【連載/4コマ漫画コラム(77)】日本の"ものづくり"再興のカギとは?
魂が宿る?ものづくり
かつて言われていた「ものづくり大国日本」と今も思っている人はもうあまりいないでしょう。冷静に現状を見ればそれは当然のことです。でも、多くの日本人の心の中に「ものづくり」への愛着に似た感情はまだまだ残っている気がします。単に高度経済成長期へのノスタルジーとかとは違って、自然物・人工物に関わらず、全ての「もの」には魂が宿るというような世界観が心の根底にあるからかもしれません。
ここまで世界から離されてしまっている現状では、そうそう簡単に「日本のものづくりを再興」とはいきませんが、大きな世の中の流れとしてのチャンスを掴めば、新たな「ものづくり」で日本も元気になるかもしれません。
その大きな流れは、「ロボット」です。
「ロボット関連事業をやるべきか」ではなく
ロボット事業が成長していくことは多くの人も予想しています。
「ウチの会社はロボット関連事業をやるべきか?」と一度は自分自身に問いかけたことがある経営者は多いでしょう。しかし、その問い方は中途半端です。「やるかやらないか」ではなくて、「やる」ことを前提とした「ウチの会社はどんなロボット関連事業をやるべきか」を考えるタイミングです。全ての製造業で必要なだけでなく、多くのサービス業など全業種でその問いを立てて考えてみましょう。
同じようなことは2000年ごろにありました。「ウチの会社はインターネットをやるべきか」と逡巡している会社は後手を取り、早くから「ウチの会社はどんなインターネット関連事業をやるべきか」を考えトライしてきた会社だけが「インターネット」という大きな流れに乗り遅れずに済みました(もちろん、沢山淘汰されてきましたが)。
個別サービスロボット事業(= Mono Solution)
「ロボット」の新たな流れで加速するのが、「(ネットにつながった)リアルな世界にロボットがあって、様々なサービスを行う」という「サービスロボット事業」です。
ここで言うロボットは、実体があって、稼働部があるようなものを指していて、RPA(Robotic Process Automation:コンピュータ上の定型作業の自動化)などは含みません。
また、お気づきのように、人型ロボットである必要もありません。
インターネットの出現・発展によってバーチャルの世界は大きく進化し世界が変わりました。それをベースとして、リアルの場でリアルなロボットが本当に活躍できる時代がすぐそこまでやってきています。日本人が好きな「モノ」が新たな形で活きる世界です。
また、CPUやGPUの高性能化・小型化によって、Edgeコンピューティングと呼ばれるリアルの場でのハードの中で処理できることも大きくなり、AIもネット側だけでなく行えるようになってきたのも「ロボットの新たな世界」を推し進める要因です。
現時点でのサービスロボットは「清掃」や「警備」などまだ限られたサービスでしか生まれていませんが、今後、ありとあらゆる「リアルな場」での事業にロボットが使われて行きます。そして、今後の広がっていくと思われるのが、それぞれのお客様の課題に合わせた「個別サービスロボット事業」だと私は思います。
「清掃」や「警備」は大きい「領域」です。お客様それぞれの状況は全て違います。同じ「清掃」でも、どういう床や壁をどのようにいつどんな状況で清掃したいのかは、千差万別です。その課題を解くためのサービスやそのサービスを支えるロボットも千差万別であるべきです。ある意味、「テーラーメイド(和製英語ではオーダーメイド)」で実現されるものです。
(漫画では「個別サービスロボット事業」をとりあえず「Mono Solution」と名付けました(^o^;))
個別のサービスの視点から
「個別サービスロボット事業」のキモは「個別サービス」の視点です。
それぞれのお客様の課題や新たに生み出したい価値をどうすれば「サービス」として解決したりサポートしたりできるのか、という視点です。
「サービス」には、ハードウエア(モノやロボット)、ソフトウエア、ネットワーク上の処理、人的なサポート、流通システム、等、「サービス」に必要なもの全てが含まれています。
そして、「サービス」は無限とも言える種類が存在します。「個別の顧客視点」だからこそ「無限」に存在するのです。これまでのモノを提供する側の視点では「このモノを使ってくれる顧客へ」とだけになりがちでした。「(なんだかよく分からないけれど)色々なところで使ってもらえるからこそ、大量に同じものを作って、大きなビジネスになる」という従来の視点では多種多様な「個別サービス」を作り出すことはできません。
その「個別サービスロボット事業」を構成する要素として、リアルの場で活躍するのが「(個別に対応した)ロボット」です。
個別サービスは個人の想いで
多種多様の、個別サービスを開発していくためには、開発する側も「個人・自分として共感し、やりたいと思える課題や顧客」に対峙することが大事です。それは、開発側の「やりがい」にもつながります。軍隊形式で個人の想いを殺して役割分担をして大規模な開発や事業推進を行うのでは、本当の意味でのそれぞれのお客様の課題を解決できません。
実は、大量生産をベースとした工場でも、ある時期から「セル生産方式」というやり方が採用されてきました(特定の製品に対してですが)。セル生産方式では従来の「流れ作業」のように工程や作業を分割するのではなく、少人数のチームで一つの製品を作り上げます。このやり方によって、担当の製造者の「やりがい」が大きく向上します。「これは私が作ったものだ」というのは「ものづくり」のモチベーションでとても大事なものなのです。
この「セル生産方式」と似たような形で、チームを作り、単に「生産」を少人数でやるのではなく、メンバーの中の技術者自らも「顧客と一緒になって課題を明確にする」というステージから行い、様々なトライアンドエラーをして、実際の「サービス」まで仕立てていくのが、これからの「個別ロボットサービス事業」の新たな形になるでしょう(と信じています)。
責任を持って自らが企画・開発・提供をすることによって、「作る」喜びだけでなく、「目に見える実際のお客様に喜んでもらう」というやりがいが生まれます。これまで大企業での開発業務に欠けていた大きな点です。
一見、少人数のチームでそのようなサービスを作り上げるという広い活動を行うのは困難に思えますが、それを可能にするための部品やツールが既に揃っている状況になってきています。また、サービスを作り上げるために他社との協業が当然必須になってきますが、それも(AUBAなどのおかげで)随分やりやすくなってきたのも大きな理由です。
プラットフォームは後々
「いやいや、そんな手間のかかることは狙いたくない。ウチはサービスロボット事業のプラットフォームをやるのだ」という類の話をよく聞きます。様々な個別のサービスをちょっとした変更や追加だけで作ることができる基盤となる「プラットフォーム」を提供する事業を狙うという話です。それ自体は決して否定しませんが、最初から「ウチはプラットフォームを」と言いながら、結局誰も使ってくれないプラットフォーム開発に多大な時間と労力をかけてしまっている会社が多々あります。
「最終的にプラットフォーム事業を作る」ためにも、まずは、「個別のお客様の課題」を解くところから始めることをオススメします。自分達が持っている技術や事業の強みを活かして、ロボットを使ったサービスを「個別のお客様」の課題解決のために、思いっきり最適化していくのです。(ちなみに、「自分達が持っている技術」とは、ロボットそのものでなくてもロボットに使えるかもしれない部品や技術も含みます。) そうすることで当初持っていた技術や強みとはだいぶ違うものになってしまうかもしれません。
しかし、その特定の個別のお客様向けに磨かれたものは、実は他のお客様にも使うことができるということが必ず分かってきます。また、違うタイプのサービスにも使えるものができてきます。そうやってジワジワと横に広げていくうちにできていくのが良い「プラットフォーム」です。
もちろん、世界の中には最初からプラットフォームを構想して、成功まで持って行けるとてつもなく強い会社もあります。しかし、それは僅かです。日本の多くの会社や人がお客様に喜んでもらえるというビジネス本来の喜びを取り戻して、一見小さく思えても、将来大きく伸びていくものづくり事業の新たな領域として「個別サービスロボット事業」を「私だったらこういうのをやりたいな」と自分事として考えて挑戦を始めてみましょう。
今の日本や日本人がちょっと苦手なこともあれこれ乗り越えなければいけませんが、『日本の"ものづくり"再興』というMonoすごい夢のような話でした。
■漫画・コラム/瀬川 秀樹
32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。
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