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プレ・ステーションAiが仕掛ける「INCUBATION PROGRAM」とは?――愛知で活動を続ける投資家・MTGV藤田氏・伊藤氏に聞く

プレ・ステーションAiが仕掛ける「INCUBATION PROGRAM」とは?――愛知で活動を続ける投資家・MTGV藤田氏・伊藤氏に聞く

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愛知県に2024年度、開所予定の「ステーションAi(エーアイ)」――。世界最大級のスタートアップ支援機関「ステーションF」(仏)に倣って建設が進むこの建物は、中部圏におけるスタートアップ・エコシステムの中核拠点となる予定だ。床面積 約30,000㎡超、利用者数は約1000者を予定し、いずれもインキュベーション施設としては国内最大となる。

2024年度の開所が待たれるところだが、実は切れ目のないスタートアップ支援を行う目的で、先んじて「プレ・ステーションAi」という拠点が、WeWorkグローバルゲート名古屋内にオープンしている。主な機能は、スタートアップへの活動拠点の提供、起業や既存企業との協業に向けた支援、研修会・マッチングイベントの開催などだ。入居者向けに「INCUBATION PROGRAM」も実施している。

そこでTOMORUBAでは、「プレ・ステーションAi」に関わるキーパーソンや入居するスタートアップにインタビューを実施。今回の第一弾記事では、MTG Ventures 代表 藤田豪氏と代表パートナー 伊藤仁成氏が登場。両氏は愛知を拠点に投資家として活動する傍ら、プレ・ステーションAiで進行する「INCUBATION PROGRAM」の設計から運営までを統括マネージャーとともに担い、メンターとしても支援している。現役キャピタリストの視点から、変化する愛知の起業環境や「INCUBATION PROGRAM」の内容、愛知で起業するメリットについて、余すところなく語っていただいた。


▲株式会社MTG Ventures 代表取締役 藤田豪氏

1997年、日本合同ファイナンス(現:ジャフコグループ)に入社。2005年より中部支社投資部に異動し、2015年支社長に就任。24年にわたりシードからレーターステージまでの投資、投資先各社での取締役就任、ファンドの募集などを手がけ、自動運転、AI、保育IoTなどの分野への投資を実行。2018年、株式会社MTG Ventures代表取締役に就任。MTGグループのCVCとして、これまで5,000人以上の経営者との出会いによって培われた視点をベースに、「VITAL LIFE」を実現するスタートアップへの投資を行っている。


▲株式会社MTG Ventures 代表パートナー 伊藤仁成氏

証券会社、スタートアップを経てVC業界へ。前職のグローバル・ブレイン株式会社では、大企業との戦略的パートナーシップの責任者としてCVC設立やオープンイノベーション活動をサポート。同時に、スタートアップへの投資を担当し、投資先の取締役就任や各種サポートを通じてバリューアップに貢献。中部エリアでの投資では名古屋大学発のスタートアップであるオプティマインドやPREVENTの投資を担当。証券会社・スタートアップ・VCそれぞれでIPOの実務を経験し、現在は株式会社MTG Venturesにて投資と支援業務に従事。愛知県名古屋市出身。

「自動車業界の大変革」で揺らぐ、愛知の経済・産業界

――愛知県は長らく「スタートアップ不毛の地」とも言われてきました。愛知からスタートアップが生まれづらかった理由を、どのようにお考えですか。

藤田氏: 理由は「スタートアップが必要ではなかったから」だと思います。愛知県には、世界的な自動車メーカーであるトヨタ自動車が本社を構えていますし、ほかにもブラザー工業や日本特殊陶業など上場企業がたくさんあります。それらの大企業が、多額の税金を支払っています。心理的安全性と経済的豊かさに恵まれた街に生まれた人たちが、あえて起業する必要がなかったのです。そうした状況が、何十年も続いてきました。

ところがここ数年、100年に一度ともいわれる自動車業界の大変革ということで、状況が変わってきました。自動車産業も第二の産業である航空機産業もこれまでの延長線上ではない変化がありそうです。「起業という選択肢も、持っていないといけないのではないか」ということに、子どもたちや若い世代は気づき始めています。こうした背景から、スタートアップが徐々に増え始めていると思います。

――若い世代の中で起業する人が増えているとのことですが、一方で、成熟した大企業にも変化の兆しはあるのでしょうか。

藤田氏: ありますね。このエリアの場合、自動車産業が変わると、その他の産業も含めて全部変わるんですね。広告や外食、技術系も含めて、すべてが大きく変化します。そうすると、今までと全く違う世界になってしまうので、それに備えて準備をしておかねばならないと考える大企業が増えています。

とはいえ、そう簡単に新規事業を立ちあげられるわけではないので、まずはVCファンドに出資を行ったり、CVCを設立したりする企業が増えている印象です。こうした変化もあり、当社では2年前から、CVCの勉強会を実施していますが、参加者が右肩上がりに伸び続けていますね。

――伊藤さんにもお聞きしたいのですが、愛知県のスタートアップ・エコシステムについて、どう見ていらっしゃいますか。

伊藤氏: 愛知県には名古屋大学や名古屋工業大学をはじめレベルの高い大学がありますし、様々な大企業も立地しています。技術やノウハウは地域の中にあるものの、人の方向性が大企業に向かうカルチャーがあり、結果的にこれまでスタートアップの数は多くありませんでした。

加えて特徴的な点は、大手製造業が大学などに資金を提供してきた産学の背景があるため、大学がものづくり系に関わる研究分野が強い傾向にあります。こうした研究分野を学んできた学生が数多くいることが、このエリアのユニークなポイントだと思います。そういったバックグラウンドの中で育った優秀な若い人たちが、最近、少しずつ起業という選択肢をとり始めています。今後有望なスタートアップが数多く生まれてくるポテンシャルがあると感じています。

プレ・ステーションAiが仕掛ける「INCUBATION PROGRAM」

――藤田さん・伊藤さんがプレ・ステーションAiに関わるキッカケについてお聞かせください。

藤田氏: (プレ・ステーションAiの運用業務を受託している)eiicon 代表の中村さんから声をかけてもらったことがキッカケです。以前、中村さんとはスポーツテックに関わるプログラムでもご一緒したこともあり、eiiconの取り組みも素晴らしいと感じていました。私たちの目指す方向性とも合っているので、ぜひプレ・ステーションAiでもご協力したいと考えたのです。

――プレ・ステーションAiでは、入居する起業家向けに「INCUBATION PROGRAM」を実施されているそうですね。特長についてお伺いしたいです。

伊藤氏: 本プログラムのもっとも大きな特長は、実績があり現役で活躍中の豪華メンター陣にご参画いただいている点です。地方でこういったスタートアップ支援プログラムを実施する場合、その地方に住んでいる仲間内で支援するような流れになりがちですが、今回は「各領域でトップクラスの知見を持つ人」で、なおかつ「このエリアに縁のある人」を意識して、お声がけさせていただきました。

何人かご紹介すると、事業計画の策定やビジネス検証を担当いただく、連続起業家で『起業の科学』著者として知られる田所さん(田所雅之氏)は、実は愛知出身です。また、エンジェル投資家の小林さん(小林俊仁氏)は、ゲーム会社の取締役や北京で子会社の立ち上げを経験された後、スタートアップのCTOとして東証マザーズ上場を実現されるなど、多彩な経験の持ち主。チームビルディング経験も豊富ですし、語学にも長けておられます。彼は三重県出身で、愛知の高校を卒業されていますね。

株式会社スタメン代表の加藤さん(加藤厚史氏)は、前職エイチーム在籍時代に東証マザーズ上場を経験され、その後に名古屋で起業されたスタメンでも、昨年12月に東証マザーズ上場を果たされました。株式会社オプティマインド代表の松下さん(松下健氏)は、名古屋大学の研究成果をもとにラストワンマイルの社会課題を解決すべく起業。若くして錚々たる大企業から2桁億円の資金を調達したのは、このエリアでは彼が初めてではないでしょうか。

このように、愛知に縁のある各領域の現役のプロフェッショナルから、直接アドバイスをもらえる点が、本プログラムの最大の特長だといえます。


――なるほど。MTG Ventures社としては、どのようなスタートアップ支援を予定されているのでしょうか。

藤田氏: 私たちは現役のキャピタリストですが、本来、投資先に対して実施している価値提供と同等のものを、今回の入居者に対しても提供する予定です。各企業のステージにもよりますが、例えば、壁打ち相手にもなりますし、ソリューションの提供も行います。MTG Venturesのネットワークを使って、必要な人を紹介することも可能です。

コンソーシアムのメンバーが、「寄ってたかって」起業を支援

――今年度の「INCUBATION PROGRAM」は、すでに始まっていると聞きました。現状、どのような状況ですか。

藤田氏: メンタリングはすでに開始しており、現在、各社の壁打ちを行っているところです。話を聞いていると、ファイナンスを早急に実施しないといけない企業が何社かありました。そういった企業に対しては、投資家の紹介や、プレゼン用資料の見直し、事業計画作成のアドバイスなどを行っています。

――今期は、どのようなスタートアップが参加していますか。

藤田氏: B向けのサービスを開発している企業が多いですね。ステージとしては、ファイナンスをすでに経験済の企業が2~3社程度。1年以内にファイナンスを実施したいと言っている企業が10数社。ですから、大半がPMF(Product Market Fit)前です。

中には、まだ法人化していないところもあります。その方たちは、大企業の社内起業という形で、会社に認めてもらったうえで二足の草鞋をはいて、事業の立ち上げに取り組んでおられます。このように、今、愛知では大企業に所属したまま起業する人たちが増えています。私たちも、そういったイントレプレナーを応援していかねばならないと思っているところです。

――同じようなスタートアップ支援プログラムは、東京を含めて全国各地でたくさん開催されています。「愛知ならではの魅力」は何でしょうか。

藤田氏: 愛知の魅力は、コミュニティがそれほど大きくなく、派閥もないこと。自治体も大学も経済界も産業界も、さまざまな関係者が近い距離で活動をしていることです。加えて今、スタートアップ・エコシステムの構築に向けて、コンソーシアム(Central Japan Startup Ecosystem Consortium)を立ち上げ、一体となって取り組んでいます。ですから、愛知で起業をすると、みんなが寄ってたかって応援してくれる環境になりつつあります。

――心強いですね!プレ・ステーションAiの入居企業の中で、他の地域から愛知に拠点を移したという企業はありますか。その企業は、愛知のどういった点に惹かれたのでしょうか。

藤田氏: 3社程度ありますね。東京で起業して、ある程度の人数になってから、愛知に移転を決めた企業もあります。愛知に移転を決めた理由としては、先ほどコミュニティが手頃なサイズで距離が近いという話をしましたが、何らかのB向けの実証実験(PoC)を実施したい場合に、東京よりも愛知の方が迅速に行えるのではないかという期待を持って来られたと聞いています。東京だとスタートアップがたくさんあって、埋もれてしまいますからね。


県を挙げて、世界中から起業家を呼び込む

――2024年度に名古屋で開所予定の「ステーションAi」は、1000者規模の入居を目指すと聞きました。愛知というエリアに興味を持つスタートアップや起業家に向けて、メッセージをお願いします。

藤田氏: 愛知県外の方たちは、「愛知はスタートアップが育ちにくい環境だ」と思っていらっしゃると思います。しかし、コミュニティのサイズ感や支援者層の厚さを考えると、スタートアップが育ちやすい環境になってきています。また、昨今は地元の大企業がオープンイノベーションに興味を持ち始め、オープンイノベーションが活性化しつつあります。こうした大企業の存在も、事業を育てるうえで味方になるのではないでしょうか。

また、仲間づくりの観点でも、名古屋大学を中心に起業する若手が増えています。優秀な若者が起業を選び始めているので、チームアップしていくうえでも環境が整いつつあります。それに、スタートアップの育成に知見を持った私たちを含めて、丁寧にサポートするメンバーもいます。

――立地面でもメリットがありそうですね。

藤田氏: 愛知は日本の中央に位置しているため、国内どこにでも行きやすいです。名古屋の中心部から空港(中部国際空港 セントレア)まで電車で約30分で行けますし、アジアも近い。立地の観点でも、スタートアップがビジネスを展開しやすい場所だといえるでしょう。それに、住環境もいいですよ。名古屋市だと子供の医療費は中学校まで無料ですし、平均的な通勤時間は30分程度で、首都圏ほど長くありません。なので、起業をする場としての愛知に、ぜひ興味を持ってほしいですね。

――伊藤さんは、いかがですか。

伊藤氏: 大枠は藤田さんと同じなのですが、これまで、東京と比較すると、情報の非対称性や先輩起業家とのネットワーク不足などの理由から、「名古屋で起業をする」という選択肢を選ぶ人が少なかったと思います。

実際、メルカリを創業した山田さん(山田進太郎氏)や、GunosyやLayerXを立ち上げた福島さん(福島良典氏)などこのエリア出身の起業家は他にも多数いますが、起業する場として名古屋を選ぶことはありませんでした。

しかし愛知も気運が変わり、県が資金を投じてインキュベーション施設の創設やプログラムの運営に取り組んでいます。スタートアップに出資するスキームも検討されているので、起業しやすい環境が整いつつあります。私たちメンターも、成果にこだわりながら、スタートアップの支援に取り組んでいく考えなので、期待をしてください。


――今年4月に行われた「プレ・ステーションAi」の開所式には、大村知事も出席されたそうですね。行政もスタートアップの支援に前向きですか。

藤田氏: 前向きですね。愛知県は、新しくできる「ステーションAi」「愛知県新体育館」「ジブリパーク」の3つで、世界中から人を呼びこもうとしています。3つのうちの1つが「ステーションAi」ですから、非常に力の入った事業です。この1年の単発ではなく、その先を見越して動いておられます。スタートアップ支援に携わる県職員の数も増えていますし、対応も柔軟になってきていますね。

取材後記

170以上の企業・団体・大学などが参画する形で、コンソーシアム(Central Japan Startup Ecosystem Consortium)が立ち上がり、産学官が一体となってスタートアップ・エコシステムの構築を急ぐ愛知。今回の取材からは、今まさに変わりつつある愛知の様子が伝わってきた。今期、プレ・ステーションAiの入居者募集は締め切っているが、2024年度には1000社規模となる巨大インキュベーション施設「ステーションAi」が開業する予定だ。世界の起業家が集うであろう「ステーションAi」に、ぜひ興味を持ってほしい。

※「プレ・ステーションAi」では、愛知から起業家を生み出すイノベーション創出プログラム「AICHI-STARTUP ビジネスプランコンテスト2021」を開催。<応募締切:7/30(金)>


(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:佐々木智雅)

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