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「高齢者とヘルパーの課題を同時に解決する」クラウドケアが作る新しい介護の形

「高齢者とヘルパーの課題を同時に解決する」クラウドケアが作る新しい介護の形

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スタートアップ起業家たちの“リアル”に迫るシリーズ企画「STARTUP STORY」。――今回登場していただくのは、高齢者とヘルパー(介護・生活援助スタッフ)のマッチングサービスを手掛ける株式会社クラウドケア。CEO 小嶋潤一氏とCOO 桐山典悦氏だ。

二人はデジタル広告会社で一緒になるも、その後別々の道に。小嶋氏が通所介護事業で起業した一方で、桐山氏はMBAを取得するために大学院で地域包括ケアシステムについて学び始める。そんな二人が偶然再会して生まれたのがクラウドケアだ。

なぜ二人はIT業界から介護の道へ進んだのか。そして、介護の現場で見た業界の本質的な課題とは。今回はお二人に、クラウドケアで日本をどのように変えていくのか語ってもらった。

起業を胸に介護の道に進んだ二人。そこで見た業界の課題とは

ーーまずは小嶋さんが起業するまでの経歴について聞かせください。

小嶋 : 私はデジタルマーケティングを行うアイレップに新卒で入社しました。もともと起業したいと思っていた私は、会社で働きながらも将来どの領域で起業するか探していたのです。

2011年当時はソーシャルゲームがブーム。ゲーム業界で成功した人たちを横目に「もっとイノベーションの余地があり、社会に貢献できる領域はないかな」と考えていました。そこで目をつけたのが介護領域。市場や課題の大きさはさることながら、デジタル化が遅れておりイノベーションの余地があると思ったのです。

当時は介護領域での経験も知見はなかったものの、ゼロから勉強しながらデイサービス事業等を行うジェイシーイノベーション株式会社を立ち上げました。

ーー最初からIT事業を手掛けたわけではないんですね。

小嶋 : いずれは介護業界をデジタル化したいと思っていたものの、現場を知らなければ課題の本質は見えません。まずは介護サービスを提供しながら、どんな課題が眠っているのか知りたいと思ったのです。

そして、当時目の当たりにした「介護保険制度の限界」つまり高齢者のニーズに答えられていない現状こそが、クラウドケアの原点になりました。いくら介護保険の中でサービスを提供しても、高齢者の方々が充実した老後を送れると思えなかったのです。

ーー実際に介護の現場で働いたからこそ、本当の課題が見えてきたんですね。桐山さんの経歴も教えてください。

桐山 : 私は新卒で入社した会社から小嶋が働いていたアイレップに転職しました。そして、様々なクライアントを見ているうちに「こんな風に会社は成り立っているんだな。自分でも会社を経営できそうだ」と考えるようになり、起業を志すようになったのです。

もっと経営を体系的に学びたいと思い、選んだ道がMBAの取得。慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應義塾大学ビジネス・スクール)に通いながら自分は何をしたいのか考えるようになりました。「金儲けだけの仕事はしたくないな」と思っているうちに出会ったのが、医療・介護・地域包括ケアシステム政策の第一人者である田中滋先生です。

在学中に田中滋研究室で地域包括ケアシステムついて研究を行い、今の介護の課題が見えてきたものの、まずは介護の現場を知ろうと思って入職したのが高齢者向け病院の青梅慶友病院。病院をサービス業と捉え、医療よりも介護、介護よりも生活の部分を優先的に考え、単に介護をするだけでなく最晩年が豊なものとなるように、高齢者や家族が求めているものを最大限提供するユニークな病院でした。

例えば高齢者が食べたいと言えば、お寿司でもステーキでも出すんです。本当に食べたいものは、どんなに身体の機能が落ちていても食べられるんですね。時にはその食事が人生最後の思い出になることもあり、満足いく最期を迎えられるお手伝いができたと思っています。

ーー小嶋さんとはどのような経緯で共同創業に至ったのですか?

桐山 : 小嶋が起業したのは私が働いていた病院の近くだったので、時々会って話すようになったんです。お互い起業の意思を持ちながら介護の業界に移ったので、自然とビジネスアイディアをディスカッションするようになっていました。


小嶋 : 私は介護業界でITサービスを作りたいと思っていたため、ITも介護の世界も分かる桐山は格好の壁打ち相手だったんです。海外のサービスを調べながら、日本でもできるアイディアを見つけては桐山に相談していました。

そこで見つけたのが、高齢者とヘルパーさんをマッチングするサービスです。それまで提案したサービスには首を横に振っていた桐山も、このアイディアにはとても乗り気になって一緒にサービスを立ち上げることにしました。

自費介護で最期まで満たされた人生を。マッチングサービスに感じた可能性

ーー桐山さんがマッチングサービスに乗り気になった理由を教えてください。

桐山 : 病院で働きながら「こういう介護・生活支援の形を日本全国に広げたいな」と思っていたからです。単に生きるためだけの介護ではなく、最期まで満足した人生を生きてもらうための介護。しかし、介護保険の中ではそのような介護・生活支援を提供することはできません。

とは言え、青梅慶友病院のような施設を全国に作るのも難しい。しかし、自費介護のマッチングサービスなら、高齢者が本当に求めるサービスを低価格で提供できます。病院で働いていた時に見たような、満足いく最期を迎えられるような社会を実現できると思ったのです。


ーー今の日本では最期まで自分らしく満足して生きるためのサービスを受けるのは難しいと。

小嶋 : 例えば、介護保険の中では家族分の家事やペットの世話までお願いできませんよね。しかし、最期まで充実した人生を送るには、そのような身の回りの世話も欠かせません。クラウドケアなら、趣味の相手や外出の付添いなど幅広いニーズにも応えられるんです。

介護事業者を通さず、ヘルパーと直接マッチングすることで、低コストを実現できるのも大きなポイント。スマホで簡単に依頼できるので、多くの方に手軽に使ってもらえるはずです。


ーーそれまで日本にはなかったマッチングサービスを、お二人はどのように立ち上げていったのでしょうか。

小嶋 : サービス開始当初は自分たち2人もヘルパーとして、ユーザーのもとを訪問しながら働いていました。当時は登録しているヘルパーも少ないですし、実際に訪問することで高齢者の方が何を求めているのか、そこで働くためには何が大事なのか身をもって知るためです。

また、今では自動でユーザーとヘルパーさんをマッチングしていますが、当時は自分たちで行っていました。マッチングするのは人と人なので、ユーザーのニーズを見ながら、どのヘルパーさんがマッチしているのか考えなければいけません。ヘルパーさんとユーザーの数が増えた頃には、そのアルゴリズムも構築できて自動化できました。

ーー介護サービスはIT化が遅れている印象がありますが、サービスを浸透させるために工夫したことがあれば教えてください。

桐山 : 特別なことは何もなく、日々システムを見直して使いやすく改善する。それを繰り返してきただけです。今でも自分たちでサイトを触っては、どうすれば使いやすいか考え、何度も改善を繰り返しています。

当時は自分たちで考えるしかありませんでしたが、今ではカスタマーサクセスもおり、ユーザーの声を受け止める体制ができました。今後はその声を反映して、より使いやすいサービスにしていきたいと思います。


介護の仕事を「憧れる職業」に。働き手の待遇改善が最重要課題

ーーお二人が感じた「介護保険の限界」の根本にあるものについて教えてください。

小嶋 : 介護保険の限界は、国がサービスの料金をすべて決めていることに起因します。介護事業者がどんなに頑張って質の高いサービスを提供しても、客単価は変わらないんです。そして、介護保険は税金で賄われていますから、介護保険の財政状況に合わせてその収入がどんどん下がっています。

そのしわ寄せを受けているのが介護職の方々。介護職員処遇改善加算といった仕組みもあるのですが、今の介護業界の平均年収は本当に低くて、正社員ですら給料だけでは生活できず、副業でアルバイトをしている方もいるほどです。それでもあれだけの重労働をしてくださる方々には本当に頭が下がります。

仕事はハードで年収も低いため、介護の道に進もうという人も減っています。介護業界にやりがいを感じている人もいる一方で、他に仕事がなくて仕方なく介護の仕事をしている方も少なくありません。それでは質の高い介護を提供できるわけもなく、結果的に高齢者の方々にも満足なサービスが提供できなくなってしまいます。

ーーそれでは、介護保険の中では今後ビジネスチャンスはないのでしょうか。

桐山 : いえ、一概にそうとは言えません。例えば、テクノロジーを使って業務を効率化できれば、従業員の負担もへりますし、少人数で運営できるため従業員1人あたりの売上高も高くなるはずです。これまでIT化が遅れていた介護業界も徐々にテクノロジーで変わりつつあるため、今後はビジネスチャンスもあるのではないでしょうか。

また、今の制度では限界が見えているので、今後規制も緩和されていくはずです。もしも、事業者がある程度自由に料金を決められるようになれば、単価の高いサービスを提供できるようになります。お客様は質の高いサービスを受けられて、働く人の収入も高くなる。そんな社会が実現することを期待しています。

ーーこれから介護業界が盛り上がっていくためには、何が必要だと思いますか。

桐山 : 同じ話の繰り返しになりますが、必要なのは働き手のやりがいと収入です。「介護の仕事がしたい」と思って業界に入ってくる人が増えなければいけません。

そのためには、介護士が主人公のテレビドラマができればいいなと思っています。例えば看護師は子供にも人気の職業ですが、それはドラマなどを見てどんな仕事をしているかイメージしやすいのも大きな要因です。

もしも、テレビドラマによって介護士が憧れの職業になれば、介護業界に憧れて始める人も増えるはずですし、自然とサービスの質も高まります。もちろん、人を増やすだけでなくロボットなどのテクノロジーも使って効率化することも必要ですが、結局テクノロジーを使うのも人。働くのがかっこいいと思われる業界になることが最も重要だと思います。

小嶋 : 桐山の話とも重なりますが、働き手の多様性も広がっていかなければいけません。介護業界の給与水準は、一般的な大学卒の方の平均給与に対して低いため、大学を卒業した後に、介護の道を進もうとする方が少ないのが現状です。この状況を変えるそのためには結局、収入を上げなければいけないんですね。もっと条件面で恵まれた業界になれば、大学を出た方も集まってきます。大学卒の方や他の業界からの転職者など多様な人材が集まれば、考え方の幅も広がりよりよいサービスが増えていくはずです。

ーークラウドケアはヘルパーさんへの報酬も相場よりも高く、業界の低賃金の課題解決にも貢献していますよね。

小嶋 : そうですね、ユーザーのみなさんに満足いくサービスを届けるには、同時にヘルパーさんの待遇も改善する必要がありますから。そのためには、まず自費で介護を受ける文化を広めていかなければなりません。

今は介護保険の中で介護を受けるのが主流ですが、自費でサービスを受けることで生活を充実させ、よりよい老後を送ってほしいと思います。そんな未来を少しでも早く実現するのが、私達の目標です。

桐山 : 自費でサービスを受けることは、家族の方々の満足にも繋がると思うんです。実は老人ホームに親を入居させることに「本当は自分たちで面倒を見なきゃいけないのに」と罪悪感を持つご家族も少なくないんです。

もしもクラウドケアを使って充実した姿を見れば、そんな罪悪感を持つ必要はありませんよね。むしろ「あそこの家はクラウドケアで介護を頼んでもらえて幸せだね」と思われるようなブランドにしていきたいと思います。

(取材・文:鈴木光平)

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