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD』から生まれる、グリーンオーシャンビジネスの新潮流に引き続き注目していきたい。
(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)