【Open Innovation Guide⑧】 事業会社がぶつかりやすい10の壁
eiiconは、2017年10月12日に”オープンイノベーションの手引き”というコンテンツを公開しました。これは、経済産業省「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き(初版)」を元に、事業提携を成功させるための各種ノウハウをわかりやすくWEBコンテンツ化したものです。自身の課題感や状態に合わせて、検索・読み進めることが可能となっています。もともとの手引きも100ページ以上ある大作ですが、eiiconのコンテンツもボリュームがあるため、eiicon founder 中村が解説していきます。
◆事業会社がぶつかりやすい10の壁
おはようございます。中村です。本日は前回に続いて「壁シリーズ」!今回は「事業会社がぶつかりやすい10の壁」についてです。
新年度が始まり新組織がスタートしているこの時期。4月から着任されたオープンイノベーション担当者の皆様にまず知っておいてほしいこと、2期目~3期目の担当者の皆様には改めての復習・おさらいという位置づけでeiiconの立場から見えてきた風景も含め、お話しします。
以前、この手引き解説シリーズの初回に『連携にあたっての心構え』について解説しました。そこでは事業会社のオープンイノベーション担当者は、まず①「外部と連携する目的・期待成果」を具体化しておくこと、②必要な自社社内決裁プロセス・かかる期間を把握しているかが大切ですとお話ししました。今日は会社として、この二つ「外部と連携する目的・成果」を明確にすることができ、社内プロセスも大まかに把握したのち、ぶち当たる壁についてお話しします。手引きに示されているのはこの10の壁です。どれも大切なので一読することをお勧めします。
(1)社外連携活動が活性化しない:外部技術を探索・採用するインセンティブや、自社経営陣の意思統一不足により社外連携活動が活性化しない
(2)人材の質を高めきれていない:事業会社の要求水準まで、研究開発型ベンチャー企業の技術・人材の質を高めきれていない
(3)連携したい事業領域が曖昧:自社が社外連携したい事業領域が曖昧であり、コンタクトしても大抵の場合で挨拶止まりになってしまう
(4)社内文化の違い/ベンチャーへの与信:“社内文化・仕事の進め方の違い”やベンチャー企業の“与信・情報不足”により、意思決定者同士の討議に至らない
(5)帰属やライセンス内容:連携の成果である知的財産の帰属やライセンス内容で合意できない
(6)技術仮説の検証不十分:当初の技術仮説が十分に検証されずにプロジェクトが停滞してしまう
(7)ビジネスモデル仮説の検証不十分:当初のビジネスモデル仮説が十分に検証されずにプロジェクトが停滞してしまう
(8)意思決定に時間がかかり過ぎる:事業会社の新規投資意思決定に時間がかかり過ぎ、マーケットをリードできなくなってしまう
(9)明確な撤退基準がない:明確な撤退基準がなく、成功の見込みが薄くなった連携プロジェクトが継続され続けてしまう
(10)類似の失敗を繰り返しやすい:チャレンジによる教訓が社内でノウハウ化せず、類似の失敗を繰り返しやすい
https://eiicon.net/about/guidance/company-task.html
◆社外連携活動が活性化しない理由
この10の壁のうち、一つ目の『社外連携活動が活性化しない』をピックアップします。
「オープンイノベーションで何を成すか」の目的は定まり、今後のプロセスも整理した……それなにの遅々として社外連携活動、すなわちオープンイノベーションが進まない・活性化しない!なぜか。大抵の場合、個社ごとに詳細理由や事案は違えど、大きく二つの原因が活性化を妨げています。
①オープンイノベーションを実践する上で、組織内部がコミットする目的・インセンティブが定められていない
②自社経営陣やステークホルダー部署が十分に賛同していない
オープンイノベーションは、新規事業を創出する手法のひとつ、イノベーションの方法論として有効だと言われています。
新規事業創出やイノベーション実践は企業価値を常に向上させていく上で必要なことです。それは皆、このオープンイノベーションブームである市況や世界での成功事例をみて理解されつつあります。ただ、「自分事化できているか」でいうとそれはまた違う話なのです。
会社が実施することは理解できる、ただ、「なぜ自分が?」「何のために?」。
実はこの「なぜ自分が?何のために?」人材を放置してしまうと、これはすぐに癌化し、悪性の腫瘍となります。
ただでさえ、外部との連携は異文化融合、異質なものとの連携となりますので、違和感やある程度の痛みが伴うものもあります。そのような融合・連携において、ステークホルダーの中に、コミットできない人間がいることは大きな妨げになるのです。
ただ、日本企業は忖度・遠慮の美徳も手伝って、正しいとわかる理論に表立って反論する人はあまりいません。そのため、発見が難しい。しかし、あまり問題がなさそうに見えたとしても、最初の社内社員向けの目的・インセンティブの設定、およびしっかり説明・理解してもらうというステップを飛ばしてはいけません。
◆具体的なインセンティブ設定と予算・権限の付与を
オープンイノベーション担当者が、この鬱屈とした気持ちを抱えていることももちろんあります。(むしろ多いですね)
オープンイノベーション担当者が十分に評価されないというのは大きな問題です。得てして優秀な人材が抜擢されることが多いポジションのため、会社の中ではもともと同期の中で出世コースにいたはずなのに、いつの間にか出世が遅れ給料も上がらず、非常に苦しいことが多いにも関わらず評価もされない……と会社を去っていく優秀な担当者が多いことも事実。(4月の一番はじめにこんな暗い話すみません)
●経営陣は間違いなく、オープンイノベーション担当者に向けた目的の共有とインセンティブの設定はすべきです。キャリアアップ、昇給、報酬の設定など、具体的なKPIとともに設計をしましょう。
●担当者に加え、他の社内ステークホルダー・既存事業部へ向けた「目的・インセンティブの設定」及び説明・理解のステップも必須です。通常のミッションに加えた評価指標とするのが有効でしょう。
オープンイノベーション担当者と、オープンイノベーションを仕掛けた経営者は常に急いています。大抵、事業会社の時間軸「年度」で「成果目標」を定めているケースが多く、そうすると刻一刻と時間が削られていく感覚があるのも事実。ただ、最初の部分は本当に大切なので省いてはいけません。
またミッションに応じた裁量を、オープンイノベーション担当者が持っていることも重要です。この4月の段階で、予算や権限付与既存ルートではなく、担当者がある程度自身の裁量で物事を進められるように設計・設定しておきましょう。
◆P&G社の事例
先行事例として、今回は王道のP&G社の例を抜粋しておきます。P&G社は従来の自前型R&D戦略を見直し「研究開発やイノベーションのアイデアの50%は社外から調達する」ことを2000年に社内・外含めて宣言しました。
売上増加の目標とともに、マイルストンのKPIを定めて発信。そして、この「50%は社外から調達する」を達成するためのマイルストンごとにKPIとインセンティブ、仕組みを敷いていったのです。結果、研究開発費を維持しつつ、ベンチャー企業とも連携しながら、売上倍増を達成しました。
2000年に「宣言後」、2008年には売上倍増。世の中がリーマンショックに見舞われたあの年です。
オープンイノベーション実践を今年からする企業にとって、P&G社と同じ軌跡を目標とするなら2025年が売上倍化の年。
オープンイノベーションは即目覚ましい効果ばかりが望める取り組みではありません。ただ、道筋・マイルストン・KPIを敷いていくことができれば企業価値をあげる手段としては非常に有効だと先人が証明しています。
春。オープンイノベーション実践~成功に向けて、新たな目標を立て、視界をクリアにし走っていく時期です。
先人たちが失敗し苦労した経験をまとめた内容が詰まっている最高の教科書「オープンイノベーションの手引き」ぜひご一読ください。
eiiconも全身全霊をかけて支援してまいります。本年度もよろしくお願いいたします!
●他詳細はこちらから オープンイノベーションの手引き https://eiicon.net/about/guidance/
解説/オープンイノベーションプラットフォーム「eiicon」Founder 中村 亜由子(nakamura ayuko)