【連載/4コマ漫画コラム(75)】未来を予測する力をつける読書案内
進化思考
「未来を予測する」に関連した話は、実はこちらのコラムに書いたことがあります。
そのコラムでは、冒頭で「未来は予測できない」と堂々と匙を投げた上で、「あれこれ広く読んだり会ったり行ったり」して「自分で考えて、未来を切り拓いていこうね」というメッセージをお伝えしました。
今回のお題は「未来を予測する力をつける」ことなので、同じく「あれこれ広く読んだり会ったり行ったり」が大事であることは変わりないのですが、「自分で考えるため」に最近出たとても素晴らしい本を紹介したいと思います。
進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」/太刀川英輔 (著)
生物の進化と事業の進化
本コラムは新規事業創出に携わっている方、もしくはこれからやろうと思っている方が読まれていることが多いと思います。その方々が「未来」を考えようとするのは、「どういう事業が生まれ、どうなっていきそうなのか」ということでしょう。「未来は正確には予測できない」のですが、「もしかしたらこうなるのではないか」という想定はある程度可能で(それでも一つだけに絞る事は不可能ですが)、そういうことに普段から思いを馳せ考えられるようになるのが「力をつける」ことだと思います。
どういう事業が生まれ、どういう事業が伸びて生き残っていくのか。
それにはアナロジーとして、「生物の進化」が実はぴったりと当てはまるのです。
大きなポイントはサブタイトルにある「変異と適応」。
生物は目的を持って「進化を仕掛けている」のではなく、たまたまの「変異」が大量に生まれ、そして、環境に「適応」するものが生き伸びて、また次の変異を生み、進化していきます。(「変異」と言うと、今は新型コロナウイルスの「変異株」を思い浮かべてしまうかもしれませんね。)
一方、次から次に新たに生まれる「事業」「製品」「サービス」は、人間の意図が介入するので、あたかも「誰か天才が仕掛けている」ように思えますが(実際、成功して生き残ったものを後から振り返るとそう見えますが)、それ以上に「技術の進化」をベースに「事業」「製品」「サービス」が「変異」し、環境や社会ニーズに「適応」したものが「伸びて生き残る」のです。そして次の「変異」「適応」につながっていきます。
私もいつも「新規事業なんて、多産多死でしか成り立たない」と思っているのは、こういう生物の進化のアナロジーがベースになっているからです。
ただ、「生物の進化のアナロジー」が、私はうまく言語化できていませんでした。
この本の素晴らしいところ
この本は、それをくっきりと分類・言語化して提示してくれています。
是非、本を読んで欲しいのですが、「変異」の種類として、「変量、擬態、欠失、増殖、転移、交換、分離、逆転、融合」の9つが挙げられ、「適応」としては「解剖、系統、生態、予測」という4つの分析方法を提示してくれています。そして、それぞれの項目が詳しく解説されています。
それらが、生物だけでなく、「創造」のベースになっている。人類がこれまで歩んできた「技術をベースとした創造による進化」もこれらの項目で語ることができるのです。
「未来を予測する」ためには、これまでの歴史と現状から推測するしかありません。その方法として、人類が歩んできた変化・進化も実は生物の変化・進化と同じ類であるという見方をすると、これまでぼんやりしか見えなかった視界が晴れて、より具体的で視座の高い未来が描けるようになるでしょう。
通常の「予測」で用いられる「フォアキャスト法(現状の情報を積み上げていく)」と違う「バックキャスト法(未来を先に描いて、それに至る道筋を描く)」は一見「歴史と現状から推測する」とは異なるやり方に思えるかもしれませんが、最初に「ポン!と未来を直感的に描く」ことができるのは、自分の中に蓄積された「歴史と現状」を無意識に使っているからなので、実は基本的には同じことです。現状に囚われず積み上げだけでは得られない視座の高い未来を描くためには、この「ポン!」が直感的に出てくることが必要です。
技術の進化のスピードはとんでもないものですが、一方で今の人類も生物としては殆ど進化していません。そのため、「(身体能力や気持ちや感情や社会性など)変わらないこと」が現前としてその変化のベースになってくることも未来を考える上で大事なことの一つです。
新型コロナの影響もあって、従来停滞していた様々なこと(例:テレワーク、オンライン会議、地方移住…)なども急激に動き出し、変化しだし、益々目の前の変化のスピードに振り回されている感じになってしまいがちですが、そういう時ほど大きく高い視点で物事を考えるのが大事です。それにはこの地球で大繁栄している生物(人類も含め)の進化の視点で考えるのが役立つでしょう。
また、この本では解説だけではなく、様々な創造的活動をしている方に「どういう視点で考えればいいのか」の具体的な指南もしてくれています。
著者の太刀川氏は「デザイナー」という肩書になっていますが、優れた感性だけでなく、とんでもなくロジカルな分析力を持たれている方だと無茶苦茶感心しながら読みました。(そしてあちこちににじみ出ている人生観とか信条みたいなものにも共感しました。)
「未来に想いを馳せる力」をつけるために是非お読みください。
諸行無常に想いを
一冊だけ紹介するのも何なので、当たり前に続くと思っている日々の生活から幽体離脱して、今の自分と自分を囲む世界を眺めて「未来」の可能性に想いを馳せるために、ちょっと過激に思えるかもしれませんが、「面白い!確かに!そうだな!…でもな」と思った本を2冊紹介します。
「本当に事業とかビジネスとか言っているだけでいいの?」という視点もとても大事だと思います。環境問題や格差問題を生んでいる現在の資本主義やビジネスの世界。「事業やビジネスの定義や類」も変化・進化していきます。いい「変異」を起こして、それが地球規模の生命体の中でどう適合していけるのか。人間らしい「意図」を持った進化をしていきたいものです。
この世は諸行無常。
ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す/山口 周 (著)
資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐 (集英社新書)/マルクス・ガブリエル他 (著)
■漫画・コラム/瀬川 秀樹
32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。
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