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ジェイック×エフィシエント対談ーーAI面接練習アプリ『steach』が順調に成長。「共創かM&Aか」の決め手となった出口戦略とは

ジェイック×エフィシエント対談ーーAI面接練習アプリ『steach』が順調に成長。「共創かM&Aか」の決め手となった出口戦略とは

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教育・人材事業を手がける上場企業・ジェイックと、AI/IoTスタートアップ・エフィシエントは、オープンイノベーションによってAI面接練習アプリ『steach』を開発。2022年5月のリリース後、ダウンロード数は2万件を超えるなど、アプリの社会実装が着実に進んでいる。そして2024年2月、ジェイックはエフィシエントを子会社化(M&A)した。

ーー本記事では、両社による共創からM&Aの経緯について迫っていく。

eiiconが運営を担う「BAK」で出会った2社。共創による新規事業創出からM&Aへ

神奈川県が主催するオープンイノベーションプログラム「ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK・バク)」。ベンチャー企業と大企業による共創を支援するプログラムで、株式会社eiiconが運営全般を担っており、サービスのローンチに至った共創プロジェクトが複数生まれている。

BAKから誕生したプロジェクトとして、企業向けの教育研修事業と若年層向けの就職支援事業を展開する株式会社ジェイックと、IoTやAIを融合したソフトウェア開発を得意とする株式会社エフィシエントの共創事例がある。

BAKを通して出会った両社は、2022年5月にAI面接練習アプリ『steach』をリリース。その後、段階的にユーザー数を増やし、2023年4月にはアプリダウンロード1万件を突破、さらに2024年1月には2万2000件を突破した。そして2023年12月、ジェイックはエフィシエントの子会社化(M&A)を発表しており、2024年2月には株式譲渡が実行されている。

▲エフィシエント代表・脇坂氏による「起業からM&Aまでの経緯」。2019年4月に起業してからジェイックにグループインするまでの軌跡が時系列で記されている。

ジェイックは、2019年10月に東証マザーズ(現・東証グロース)上場後、M&Aなどによるオープンイノベーション戦略を積極化させている。2022年8月には、キャリアカウンセリングプラットフォームの運営事業を営む株式会社KakedasをM&Aし、子会社化。

さらに2022年9月には就職・キャリア形成支援事業などを展開する株式会社キャンパスサポート、採用関係の制作物や広告物を制作する株式会社アワードの2社をM&Aしている。(現在、キャンパスサポートとアワードは合併)

ーー本記事では、ジェイックとエフィシエントが、eiiconが運営支援するBAKを通じてマッチングした後、どういった経緯を経てM&Aに至ったのか、そしてM&Aによってどのようなシナジーを生み出していくのかを紐解いていく。そこで今回、両社によるオープンイノベーションやM&Aの当事者であるジェイック 執行役員 柳井田氏とエフィシエント 代表 脇坂氏のお二人にインタビューを実施した。

▲株式会社ジェイック 執行役員 柳井田彰 氏

2007年4月、ジェイック入社。カレッジ西日本事業部長、マーケティング開発部長などを経て、執行役員に就任。現在は、AIを活用した面接練習アプリ『steach』の開発責任者も務める。また、採用コンサルティングやキャリア形成に関するセミナーにも数多く登壇している。

▲株式会社エフィシエント 代表取締役社長 脇坂健一郎 氏

⼤学卒業後、大手印刷会社に入社し、その後スタートアップ企業での経験を経て、株式会社エフィシエントを創業。世の中の困りごとを「効率的」に解決することをミッションに、多方面に渡り事業を展開している。

※同社PRページ https://auba.eiicon.net/projects/15007

コロナ禍でコミュニケーションがオンラインに移行。AIによる面接練習のニーズに注目

ーー神奈川県が実施している育成期のベンチャー支援プログラム「KSAP」そして「BAK」を通じて両社はマッチングし、オープンイノベーションによって開発したAI面接練習アプリ『steach®(スティーチ)』をリリースしています。面接の練習という着想はどのように生まれたのでしょうか。

エフィシエント・脇坂氏 : 私自身も話すことが得意ではなかったため、自分が話す練習をしたいと思ってプロダクトを作りました。話しているところをスマホで録画して、AIエンジンが評価してくれることで、話し方の能力は高まる実感はあったのですが、ビジネスへの実装には苦戦をしました。そんな時にちょうどコロナ禍で、コミュニケーションがオンラインに移行していることに注目しました。これからはAIによる面接練習のニーズがあるんじゃないかと。

ーー柳井田さんにうかがいます。ジェイック社はなぜ共創のパートナーとしてエフィシエント社を選んだのでしょうか。

ジェイック・柳井田氏 : 我々は人材事業がコアなのですが、面接がオンラインに移行する中で、就活生が自走してオンライン面接の練習ができるようなアプリを作りたいという思いを持っていました。パートナー候補となる10社ほどと面談を繰り返していく中で、ジェイックのミッションのひとつである「人と組織の限りない可能性に貢献し続ける」と最も近い価値観を持つのがエフィシエントさんでした。

また、音声認識や画像認識の技術でソリューションを展開しているスタートアップはたくさんありますが、動画の解析技術はエフィシエントさんが一番だと感じました。それらが決め手となり、共創パートナーに選ばせていただきました。

ーー両社の共創はいつごろはじまって、『steach』が誕生したのでしょうか。

エフィシエント・脇坂氏 : ジェイックさんと初めて知り合ったのは2021年のKSAPを通じてでした。当時、我々はAIによる動画解析アプリとして『Steach』を開発していたのですが、その後BAKを通じてジェイックさんの共創パートナーとなり、2022年5月にAI面接練習アプリとして『steach』をリリースしています。

ーーリリース後はどのような反響がありましたか。

エフィシエント・脇坂氏 : 現在、アプリは2万ダウンロードを突破しています。また、横浜市内の学校での実証やユーキャンとの事業連携(※)を発表するなど、ある程度のインパクトは出せていると思います。

ジェイック・柳井田氏 : アプリのリリース後の反響はジェイックとしても大きかったです。日本語が得意でない留学生、またはコミュニケーションが苦手な理系の学生といったようなセグメントからの問い合わせが増えました。これまでそのような問い合わせはなかったので、手を伸ばせていなかった顧客を獲得するきっかけになりました。

「ジェイック ユーキャン「話し方講座」の開発・監修を受託 -話し方トレーニングアプリ「Speech Trainer」にも開発協力―」(2023年12月配信プレスリリース)

▲これまで5万名以上(※)の就職支援を行ってきたジェイックの求職者のニーズと面接対策のノウハウをもとに開発された『steach』。AIを活用してユーザーが回答した音声と動画を6つの指標(①自信、②笑顔、③ボディランゲージ、④声の大きさ、⑤話すスピード、⑥伝わりやすさ)でそれぞれ5段階評価することができる。

https://jaic-steach.jp

(※)当社が主催する面接会の参加者数(新卒者向け2012/4~2023/3、既卒者向け2005/5~2023/4)

なぜジェイックは、スタートアップをM&Aするのか

ーージェイック社とエフィシエント社が出会ってから、共創パートナーとなった理由や決め手はなんだったのでしょうか。

エフィシエント・脇坂氏 : 当時、さまざまなユースケースを模索していました。その中に、前述した通りAIでの面接練習のユースケースもあったんですね。

しかし、どこからも引き合いがなく、うまくいきませんでした。そんなときに偶然ジェイックさんから面接のトレーニングに使えるのではと問い合わせを受けたんです。そこから共創パートナーとして『steach』の開発に至ったという経緯があります。

ーー出会いから約1年でAI面接練習アプリ『steach』をリリースするなど共創プロジェクトとしては順調に進んできたように見えますが、エフィシエント社としては共創の出口をどのように考えていましたか。

エフィシエント・脇坂氏 : 我々スタートアップの出口戦略は4種類だと思っています。それが、「IPO」、「M&A」、「中小企業になる」、そして「撤退」です。私は前職でIPOを経験しましたが、事務的な難易度などからエフィシエントでは現実的ではないと思っていました。

起業した当時は事業を作ってそれを売却することを目指そうとしていましたが、スタートアップで事業売却している事例は多くありません。また、株主構成が少し複雑なため、今から資金調達をして事業をスケールさせるようなイメージが持てなかったのです。結果的にはジェイックさんへの株式譲渡(M&A)という出口になりましたが、納得できる形に収まったと思います。

ーージェイック社ではなぜエフィシエント社をM&Aするという意思決定をしたのですか。

ジェイック・柳井田氏 : ジェイックは2019年に上場してから今まで、事業を拡張するフェーズにいます。これまでは労働集約型の事業がメインでしたが、昨今HRテックなどの市場も拡大していることから、自社でテクノロジーを持ちたいという思いがあります。そこでテクノロジーに強みをもつスタートアップのパートナーを探していたんです。

BAKのサポーターの力を得ながら、M&Aを実現

ーー脇坂さんにお伺いしたいのですが、ジェイック社からM&Aのオファーを受けた時「もう数年頑張って企業価値を上げてからM&Aする」という選択肢はありませんでしたか。なぜこのタイミングでM&Aに踏み切ったのでしょう。

エフィシエント・脇坂氏 : 縁だったと思います。ジェイックさんから「力を貸して欲しい」と言われて、私としても一緒にやりたいという思いがありました。それに、とにかくアプリが陳腐化したら終わりなので、いまこのプロダクトが欲しいと言ってくれるユーザーがいて、ジェイックさんからもエフィシエントの力を求められているこの時が、M&Aを実施するベストなタイミングだと思ったんです。

ーーそれでは最後に、M&Aすると決定した後についてお聞きします。両社は上場企業とスタートアップという関係性ですが、M&Aに関する知識ギャップはありませんでしたか。

エフィシエント・脇坂氏 : 知識のギャップはありました。めちゃくちゃ大変でしたね(笑)。当社がM&Aの検討を開始したのが2022年11月で、ジェイックさんと契約を締結するまでにはおよそ1年半という時間がかかりました。

▲今回のM&Aに関する全体のスケジュール感。

ジェイックさんはすでに数社をM&Aした経験をお持ちですが、エフィシエントにとってはもちろん初めてのM&Aです。M&Aに関する知識ギャップを埋めるために、BAKのサポーターの方々(※)にかなり相談に乗ってもらいました。また、BAKの運営を担うeiiconさんからも適宜声を掛けていただき、フォローしてもらうこともありましたね。このようなBAKのコミュニティは、私たちのようなスタートアップにとって心強いと感じています。

※産学官民に加えて士業など、BAKにはさまざまな属性のサポーターが在籍している。

https://bak.eiicon.net/incubationprogram2023/suppoters

▲神奈川県のベンチャー支援事業「かながわ・スタートアップ・アクセラレーションプログラム(KSAP)」および「ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)」の2023年度の活動成果を発表する『KANAGAWA INNOVATION DAYS Meetup Fes 2024』のトークセッションに登壇した柳井田氏と脇坂氏。「共創事例から学ぶオープンイノベーションの在り方」をテーマに、意見が交わされた。

▲トークセッションでは、ジェイックによるエフィシエントの株式取得(子会社化)を祝い、柳井田氏・脇坂氏に花束が渡された。

M&Aによって生まれるシナジーとは?

ジェイックがエフィシエントをM&Aすることで、どのようなシナジーが生み出されるのだろうか。ジェイックは、「①『steach』や『就活 AI』の集客チャネルとしての活用」、「②AI の活用によるサービス品質と生産性の向上」、「③IT エンジニア領域の就職・採用支援サービスの強化」といった効果が期待できると考えている。さらに、労働集約的なビジネスモデルが中心であるジェイックにおいて、DXを推進し、収益性向上や業務効率化といったシナジーも生み出すという。

▲ジェイック・IRニュース「株式会社エフィシエントの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」より抜粋 

 

実際に②に関連した実例が、すでに生まれている。2024年2月、エフィシエントが開発した「自信解析AIエンジン」がAI面接練習アプリ『steach』に搭載された。

「自信解析AIエンジン」は人間に近い感覚で人の自信を解析できるもので、『steach』に蓄積された1000個の動画データについて、国家資格キャリアコンサルタントの資格を持つジェイックの就職アドバイザーが、「自信あり」「自信なし」をアノテーションした結果を集計し、教師データを構築したという。

「自信解析AIエンジン」は話し方に自信を持っているかを判定できることから、営業トレーニングや対話トレーニングにも活用できる可能性がある。また今回は、自信に関して教師データを準備してエンジンを構築したが、蓄積されたデータを活用して「不安」や「楽しい」など人の表情を判定するエンジンの開発も可能だという。M&Aによって生まれるシナジーは徐々に大きくなっていきそうだ。

取材後記

多くのベンチャーやスタートアップにとって出口戦略は重要になる。BAKを通じて知り合ったジェイックとエフィシエントが語ったM&Aの実体験は生々しいもので、コロナ禍で世の中のコミュニケーションがオンラインに移行する時期を共創で乗り越えようとする試行錯誤が伝わってきた。リリース後のダウンロード数も順調に伸びており、自治体や大手企業との提携も進むなど順調な『steach』の次の一手を楽しみに注目したい。

※関連記事:【エフィシエント×ジェイック】BAK発の共創で生まれた面接練習アプリ「steach」が1万DLを達成!社会実装までの道のりとは? 

(編集:眞田幸剛、文:久野太一)

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