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【弁護士解説コラム】有益なオープンイノベーションを実現する法務・知財面の留意点とは②

【弁護士解説コラム】有益なオープンイノベーションを実現する法務・知財面の留意点とは②

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1、はじめに

前回は、現在のオープンイノベーションの意義と課題についてご紹介いたしました。今回は、前回ご紹介した課題を踏まえ、法務・知財の観点から、どのような課題解決方法があるのか、という点をご紹介いたします。

2、アクセラレーションプログラムによる接点の確保と留意点

大企業がスタートアップとのオープンイノベーションを実現するべく、アライアンス先候補としてのスタートアップを探す場合、どこにどのようなスタートアップがいるかの勘所が付かず、探す段階で苦労をすることも少なくありません。そこで、自社で探すのではなく、オープンイノベーションのパートナーとなりうるスタートアップに集まってきてもらうため、自社単独又は既存のイベント主催者と共同でアクセラレーションプログラムを開催することが考えられます。

最近では、多くの官民の団体から多種多様なアクセラレーションプログラムが提供されるようになってきましたが、大企業が提供するアクセラレーションプログラムについては、大企業側のその開催の目的も様々なものになります。大手企業の新規事業を協業・投資により創出する目的での開催や、投資目的、スタートアップとのリレーション形成目的等色々挙げられるでしょうが、当該目的に応じたアクセラレーションプログラムを開催する必要となります。すなわち、スタートアップもその時点で自社に足りないところを補うためにアクセラレーションプログラムに参加するのであって、大企業としても、いかなる課題をもったスタートアップをパートナー候補とするかによって、課題解決手段としていかなるアクセラレーションプログラムを用意するかが、異なってくるでしょう。 

例えば、初期のフェーズのスタートアップをターゲットにするのであれば、ニーズの検証をなしうるプログラムを提供することや、また、プログラム/サービスを開発した後のスタートアップであれば、販売や保守等のサポートができるプログラムを提供する等の工夫が必要となるでしょう。

なお、いかなるスタートアップをパートナー候補にするとしても、参加者の成果物に関する知的財産権を主催者たる大企業に無条件で帰属させる形は避けるべきでしょう。なぜなら、スタートアップは、多くの企業との取引を展開していくことにより、短期間に大きく成長することを目指していくことが多いため、特定のパートナー企業に自社成果物の知的財産権を吸い上げられてしまうと、その後の展開可能性が限定され、事業成長の妨げになるおそれがあるためです。そのため、仮に参加者の成果物に関する知的財産権を主催者たる大企業に無条件で帰属させる形をとってしまうと、スタートアップコミュニティにおける当該大企業の評判が頗る悪くなり、その後の(他の会社も含めて)スタートアップとのオープンイノベーションの機会を逸してしまう可能性が高いといえるでしょう(※1) 。

※1)著名なアクセラレーションプログラムの1つであるKDDIの「∞Labo」においては、参加者のアプリやサービスの知的財産権は原則として参加者に帰属するとしている(https://www.kddi.com/ventures/mugenlabo/faq/)。

3、オープンイノベーションの検討段階①~NDAの留意点~

スタートアップとのオープンイノベーションがうまくいかない要因の1つとして、法務部のチェックなしに、または、法務部のチェックを受けつつも、スタートアップの特性を無視して、既存の契約書のひな形を使用することが挙げられます。

それでは、秘密保持契約(以下「NDA」といいます。)をスタートアップと締結する場合には、いかなる点に留意すべきでしょうか。

(1)公表条項

スタートアップは、VC等の投資家から、短期間の間に資金調達を繰り返しながら、大きな利益を出していくことを目指していく存在となりますが、特に初期フェーズにおいては、赤字の状況にあることが通常である中で、多額の資金を獲得することは容易ではありません。そのため、大企業との協業実績等、将来のキャッシュフローの道筋を示すべく、多くの協業実績を少しでも早く公表したいという要望がある場合が少なくありません。また、社歴の浅いスタートアップにとって、大企業との協業は、自社のブランディングの観点からも重要となってきます。

しかし、秘密情報の定義の仕方にもよりますが、協業の検討を開始した事実を公表することは、守秘義務違反になるおそれもあります。そのため、大企業に公表の許可を事前にもらおうとすると、社内決裁等の問題から、時間を要することも珍しくはありません。

以上の課題を踏まえると、事前の許諾なく公表できる事項を明記しておくことが考えられます。例えば、先日経済産業省・特許庁より公開されたモデル契約書においては、以下のように定められています(秘密保持契約2条6項)。

※甲=スタートアップ、乙=大企業

6 本条第1項ないし第3項の定めにかかわらず、甲および乙は、相手方の事前の承諾なく、以下の事実を第三者に公表することができるものとする。

 甲乙間で、甲が開発した放熱特性を有する新規素材αを用いた共同研究の検討が開始された事実


このように、スタートアップが協業の検討に入った事実をスムーズに公表できるように整えていくことが望ましいケースも少なくないでしょう。

(2)次段階への移行期限

上述のように、スタートアップは、VC等の投資家から、短期間の間に資金調達を繰り返しながら、大きな利益を出すべく、各資金調達の合間に、できるだけ早く1社でも多くとの大企業との協業実績を作る必要があります。そのため、ある大企業との間で協業が(少なくとも相当期間内に)実現不可能ということになれば、早期に別の大企業との協業に進みたいという実情があります。

そこで、NDA締結後に開示した情報を基に、次段階に進むか否かを決定する期限を設定することが考えられます。ただし、検討状況によっては、当該期限を延長する必要性が当事者双方にある場合があるため、期限延長の余地は残しておいた方が良いでしょう。例えば、先日経済産業省・特許庁より公開されたモデル契約書においては、以下のように定められています(秘密保持契約7条)。

※甲=スタートアップ、乙=大企業

第7条 甲および乙は、本契約締結後、技術検証または研究開発段階への移行およびPoC契約または共同研究開発契約の締結に向けて最大限努力し、乙は、本契約締結日から2か月(以下「通知期限」という。)を目途に、甲に対して、PoC契約または共同研究開発契約を締結するか否かを通知するものとする。ただし、正当な理由がある場合には、甲乙協議の上、通知期限を延長することができるものとする。

(3)秘密情報の定義

この点は、必ずしもスタートアップとのオープンイノベーションに限られない話にはなりますが、NDA締結後の情報開示までに、自社のコア情報についての特許出願が未了であったり、不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるだけの体制を整えていないことが少なくありません。そのため、スタートアップにとっては、①守りたい情報がNDAにおける「秘密情報」に確実に含まれるようにすること、②スタートアップがNDA締結前から当該情報を保有していたことを立証できる状態にしておくことが望ましいです。

そこで、確実に守りたい情報については、NDAの別紙に具体的に特定することが考えられます。例えば、先日経済産業省・特許庁より公開されたモデル契約書においては、以下のように定められています(秘密保持契約1条。末尾の「別紙1に定めるもの」がこれに該当します。)。

※甲=スタートアップ、乙=大企業

第1条 本契約において「秘密情報」とは、本目的のために、文書、口頭、電磁的記録媒体その他開示等の方法および媒体を問わず、また、本契約の締結前後にかかわらず、一方当事者(以下「開示者」という。)が相手方(以下「受領者」という。)に開示等した一切の情報、本契約の存在および内容、甲および乙の協議・交渉の存在およびその内容、および、これらを含む記録媒体、ならびに、素材、機器およびその他有体物(別紙1に定めるものを含むが、これに限られるものではない。)をいう。


この別紙における情報の特定の仕方については、当該技術分野に明るい弁理士に、特許請求の範囲のような形式で特定してもらうことも考えられるでしょう。

なお、守秘義務さえ課せばいかなる情報でも開示しても良いと考えてはいけないことには留意することが必要です。すなわち、本当に重要な情報については、たとえNDAを締結したとしても、安易に相手方に渡さないという情報管理も重要となってきます。

4、オープンイノベーションの検討段階②~PoCの留意点~

続いて、NDAを締結し、スタートアップから開示された情報を踏まえて検討したところ、技術検証に進むこととなった場合に締結する、技術検証契約(以下「PoC」といいます。)をスタートアップと締結する場合の留意点をご紹介します。

(1)スタートアップがPoCで行うべき事項~準委任型の採用~

PoCを行う場合、どこまでを検証作業とするか、という点が問題となります。そもそもPoCが共同研究開発に移行するか否かを検討する段階であり、PoCを徒に長期にわたって行うことは双方にメリットがないことも踏まえれば、PoCにおいてスタートアップは検証作業を行う義務を負うこととして(準委任型)、一定の成果物の納入義務を負わせる形(請負型)にはすべきではない場合が多いといえるでしょう。

例えば、先日経済産業省・特許庁より公開されたモデル契約書においては、以下のように定められています(PoC契約2条及び3条)。

※甲=スタートアップ、乙=大企業

第2条 本契約において使用される次に掲げる用語は、各々次に定義する意味を有する。

1 本検証

 第1条に定める甲の技術導入・適用に関する検証をいい、具体的な作業内容は別紙●●に定めるところとする。


第3条 乙は、甲に対し、本検証の実施を依頼し、甲はこれを引き受ける。

2 甲は、本契約締結後3週間以内に、乙に本報告書を提供する。

3 本報告書提供後、乙が、甲に対し、本報告書を確認した旨を通知した時、または、乙から書面で具体的な理由を明示して異議を述べることなく1週間が経過した時に乙による本報告書の確認が完了したものとする。本報告書の確認が完了した時点をもって、甲による本検証にかかる義務の履行は完了するものとする。

4 乙は、甲に対し、本報告書提出後1週間が経過するまでの間に前項の異議を述べた場合に限り、本報告書の修正を求めることができる。

5 前項に基づき、乙が本報告書の修正を請求した場合、甲は、速やかにこれを修正して提出し、乙は、提出後の本報告書につき再度確認を行う。再確認については、本条第3項および第4項を準用する。


なお、検証作業がいつまでも終わらないという事態を回避するべく、終了期限を明記することも重要となります(上記3条3項)。

(2)委託料の設定

上述のように、スタートアップは、VC等の投資家から、短期間の間に資金調達を繰り返していきますが、各資金調達の合間に食いつなぐために、PoCについて、大企業に比して限られたリソースを投入し工数をかけた場合には、その分の対価を受領しなければ、資金繰りが極めて苦しくなってしまいます。そこで、PoCについても、検証作業への対価の支払いを行うことが望ましいといえましょう。

例えば、先日経済産業省・特許庁より公開されたモデル契約書においては、以下のように定められています(PoC契約4条)。

※甲=スタートアップ、乙=大企業

第4条 本検証の委託料は●万円(税別)とし、本契約締結時から10営業日以内に全額を、甲が指定する金融機関の口座に振込送金する方法により支払うものとする。振込手数料は乙の負担とする。


(3)次段階への移行期限

NDAの場合と同様、スタートアップは、ある大企業との間で協業が(少なくとも相当期間内に)実現不可能ということになれば、早期に別の大企業との協業に進みたいという実情があります。

そこで、PoCの結果報告後、次段階に進むか否かを決定する期限を設定することが考えられます。例えば、先日経済産業省・特許庁より公開されたモデル契約書においては、以下のように定められています(PoC契約6条)。

※甲=スタートアップ、乙=大企業

第6条 甲および乙は、本検証から研究開発段階への移行および共同研究開発契約の締結に向けて最大限努力し、乙は、本契約第3条第3項に定める本報告書の確認が完了した日から2ヶ月以内に、甲に対して共同研究開発契約を締結するか否かを通知するものとする。


5、終わりに

今回は、大企業とスタートアップの接点の1つであるアクセラレーションプログラムの留意点をご紹介した後に、具体的な協業の検討に入る場合のNDA及びPoCの留意点についてご紹介しました。次回は、共同研究開発に移行した場合の留意点を中心にご紹介しようと思っています。

ご質問等あれば、以下のTwitterやFacebookのアカウントにご連絡いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

※山本氏のTwitterアカウントFacebookアカウント



■コラム執筆:山本飛翔


※山本氏による著書「スタートアップの知財戦略: 事業成長のための知財の活用と戦略法務」発売中。

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