人材サービス業界最前線。パーソルグループが共創で実現したい“新時代の人材サービス”とは?
人と組織に関わる幅広い事業を展開し、様々な雇用・労働の課題解決に取り組むことで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」を実感できる未来を目指すパーソルグループ。
同グループ内でインキュベーションカンパニーとしての役割を担うパーソルイノベーション株式会社は、人材サービス業界におけるパーソルグループのリソースを最大限に活用し、社外のベンチャー・スタートアップと共に新たな価値創出に挑む「パーソルイノベーション 新規事業創出プログラム」の開催を発表した。このプログラムでは、2023年6月14日より下記の募集テーマにて社外パートナーの募集を開始する。
・テーマ1:多様性のあるはたらく選択肢をつくる(マッチング機会の拡大/新たな“はたらく”の機会創出)
・テーマ2:はたらく人の可能性を広げる(能力の開発/業務パフォーマンスの向上)
TOMORUBAでは、同プログラムのエントリー開始に先立ち、パーソルイノベーション 代表取締役社長である長井氏とプログラムの企画運営をリードする平井氏へのインタビューを実施。今回のプログラムを立ち上げた理由や各テーマの設定背景、連携したいパートナー企業像、新規事業開発や連携において活用できるアセットやリソースなどについて詳しくお聞きした。
【画像左】 パーソルイノベーション株式会社 代表取締役社長 長井利仁 氏
システムインテグレーターを経て2001年に株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)へ入社。2013年、株式会社インテリジェンスビジネスソリューションズ(現パーソルプロセル&テクノロジー株式会社) 社長執行役員就任、2016年、パーソルホールディングス株式会社 執行役員に就任。その後、2018年4月には、(株)エス・エム・エス(SMS CO., LTD.)に移り、7月に同社執行役員および(株)エス・エム・エスキャリア代表取締役に着任。医療介護、ヘルスケア領域において事業開発やグループ経営を推進。2021年4月から、パーソルグループの次世代の柱となる事業創造を目指す パーソルイノベーション株式会社 代表取締役社長、パーソルホールディングス株式会社 執行役員。株式会社 モンスター・ラボの社外取締役でもある。
【画像右】 パーソルイノベーション株式会社 ビジネス推進部 部長 平井裕介 氏
新卒で入社したITベンチャーにて医療機関向けの営業に従事。デロイト トーマツ グループにて約500社の経営コンサルティングに携わった後、東京支社長や事業開発部長を歴任。2019年、(株)エス・エム・エスキャリアに入社。事業部長に就任し、新サービスの開発に貢献。2021年、パーソルイノベーションへジョインし、ビジネス推進部 部長として、事業開発の成功確率を上げるために必要な環境づくりや支援を行う部門を統括。
パーソルグループが社会に提供できる価値には多くの伸びしろがある
――まずはパーソルグループの一員であるパーソルイノベーションについて教えていただけますか?
長井氏 : パーソルイノベーションは、パーソルグループにおける新規事業開発を担っている会社です。パーソルグループでは、私たち自身が「“はたらくWell-being”創造カンパニー」となることで、世界中の人々が「はたらいて、笑おう。」を実感できる世界の創造を目指していますが、パーソルグループが提供できる価値やサービス領域はまだまだ伸びしろがあると考えています。
そこでパーソルイノベーションでは、「新手法、新領域で、未来をぬりかえる。」というミッションを掲げ、パーソルグループの価値提供の範囲を広げる多種多様な新規事業開発に取り組んでいます。
「新手法」に関してはデジタルの導入による効率化やコスト削減につながるサービスが考えられますし、「新領域」に関しては現状のパーソルグループがカバーしきれていないパート・アルバイト領域やデスクレスワーカーの方々、クリエイターの方々に価値を提供するような新規事業・サービス開発などを見据えています。
――そんなパーソルイノベーションが、今回新たに「社外向けの新規事業創出プログラム」を立ち上げられた理由・背景についてお聞かせください。
平井氏 : パーソルグループでは、2015年より次世代の事業創出を目指し、グループ社員向けの新規事業創出プログラム「Drit」を実施しています。様々な大手企業が新規事業開発に苦戦する中、私たちは「Drit」の実施・運営を通じてダイナミックに投資を行い、多様な新規事業を立ち上げてきたことにより、事業創出に求められる貴重な経験・ノウハウを培ってきました。
今後はこのような動きをさらに加速させ、パーソルグループ内だけではなく、社外のベンチャー、スタートアップの皆さんとも広く連携を図っていくことでパーソルグループのビジョンを実現していきたいと考え、今回のような社外向けの新規事業創出プログラムを立ち上げました。
――グループ社員向けの新規事業創出プログラム「Drit」においても、社外のパートナーと連携するオープンイノベーション的な動きはあったのでしょうか?
平井氏 : 昨年辺りから徐々にそのような兆しも見え始めてきました。一例として位置情報サービスを提供するスタートアップとの連携があります。その企業様は位置情報サービスを開発・提供しているものの、販路が見出せないという課題を抱えていたため、私たちと一緒にサービスのブラッシュアップを行い、パーソルグループのアセットを活かして「サービス価値を最大化できる事業領域を探索する」という方向性で連携を進めてきました。現在は今後のサービスリリースを見据えた仮説検証フェーズに入っています。
「中期経営計画2026」と連動した募集テーマでビジョンの実現を追求
――今回のプログラムでは「多様性のあるはたらく選択肢をつくる」「はたらく人の可能性を広げる」というテーマでパートナー企業の募集を行われますが、このようなテーマを設定された理由・背景を教えていただけますか?
長井氏 : 今回の2つのテーマは、先日発表した「パーソルグループ中期経営計画2026」と連動しています。先ほども申し上げた通り、今回の中期経営計画では、グループのありたい姿(目指す企業像)として「“はたらくWell-being”創造カンパニー」というものを掲げています。
Well-beingは大きく5つに分類されますが、私たちはその中のキャリアに関するもの、仕事の自己決定に関するものを“はたらくWell-being”と定義しています。そして「“はたらくWell-being”創造カンパニー」を目指す際のマテリアリティとなっているのが「多様なはたらき方の提供」「学びの機会の提供」によって実現される「はたらく機会の創出」です。
▲2023年5月に発表した「パーソルグループ中期経営計画2026」の全体像
――パーソルグループの中期経営計画がプログラムのテーマ設定のベースになっているということですね。各テーマで実現したいこと、組みたいパートナーの具体的なイメージについても教えていただけますか?
平井氏 : 一つ目のテーマである「多様性のあるはたらく選択肢をつくる」については、「マッチング機会の拡大」と「新たな“はたらく”の機会創出」というサブテーマを設けています。
「マッチング機会の拡大」については、データを活用することでマッチングの効率化を図り、これまで以上にピンポイントなマッチング、精度の高いマッチングを目指していくテーマとなります。また、これまで様々なサービスで行ってきた転職顕在層へのアプローチに加え、まだ転職を考え始めていない転職潜在層にもアプローチできるような仕組みを実現するなど、マッチング機会を広げるための多彩な取り組みを進めていきたいと考えています。
次に「新たな“はたらく”の機会創出」ですが、現在では社会や産業の急速な変化により、新たな職種、新たなはたらく場、新たなはたらき方が次々に登場しています。このテーマでは、新しく生まれた職種や新しいはたらき方を実践する人たちを適切につなぐマッチング、さらにはバーチャル空間など、様々な場所・空間ではたらく人たちの就業支援などを目指しています。
「マッチング機会の拡大」に関してはデータを扱っている企業様、「新たな“はたらく”の機会創出」に関しては新しい職種にフォーカスして事業を展開している企業様やメタバースなどを活用した事業を展開している企業様と連携できる可能性があると考えています。
長井氏 : 実際に新しい事業創造事例としてパーソルグループの一社であるシェアフルでは、スキマバイトサービス「シェアフル」を活用し、1日単位のアルバイト紹介サービスだけでなく、人材紹介会社への登録サポートや、長期就業に向けた副業支援サービスを展開するなど、様々な形で多様性のあるはたらく選択肢の創出に取り組んでいます。
シェアフルHP:https://sharefull.com/
――もう一つのテーマである「はたらく人の可能性を広げる」についてはいかがですか?
平井氏 : こちらについても「能力の開発」と「業務パフォーマンスの向上」という2つのサブテーマを設定しています。
「能力の開発」については言葉の通りですが、学びをテーマにしたサービスや人材育成関連の事業を展開している企業様にご参加いただきたいと考えています。特に昨今では、ラーニングに関する個別最適化の流れが進んでいるので、学びの提供方法や個別最適に関するテクノロジーをお持ちの企業様も該当すると思います。
「業務パフォーマンスの向上」に関しては、AIやCRMなど、業務パフォーマンスを向上させるべく、様々なテクノロジーを活かした事業・サービスを展開されている企業様からのご応募を想定しています。
長井氏 : 一つ目のテーマである「多様性のあるはたらく選択肢をつくる」に紐づくような「人を集める」「マッチングする」という領域に関しては、パーソルグループ内に多くの有識者が在籍しています。
その一方で二つ目のテーマである「はたらく人の可能性を広げる」、そのサブテーマである「能力の開発」と「業務パフォーマンスの向上」に関しては、バーティカルSaaSのようなプロダクト中心の話になってくると思います。このような領域に特化したプロダクトをお持ちの企業様に対して、パーソルグループがマッチングや採用支援、販路拡大をサポートさせていただくといった座組も相性が良さそうですよね。
――今回のプログラムを入り口としてパーソルイノベーションと組むことで、パーソルグループの様々な事業と連携できる可能性がありそうですね。
長井氏 : そうですね。今まではスタートアップの方々がパーソルグループと組むとなると、パーソルイノベーションと共に事業開発を行っているCVC(パーソルベンチャーパートナーズ合同会社)がメインの入口でしたが、今回のプログラムをスタートさせたことで資本関係のない連携・共創からスタートすることも可能になります。
もちろん、その後の展開次第では今までのようにCVCからの出資、資本提携、さらにはグループインといった展開もあると思いますが、様々な入口ができたことで出会い方のチャンネルに幅ができましたし、スタートアップの皆さんの選択肢も広がると考えています。
また、パーソルイノベーション自体が開示組織から非開示組織に移行したことにより、今まで以上にR&D組織的な予算管理ができるようになったことも、スタートアップの皆さんとの連携にとっても有益になると考えています。
決裁者である長井氏自身が新規事業開発のミーティングに参加
――続きましてスタートアップとの連携やテーマの実現に向けて活用できるリソース、アセットについてお聞かせいただければと思います。
長井氏 : パーソルイノベーション単体というよりはパーソルグループのアセットになりますが、テンプスタッフ時代から50年以上かけて積み上げてきた人材サービス業界でのブランドやプレゼンスは十分に活用いただけるはずです。
また、今回のプログラムはパーソルイノベーション単体で閉じるものではありませんので、パーソルグループ全体での投資規模や顧客資産、ブランドなどのトータルアセットはスタートアップの方々のメリットになり得ると考えています。
平井氏 : パーソルイノベーション社内のアセット・リソースに関して言えば、スタートアップの皆さんと一緒に実験・協業・検証できる環境があることが大きいですね。さらには今回のプログラムのために300万〜1000万円の実証実験サポート費用を用意しています。
――HRビジネスや新規事業領域の有識者による伴走支援もあるそうですね。
平井氏 : ”新規事業家”として有名な守屋実さんや、起案内容に応じて各事業の有識者やシナジーが起きそうな事業部門の方、もちろん長井自身もミーティングに入ります。あらゆる場所で新規事業を立ち上げてきた守屋さんに加え、決裁者である長井と共に事業開発を推進できる体制があることにより、事業開発のスピード感が上がり、新規事業の解像度も高くなると考えています。少なくとも「検討するだけで終わり」ということはないはずです。
――決裁者である長井さんご自身がミーティングに入られるのですね。そのことによって事業のスピードを早めたいということでしょうか?
長井氏 : 大企業で新しい事業が立ち上がらない理由の一つは、新規事業開発であっても通常のビジネスと同様の意思決定プロセスを踏まなければならないことが大きいと考えています。要は新規事業開発部門に権限や決裁が与えられていないのです。今回のプログラムではそのような事態に陥らないよう、私自身が入って決裁することでスピーディーに事業を進めていくつもりです。
また、伴走支援に関してはパーソルベンチャーパートナーズのキャピタリストたちも頼りになる存在です。彼らは常にマーケットを調査し、様々なスタートアップの情報・状況をキャッチアップしていますからね。
――それでは最後になりますが、今回のプログラムへの参加を検討している企業の皆様へのメッセージをお願いします。
平井氏 : 今回のプログラムでは、一般的なアクセラレーションプログラムのような採択or非採択という形にはこだわらず、私たちが掲げる「はたらいて、笑おう。」の実現や「“はたらくWell-being”創造カンパニー」につながるような取り組みを一緒になって進めていけるような方々と共に、新しい事業を作っていきたいと考えています。
また、今後は会社という組織の境界線が溶けていく時代に入っていくと考えているので、会社の枠組みだけに捉われずに、同じ課題を解決するチーム、グループという形での連携も視野に入れていくつもりです。自社のプロダクトに自信を持っている方々や、解決したい課題を明確に持っている方々、さらには私たちが掲げているような課題感、目指す姿に共感いただける方々からのご応募をお待ちしています。
長井氏 : 国内の労働人口減少が重要課題となりつつある一方で「ChatGPT」の登場に象徴されるようなテクノロジーの進歩もあり、人々のはたらき方や雇用のあり方は、これまで以上に急激な変化の波に晒されています。そのような変化にワクワクしている自分がいることも確かですが、その流れはあまりに早く、解決すべき課題はとてつもなく巨大です。
私たちパーソルグループもアプローチすべきドメインを定めて課題解決を進めている状況ですが、まだまだ足りないものがたくさんあります。たとえば「はたらく」という営みは、強い人をさらに強くしていく側面があります。しかし、私たちとしては弱者になってしまいそうな人たちのサポートにも取り組んでいく必要があると考えています。
そのような巨大で複雑な課題を解決するために、互いに足りないピースを埋め合うことができ、一緒になって“はたらくWell-being”を作ってくださる皆さんとパートナーシップを組ませていただきたいと考えています。
取材後記
取材中に長井氏が語っていたように、今回のプログラムではパーソルイノベーションだけではなく、パーソルグループ各社との連携・共創が期待できるほか、事業のスケール次第では資本業務提携やグループインなどの可能性もイメージできるプログラム内容となっている。人材サービス業界においてトップクラスの実績とプレゼンスを誇るパーソルグループの潤沢なアセットやリソース、豊富な顧客基盤などを活用することで、人材や雇用に関する事業を拡大させたいと考えている方々にとっては、またとないチャンスになりそうだ。今後も引き続きプログラムの動向に注目していきたい。
(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:齊木恵太)
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