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地域版SOIP キーマンインタビュー【九州編】―女子バレー、クライミング、バスケの3チーム・団体が参戦!佐賀から始まる新しいスポーツビジネスの姿とは?

地域版SOIP キーマンインタビュー【九州編】―女子バレー、クライミング、バスケの3チーム・団体が参戦!佐賀から始まる新しいスポーツビジネスの姿とは?

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「スポーツ × 他産業」の共創により、イノベーション創出を目指すプログラム「SPORTS OPEN INNOVATION BUSINESS BUILD」が、いよいよ3rdステージを開幕する。本プログラムはスポーツ庁主催のもと、国内各地域におけるSOIP(地域版SOIP※)の構築に向けて実施されるものだ。

今年度は「東北エリア」「関東エリア」「九州エリア」の3つの地域において、地域に根ざしたスポーツチーム・団体がテーマを提示し、共創パートナーを募ることとなった。応募企業のなかからパートナーを選び、秋に開催される2日間の凝縮型アクセラレーションプログラム(BUSINESS BUILD)によって、共創ビジネスの骨格を仕上げる。その後、資金面での支援も受けながら、事業化を前提にスポーツの場での実証に進む。年度末には成果報告会も予定されている。

3rdステージ開幕にともないTOMORUBAでは、各エリアの地域パートナーとスポーツチーム・団体にインタビューを実施。それぞれの地域や各スポーツチームの特徴、募集テーマの詳細について詳しく聞いた。

本記事では、九州エリアで開催される「SPORTS OPEN INNOVATION BUSINESS BUILD KYUSHU」の運営を担う地域パートナー「SSP-SOIP実行委員会」、そして募集テーマを提示する「久光スプリングス」<女子バレーボール>、「佐賀県山岳・スポーツクライミング連盟」<クライミング>、「佐賀バルーナーズ」<バスケットボール>に実施した取材の模様をお届けする。

※SOIP(Sports Open Innovation Platform):スポーツ界と他産業界が連携することで新たなサービスが創出される社会の実現を目指すスポーツ政策。

「SSP-SOIP実行委員会」が挑戦する、スポーツを核とした地域活性化

――まずは、地域パートナーである「SSP-SOIP実行委員会」の活動内容について教えてください。

日野氏 : 佐賀県では、2018年よりSAGAスポーツピラミッド構想(SSP構想)という取り組みを進めています。これは、佐賀県からトップアスリートを育成しながら、スポーツ文化の裾野を広げていくという取り組みです。ここでいうスポーツ文化とは、単にスポーツをするだけではなく、観る、支える、育てるというように、何らかの形でスポーツに関わる文化を根付かせるということです。

▲佐賀から世界に挑戦するトップアスリートを育成するSAGAスポーツピラミッド構想(SSP構想)

この取り組みを進める過程で、気づいたことがいくつかありました。それは、日本ではアスリートが引退後のセカンドキャリアを築きにくく、また「スポーツで稼ぐ」ということが広く理解されていないということです。この問題を解決するためには、欧米のように日本でもスポーツをビジネスとしてしっかりと捉え直さないといけません。

そこで、佐賀県を舞台にしてこのような問題に取り組めないかを考え、2023年から佐賀県庁はスポーツビジネスに正面から向き合っています。ただ、県庁だけでは広がりに欠けるため、県内の2大メディアであるサガテレビと佐賀新聞社に協力いただき、共にスポーツビジネスを推進する旗振り役になろうということで、2023年6月にSSP実行委員会を結成し、地域版SOIPに参画することとなりました。

▲佐賀県 SAGA2024・SSP推進局SSP総括監 日野稔邦 氏

――佐賀県のスポーツビジネスには、どのような特徴がありますか?

日野氏 : 実は佐賀県は、プロスポーツチームが多いエリアです。サッカーではJリーグJ1にサガン鳥栖、バレーボールVリーグV1女子には久光スプリングス、そしてバスケットボールBリーグB1に佐賀バルーナーズが昇格しました。ちなみに、Jリーグ、Vリーグ、Bリーグのトップリーグ所属チームをすべて擁する都道府県は、日本にいくつあるかご存じですか?

――あまり想像つかないです!

日野氏 : 佐賀を入れて6つだけなんです。それも、東京、愛知、大阪、広島、茨城と、佐賀以外は大都市圏や関東で、人口は200万人を超える都府県ばかりです。それに対して佐賀県の人口は80万人。そのような小さなエリアに3つもプロスポーツリーグのトップチームがあるのです。そういう意味では、佐賀県はスポーツをリアルに観戦する機会に恵まれており、身近に感じられやすいのではないでしょうか。プロチームが持つ訴求力をビジネスに生かすことができる素地が、佐賀県にはあります。これが1つ目の特徴です。

もう1つが、地元企業のスポーツに対する関心の強さです。佐賀県は大きな企業があまりなく、多くの中小企業が経済を支えています。そのためプロスポーツチームを抱えることは難しいのですが、企業が何かしらの形でスポーツに関わっていく土壌があると思います。例えば世界を狙える選手を正社員として雇用するなど、SSP構想のもとで県庁が県内企業に働きかけたところ、アスリートの支援に名乗りを上げる企業が80社以上ありました。そのうち約20社には実際にアスリートが所属して国内トップクラスの大会に出場しているんです。

今回の地域版SOIPを通じて、県外の企業の方にも佐賀県に関心を持っていただき、イノベーションをおこしていただくことはもちろん、県内企業も自社のサービスやネットワークなどを活用して新たなアスリート支援の仕組みを創出できるのではないかと期待しています。

――佐賀県では来年、国民スポーツ大会「SAGA2024」が開催されますが、県内ではスポーツに対する機運は盛り上がっていますか?

日野氏 : そうですね。ただ、一時的なムーブメントで終わらせてはいけないと思っています。SSP構想では、「SAGA2024」は大きな通過点であり、その熱を冷ますことなくスポーツによる人や地域づくりに取り組まなければなりません。それは県庁だけの力では成しえないため、民間企業と協力しながら、“スポーツで稼ぐ”ことに意欲的に挑戦していきたいと考えています。

▲来年開催される「SAGA2024」など、様々なスポーツイベントを通してステップアップしながら、SSP構想を実現していく/画像出典:SSPホームページ

――「SPORTS OPEN INNOVATION BUSINESS BUILD KYUSHU」での支援体制と、提供できる地域のアセットをお聞かせください。

日野氏 : 行政機関として、私たちには県庁内のスポーツ部局のみならず、産業部局、農林水産部局、教育委員会などあらゆる方面にネットワークがあります。そのため、様々な形でこれからスポーツビジネスに取り組む方への支援ができると考えています。さらには、行政だけではなく先ほどお話しした県内2大メディアの協力も強みですね。スポーツビジネスを佐賀で根付かせ、そして佐賀から発信していくには、メディアの力は不可欠です。県外の企業の皆様も佐賀にすぐなじめるような座組になっていると思います。

もう1つは、ハード面の魅力です。2023年5月、収容人数8400人の「SAGAアリーナ」を開業しました。そして11月には「九州クライミングベースSAGA」というクライミング施設がオープンします。いずれも九州最大級の施設です。特にSAGAアリーナは、稼げるアリーナを目指しています。日本の体育館は稼ぎにくいイメージがあります。そこには設備の問題、運営の問題など様々な制約があるのでしょう。しかし私たちは既存のルールがボトルネックになるのならば、変更すればいいと考えています。

それからSSP構想自体が大きなアセットのひとつです。行政と民間、様々な方が連携してスポーツビジネスにチャレンジする体制が整っています。

▲プロスポーツの試合や各種スポーツの国際大会も行われるほか、人気アーティストのコンサート、家族で楽しめるエンターテインメントなど多彩なイベントが開催されるSAGAアリーナ。/画像出典:「SAGAサンライズパーク」ホームページ 

――最後に、今年度の目標や、次年度以降に目指す姿についてお聞かせください。

日野氏 : SSP構想が目指している社会は、大きく2つあります。ひとつは、アスリートが競技人生を終えても食べていけるような社会です。もうひとつは、様々なビジネスシーンの中にスポーツが当たり前に入りこんでいる社会です。その大きな社会像に向けた第一歩が今年度の事業だと捉えています。

新しいアイデアや、実は企業がずっと温めていたアイデア、そしてほかの地域では残念ながら色々な事情で実現がかなわなかったアイデアもあるでしょう。SSP構想としてそうした社会像を掲げている佐賀県だからこそ、様々なアイデアの中から一緒に実現できるものがあると思います。

ただ、目指す社会像が大きいからこそ、単年度だけでゴールに達することができるとは考えていません。応募企業と佐賀県、そして県内の民間企業などと一緒になって挑戦していきたいと思っています。

【久光スプリングス<女子バレーボール>】 佐賀から世界を目指すチームへ

――久光スプリングスの特徴・強みについてお聞かせください。

萱嶋氏 : 久光スプリングスは1948年に創部して、今年75年目を迎えました。Vリーグの女子チームとしては、日本で一番歴史のあるチームです。そしてVリーグ1部(V1)女子のチームではリーグ優勝は8回、天皇杯・皇后杯での優勝は9回と最多優勝ですし、世界の舞台でも活躍しています。

また、チーム所属選手が日本代表でも多数活躍しています。そして2023年に佐賀県鳥栖市に新たな練習拠点としてサロンパスアリーナを建設。「佐賀から世界へ」というスローガンを掲げて活動しています。

▲SAGA久光スプリングス株式会社 代表取締役 萱嶋章 氏

――ファン層についても教えていただけますか。

武田氏 : ひとつは、ファミリー層です。お子さんがバレーボールをしているなどで試合観戦に来ていただいています。もうひとつは、30代~50代の男性です。これからファン層を拡大していくことは私たちの一つのテーマです。佐賀県全体で、小さい子供からお年寄りまで応援していただけるようなチームを目指しています。

▲SAGA久光スプリングス株式会社 経営企画室長 武田雄葵 氏

――サロンパスアリーナは国内最高峰の練習拠点としてだけではなく、地域のコミュニティ形成の場としても位置付けられているということですが、どのような施設なのでしょうか。

萱嶋氏 : 運営会社であるSAGA久光スプリングス株式会社では、現役を引退した選手たちが社員として働いているように、サロンパスアリーナは女性と子供にフォーカスしたアリーナです。授乳室やキッズルームも備えており、ママさんバレーの間にもお子さんたちは遊びながらお母さんたちの競技を見ることもできます。

また、「佐賀から世界へ」というスローガンに関連するところでいうと、世界大会が開催できるレベルの設備を完備しています。一方で、一般市民の方々にも使っていただける場でもあります。女子チームの拠点として、女性が輝き続けるような場所を目指していますし、またスポーツの新しい価値を創造して地域貢献、国際交流の側面でも貢献していきたいと考えています。

▲充実した世界レベルの設備を整えているサロンパスアリーナ。一般の方もスポーツやイベント等で使用することが可能だ。

――今回、「SPORTS OPEN INNOVATION BUSINESS BUILD KYUSHU」に参画を決めた背景をお聞かせください。

萱嶋氏 : 一番は、女性の社会進出です。私たちスポーツチームとして、女性、子供、そして国際交流という3つの領域で貢献していく必要があります。チームとしては、1948年に佐賀県鳥栖市で結成し、その後2001年に兵庫県神戸市を拠点に、そして今年22年ぶりに佐賀に帰ってきました。今回の地域版SOIPをきっかけとして、地域の方々と密に交流をして、佐賀県から九州へと認知度を高めていきたいと考えています。

また、私たちのホームゲームの拠点となるSAGAアリーナは、8400名収容というスーパーアリーナです。そこをファンの方々で満員にして、佐賀から全国に発信していきたいです。佐賀県の皆さんと共に歩んでいくために、今回のビジネスビルドに参画することを決めました。

――今回、「『日本一女性が輝いている』チーム・地域へ 地域と“ともに”サステナブルな街づくりを目指す」をテーマとしていらっしゃいますが、どのような共創アイデアをイメージしていますか?

萱嶋氏 : アイデア例として3つ考えています。「バレーボールの魅力を最大限に引き出す。これまでにないスポーツの新たな価値の創造を目指す。」については、近いうちに世界のトップチームを佐賀にお呼びする予定です。そして地域の皆様にバレーボールの楽しさをお伝えしながら、「佐賀から世界へ」を実現していきます。また、ホームアリーナのSAGAアリーナでは、選手やフィールドにデジタル技術や次世代技術を融合させて、バレーボールの新しい体験価値を提供していきたいと考えています。

「女性の活躍推進」については、選手のセカンドキャリア支援が一つです。SAGA久光スプリングスでは、人事、総務、マーケティング、企画など、様々な部署で引退した選手が活躍しています。またタレント業務として、被災地に出向き勇気づけるなど、元アスリートならではの人材活用も可能です。また、佐賀県と連携して女性アスリートの支援を行っています。

「世界を目指す久光スプリングスを活用した国際交流」では、先ほど申し上げた海外トップチームの招聘がひとつ。そして旅行会社さんと組んで、海外からの観光客をSAGAアリーナの試合に呼び込んだり、サロンパスアリーナを観光ルートのひとつにしたりして、国際交流を深めていこうとしています。そうすることで地域経済の活性化に貢献していきたいですね。

――共創パートナーに提供できるアセットやリソースについてお話ください。

萱嶋氏 : ひとつは、サロンパスアリーナ、SAGAアリーナといった場所のリソースです。特にサロンパスアリーナについては、私たちの練習拠点としてだけではなく、地域により役立てていきたいです。また、人材のリソースも豊富です。チーム選手、OGで現在当社で働いている社員、そしてタレントとしては新鍋理沙、石井優希も活躍しています。そして、九州で唯一のV1 チームという立ち位置もアセットのひとつです。特に、女子のプロスポーツチームとして、これほど世界に挑戦したり、発信したりしているチームは他にあまりありません。そこが私たちの強みです。

――最後に、共創を検討している企業にメッセージをお願いします。

武田氏 : 女性のプロスポーツチームとして、業界をけん引できる存在でありたいと思っています。また、2023年に関してはSAGAアリーナやサロンパスアリーナといったハード面も充実し、いよいよ佐賀での活動の基盤が出来上がりました。これを機に、様々な企業と共創して、新しいスポーツの可能性を世間に示していきたいと思っています。

萱嶋氏 : 久光スプリングスは、地域に根差し、世界を目指すチームです。その特徴を、ぜひ活用していただきたいと思っています。また、これから女性がますます活躍する社会になりますから、私たちのような女子プロスポーツチームが先陣を切って地域貢献や国際交流に取り組み、発信力を高めていきたいです。

最後に、私たちは「強く・美しく・ともに」という価値観を大切にしています。この価値観の通り、地域、日本、世界と共に歩めるようなチームを目指しているため、ぜひご応募をお願いします。

【佐賀県山岳・スポーツクライミング連盟<クライミング>】 マイナースポーツが共通して持つ課題解決に挑戦

――佐賀県山岳・スポーツクライミング連盟の特徴や強みについて教えてください。

久我氏 : 選手、指導者、施設がそろっていることが強みですね。私たちはこれまでスポーツクライミングの分野で、世界で活躍するような選手を多く輩出しています。連盟のヘッドコーチである樋口義朗先生の息子さんの樋口純裕さんや、多久高校2年生の通谷律さんは、ワールドカップを転戦しています。また、子供のクラブチームがあることも特徴です。強い選手を育てるには、小さなころから競技に取り組まねばなりません。こうした体制は、長年連盟をけん引する樋口先生が築いてくださいました。

また、施設も大きな強みです。佐賀県立多久高校に2023年11月完成予定の「九州クライミングベースSAGA」は、ボルダー、リード、スピードの3種目ができる施設で、なおかつすべて国際基準に則っているため、世界的な大会も誘致できます。規模的にも日本一といえるような施設ですね。

▲佐賀県山岳・スポーツクライミング連盟 久我信 氏

――佐賀県内でクライミング競技が盛んで、いい選手が多数輩出されている理由は?

久我氏 : 樋口先生の熱意が一番の理由です。国民スポーツ大会「SAGA2024」に向け、小さなクラブチームの頃から強化に取り組み、育て上げてきた功績は大きいです。今後も県全体でクライミングに対する機運を盛り上げていきたいと思っています。

――「SPORTS OPEN INNOVATION BUSINESS BUILD KYUSHU」に参画を決めたきっかけを教えてください。

久我氏 : オープンイノベーションの本筋とは外れてしまうかもしれませんが、私たち連盟の抱える課題は3つあります。1つ目は、樋口先生の後継となる指導者の発掘です。その背景としては、これまで樋口先生が多久高校の教諭として1人で背負ってこられたことから負担が大きいこと、そして連盟の活動はボランティアで行ってきたことがあります。

このように後継指導者が難航していることからマンパワー不足が慢性化しています。そのため2つ目の課題として、新入部員の勧誘や受け入れも難しいという状況が発生しています。そして3つ目の課題は資金面です。クライミングは世界に近く、日本トップレベルに入ると世界トップレベルに名を連ねることができるほどです。そうすると、遠征に行ったりワールドカップを転戦したりしていかねばなりません。すると、費用面の問題が発生します。

私たちはこうした状況から脱して、持続可能なクラブ運営をしていきたいです。今回素晴らしい施設も完成するので、今後も佐賀から世界で戦えるような選手を継続的に輩出できるような仕組みづくりをすべく、参画を決めました。

――今回、「クライミング競技の魅力を発信することで、普及・運営・支援に携わる関係人口の増加を目指す」をテーマとして、共創アイデア例を3つ挙げていただいています。まず「クライミング競技の『楽しみの見える化』の実現」、次に「全国のマイナースポーツの共有課題への挑戦」、そして「世界を目指す選手の活動を支援するスポンサーシップ」ですが、それぞれについてお話いただけますか。

久我氏 : 先ほど挙げた3つの課題のうち、後継者問題はひとまず連盟内で検討することとなっています。2つ目の新入部員の課題については、「クライミングをやってみたい」という人はたくさんいる状況です。

先日も県と一緒に小学生向けの体験会を開催したのですが、60人の定員に対して300人を超える応募がありました。それだけ、ポテンシャルのある状況ということです。もっと積極的にクライミングの楽しさを伝えて人をたくさん巻き込むことができれば、指導料も支払えますし継続的な指導者の育成にもつながるはずです。だからこそ、「楽しみの見える化」を1つ目のアイデア例にしています。より効率的に県内の子供たちに楽しさをアピールできるアイデアを求めています。

2つ目については、マイナースポーツは、樋口先生のような1人の偉大な指導者に頼り切ってしまったり、人手不足のためにクラブ運営の仕組みがうまく回らなかったりと、共通の課題があると思います。そうした運営上の課題をDX化することで、少ない人数でも運営が可能になるかもしれません。今回のビジネスビルドで新しいアイデアを募り、事例をつくることで同じ悩みを持つマイナースポーツにも展開していけたらと考えています。

そして3つ目もマイナースポーツの特徴として、スポンサーがなかなかつきにくいという課題があります。今も、世界に近い選手がいますが、せっかくチャンスをつかんでも、資金面の問題があるとチャンスを逃しかねません。そのため、サポート体制をしっかり作る必要があります。もしかしたら、「佐賀をスポーツの力で元気にしたい」と考えている企業があるかもしれません。そういう相手とつながれるような仕組みがあるといいですよね。

――提供できるリソースについてお聞かせください。

久我氏 : 日本最大級のクライミング施設「九州クライミングベースSAGA」を活用して、楽しいことができると思います。また、選手たちも樋口先生が育ててくれた子供たちばかりですから、その保護者も含めて協力体制を得られるはずです。現在、連盟に所属している選手は40名ほどです。

▲2023年7月に行われたスポーツクライミング体験会の様子。募集定員の5倍以上の応募があった。

――最後に、応募を検討している企業にメッセージをお願いします。

久我氏 : 私たちが挑戦しようとしていることは、簡単ではありません。マイナースポーツとして活路をどう見出していくかを考えるチャレンジングなプロジェクトです。同じような課題を抱えている団体は全国的にたくさんあるはずです。

マイナーだからとそのままにするのではなく、今回私たちが取り組みを進めることで、競技人口を増やしメジャーにするくらいのプロジェクトにしていけば、それが産業につながりますし、SOIPの理念にも合致すると思います。難しいながらも、パートナー企業のお力を頂きながら全国に展開できる事例をつくっていきたいので、ぜひご応募のご検討をお願いします。

【佐賀バルーナーズ<バスケットボール>】 地域に開かれたチームとして、新たな価値創造に挑戦

――佐賀バルーナーズのチームの特徴を教えてください。

田畠氏 : 佐賀バルーナーズは、2018年創設のプロバスケットボールクラブチームです。2022-23シーズンにB2 優勝し、B1昇格を決めました。2015年のBリーグ発足後の新規参入クラブとしては、初のB1昇格となります。まだ歴史が浅いがゆえに、常識にとらわれず面白そうなものにはなんでも受け入れていく柔軟さがあります。

▲株式会社佐賀バルーナーズ 代表取締役社長 田畠寿太郎 氏

――今シーズンからはSAGAアリーナを拠点に活動されるということですが、観戦体験は地元の方々にどう受け止められていますか?

田畠氏 : 今年5月に佐賀バルーナーズが最初に使わせていただきましたが、非常に新鮮に受け止めていただけたようです。稀有な環境の中で、みなさんにこうした体験を提供できることは、ありがたいことですね。

――佐賀バルーナーズのファン層について教えてください。

田畠氏 : どちらかというと女性のお客様が多いです。年代としては30代、40代が中心ですね。アリーナでの観戦体験の面白さや、グッズ、飲食なども魅力になっていると思います。Bリーグは徹底的にエンターテイメントを追求していることからも、楽しみにしていただいています。

――今回、「SPORTS OPEN INNOVATION BUSINESS BUILD KYUSHU」に参画を決めた背景をお聞かせください。

田畠氏 : 今シーズンから、佐賀バルーナーズは新しくできたSAGAアリーナをホームアリーナとしていきます。8000人規模のアリーナは、まだ全国をみても数えるほどです。Bリーグは2026年に向けた将来構想「B.革新」を進めていますが、新B1リーグ参入のライセンス条件は、平均入場者数4000人以上となっています。だからこそ、持続的に集客するためのアイデアが必要です。

そしてSAGAアリーナを佐賀県内だけではなく、九州の皆さんに魅力を届けられるような場にしていくためのアイデアも求めています。バスケットボール観戦の文化は九州にもあまり根付いていないのですが、SAGAアリーナでの観戦体験を通じてバスケは面白いものだとイメージづけていければと考えています。佐賀県のバルーナーズとして、そして九州のバルーナーズとしての立ち位置をつくっていきたいですね。

――今回のプログラムのテーマや、共創アイデア例について教えてください。

田畠氏 : テーマは、「地域経済に貢献する『チームの日常化』、地域によりそうファンエンゲージメント創出」を掲げています。そして共創アイデア例としては「アリーナ・商店街、デジタルを活用した新たなイベント」、「商店街×プロスポーツチーム、地域活性化モデルの創出」、「AI・VR技術を活用した個人特化したツーリズム」の3つです。

全体として、バスケットボールの観戦だけではなく、それを含めて佐賀から帰ってきたときに「面白かった!また来たい」と思ってもらえるような体験を提供したいです。例えば、SAGAアリーナに行く道中のお店で美味しいものを食べたり、街の人と触れ合ったり、観光を楽しんだりする、そのトータルが大切だと思います。SAGAアリーナ内での観戦体験の工夫はもちろん、佐賀バルーナーズの試合があることによって、商店街など地域経済に貢献していきたいです。先に挙げた3つのアイデア例は、「こういうものがあればお客様は楽しめそう」という事例として出しています。

極論を言ってしまうと、「あの飲食店が美味しかったから、今度また佐賀に行こう。素敵な宿にも泊まりたい。バルーナーズの試合も、そのついでに観に行こう」というように、地域活性化につなげられたら、私たちは“ついで”でもいいと思うんです。

――佐賀の経済に貢献していきたいということですね。3つのうち特にユニークなのが、「AI・VRを活用した個人特化したツーリズム」ですが、これはどんなことを考えていますか?

田畠氏 : 試合前後の県内回遊を促進するために、県民のリコメンドをデータベースとしたオリジナル観光プランを組めるプラットフォームを構築するなど、面白いことができたらなと思います。単に「チームを応援してください」で終わるのではなく、街があってクラブがあって、ひとつのエンターテイメントとして、週末が楽しみになるよう貢献していきたいんです。そのためには、色んな人の力が必要ですから、一緒に考えていける方を募集しています。

――SAGAアリーナの周辺の特徴や観光スポットはありますか?

田畠氏 : SAGAアリーナ近くのJR佐賀駅には、最近新しい飲食店やショップがたくさんでき始めています。また、佐賀駅の南側には佐賀城跡があり、その近くにも商店街があります。新しいものと古きよきもの、双方が混在する魅力ある街だと思います。

――パートナー企業に提供できるリソースやアセットについてお聞かせください。

田畠氏 : ホームアリーナであるSAGAアリーナは、活用ができますし、選手たちも地域貢献活動に取り組むことができます。また、私は元々地元で様々な活動をしてきました。商工会議所、青年会議所、法人会といった佐賀の経済団体の皆さんとは、私自身がプレーヤーとして参加をしてきたので、いろいろな方面から協力を得られると思います。

――最後に、パートナー企業として応募をご検討されている方へのメッセージをお願いします。

田畠氏 : 佐賀バルーナーズはB1に昇格したばかりで、まさにこれからがスタートです。私たちと一緒に、これから佐賀の街を盛り上げていける企業からの応募をいただけたら嬉しいです。ぜひよろしくお願いいたします!

取材後記

女子バレーボール、クライミング、バスケットボールの3チーム/団体が、九州エリアから共創パートナーを募集している。人口80万人の佐賀県には、プロスポーツチームがひしめき合っている。久光スプリングスは女子バレーボールチームの中でも最も歴史のあるチーム。佐賀バルーナーズは新進気鋭のバスケットボールチームだ。そして佐賀県山岳・スポーツクライミング連盟は規模こそ大きくないものの、世界で活躍する選手を擁している。それぞれ個性ある存在だ。そして各チーム・団体がすべて2023年に完成した九州最大級のアリーナや競技場を拠点としているという共通点もある。このようにポテンシャルにあふれる佐賀県で、ぜひスポーツビジネスの新たな価値の創出に取り組んでほしい。

「SPORTS OPEN INNOVATION BUSINESS BUILD KYUSHU」の応募締切は9/18(月)までとなる。

(編集・取材:眞田幸剛、文:佐藤瑞恵)


シリーズ

【地域版SOIP】スポーツの成長産業化への軌跡

見る者もする者も支える者も、携わるだけで一丸となることができる、究極のエンターテインメント。地域発の「スポーツ×〇〇」のビジネスで、スポーツを成長産業へ。スポーツ庁が推進する『地域版SOIP』と全国各地域でのオープンイノベーションの軌跡に迫ります。