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起業の失敗確率を下げる支援を――愛知「プレ・ステーションAi」統括マネージャーが語る、スタートアップ支援にかける想い

起業の失敗確率を下げる支援を――愛知「プレ・ステーションAi」統括マネージャーが語る、スタートアップ支援にかける想い

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愛知県に2024年度、開所予定の「ステーションAi(エーアイ)」――。世界最大級のスタートアップ支援機関「ステーションF」(仏)に倣って建設が進むこの建物は、中部圏におけるスタートアップ・エコシステムの中核拠点となる予定だ。2024年度の開所が待たれるところだが、実は切れ目のないスタートアップ支援を行う目的で、先んじて「プレ・ステーションAi」という拠点が、WeWorkグローバルゲート名古屋内にオープンしている。

そこでTOMORUBAでは、「プレ・ステーションAi」に関わるキーパーソンや入居するスタートアップにインタビューを実施。今回は「プレ・ステーションAi」で統括マネージャーを務める篠原 豊氏と山本 有里氏の2名が登場。入居スタートアップへの支援を手がける両氏がこれまでに手がけてきた仕事や、本プロジェクトにかける想い、注力ポイントについて詳しく聞いた。

「起業の失敗確率を下げるお手伝いをしたい」―篠原 豊氏

――篠原さんはこれまで、どのような仕事を手がけてこられたのでしょうか。

篠原氏: インターネットセキュリティ関連のスタートアップで、営業や事業開発に携わってきました。2010年に独立し、エバーコネクト株式会社という会社を設立、現在 11期目になります。コミュニケーションを円滑にしたいとの想いから、自らプロダクトを開発して立ち上げた会社ですが、実は一度 キャッシュアウトしています。チームメンバーも全員整理解雇したりと、ほぼ倒産同然の状態に陥りました。

また、エバーコネクトとは別会社で、2013年に創業したスタートアップがあるのですが、そちらもキャッシュアウト寸前で、なんとか事業譲渡をして閉じました。ですから、私自身が創業者として始めたスタートアップに関しては「2戦2敗」です。

一方で、自分が創業者ではないものの、准創業メンバーとして加わったスタートアップに関しては、幸いなことに上場できたり事業売却できたりと、イグジットも経験してきました。さらに、会社経営とは別で、日本と東南アジアのスタートアップ合計11社に対して、出資も行っています。


▲プレ・ステーションAi事業  統括マネージャー 篠原 豊氏

――一貫して、スタートアップ界隈でお仕事をしてこられたのですね。

篠原氏: はい。こうした経験を通じて感じるのは、やはり私自身 0→1が大好きだということです。新規事業の開発に関わっていきたいという想いを強く持っています。ですから現在、エバーコネクトでは伝統的な大企業の新規事業を支援する仕事に力を入れています。具体的には、アイデア段階からビジネスモデルの構築、プロダクトの開発、運営までをワンストップで支援するというものです。

――ステーションAi事業に参画することになったきっかけは?

篠原氏: eiicon 代表の中村さんと以前からご縁があり、「次世代のスタートアップ起業家たちを支援する仕事がある」と、この仕事をご紹介いただきました。先ほどお話ししたように、私は0→1に強い関心を持っていますから「ぜひ、やらせていただきたい」と伝え、お受けしました。

――篠原さんは、愛知というエリアをどう見ていらっしゃいますか。

篠原氏: 実は私、今年の1月まで約2年間、マレーシアのクアラルンプールに住んでいました。なぜかというと「日本は衰退している、もうオワコンだ」と、連日耳にするわけですが、どのくらいオワコンなのか、日本の中にいると分からないからです。だったら、経済が急速に伸びている東南アジアに身を置き、直接一次情報ソースに触れながら、日本の状況を把握してみようと考えたのです。

――海外から見て、日本の経済状況はどうだったのでしょう。

篠原氏: 2年間 海外に住んでみた結果、日本はかなり危機的状況だと実感するに至りました。帰国した今でも、その考えは変わりません。そんな中で、日本が唯一、技術で世界に勝てる可能性があるとしたら「自動車産業」です。自動車産業といえば、やはり愛知ですよね。ここ愛知に優秀なエンジニアの方たちが眠っているはずですから、何としてでもその方たちの起業を支援したい。そんな想いを、ここ愛知に対して抱いています。

――なるほど。ちなみに、日本経済衰退のもっとも根深い要因は何だとお考えですか。

篠原氏: 第一に「チャレンジしようとする人が優先されない社会であること」。保守的な方、高齢な方、弱者の方が優先される社会が日本だと思います。それはそれで悪いことではありませんが、経済の発展という側面から見ると絶望的です。

第二に「グローバルで一番をとろうとしている人が少ないこと」。アメリカや中国、ヨーロッパ、東南アジアには、少なからずグローバルでトップを目指す人が一定数います。日本はその比率が少ない。この2点が、根深い要因だと思いますね。

――日本は起業するための環境に、恵まれていないのでしょうか。

篠原氏: いいえ、日本は環境に恵まれていると思います。なぜなら、人種や宗教、親の経済力、学歴などに関係なく、それなりに起業ができる国だからです。そんな国は先進国の中で、日本ぐらいしかありません。たとえばアメリカだと、アメリカンドリームという言葉がありますが、そのチャンスを享受できるのは、ほんの一握りの人たちだけ。日本はそういった要素に関係なくチャンスが回ってくるという意味で、起業をしやすい国だと思いますね。

一方で、失敗に対して世界で一番厳しいのが日本です。失敗者にはバツ印が一生つきまといます。ですから私は、ここ愛知で2つのことに特に注力したい。ひとつは、1回目の打席の失敗確率を下げるための支援をすること。もうひとつは、1回目で失敗したとしても、2回目のチャレンジができ、皆がそれを応援するような文化をつくることです。

「名古屋のスタートアップを 盛り上げたい」―山本 有里氏

――山本さんからも、これまでのご経験やステーションAi事業にかける想いをお聞きしたいです。

山本氏: 私のキャリアとしては、新卒で愛知の呉服店に入社しました。入社当時は、専業主婦になることを夢見ていたのですが、社会人になってみると「結構、仕事って楽しいな」と感じるようになりました。同時に、この世の中の社会構造をより深く知りたいと思ったんです。そこで、リクルートキャリアに転職し、人材紹介事業の法人営業として働くことにしました。

リクルートキャリアでは、愛知県の中小企業を担当したのですが、その時に大きな課題だと感じたのが、人材採用の難しさです。愛知の中小企業の社長さんたちは、大手自動車メーカーの方針転換から、新規事業の必要性を認識しておられました。しかし、それを担う人を採用できません。手を貸してくれる人がいないのです。

私自身「より人材を流動化させるためにどうすべきなのか」を考えた末、サーキュレーションという会社に転職をすることにしました。サーキュレーションは、事業開発に悩む企業向けに、プロ人材を顧問やプロジェクトメンバーとして紹介しているベンチャーです。


▲プレ・ステーションAi事業  統括マネージャー 山本 有里氏

――サーキュレーションでは、どのようなことを?

山本氏: サーキュレーションでも、愛知県の中小企業向け経営支援を担当しました。同時にプライベートで始めたのが、毎月開催の「名古屋ベンチャー飲み会」です。開始当時は、今から4年ほど前になりますが、名古屋発のベンチャーが生まれつつあるけれども、ベンチャーを目指す若者は少ないという状況でした。私自身ベンチャーで働いていたため、同じように働く同世代の人たちと情報交換できる場があればいいなと思って始めました。

活動の一環で、愛知で有名なスタートアップ経営者たちと一緒に、150人規模のビジネスコミュニティイベントを開催したり、活動に興味を持っていただいた大手広告会社などに協賛いただき、当時、注目されていた起業家やVC、投資家の方たちを東京から呼んで、イベントを開催したりすることもありました。

――山本さんは、どのようなきっかけで、ステーションAi事業に参画することになったのですか。

山本氏: きっかけは、ステーションAi事業にメンターとして参画されている、MTG Ventures 代表の藤田さん(藤田豪氏)の紹介です。藤田さんとは、名古屋ベンチャー飲み会を開催している頃からの知り合いで、「やまもっちゃん、面白いことやってるね」と活動を支援してもらっていました。

そんな藤田さんからこの仕事を紹介していただき、もともと私自身、名古屋のスタートアップを盛り上げたいと思っていましたし、地元名古屋に貢献できる活動になるのではないかと考え、お受けすることにしたのです。

「自治体・金融・起業家・大企業」をネットワークする

――「プレ・ステーションAi」では、具体的にどのような取り組みに注力していく予定ですか。

篠原氏: 私が起業した10年前とは違って、今は起業に関するノウハウを、インターネットや本から簡単に得られる時代です。一方で、公の場に出にくい失敗談などは、インナーサークルの中でしか共有されていません。東京にはインナーサークルが多数ありますが、愛知にはほとんどありませんから、その部分のお手伝いをしたいです。

具体的には、起業家たちとの交流の場をつくり、それぞれの人たちが失敗してきたことや、困難に潰されてしまったことなどを共有します。これによって、スタートアップの人たちが、同じ失敗・過ちを繰り返してしまう確率を下げたい。これが、私の取り組みたいことの第一です。

第二に、先ほども申し上げましたが、日本は起業に適した国ではありますが、サポート体制は充実していません。ですから、愛知県と連携をして起業家に対するサポートを制度的に強めていきたいと考えています。

――具体的に、どのようなサポートを検討されているのでしょうか。

篠原氏: 主に4つのネットワーキングを考えています。1つ目は、自治体とのネットワークです。たとえば、認可などは自治体と関わらなければ得られません。私たちは愛知県の配下でお仕事をしていますので、私たちがコーディネートすることによって、円滑に進められると思っています。

2つ目は、金融機関とのネットワークです。東京ならコロナ禍であっても、簡単にVCや投資家に会いに行くことができます。でも、愛知ではそう容易ではありません。しかし、愛知にもVCやCVC、地方銀行や信用金庫などはあります。そういった金融機関とスタートアップをつなぐ手助けをしたいと思っています。

3つ目が、起業家同士のネットワーキングです。先ほど申し上げたように、公には出せない情報や、社長が自社のメンバーに話せない悩みは数多くあります。社内で相談ができなくても、他の会社の社長になら打ち明けられる悩みもあるでしょう。そういった、起業家同士のネットワークを構築していきたいと考えています。

4つ目が、大企業とのネットワーキングです。この事業のサポート企業には、トヨタ自動車をはじめとした地場の有力な大企業、上場を果たしたベンチャー企業などが、たくさん名を連ねています。大企業とネットワーキングする土壌はすでに整っているので、私たちがそれらをつなぐサポートをしていきます。


▲WeWorkグローバルゲート名古屋に開所した「プレ・ステーションAi」。多くのスタートアップが在籍しており、統括マネージャーやVCなどのメンター陣から手厚い支援を受けている。

――実際に、元Misoca代表の豊吉さんによる相談会や、OFFICE DE YASAI(株式会社KOMPEITO)の元CEO・川岸さんによる勉強会、VCであるライフタイムベンチャーズ代表・木村さんの「現役シード投資家から資金調達について学ぶ」をテーマにした研修会などを開催されていますね。入居スタートアップ向けの支援策は手厚いと感じます。これらのほかに、山本さんが取り組みたいことは、どんなことですか。

山本氏: 私は、愛知の中小企業の経営者や、同世代の仲間たちとよく話をするのですが、スタートアップに関心を持っている人は、あまり多くありません。そもそも、スタートアップの存在を知らない人も多いのではないでしょうか。ですから、まずは知ってもらう取り組みに力を入れたいです。たとえば、イベントや交流会などを企画し、そこに来てもらうような施策を検討しています。

それと、愛知にはエンジェル投資家になりえそうな潜在層が非常に多いと思っています。そういった人たちに、有志ある若者のビジネスに投資をするというお金の使い方があることを知っていただき、支援を仰いでいくような取り組みも推進したいですね。

――5月には、岐阜県岐阜市に本店を構える十六銀行の地域VC「NOBUNAGA Village Fund」による資金調達相談会を実施されていますよね。やはり、資金調達のニーズは高いのでしょうか。

山本氏: 資金面で困っている起業家もいらっしゃいます。過去に開催したイベントでは、何を目的にイベントに参加したのかが分かるよう、ネームプレートに色分けをしたシールをつけてもらうようにしていました。資金調達が目的の場合は、黄色のシールを貼ってもらっていたのですが、結構な人数いらっしゃいましたね。


ビジネスアイデアと情熱だけで十分、まずはドアノックを

――2021年4月1日、大村知事出席のもとで「プレ・ステーションAi」の開所式が行われました。どのような感想をお持ちですか。

篠原氏: 大村知事のスピーチを聞いて、「この事業に本気だな」と実感しました。プロジェクトの内容や予算の大きさを見てもそうですが、愛知県が本事業にかける熱量は非常に高いです。熱い情熱と本気度を感じています。

山本氏: 確かに、熱さはすごく感じましたね。大村知事のスピーチを聞いていて、私自身 感極まるところもありました。過去にイベントを開催していた頃にも、自治体と連携ができないと行き詰まってしまうこともあり、「はやく、自治体と絡みたいね」という話はしていました。実際、自治体関係の方に声をかけたこともあったのですが、その時は一向に話が進みませんでした。

最近になって、この事業を通して知り合った自治体の方に当時の話をしたところ、「4年前だったら、絶対にやらなかったね」と言われました。ですが今、状況は一変し、トップの大村知事をはじめ、県のスタートアップ支援課の方たちも非常に前向きです。外の状況を踏まえて、地場を盛り上げようとしておられます。4年前のことを考えると、本当に「よっしゃー!」という感じですね(笑)。


▲大村知事も参加した「プレ・ステーションAi」の開所式。

――機が熟してきたのですね!最後に、「ステーションAi」に興味を持っているスタートアップの方たちに向けてメッセージをお願いします。

篠原氏: 「何かの役に立つ事業をゼロから立ち上げてみたい」という想いだけで、十分、動機になりえると私は思っています。「製品がない」「チームがない」「お金がない」という方たちでも構いません。その一歩を踏み出せる勇気と情熱さえあれば、必ず私たちがサポートします。

山本氏: 私も篠原さんと同じで、アイデアベースでもいいので、社会の課題を少しでも解決できるようなビジネスアイデアをお持ちであれば、ステーションAiのドアを叩いてほしいと思います。本当に想いだけで十分です。愛知は慎重で保守的な土地柄ですが、いいアイデアを持っているのに、怖くて踏み出せないのはもったいない。一歩を踏み出したい方は、ぜひご連絡ください。

取材後記

内閣府の「世界と伍するスタートアップ・エコシステム拠点都市の形成」事業において、「グローバル拠点都市」に選定された中京エリア(愛知県、名古屋市、浜松市ほか)。エコシステム形成の中核となるのが、この「ステーションAi」だ。世界各地のスタートアップ支援機関や大学とも連携し、最高品質のスタートアップ支援プログラムを提供する予定だという。話に出てきたように「エコシステムを盛り上げよう」という機運は高まっている。中京エリアで事業を起こしたい方は、「プレ・ステーションAi」にコンタクトをとってみてはどうだろうか。

※「プレ・ステーションAi」では、愛知から起業家を生み出すイノベーション創出プログラム「AICHI-STARTUP ビジネスプランコンテスト2021」を開催。<応募締切:7/30(金)>


(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:佐々木智雅)

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プレ・ステーションAi

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