欧州最大のデジタルマーケティングイベント「DMEXCO」レポ! Cookieレス時代のターゲティングとは?
2022年9月20日、21日に、ドイツ・ケルンで欧州最大のデジタルマーケティングイベント「DMEXCO(ディーメキシコ)」が現地開催された。2020、2021年はオンラインのみの実施となったことから、3年ぶりのオフライン開催となった。
DMEXCOは、2009年に始まった国際的なカンファレンスで、毎年4万人ほどの来場者が参加する。欧州を中心としたデジタルマーケティング関連の企業が一同に介して、業界の最新トレンドをチェックしつつ、さまざまな交渉が飛び交うエキサイティングなイベントといえる。
世界の企業が取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第33弾では、2016年からDMEXCOに参加しているというDavid Royerさん(株式会社イントラリンク 新橋拠点 Director / Head of Digital Media at Intralink Group)へのインタビューと、オンラインで配信されているセッションの内容をまとめて、レポートとしてお届けしたい。
NFT購入でビール飲み放題?気になる出展企業を紹介
今回、取材に対応いただいたカナダ出身のDavid氏は、1998年から日本在住、2013年にイントラリンクに入社した。現在はデジタルマーケティングを専門に、日本大手企業の海外オープンイノベーションや新規事業創出、海外ベンチャー企業のアジア市場進出や事業開拓を担当しているという。そんなDavid氏に、現地で気になった出展企業3社を挙げてもらった。
天気や流行に動画広告を適応できる「Displayce」
▲「Displayce」の公式ホームページより
2014年に創業したフランスのスタートアップ「Displayce」は、DOOH(Digital Out of Home)(※)の最適化を図るプラットフォームを提供する。
※DOOH・・・駅校内や屋外サイネージなど、自宅以外の場所で接触するデジタルサイネージを活用したメディアを指す
同プラットフォームでは、リアルタイムでのデジタルサイネージの自動購入、パネルターゲティング機能、データに基づいたリアルタイムでの動画の適応、パフォーマンスの追跡が可能だという。中でも、データフィード(時間帯、天気、流行、スポーツ結果、ショッピングフロー)を利用してリアルタイムに広告の内容を変更できるのは魅力的であり、Davidさんいわく、現地で新規性が高いようだ。
同社では、60万以上の画面を扱い、すでに800以上の取引があるという。
バーチャル展示会を実現するVR/ARプロバイダー「mld digits gmbh」
2014年にドイツで創業した「mld digits gmbh」は、VR/ARテクノロジーを提供する。メンバーは15人と小規模だが、広告、マーケティングの事例のみならず、映画、テレビ、ゲーム、教育と、さまざまな業界で実績を持つ。
Davidさんは、「同社の展示では、VR/ARの技術が進化した様子が見られ、バーチャルリアリティでの展示会が技術的に可能であると感じ」と話す。「特にARは技術の発展は顕著なため、実際に触ったことがない製品でも購入にいたるかもしれない」とのことだった。
▲ヨットのデザインを請け負う企業のマーケティング事例。VRでヨットの中を探索できる(mld digits gmbhの公式ホームページより)
▲大型機械を販売する企業の展示会でのAR活用事例(mld digits gmbhの公式ホームページより)
同社のホームページでは、上記写真のような事例が多く掲載されている。2枚目のような大型機械の場合、展示会で実際に動かすと多額の費用や労力がかかるが、AR活用により、それらを削減しながら機能性を伝えられる。
NFTを販売するビールメーカー「MetaBrewSociety」
▲MetaBrewSocietyの公式ホームページより
2022年9月にサービスを開始したばかりのドイツのスタートアップ「MetaBrewSociety」は、ビールメーカーでありながら、Web3上で6000のNFTコレクションを販売するユニークなビジネスモデルで会場でも注目を集めたようだ。
同社のNFTコレクションには公式ホームページからアクセスでき、一般価格は1,050ドル(約15万円)で、仮想通貨で支払うことになる。NFTを所持すると、同社が存在する限り、年間160~240缶の(アルコール、またはノンアルコールビール)を請求する権利も保有するという。
その他にも、NFT所有者には無料の VIP ツアー、無料の試飲、ビール関連フェスティバルの無料入場、同社ショップでの25%割引のほか、NFT所有者向けのアフィリエイトプログラムも提供される。
TwitterCOOが語る「ソーシャルコマースの可能性」
欧州最大のデジタルマーケティングイベントだけあり、セッションには豪華なゲストが多く登場した。まずは、Twitter社のChief Client Officerを務めるSarah Personette氏が登壇した「Twitterがビジネスを促進する方法」の内容を伝える。
Twitterは企業のブランディング、消費者とのタッチポイント、キャンペーン告知など幅広くビジネスで利用されている。Personette氏は、Twitter上のコミュニケーションにおいて、「買い物や商品に関するツイートは、過去12ヵ月で560億回以上インプレッションされ、その他と比較して2倍のリプライがあった。調査では、4人のうち3人がTwitterを通じて商品やソリューションを購入した」と言及した。
▲登壇したTwitter社のChief Client Officer、Sarah Personette氏
Twitterでは、InstagramやFacebookより遅れて、2021年から一部のブランドでショッピング機能をテスト導入している。日本では、eBay Japanが運営するオープンマーケットプレイス「Qoo10」が、2021年9月に国内初のライブコマースを配信。様々なブランドが参加して3回に渡って実施したところ、約210万人が視聴、メイクアップ・スキンケア用品を扱うブランドTIRTIRでは、1,900個以上売れた商品もあったそうだ。
Twitter社では、Twitter Proにショッピング機能が実装されると発表しているが、現状、日本ではまだ実装されていない。
Personette氏は、ショッピング機能の他に、音声によるリアルタイムの会話ができる「スペース」と、特定メンバー同士でコミュニケーションが取れる「コミュニティ」機能にも言及した。
「会話の録音やクリップもできるスペースはポッドキャストのようにも使えるし、コミュニティはより親密な会話ができる。Twitter上でのパブリックな会話とライブ配信+ショッピング機能は完璧な組み合わせだと思っていますが、シーンに応じてスペースとコミュニティも活用してほしい」
Cookieレス時代のデジタルマーケティングの考え方
続いて、デジタルマーケティング業界で外せない話題、「Cookieレス」をテーマにしたセッションを取り上げたい。DMEXCOにおいても同テーマは観客の引きが強く、「How to future-proof your Marketing(マーケティングに未来をもたらす方法)」のセッションは人気が高かった。
登壇したのは、マーケティングソフトウェアを提供するドイツ企業「Adtriba」でChief Data Scientistを務めるTim Kreienkamp氏、ドイツのモビリティーサービスプロダイバー「FREE NOW」でHead of Marketing Analyticsを務めるThijs Bongertman氏だ。当日のスライドを活用して簡潔に紹介したい。
▲DMEXCOで披露されたスライドより
2018年5月にEUでGDPR(EU一般データ保護規則)が施行された後、インターネットサービスを提供する事業者たちが、続々とサードパーティーCookieの排除に向けて動き出している。ドメインを横断してトラッキングできるサードパーティCookieは、高精度のターゲティングを実現するツールとして、マーケティングに活用されてきた。
上記のスライドはその歴史を表している。2017年からトラッキング制御技術のITP(Intelligent Tracking Prevention)を進めてきたAppleは、2020年のiOS 14へのアップデートからプライバシー規約を大幅に更新し、現在はサードパーティーCookieが完全にブロックされる。
Googleは、Webブラウザ「Chrome」でのサードパーティーCookieのサポート完全廃止開始の目標期日を2024年後半としている(2022年10月初旬現在)。Googleでは、広告ターゲティングの代替案としてプライバシー・サンドボックスを推奨している。
▲DMEXCOで披露されたスライドより
Cookieレス時代にどのようにデジタルマーケティングをしていくべきかの指針を、Tim Kreienkamp氏が語った内容からひもときたい。
①<ユーザーレベルデータ>タッチポイントの属性を見極める
カスタマージャーニー分析において、どういったタッチポイントを経由して購入に至るかを理解し、ベストなタッチポイントに予算を割り当てる。
②<集約データ>マーケティング手段のモデル分析
マーケティングのベースラインとオフライン活動を分析する。SNS、及びWebからの閲覧がどのように収益をもたらすかを理解する。その結果を見ながら、ベストなチャンネルに予算を割り当て、獲得あたりのコストを削減できる方法、チャンネルを探す。
③<ユーザーレベル&集約データ>統一されたマーケティング測定
印刷物などオフライン活動におけるオンライン販売のインパクトを測定する。トラッキング規制によるギャップを埋める。最適なキャンペーンとチャネルでマーケティングミックスを最適化する。パフォーマンスが低い手法は予算を削減する。
個別最適化が可能だった数年前と比較して、2022年現在は【最適なチャンネル】の運営に注力し、分析よりも【クリエイティブなアイディア創出】に時間をかけることを推奨すると締めくくった。
写真提供&取材協力:株式会社イントラリンク
編集後記
今年は、パンデミックの影響でアジアからの参加者はわずかだったそうだが、マーケターが世界のデジタルマーケティングのトレンドを知る、あるいはデジタルマーケティングのサービス事業者が欧州のクライアントを探す場としては、格好のイベントといえそうだ。Davidさんいわく「NFTに懐疑的な人は未だ多い」ようだが、紹介したビールメーカーのようにデータだけではない付加価値があれば、近い将来、大衆ウケも狙えるかもしれない。
(取材・文:小林香織)