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【塩野義製薬×ピクシーダストテクノロジーズ 対談】オープンイノベーションを成功させるために必要な3つの心構えとは?

【塩野義製薬×ピクシーダストテクノロジーズ 対談】オープンイノベーションを成功させるために必要な3つの心構えとは?

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「オープンイノベーション促進のためのモデル契約書に関する調査研究」の取り組みの一環として、特許庁 オープンイノベーション推進プロジェクトチームは2月28日、「本音トークでおくる!オープンイノベーションを成功に導くための大企業・スタートアップの心構え」と題したセミナーを開催した。

本セミナーで登壇したのは塩野義製薬ヘルスケア戦略本部イノベーションフェローの小林博幸氏と、ピクシーダストテクノロジーズ代表取締役COO村上泰一郎氏だ。セミナーでは両社が実際に取り組んでいるオープンイノベーションの取り組みについて解説されたほか、直面した課題や、課題をどう乗り越えたかについて対談した。

――TOMORUBAのシリーズ企画「オープンイノベーションの知財戦略」の第四弾となる本記事では、オープンイノベーションを実践する、もしくは検討している大企業やスタートアップに向けて、セミナーで語られた要点を紹介していく。

※関連記事:

第1回セミナーレポート https://tomoruba.eiicon.net/articles/3949 

第2回セミナーレポート https://tomoruba.eiicon.net/articles/3975 

第3回セミナーレポート https://tomoruba.eiicon.net/articles/4095

■講師プロフィール

塩野義製薬株式会社 ヘルスケア戦略本部 イノベーションフェロー 小林 博幸 氏

北海道大学大学院博士課程修了(薬学)。学位取得後、1999年よりPostdoctoral fellowとしてYale Univ.(Dieter Soll研)にて基礎研究に従事。2001年より武田薬品工業株式会社 医薬研究本部に研究員として入社し、2017年に同社から分社化したAxcelead drug discovery partners 研究本部に転籍。2018年に塩野義製薬株式会社に入社し、現在に至る。その他、株式会社 フローラインデックス(社外取締役)、株式会社 AdvanSentinel(社外取締役)、AMED(評価委員)、JST(領域アドバイザー)、日本生物資源産業利用協議会/CIBER(理事)、日本下水サーベイランス協会(副会長/理事)などを兼務。

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 代表取締役COO 村上 泰一郎 氏

東京大学大学院修士課程修了(工学)。その後アクセンチュア戦略コンサルティング本部にてR&D戦略/デジタル化戦略/新規事業戦略等を中心に技術のビジネス化を支援。また同社在職中にオープンイノベーション組織(Open Innovation Initiative)、およびイノベーション拠点(Digital Hub)の立上げにも参画。2017年よりピクシーダストテクノロジーズ株式会社COO。

塩野義製薬とピクシーダストテクノロジーズが推進する共同研究プロジェクト

セミナーの冒頭はそれぞれの登壇者の自己紹介からはじまった。村上氏はアクセンチュアで新規事業戦略を中心としたコンサルタントとしてオープンイノベーション組織やオープンイノベーション拠点の立ち上げを担当し、その後、落合陽一氏とピクシーダストテクノロジーズを創業して現職に至る。そのため村上氏はオープンイノベーションの「大企業側」も「スタートアップ側」も知る人物だ。一方の小林氏は、いくつかの創薬大手企業を経て塩野義製薬でイノベーションフェローを務め、社外活動も活発に行っているという。

▲塩野義製薬株式会社 ヘルスケア戦略本部 イノベーションフェロー 小林博幸氏

小林氏は「現在オープンイノベーションにおいて、DXがバズワード・流行りになっている」と前置きをして、DXにも分類はさまざまあるが本セミナーの主題は「ビジネス側のDX」だとして、新規事業創出や既存ビジネスの変革について解説するという。

ビジネスのDXをさらに細分化すると、「顧客ニーズ」と「社会ニーズ」のどちらにソリューションを提供するか、という分類ができる。塩野義製薬とピクシーダストテクノロジーズが取り組むオープンイノベーションは「顧客・社会ニーズどちらも満たす」ものだと小林氏は話す。

両社の取り組みを解説する前に、小林氏は村上氏に「薬のイメージとはどのようなものか」と質問した。村上氏は「処方されて、飲むものというイメージ」と回答すると、小林氏は「一般的には飲む、打つ、貼るなどして病気を“治すもの”と定義されがちだが、本来は病気にならない、悪くならないようにする“予防するもの”とも言える」と解説した。

さらに、「予防する、悪くならないようにするという観点で考えると、必ずしも方法は飲む、打つ、貼るだけではないはず」と観点を変えることで、DXに取り組んでいるという。小林氏は事例として、ADHDの不注意症状を治療することを目指し「ゲーム×医療」の掛け合わせで医療ベンチャーAkiliと提携してアプリを開発していると説明した。

同様に、小林氏はピクシーダストテクノロジーズが五感を通じた事業を展開しているため、「五感×ヘルスケア」を掛け合わせてプロダクトにつなげていくとして、オープンイノベーションの取り組みの方針を解説した。

塩野義製薬は今後、ヘルスケアにおけるオープンイノベーションは「企業が個別にサービスを開発する“サイロ型”」から「データを統合してコラボレーションする“ネットワーク型”」に以降していくと展望を述べた。

続いてマイクを受け取った村上氏は、ピクシーダストテクノロジーズの事業について説明した。同社は筑波大学発のR&Dベンチャーとして創業し、コア技術は「波動制御」であり、音、光、電波、を制御するテクノロジーを持っているという。このコア技術を駆使して、ヘルスケアや働く現場の効率化に寄与する事業を展開している。

▲ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 代表取締役COO 村上 泰一郎 氏

ピクシーダストテクノロジーズは塩野義製薬との取り組みとして、「日常生活の中で認知症の治療・予防ができないか」という課題解決を目指しているという。小林氏が前述した「薬以外のアプローチ」もここに含まれる。具体的に、両社の連携によって「脳の特定のリズム活動(ガンマ波)を見出した」という。よく知られている「リラックスするとアルファ波が出る」と同様に「認知機能とガンマ波にも関連がある」ということがわかっている。

さらに、「意図的にガンマ波を出すことで短期記憶が改善する」ことが過去の研究でわかっていたが、これまでは意図的にガンマ波を出すには電気刺激が必要だった。そこで両社は共同研究を進めたところ「ガンマ波が独自の制御をかけた音で出せる」ことが発見されるイノベーションがあったという。このガンマ波を出せる音は生活に溶け込ませることができ、その社会実装や適用範囲の拡大に向け両社はさらなる研究を進めている最中だという。

オープンイノベーションで重要なのは「大義」「オープン」「スピード」

ピクシーダストテクノロジーズと塩野義製薬は、2019年に経団連が主催するKeidanren Innovation Crossing (KIX)というイベントで知り合い、2021年から共同研究を開始している。2022年には共同事業に向けた基本合意を締結し、同年に塩野義製薬、シオノギヘルスケア、ピクシーダストテクノロジーズの三社間業務提携契約を発表している。そして2023年の春には共同開発製品を発売する予定だ。

では、両社がオープンイノベーションを実現するうえで大切にしていることは何か?トークテーマは「オープンイノベーションを成功に導くための大企業・スタートアップの心構え」に移っていく。

まずマイクをとった村上氏は、「社会価値の最大化を判断基準にすること」を念頭において協業に取り組んでいるという。さらに「その後に、両社の取り分はフェアになるように考える」と付け加えた。村上氏は取り分をフェアにすることは「特に重要」と捉えているようで、「先に自社の利益の話をしてしまうと、それぞれ違う生き物だし、それぞれ正しいはず。そこから話し始めてしまうと着地しなくなってしまう」という。なので、違う生き物同士であっても「大義があってやっているはずなので、そこを判断基準に意思決定すべき」と持論を述べた。

村上氏は続けて「オープンにやること」も心構えとして重要だという。オープンイノベーションの模索段階では、会社によって理論も違えば目指すものも違うため、「腹の探り合い」が発生してしまいがちだが、村上氏は「率直にこう考えています、とあけすけに話す。そうすることで腹の探り合いに時間をかけることなく、社会価値の最大化にフォーカスできる」と語る。

もうひとつ、「スピード」が重要になると村上氏はいう。スタートアップには大企業とは違い資金調達後のランウェイと呼ばれる寿命があり、一般的に「資金調達から18〜24ヶ月あれば上出来」。手を組む大企業とスタートアップはそういった両社の置かれている状況の違いを理解し、スピード感をそろえなければならない。

小林氏は大企業側の立場として「塩野義製薬としては薬を創って売ることに関してはプロだが、ヘルスケア全体から見るとできることは一部」であるため、足りないピースを補う手段としてオープンイノベーションによる協業は欠かせないという。そのため「ピクシーダストテクノロジーズのことはスタートアップというよりもパートナーとして見ている」と本音を語った。また、村上氏が語った「オープン」についても小林氏は同意しており「塩野義製薬の本部長クラスや、村上さんが本音でぶつかりあえる環境が作れている」という。さらに、決裁者同士が本音でぶつかっているからこそ意思決定までの「スピード」も出せていると自信をにじませた。

反対に、オープンイノベーションに失敗してしまった例として村上氏は、大企業側から「いつも使っている契約書に沿って契約」するように要求された経験を挙げた。これまでにない価値を創るために、それぞれの大義を達成するため対等な立場で契約するのが理想であるにも関わらず、「いままでこうだったから」という理由でスタートアップ側に不利な契約を突きつけられるケースもあったという。

村上氏はセミナーのまとめとして、契約上の失敗を避けるためにも両社の大義をすり合わせ、フェアな契約ができるように「上層部で握っておいて、契約に落とし込む」のが良いと対策を解説した。そのうえで、「具体的にどう契約書を作成するのか、というTipsについてはモデル契約書を参考にすればいい」と締めくくった。

取材後記

実際にオープンイノベーションに取り組んでいる両社の実務者同士の対談だったので、生々しい話が多く興味深いセミナーとなった。特に、最後のセクションで話題に挙がった「スピード」について、寿命があるスタートアップに対して、大企業がスピードについていけなくなるケースはよく聞くが、塩野義製薬はあくまでもスタートアップを対等なパートナーとして見ているため、しっかりとスタートアップのスピード感に足並みをそろえていることが印象的だった。今後、オープンイノベーションを成功させるには大企業がスタンスを変えていくことが重要になっていきそうだ。

※関連サイト:特許庁「オープンイノベーションポータルサイト」 

(編集:眞田幸剛、文:久野太一、撮影:齊木恵太)

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  • 田上 知美

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