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公取委と弁護士が解説!VISAとSquareのような理想的なオープンイノベーションを実現するための契約書の作り方とは?

公取委と弁護士が解説!VISAとSquareのような理想的なオープンイノベーションを実現するための契約書の作り方とは?

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「オープンイノベーション促進のためのモデル契約書に関する調査研究」の取り組みの一環として、特許庁 オープンイノベーション推進プロジェクトチームは2月21日、「公取委と弁護士が語る! "公正さ"と"事業価値の最大化"を両立する オープンイノベーションにおける取引・契約の実践ポイント」と題したセミナーを開催した。

本セミナーで登壇したのは公正取引委員会事務総局の吉川泰宇氏と、法律事務所amanekuの代表弁護士の山本飛翔氏(上写真)だ。第1部では吉川氏がスタートアップの取引慣行に関する実態調査や、スタートアップとの事業連携に関する指針に基づいた公正な取引の実現に向けた取引・契約のポイントについて解説。第2部では、山本氏が事業価値を最大化するためのオープンイノベーションを実現するための、実践的なポイントについて解説した。

――TOMORUBAのシリーズ企画「オープンイノベーションの知財戦略」の第三弾となる本記事では、吉川氏・山本氏によるセミナーの要点について紹介していく。

※関連記事:

第1回セミナーレポート https://tomoruba.eiicon.net/articles/3949 

第2回セミナーレポート https://tomoruba.eiicon.net/articles/3975 

■講師プロフィール

公正取引委員会事務総局 経済取引局取引部 取引調査室長 吉川泰宇氏

2000年公正取引委員会入局。外務省OECD代表部一等書記官、中部事務所総務管理官を経て、審査局第四上席審査専門官としてデジタル・プラットフォーム事案を担当(2018~2022)。2022年7月より現職。

法律事務所amaneku 代表弁護士・弁理士 山本飛翔氏

弁護士になって以来、一貫してスタートアップの知財戦略支援に取り組んでおり、2020年の3月には『スタートアップの知財戦略』を出版し、同月に特許庁よりスタートアップ知財の専門家として奨励賞を、2022年には東洋経済の「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」知的財産部門1位を受賞。2023年より法律事務所amanekuを設立し、同事務所の代表弁護士に就任。また、大企業や大学の法務・知財面のサポートも行ってきた経験を活かし、2019年度より特許庁・経済産業省「オープンイノベーションを促進するための支援人材育成及び契約ガイドラインに関する調査研究」(事務局)に、2022年度より内閣府「大学の知財ガバナンスに関する検討会」(委員)に参画する等、スタートアップ・大企業・大学の三者にとって理想的なオープンイノベーションの形を実現するべく尽力する。

取引時に“納得できない行為を受けた”スタートアップは17%にのぼり、「無視できない数字」に

セミナーの第1部に登壇したのは、公正取引委員会事務総局の取引調査室長を務める吉川泰宇氏。取引調査室とはさまざまな分野の取引の実態を調査する部門で、それらの報告書を公表する取り組みをしている。第1部では、スタートアップをめぐる取引の調査結果や実態調査、そしてそれを受けて示された指針について解説していく。

最初に吉川氏は、スタートアップをめぐる取引が公正に行われているかの調査結果とそこから導き出した指針の資料を展開したが、「設立間もないスタートアップほど、この指針を認識していないことがわかった」と明かした。

また、スタートアップと取引する出資者や連帯事業者に対しても、さらなる指針の啓蒙が必要であるという。では、具体的に「実態調査と指針」とは一体なんなのか。そもそもの経緯は、取引調査室で製造業のノウハウや知的財産を対象に実施した実態調査を行ったところ、スタートアップとの取引に問題があることが発覚したためで、それをきっかけにスタートアップをめぐる取引全体に範囲を広げて実態調査を行う必要があると判断した。

実態調査の概要として、日本を取り巻くスタートアップの環境について解説した吉川氏は「スタートアップ先進国と比較すると日本はユニコーン数、出資額ともに低くなっている」と課題を語った。

次に、スタートアップと連携事業者の取引の流れは一般的に下記の4段階に分けられるという。連携することで両社がシナジーを生み出すことが主な目的だ。

1.秘密保持契約(NDA)

2.技術検証契約(PoC)

3.共同研究契約

4.ライセンス契約

また、スタートアップに対して出資する出資者には大きく4種類あるとされている。基本的にはキャピタルゲインをあげること、もしくはシナジーの創出が目的となる。

1.投資ファンド

2.事業会社

3.ベンチャーキャピタル

4.コーポレートベンチャーキャピタル

実態調査の核心部分として、吉川氏はスタートアップを対象にしたアンケート結果を紹介した。アンケートに回答したスタートアップのうち「連帯事業者または出資者から納得できない行為を受けたことがある」と答えたのは全体の17%に及ぶという。

その17%のスタートアップのうち、「少なくとも一部は納得できない行為を受け入れた」と回答したのは約79%、さらにそのうち「納得できない行為を受け入れたことにより不利益が生じた」と回答したのは約56%にのぼったという調査結果を共有した。このことについて吉川氏は「納得できない行為を受けた“17%”という数字は必ずしも多いとは言えないが」と前置きしつつ、「独禁法に馴染みのないスタートアップであること、また連帯事業者や出資者との契約期間があることを加味すると無視できない数字だ」と見解を示した。

さらに細かく分析すると、スタートアップの中でも「法務担当者が存在する」または「売上高が多い」ほど、納得いかない行為を受けずに済むこともわかったという。同じスタートアップでも法務リテラシーや規模の差がポイントになる。スタートアップからのヒアリングで挙がった意見としては「時間がない」「相手企業が有力な大企業である」といった理由から対等な取引ができない現状があるという。

スタートアップをめぐる公正な取引を実現するために、独禁法上問題となるおそれがあるのは上図の行為となる。特に契約書まわりについてはスタートアップが大企業からの不利な条件を受け入れなければならない、いわゆる「優越的地位の濫用」が発生しやすいため、吉川氏は問題を回避するソリューションとして特許庁が策定している「モデル契約書」の活用を推奨した。

NDA、PoC契約、共同研究開発契約、ライセンス契約など、いずれの契約書でも優越的地位の濫用が起こりやすいため、吉川氏は「スタートアップは具体的な事例が参照できるモデル契約書をベースに契約書を作成することが望ましい」と、第1部を締めくくった。

スタートアップは下請けではない。これからの大企業の法務部に求められるマインドセット

第2部のテーマは「スタートアップとのオープンイノベーション〜独占禁止法との関係も踏まえて〜」。登壇するのは法律事務所amaneku代表弁護士・弁理士の山本飛翔氏だ。山本氏は第1部でも話題にあがった特許庁が作成した「モデル契約書」プロジェクトに事務局として関与している。

▲法律事務所amaneku代表弁護士・弁理士の山本飛翔氏

冒頭、山本氏はスタートアップの持つ「大企業のパートナー」という特性について言及した。例としてクレジットカード大手のVISAと、カード決済端末とソフトウェアを提供するスタートアップSquareの事例を挙げ、「このパートナーシップでVISAとしては出資によるキャピタルゲインだけでなく、Squareが普及することによってVISAクレジットカード利用者の拡大も期待できる」と述べ、両社がWin-Winになることがパートナーシップの目指すべき到達点だと説明した。

さらに、スタートアップは資金調達を開始してからおよそ10年でEXITを目指す必要があるという特殊性について付け加えた。これらのスタートアップの特性を鑑みると、スタートアップとの取引関連で問題の起こりやすい箇所が見えてくる。

ひとつはスタートアップとのオープンイノベーションの契約のひな形が存在しておらず、大企業はこれまでの「下請け」用の契約書のひな形でオープンイノベーションに関する契約をしてしまうことが多かったことが挙げられる。スタートアップは短期的に大きな成長を遂げる必要があるため、下請けとして特定の企業に紐づけられてしまうと致命傷になりかねないのだという。

では、下請け用の契約書ひな形をスタートアップ向けにアレンジすればいいのかというと、「難しい」ようだ。というのも、下請けに発注する企業の法務部の大きな役割は「法務・知財リスクを最小化し、リスクを顕在化させないこと」であり、法務部の人事評価は「プロジェクトの事業上の成功」ではなく「リスクの最小化・顕在化させないこと」という構造になっているのだと解説する。要するに、下請け用の契約書ひな型から、スタートアップとのオープンイノベーションに適した契約条件へ修正することは、大企業側の法務部にとっては自社に不利な条件変更をするように見えるため抵抗感があるのだ。

こうした背景を踏まえて、大企業とスタートアップはどのような契約を結ぶべきなのか。――山本氏は「スタートアップとの連携を通じ、知財等から生み出される事業の総和の最大化」に合理性があるという考え方を、”基本的な視点”として持つべきだという。

つまり大企業側の法務部や弁護士は「何がスタートアップにとって致命傷になってしまうのか」や「どうすればスタートアップにもメリットが提供できるのか」といった観点を持つことが重要になる。

山本氏は”基本的な視点”を解説する例として「最恵待遇条項」を挙げた。最恵待遇条項とは、「契約において一方当事者(利用事業者)が他方当事者(デジタル・プラットフォーマー)に取引上、最も有利な条件又は地位を提供することを確約する条項のこと」で、運用を間違えると大企業側が独禁法違反に問われるケースもある。

山本氏は「最恵待遇条項が入っているもの全てに独禁法のリスクがあるわけではない」という。ケーススタディとして、「AIスタートアップが連帯事業者(大企業)からデータやノウハウの提供を受けてカスタマイズモデルを生成してより多くの企業にサービスを提供する」場合を例に挙げた。

山本氏は「データを提供した見返りとして、合理的期間にまわって対象領域についてサービス利用料の優遇などの経済的便益を受けることは一定の合理性を有する」と考えられるとの見解を示した。(モデル契約書第8条を参照)

一方で別の問題として、スタートアップ側が「我々はスタートアップだから一方的に守られるべきだ」と主張するケースもあるが、これも対等な関係性を前提としたオープンイノベーションにはふさわしくない。スタートアップも、大手企業にスタートアップの特性を踏まえて動くことを求める以上、どういった形であれば、大手企業に利益が出て、また、どういった形だと困ってしまうのかといった点を大手企業の特性を踏まえて意識し、スムーズに取引を進められるよう、工夫していくことが求められる。

PoCにおけるトラブル回避の要点

次に、山本氏はオープンイノベーションの各フェーズごとの契約書における具体的な注意点に言及した。

秘密保持契約(NDA)について、よくあるリスクとしては商談の時点からスタートアップ側から売り込みの一環で営業秘密にあたる情報を大企業に提供してしまうケースがあるという。

大企業は自分の身を守る意味でも、交渉の初期段階からNDAを締結するのがリスクヘッジにつながる。また、NDAを締結して開示した情報を盗用(目的外利用)されないために、NDA締結の目的を過不足なく特定する必要もあるという。これは、自分たちが契約違反を問われる秘密情報の利用の射程を明確化するという観点から、大企業にとってもリスクヘッジにつながる。

続いて技術検証契約(PoC)について、スタートアップがPoCで受ける委託料の設定をめぐってトラブルが発生するケースが多くなっているという。このトラブルを避けるためには、「スタートアップが少ないリソースを割いてPoCをしている以上、作業量として適正な対価を支払う」という観点が重要となる。

ただ、委託料設定の実状として「スタートアップは安くてもいいから早く次のステップに進みたい」というベクトルが働き、その結果安すぎる委託料をめぐって大企業が独禁法に問われるリスクも生じるため、安い委託料を設定する際には、その価格設定の理由が契約書上読み取れる形で設計することが重要であり、また、適正な対価を設定することは双方にとってメリットがあるという。

もうひとつPoCでよくあるトラブルとして「期待していた成果がでなかったので報酬を減額、もしくは支払わない」というケースもある。そもそもPoCは検証が目的であり、成果は問われない性質がある。したがって、品質の補償の有無についてはこの契約段階で明示しておく必要がある。特にAI領域では、インプットするデータによって出来上がるモデルの品質が異なるので開発担当者が品質の補償をすることは容易ではないことからも注意が必要だ。

共同研究開発契約におけるポイントとは?

次に、山本氏は「議論の多いポイント」という共同研究開発契約の解説に進んだ。問題になりがちなのは「お金出しているのは大企業だから、成果物の知財の帰属も大企業だ」という言い分と「作業したのはスタートアップだからスタートアップに帰属すべきだ」という両社の食い違いだという。

これを防ぐには契約書で役割分担を明示することが有効だが、実務と照らし合わせると事前に精度高く役割分担をすることは容易ではない。そのため、共同研究開発に進んでからも、こまめに契約書の内容をアップデートするのが良いという。なお、事業連携指針によれば、大企業による経費負担だけでは知財を帰属させる正当な理由にはならないおそれがあるとのことだ。

ではどのような解決の方向性があるのか、山本氏は冒頭で述べたVISAとSquareの事例のように「Squareに知財を帰属させ事業成長することがVISAのメリットにもつながる」というWin-Winの契約を目指すべきだという。知財権を共有にする方法もあるが、ライセンス契約の際など、権利を共有する両社の同意を得る必要があるため実際に運用するにはハードルがある。コア技術は自社で持つべき、という原則に立ち返ればスタートアップに知財が帰属するのが好ましい。

大企業としては知財のライセンス利用を無償、もしくは大企業に有利なものにすれば双方のメリットは受けられるが、注意しなければならないのは「大企業が独占でライセンスを利用する」ケースだ。スタートアップはオープンイノベーションを通じて急成長を目指さねばならないので、大企業1社に紐づけられてしまうことはリスクとなる。解決策としては大企業には特定領域で特定の期間を設けて独占的通常実施権を設定し、スタートアップは当該領域以外は自由に実施できるようにするのが落とし所になる。もし、このような独占契約でも致命傷となってしまう場合には、一定期間、大企業側が最も安くライセンスを利用できるように料金に傾斜をつけるのも有効な手段となる。

山本氏は最後にライセンス契約、特に特許保証の問題について言及した。問題事例として「正当な理由なく事業連携の成果に基づく商品・役務の損害賠償責任の一方的な負担を要請する場合」を挙げた。解決策はスタートアップと大企業との適切なリスク分配を設定することで、この観点からスタートアップ側が特許保証まで行わないという前提で他の条件を定めることだという。

スタートアップに有利な設定に聞こえるが、スタートアップに特許保証をさせてもしっかりクリアランスできるスタートアップが少ないため、大企業側は、特許保証の面では譲歩し、そこで譲歩したことを他の契約条件の交渉材料に用いることが良いのではないか(例えば、「そのかわりライセンス料など優遇できるか」等)、と解説してセミナーを締めくくった。

取材後記

モデル契約書の普及・定着を目的にしている当セミナーだが、スタートアップの法務・知財リテラシーの向上だけでなく、同時に大企業の法務部・知財部のマインドセットの転換も促しているように感じた。オープンイノベーションに理解のある法務部・知財部が増えれば、スタートアップにとってはチャンスが広がることになる。理想的なオープンイノベーションの成功例が日本から次々と飛び出し、後続の道標となる事例が多く創出されることを期待したい。

※関連サイト:特許庁「オープンイノベーションポータルサイト」 

(編集:眞田幸剛、文:久野太一、撮影:齊木恵太)

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