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【弁護士解説コラム】有益なオープンイノベーションを実現する法務・知財面の留意点とは③

【弁護士解説コラム】有益なオープンイノベーションを実現する法務・知財面の留意点とは③

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1、はじめに

前回は、両者の接点としてのアクセラレーションプログラムの大企業側の留意点・検討開始段階の問題としてNDA及びPoCの留意点についてご紹介いたしました。今回は、PoCを経て、共同研究開発契約に移行する場合の留意点をご紹介いたします。

2、共同研究開発契約の留意点

スタートアップとの共同研究がうまくいかない要因の1つとして、法務部のチェックなしに、または、法務部のチェックを受けつつも、スタートアップにとっての特許権の重要性等、スタートアップの特性を無視して、既存の下請企業に対する業務委託や開発委託契約のひな形(Win-Loseとなる契約書)を使用することが挙げられます。

例えば、特定の大企業との関係を長期間維持していくことが重要要素の1つとなる下請企業と、数多くの企業とアライアンスを進めることで短期間に大きく成長を目指していくスタートアップとは状況が大きく異なります。 

そのため、「報酬を支払う以上、成果物に関する権利は全て自社に帰属させる」というスタンスをベースにした下請企業用の契約書のひな形を使用することは、特許権を相手方に帰属させることでその後の他社とのアライアンスが阻害されることが致命傷となりうるスタートアップとの契約には適していません。

そのため、例えば成果物に関する知的財産権の帰属等について交渉が難航して余分に時間を要するのみならず、信頼関係に疑義が生じ、その後の共同研究開発が不奏功のまま終わるということも少なくありません(この場合、誰も利益を得られない結果となります)。

上記の要因を取り除き、スタートアップとの共同研究開発の成功要素を増やすためには、スタートアップの特性を踏まえた上で、契約締結後のオペレーションも踏まえて契約内容を工夫した上で、Win-Winの関係を目指すことが重要といえます。以下、大企業が意識すべきスタートアップの特性を紹介した上で、対応策をご紹介します。

【1】大企業が意識すべきスタートアップの特性

(a)スピード感

スタートアップは、いわゆる中小・中堅企業とは異なり、VC等の投資家からの多額の資本投入を短期間で繰り返し、投資家にリターンの機会を与えるべく、業種によるものの概ね10年程度の短期間(※1)の内に、EXIT(M&AやIPO)を目指しており、迅速に活動する必要性が高いです。そのため、スピード感をもって事業を成長させていく必要性があります。

したがって、スタートアップのスピード感に対応できなければ、交渉打ち切りや仮に契約締結まで至っても、その後の取引がうまくいかなくなってしまう可能性が高いといえるでしょう。

※1)VCのファンドの運用期間との関係。

(b)特許権の重要性

スタートアップは、大企業ほどの資本等がなく、アイディアや技術が勝負となってきます。そのため、これらを具現化したものについて、特許権等の権利を取得し、事業戦略に活用することが、競業会社との競争や、投資家や取引先との交渉等において重要となってきます。

また、自社のリソース不足を補うべく、多くの会社とアライアンスを締結していく関係で、自社の強みに関わる特許が、特定のアライアンスの相手方会社に帰属してしまうと、その他のアライアンスを進めるにあたっての障害となってしまい、短期間での大きな成長を目指すにあたっての大きなリスクになりかねません。

したがって、スタートアップとしては、共同研究開発の結果生じた成果物(特に特許権)については、できる限りスタートアップに帰属させた方が、よりよいパートナーとして成長してもらい、ひいてはオープンイノベーションを成功させて自社の利益を増大させるにあたっても重要となります。

(c)未開拓市場への積極的なアプローチ

スタートアップは、未だ開拓されていない市場(ブルーオーシャン)に挑戦していくことが基本的な戦略になりますが、当該市場が開拓されていない理由としては、

①市場規模が小さく大企業の市場参入の際の目安となる損益分岐点をクリアできないこと

②法的に当該市場における事業が違法と判断されるリスクがあること

③当該市場に進出すると自社の既存の主力事業にダメージを与えかねないこと(イノベーションのジレンマ)

等が挙げられます。しかし、スタートアップにとっては、これらの点は支障にならない場合が多いです。すなわち、①については、事業規模が大企業と比較して小さく、損益分岐点が低く市場規模が小さくても参入しやすいといえます。

また、②については、まだ成功した事業がなく、いわば「失うものがない」状態であるスタートアップにとっては、短期間で未開拓の市場を開拓して事業を成長させるために、(採りうる手段を採ることを前提に)法的なリスクを引き受けるとの判断が下されやすい傾向にあります。さらに、③については既存の成長した事業を持っていない以上、支障にならないことは明らかです。

このように、スタートアップは、大企業が手を出しづらい市場に参入している場合が多いことに留意する必要があります。

(d)具体的な対応策

以上の要因を解消するためにいかなる対応策を採るか、という点について、まずはスタートアップとの共同研究開発用の契約書ひな形の作成することが考えられます。

なぜなら、ひな形のままであれば事業部判断で契約締結までできますが、ひな形を修正する場合には法務部のチェックが必要という会社も少なくないため、修正される頻度及び量が少ないひな形を用意しておくことが、スタートアップとのアライアンスをスムーズに進める対策の1つとなると考えられるからです。

以下、その際に留意すべき点を挙げます。

【2】成果物に関する知的財産権の帰属

成果物のうち、少なくとも特許権については、スタートアップに単独で保有させる条項を入れるべきでしょう(※2)。このことにより、スタートアップによる特許権の単独保有を通じて、特許を活用させてスタートアップを成長させ、共同事業における収益の拡大を図ることが考えられます。

この場合に、共同事業における収益を一定割合で分配する等といった条項を入れておけば、元々大企業が自社単独では進出できない市場における収入が、一定範囲で入ることとなり、また、特許権をスタートアップに単独帰属させることで当該収入が増加する見込みもあり、この点において大企業にも利点があるといえるでしょう。

さらに、大企業が、自社のプロダクト・サービスを利用するスタートアップ等、自社の事業とシナジーの高いスタートアップと共同研究開発を行う場合には、スタートアップの成長が自社の事業の成長につながることとなり、Win-Winの関係を構築して当該スタートアップに成長してもらえばもらうほど自社事業にもメリットが出てくることとなります。

他方、以下の【3】で述べるように、当該特許について適切なライセンスを設定すれば、スタートアップに特許権を単独帰属させても、大企業による成果物の使用は確保できる以上、大企業に特段の不利益はないものと考えられます。

なお、スタートアップに権利を単独で帰属させる以上は、スタートアップの事業がうまくいかず、スタートアップが会社を清算する等、一定のメルクマールが発生した場合には当該特許権を大企業に譲渡させるといった条項を用意しておくことは必要でしょう。

以上の点について、例えば、先日経済産業省・特許庁より公開されたモデル契約書 においては、以下のように定められています(共同研究開発契約7条6項、同16条1項2号3号)。

※甲=スタートアップ、乙=大企業

※本発明=共同研究開発の結果生じた発明

6 本発明にかかる知的財産権は、甲に帰属する。ただし、甲が本契約16条(※3) 1項2号および3号のいずれかに該当した場合には、乙は、甲に対し、当該知的財産権を乙または乙の指定する第三者に対して無償で譲渡することを求めることができる。

第16条 甲または乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。

(中略)

②支払いの停止があった場合、または競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てがあった場合

③手形交換所の取引停止処分を受けた場合

※2)他方、例えば成果物に関する報告書等についての著作権や協業に用いる商標権については、事業の遂行上、スタートアップに単独帰属させる必要性が低いケースが多いと思われるため、必ずしもスタートアップに単独で保有させる必要はないものと考えられる。ここで重要なのは、「知的財産権」とひとくくりにせず、知的財産権の種別に応じた取り扱いを検討する必要があるということである。

※3)原文は14条となっているが、正しくは16条である。

【3】成果物の利用

スタートアップに単独で特許権を帰属させる以上、大企業には無償の通常実施権(※4)を設定する必要性は高いといえるでしょう。

しかし、この実施権を、専用実施権や独占的通常実施権等の独占的なものとしてしまうことは、スタートアップの事業展開の可能性を狭めることとなってしまいます。

すなわち、自社のリソースが足りないスタートアップとしては、他社と連携して事業を進める必要性が高く、その際に連携先企業が当該特許発明を実施する必要がある場合があり、その場合に連携先企業に実施許諾(ライセンス)ができないとすると、スタートアップは窮地に立たされることになりかねません。

他方、スタートアップが第三者に自由にライセンスや販売等ができるとすると、大企業も一定のリソースを費やして成果物の創出に寄与してきたにもかかわらず、大企業のコンペティターに成果物を使用されてしまうリスクもあり、一定の制限を設ける必要があるといえます。

これらを踏まえれば、大企業には、特定領域において、一定期間の独占的通常実施権(※5)を設定し、スタートアップには、当該領域以外において自由に実施させるという形が1つの解決策になると考えられます(※6) 。

上記について、スタートアップは、大企業が損益分岐点や法的リスクの観点から参入できない市場にも積極的に参入するのであって、大企業が自社で扱えない領域も多く、当該領域については、大企業にとっての機会損失が観念できない場合も多いです。そのため、上記の条件でも、大企業に実質的なデメリットがないといえる場合も少なくないといえるでしょう。

以上の点について、例えば、先日経済産業省・特許庁より公開されたモデル契約書においては、以下のように定められています(共同研究開発契約7条7項、同13条)。

※甲=スタートアップ、乙=大企業

7 甲は、乙に対し、下記の条件で乙が本発明を実施することを許諾する。

ライセンスの対象:本製品の設計・製造・販売行為

ライセンスの種類:本契約締結後●年間は独占的通常実施権を設定し、その後は非独占的通常実施権を設定する。ただし、本契約締結後●年間を経過する前であっても、正当な理由なく乙が本発明を1年間実施しない場合には当該期間の満了時より、または、乙が本発明を乙の事業に実施しないことを決定した場合には当該決定時より、非独占的通常実施権を設定する。

ライセンス期間 :本契約締結日~●年●月●日は独占的ライセンス

         ●年●月●日~本発明にかかる知的財産権の有効期間満了日までは非独占的ライセンス

サブライセンス :原則不可。ただし、[グループ会社名等]に対するサブライセンスは可能

ライセンス料  :無償

地理的範囲   :全世界


第13条 甲および乙は、本契約の期間中、相手方の文書による事前の同意を得ることなく、本製品と同一または類似の製品(本素材を配合した樹脂組成物からなる自動車用のライトカバーを含む。)について、本研究以外に独自に研究開発をしてはならず、かつ、第三者と共同開発をし、または第三者に開発を委託し、もしくは第三者から開発を受託してはならない。

※4)大企業のグループ会社や、具体的に想定されるライセンス先がいる場合には、当該企業に対しても実施許諾を行えるよう、サブライセンスを行う権利を大企業に設定しておくことも考えられる。もっとも、このサブライセンス先を無制限に許容すると、スタートアップのコンペティターにライセンスを行う等スタートアップにとって不利益なところにもつながりかねない。そこで、予めサブライセンスする必要がある企業については予め明記し、当該企業へのサブライセンス権を設定した上で、その他の企業は協議に基づき都度設定する、ということも考えられる。

※5)専用実施権の場合、特許権者たるスタートアップが特許発明を実施できなくなるため(特許法68条ただし書)、回避したい。

※6)条件設定に際しては、独禁法に違反しないよう、留意されたい(「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針等参照)。

【4】タイムテーブル

スタートアップは、限られた期間内で成果を出さなければならないため、協業開始までに思った以上の時間がかかるなど、先が見えない状態に置かれてしまうと、次の案件へ移行する必要性が高まり、共同研究開発のモチベーションも維持されません。

そこで、課題の1つであるスピード感への対応について、スタートアップのスピード感と平仄を合わせるべく、契約締結後、タイムテーブルを定めることが考えられます。

以上の点について、例えば、先日経済産業省・特許庁より公開されたモデル契約書においては、以下のように定められています(共同研究開発契約4条)。

※甲=スタートアップ、乙=大企業

第4条 甲および乙は、本契約締結後速やかに、前条に定める役割分担に従い、本研究テーマに関する自らのスケジュールをそれぞれ作成し、両社協議の上これを決定する。

2 甲および乙は、前項のスケジュールに従い開発を進めるものとし、進捗状況を逐次相互に報告する。また担当する業務について遅延するおそれが生じた場合は、速やかに他の当事者に報告し対応策を協議し、必要なときは計画の変更を行うものとする。

なお、これに加えて撤退基準を定めることも考えられます。ただし、共同研究開発に係る事業の性質上、すぐに黒字化するような事業でない場合も多いため、撤退基準において安易に短期間でのPL上の成果を求めるべきではないことには注意が必要です。

3、終わりに

今回は、共同研究開発に移行した場合の留意点をご紹介しました。次回は、CVCを活用したオープンイノベーションに関する留意点をご紹介する予定です。ご質問等あれば、以下のTwitterやFacebookのアカウントにご連絡いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

※山本氏のTwitterアカウントFacebookアカウント


■コラム執筆:山本飛翔


※山本氏による著書「スタートアップの知財戦略: 事業成長のための知財の活用と戦略法務」発売中。

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