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「人の力を引き出す」メタバースの世界とは――メタバース×人材サービス業界の可能性

「人の力を引き出す」メタバースの世界とは――メタバース×人材サービス業界の可能性

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9月27日、オープンイノベーションの祭典「Japan Open Innovation Fes 2022」(JOIF2022)が開催された。メタバースカンファレンス形式の会場には、スタートアップや中小企業、大企業、それらの支援者など、イノベーションを志すプレイヤーが集結し、様々なピッチやセッションが行われた。

本記事では、盛況のうちに幕を閉じたJOIF2022のプログラムの中から、スペシャルセッション「メタバースがひらく新たな世界と、はたらく未来」の模様をお届けする。

セッションに登壇したのは、パーソルマーケティング株式会社 メタバースデザイン事業部 部長 川内氏、パーソルキャリア株式会社 グローバルキャリアグループ ゼネラルマネージャー 都築氏、株式会社ガイアリンク 取締役副社長 千野氏といういずれもメタバースや「はたらく」に造詣の深い3人だ。モデレーターは株式会社パーソル総合研究所 主任研究員 井上氏が務めた。

メタバースの黎明期と言える現在において、登壇者たちは最前線でさまざまな試みを進めている。そうした経験と、「はたらく」の領域で長年にわたり培ってきた知見とが交わり、メタバースが描き出す未来について、活発な意見が交換された。メタバースが一般的に持たれるイメージとは異なる、まったく新しい切り口も少なからず紹介され、ディスカッションは大いに盛り上がった。以下に詳細をレポートする。

<登壇者>


▼写真左から

・パーソルマーケティング株式会社 メタバースデザイン事業部 部長 川内 浩司氏

・パーソルキャリア株式会社 グローバルキャリアグループ ゼネラルマネージャー 都築 徹氏

・株式会社ガイアリンク 取締役副社長 千野 将氏

・モデレーター:株式会社パーソル総合研究所 主任研究員 井上 亮太郎氏

メタバースを通じ、人が本来持っている「すごさ」に気づける

冒頭、モデレーターであるパーソル総合研究所・井上氏はリモートワークの広がりなどで、はたらく環境が大きく変わっていることに触れながら、「はたらく価値観にも大きな影響がもたらされた」と指摘した。

「さまざまな人がシームレスにつながっており、新しいプラットフォームとしてメタバースが期待されている。メタバースが”はたらく”にどう影響するのか、はたらく環境をどう広げるのか。可能性を探りたい」と伝えた。その上で、ディスカッションの土台となる設問として「メタバースとは何か。すごさは何か」と問いかけた。


これに対し、パーソルマーケティング・川内氏は「今のところ、皆が共通して持つ明確な定義はない」と断った上で、「私自身は、人がアバターを通じある目的を持って仮想空間でコミュニケーションをする場と考えている。時間と距離、物理的な制約を超え、コミュニケーションが取れるところがすごい」と話した。

他方、ガイアリンク・千野氏はメタバースのすごさについて、「メタバースそのものより、人が本来持っているすごさに気づけるという表現が正しいのではないか」と独自の見解を示した。千野氏によれば、そう捉えたほうがメタバースの可能性を広げられるという。実際、「メタバースを活用しているお客様から、この人はこんなにうまいしゃべり方ができた、こんなことを考えていたという気づきがあったという話をよくいただいている」とのことだ。

メタバースの市況感は現状、黎明期と言える段階で、マーケット規模は2000億円との試算があるという。一方、これが4年後の2026年には1兆円を超える可能性があることが紹介された。ビジネスシーンでの活用が広がれば、メタバースと「はたらく」の関連もより深まり、注目度も高まることになる。


では、現状「はたらく」の市況感はどうか。パーソルキャリア・都築氏から次のように紹介された。「コロナ禍で落ち込んだ求人倍率は再び高止まりの傾向を見せている。もともと倍率の高かったエンジニア職はもちろん、接客・販売の分野も人材を求める傾向が強まり、売り手市場になっている。これは国内に限らず、グローバルでの傾向」。また、はたらくにまつわるキーワードとして、「リモートワーク、ダイバーシティ、DAO(分散型自立組織)、ワークライフバランス、ハッシュタグ化、キャリアオーナーシップ」が紹介された。


井上氏は「労働力不足の中で、メタバースを活用して就業の場を広げるのは大きな意義があるのではないか」との見解を示し、これに対し川内氏は「人材サービス会社は、はたらく意欲のある人に仕事が十分には紹介できていない課題がある。特に、高齢者、子育てや介護をしている方、ハンディキャップのある方への紹介は上手くいかないことも多い。しかし、労働力が減少しても、労働意欲が減少しているのではない。この課題をメタバースで払拭できるのではないかと期待を寄せている」と語った。

メタバース空間はリアルの延長。リアルこそがスペシャルな場

続いて、バーチャルワールドプラットフォーム「ガイアタウン」に話題が移った。ガイアタウンは、米国発のメタバース「Virbela」の日本向けプラットフォームで、千野氏が取締役副社長を務めるガイアリンクが国内公式販売代理店となり、パーソルマーケティングが包括連携協定を結んでいる。なお、千野氏と川内氏はアバターを通じ毎日のように「会って」いるが、実際に対面するのがこの日が初めてという裏話も明かされた。


株式会社ガイアリンク 取締役副社長 千野 将氏

千野氏は「メタバースはエンタメ分野で注目されることが多いが、当社は医療、教育、社会課題の解決などに注力しており、この領域はメタバースを活用することでアップデートできる」と強調。社会課題の解決の実例として、ハンディキャップのある方たちの就労支援が紹介された。千野氏によれば、スタッフはアバターで毎日出社しており、外見からは「誰にどんなハンディキャップがあるかわからない」。このため、仕事を任せる場合も「その人の持つ能力や性格などで判断」していると話す。

千野氏によれば、ガイアタウンは「リモートをベーシックに。リアルをスペシャルに」との考えのもとで運営されており「ガイアタウンはあくまでリアルの延長。自分自身の隠れた能力や才能に気づける場」と熱弁を振るった。

現状の活用としては、就労支援のほか、入社式・内定式、商店街の創設などがあり、世界でも非常に珍しい例としては、学会の実施がある。また、メタバースを通じて果物を売り出した農家の例を取り上げ、「メタバース上での売上は実はそれほど伸びなかったが、良い意味で宣伝になり、リアルでの問い合わせが急増した」と明かし、プロモーションやマーケティングとして大きな可能性を秘めていることを示唆した。


川内氏はメタバースでの就業の事例として、対人コミュニケーションが好きだったが、両親の介護で現場を離れざるを得なかった女性を紹介。その女性は現在、ガイアタウンの総合案内のスタッフとして、人とコミュニケーションを取る仕事をしている。川内氏は「新たな就業機会の創出をさらに展開したい」と意気込んだ。この事例を聞き、都築氏からは「胸が熱くなった」と感想を口にする場面も見られた。

さらなる発展のため、多くの企業がトライ&エラーを繰り返しているのが現状

次に「人材サービス業界から見たメタバースの可能性」をテーマにディスカッションが進められた。都築氏は、自社(パーソルキャリア)内での新規事業案として、海外勤務を目指している日本在住のスタッフと既に海外勤務を行っている現地スタッフとのコミュニケーションの場を、メタバース上で創ることを画策している。「人材サービス業界に身を置く者として、人と人、人と仕事、企業との懸け橋になりたい」と熱意を込めた。

また、「メタバース上でメタバース内の仕事を探すプラットフォームを人材サービス会社が創設することができるのではないか。他にも、人材評価など、マッチングに限らず多様な人材ビジネスが考えられる」と述べた。


パーソルキャリア株式会社 グローバルキャリアグループ ゼネラルマネージャー 都築 徹氏

川内氏によれば現状、メタバースはイベントの場として使われることが多い。しかし、イベントのためのメタバースという状況も終わりを迎えつつある。川内氏は「ずっと黎明期というわけにはいかない。新たなビジネスの創出に向けて各社トライ&エラーを繰り返している」とのことだ。

さらに川内氏は「メタバースならではの仕事も出てくるのではないか」と予見し、千野氏は「メタバースを介して発展するリアルの業界が出てくる」との見解を示した。千野氏はここ数年で広がったリモートワークが効率重視でコミュニケーションを進めるあまり、いわゆる無駄話などの「余白」の部分を奪ったと述べ、その結果、チームビルディングなどが難しくなっていると指摘。「効率のいいコミュニケーションや、効率だけを狙ったビジネスは破綻していく」と警鐘を鳴らし、その上で、メタバースが「効率の先にある効果的なコミュニケーション」を生み出せるのではないかと話した。

少々余談になるが、ユニークな活用例として「メタバースでの婚活」があり、なんとアバターを通じてマッチングを試みているそうだ。千野氏によれば「見た目ファーストではなく、性格ファーストになるのが最大の特徴」とのこと。ただ、ビデオチャットを使用することで実際にはどんな人かを確かめることもでき、「メタバースの世界に閉じる必要はない。テクノロジーを組み合わせて使えばいい」と伝えた。

都築氏は「バーチャルではなく、リアルの追求がメタバースの役割というのは強く同意できる。メタバースを活用することで、現状できていないことが実現されるなど可能性は広がる。その中で、人材サービス業界の果たす役割を考えた時、とてもワクワクしてくる」と意見を述べた。

オープンイノベーションとメタバースは親和性が高い

ディスカッションの最後のテーマとして「オープンイノベーションで人材×メタバースは加速するのか」が掲げられた。千野氏は人と人とのつながりが鍵を握るとし、「メタバースに限らず、先進的な技術を合わせることで人材の可能性が広がる」と述べた。

都築氏は「メタバースを通じてつながっていくことで、よりオープンイノベーションの機会が増える。オープンイノベーションが加速されるのではないか」と予想。川内氏は「人材サービス業界とメタバースは親和性が高く、オープンイノベーションを加速し続けることができる。そうした活動の中心にいながら、多くの皆さんと協業していきたい」と語った上で、「メタバースで新たな雇用の創造をする」と意気込み、ディスカッションを締めくくった。


パーソルマーケティング株式会社 メタバースデザイン事業部 部長 川内 浩司氏

編集後記

トークセッションの中でも繰り返し触れられていたように、メタバースは黎明期と言える状況だ。まだまだ詳しくない人は多いだろうし、ビジネスでの活用は模索中という段階だ。だからこそ、今から積極的な活用に乗り出すことは価値が高いのではないか。メタバースというと、日常と分断され、遠い世界のような気もするが、千野氏は「メタバースはリアルの延長」との見方を示し、納得できる部分は多々あった。川内氏と都築氏は人材サービス業界での可能性を提示し、オープンイノベーションが活性化されるとの共通した意見もあった。メタバース、そして”メタバース×人材サービス業界”の発展に注目したい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)

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