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【オープンイノベーションの手引き③】ステップ(3)新規事業と既存事業、決裁ルートは同じでいいのか?

【オープンイノベーションの手引き③】ステップ(3)新規事業と既存事業、決裁ルートは同じでいいのか?

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日本のイノベーション創出を促進しようと、経済産業省は、事業会社とスタートアップによる連携の手引きを取りまとめています。しかし、そのボリュームは膨大です。本連載は経産省の手引きをベースに、オープンイノベーション支援をおこなうeiicon company代表の中村亜由子が、社外との事業提携を成功させるための各種ノウハウをわかりやすく解説するコラムです。業界の第一線に立ち、その課題と動向を熟知したプロがアドバイスします。 


連携における失敗事例と乗り越え方 その2


ここまでの話の中で、「オープンイノベーションが手段であること」は強調してきた。「手段」とは、目的を達成させるために、そのプロセスで用いる手法・方法・やり方を指す。オープンイノベーションが「イノベーション創出のためのひとつのやり方」である以上、それを「学ぶ」必要性がある。「学ぶものだ」と考えると必要なことが見えてくる。 


・教えを乞えるのであれば、教えてもらうこと。(教えてもらえない場合でも調べ、読み解き学ぶこと。)


・専門用語は調べ、わかる言葉に翻訳し、理解をしておくこと。 


・知ったことや学んだことを整理しておくこと。


・覚えやすくするため、理解しやすくするための工夫をすること。(自身の関連のある事柄にあてはめてみる、イラスト化してみるなど)


・実践者がいるならば観察すること。


・やり方を把握したら、実践してみること。


・忘れないように記録しておくこと。


1度よりも2度、2度よりも3度、こなしていくうちに習熟度もあがり、ポイントもわかり上手になっていくのだ。オープンイノベーションのステップは、構想・準備の「第一期」、組み手と会い共創をスタートする実践期である「第二期」、そのうえで所謂イノベーション期と言える、事業化・拡大の「第三期」に大きく分けることができる。




実践が伴わない頭でっかちでは、なかなか物事は前に進まない。この三つのステップを繰り返すことで習熟度は増すのだが、学ばずにとりあえず「やってみる」と痛い目を見るのがオープンイノベーション。泳ぎ方や水に浮かぶ理屈を知らずに集団で海に飛び込むようなものだ。まずは水に触れながら、泳ぎ方を学び、理屈を理解したうえで練習をする。ある程度泳げるようになってからチャレンジする。


“ある程度泳げるようになっているかどうか”が重要で、この状態までが実は構想・準備期だ。オープンイノベーションという手段で成果に結びつけられるかどうかはこの構想・準備期が80%を握っていると考えている。



新規事業開発とオープンイノベーション実践はリンクしている


新規事業の推進の仕方と、オープンイノベーションの推進は実はリンクしている。


オープンイノベーションという手段を用いることができれば、ビジネスモデル考案の段階からパートナーを得られ、実証も実際リソースを補完しあうことで、1社ではなかなか実現できないスピードで実践できる。


事業拡大までのスピードも1社でやるよりも圧倒的に効率がよくインパクトも大きい、それがオープンイノベーションだ。「効率化」と「インパクト最大化」、この二つ効能こそが、オープンイノベーションが注目される理由である。


新規事業開発の先にオープンイノベーションがあるのではなく、新規事業開発の初期設計段階に必要であればオープンイノベーションを組み込んでおく必要がある。


様々な企業と話していて気づくのは、漠然とした「クローズドイノベーション」への執着だ。まず社内でやってみて、できなかったら社外のプレイヤーとの共創を考えたいというもの。たしかに自社のみでできないことでなければ、他者と組む必要性はない。


しかし、「今経営陣では想定できないが、自社内社員から、飛び地の新規事業、経営陣があっと驚くような新規事業シーズがでてくるかもしれない…」というのは、これもこれでとても都合のよい淡い期待だ。「自分たちが想定していない」「アッと驚くような…」という類は外に求めるのもナンセンス。イノベーション創出≒新規事業創出の一手段であるからこそ、戦略策定はとても大切である。


・戦略の策定


・オープンイノベーションという言葉を独り歩きさせないこと


前回の解説でのポイントはこの2つである。


戦略策定、オープンイノベーションという言葉の定義の確立に加え、新規事業創出を「効率化しインパクトを最大化するため」に必要なことは、社内の承認ル―トの事前整備だ。今日伝えたい失敗事例は、この「承認・決裁ルート」にまつわるものである。


既存事業とは全く異なる決裁ルートが必須


既存事業とは既に守るべき顧客があり、その顧客に関係するものは、例えば「安全」でないといけないし「安心」でなければいけない。リスクは取るべきではない、それは当然だ。


だが、新規事業においては既存事業同様のステップを踏ませることは実質、新規事業創出を止めることに等しい。新規事業創出において事前に必要なのは「予算の確保」だけではない。


その事業を推進することに対する承認、そのパートナーと共創を進めるという事象に対する承認、外部に公開するということに対する承認、利用するツールに関する承認、セキュリティ基準、広報、人事・労務全てにおいて「承認」が必要なのが現在の既存決裁ルートであり、それらの既存ルートとは異なる決裁ルートの確保、裁量の確保、不測の事態が起こったときのための決裁者の明確化までが、事前に必要だ。


本当にあった残念な事例


今回もほんとうにあった事例を紹介する。


・「子会社としては承認していない」


複数の子会社や関連会社をもち、ホールディングス化している大企業にて、新規事業推進の承認がおりた。担当者は子会社所属であったため、実際に進めようと奮闘しているところ、親会社の承認から4ケ月後に子会社の経営会議に招聘される。その会議に参加すると、子会社としてはその事業推進を承認していないため、再度決裁をするから、次週プレゼンしてほしいというものだった…。


このように「新規事業」の進め方自体がおぼつかない企業も多くあり、新規事業であるからこそ下手をすると既存事業よりも承認をえる回数が増えるという事象に陥る。

・「資本金1000万円以下はNG」


こんな話もある。


共創パートナーと出会い、いざ共に事業検証を進めることになった。経営会議でも承認をされた。その後、自社内の監査・会計部門から「待った」が入る。共創パートナーの資本金が1,000万円以下であるため、取引基準に達しないため、共創はNGという連絡だった…。


担当者は、イレギュラーであるが承認してほしい旨、稟議書を作成し各部門に承認をとりにいき、実際に共創をスタートできたのはそこから半年後だった。




体制・仕組みの構築の重要性


もちろん、冒してよい危険とそうではない危険がある。既存事業に大きく影響があるマイナス要因は避けるべきだ。


例えば鉄道会社が、しかるべき基準において十分に安全である実証が済んでいない自動運転技術を導入し、走行する有人車両で試すのは「冒してはいけない危険」である。


おいしい冷凍食品を展開しているメーカーが、「まずいけれど栄養価は非常に高い」冷凍食品をそのまま展開することは既存事業の棄損につながる可能性がある。これも「冒してはいけない危険」である。


だからこそ、これらを事前に項目別に整理し、基準を設計しておくことがとても大切なのだ。


「ここまでの内容なら担当者に任せる」という裁量を渡しておくこと、「GOを出す人は誰なのか」を共通認識にしておくこと。これはアリでこれはナシ。一言に言ってもそのジャッジの観点は多岐にわたるわけであるから、実際に骨の折れる作業だが、ここを事前に整理しておくことは、オープンイノベーション推進・新規事業推進において大きな意味を持つ。


・決裁ルートを確保しておくこと。誰が決裁者なのかの明確化と、担当者への裁量の分配。


・判断基準の明確化、何がGOで何がNO GOなのかを皆で共通認識を持っておくこと。




第三者を入れて設計することにも意味があるし、明文化しておくことも必要だ。初回は伴走者・フォローアップをしてくれるパートナーと進めることが望ましい。「暫定」で設計した上で、リーンに試しながら実態との乖離を埋めていく作業は、社内だけで実践しようとすると精度を保つことが非常に難しいからだ。


逆に習得してしまえば自立自走できる。ここまでが非常に大切なポイントであるとお伝えしたい。(解説:eiicon company 代表/founder 中村亜由子)


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■連載一覧

【オープンイノベーションの手引き①】ステップ(1)実践にあたっての心構え"オープンイノベーションは「手段」だ"

【オープンイノベーションの手引き②】 ステップ(2)社外連携の「悲劇」は回避できる 本当にあった経営会議のワンシーン

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オープンイノベーションの手引き

eiicon founder 中村が解説!オープンイノベーションを実践する上で必要となるティップスやノウハウを様々なステップに分けて解説します!