500超の会員ネットワーク連携強化に加え、MRI事業部門とも連携し、社会課題をビジネスで解決することを目指す共創型プログラム
1970年の創業以来、幅広い領域で、シンクタンク・コンサルティング・ICTソリューションを提供してきた三菱総合研究所(以下、MRI)。2020年には創業50周年を迎え、経営理念を刷新した。
そしてMRIが以前から運営してきた「プラチナ社会研究会」と「未来共創イノベーションネットワーク(INCF)」を統合。2021年4月より、包括的な会員基盤にもとづく未来共創のエコシステムの構築、社会変革への提言と実現を目指す「未来共創イニシアティブ(ICF)」が新たなスタートを切った。
それに伴い、昨年までINCFが開催していたビジネス・アクセラレーション・プログラムは、ICFに引き継がれることとなり、本年度は「ICF Business Acceleration Program 2021」として開催される。
前年度に続き、MRIが描く理想の未来である「100億人100歳が豊かで持続可能な未来社会」を実現するためのビジネスアイデアを募集しており、重点テーマは「ウェルネス」「水・食料」「エネルギー・環境」「モビリティ」「防災・インフラ」「教育・人財育成」という6領域。そしてキーワードとしては、「ニューノーマル」と「行動変容」が掲げられている(応募締切:2021年7月26日)。
同プログラム募集開始にあたり、運営をリードする須﨑彩斗氏に加え、運営事務局メンバーの加藤美季氏・水田裕二氏・石口純輝氏、さらにメンターを務めるコンサルタントの佐々木伸氏と藤本敦也氏の6名にインタビューを実施。
これまでのプログラムからの変更点や、ICFの会員基盤やMRIの顧客リソースなどプログラムの特徴や強み、そして過去の参加企業の支援事例や、パートナーへの期待などについて話を伺った。
500以上の多様なプレーヤーが参加する会員基盤を後ろ盾に、社会課題をビジネスで解決することを目指す共創型プログラム
――過去6回、ビジネス・アクセラレーション・プログラムを実施されてきたMRIさんですが、今回のプログラムを実施する狙いや、従来からの変化についてお聞かせください。
須﨑氏 : MRIは2020年に創業50周年を迎えたことを機に、新たな経営方針を策定しました。そこではビジョンとして、「未来を問い続け、変革を先駆ける」と掲げています。世の中に様々な課題が山積している中、さらにこのコロナ禍で社会変革が急務です。
そのための具体的な動きのひとつとして、この4月に新たな会員プラットフォーム「未来共創イニシアティブ(ICF)」を設立いたしました。ICFは、2010年から課題解決先進国を掲げ変革を提言してきた「プラチナ社会研究会」と、2017年にスタートしSDGs に先駆けてイノベーションによる社会課題解決に取り組んできた「未来共創イノベーションネットワーク(INCF)」という、MRIが主催・運営してきた両会員組織が統合し生まれたもので、500以上の会員を擁します。ICFは地域の課題に取り組む自治体、スタートアップ、大企業、大学・研究機関、そして官公庁といったマルチステークホルダーに参画いただいており、統合による大きなシナジー効果を期待できると考えています。
ビジネス・アクセラレーション・プログラムは、これまでMRIおよびINCFが主催しており、過去6回のプログラムで累計約650件ものご提案をいただきました。今回の統合に伴い主催団体がICFとなりましたが、「地球上の人口100億人・寿命100歳時代に豊かで持続可能な社会を実現する」ために、社会課題をビジネスで解決することを目指す共創型プログラムという位置付けは、これまでと同じです。
ただ、今回は先ほど申し上げたビジョンも踏まえ、より課題解決の主体として活動していきたいと考えています。MRIは調査研究・コンサルティング事業を通して、これまでは主にお客様の社会変革をサポートする支援者というスタンスでした。今後もその役割は担いつつも、主体者となり課題解決に取り組む領域も広げていこうと考えています。今回のプログラムでも、課題解決の支援者・主体者双方の視点で検討していきます。
▲株式会社三菱総合研究所 未来共創本部長 主席研究員 須﨑彩斗氏
――今回のプログラムでは、「ニューノーマル」「行動変容」をキーワードに掲げていらっしゃいますが、その背景についても教えてください。
加藤氏 : まずニューノーマルについては、コロナ禍において感染症が広まったという事実だけではなく、私たちの生活様式や価値観の面で新たな考え方が提示された1年になったと思います。その状況は社会としては複雑で不確実性が高い一方、ビジネスの観点としてはチャンスだといえるでしょう。
特にMRIが目指すのは、ビジネスによる社会課題の解決です。そこでニューノーマル社会で、より顕在化された社会課題や、新たに発生した社会課題を解決するようなビジネスを、今回のプログラムでぜひ一緒に創出していきたいという想いがあります。
続いて行動変容についてですが、社会課題をビジネスで解決するには、何かしらの工夫が通常よりも重要になってくると思います。単に新しいサービスを開発してローンチするのではなく、社会課題を保有している人が行動変容を促されるような状態をビジネスでデザインすることが、社会課題解決型のビジネスにおいては特に大切です。そこで、今回のプログラムでは、ぜひ顧客の行動変容を後押しするようなビジネスを一緒に考えていける方を募集したいです。
▲株式会社三菱総合研究所 未来共創本部 研究員 加藤美季氏
会員ネットワーク強化に加え、MRI事業部門との連携により、さらに社会実装の可能性を広げていく
――500を超える会員を擁するICFという組織がスタートしたことは、今回のプログラムにおいて、どのようなことが期待できるでしょうか。
石口氏 : 事務局として今回のプログラムでは、MRIの事業部との連携と、ICF会員の方々との連携を強化したいと考えています。私は、会員間のネットワークを強化すべく、会員のニーズをヒアリングし、プログラムの企画に盛り込んでいくことをしています。また、単純に会員数が増えただけではなく、企業、自治体、官公庁、大学などの多様な属性の会員に参加いただくことで、協業や連携などの出口としての選択肢が、従来より増えたのではないかと思います。
そして我々の強みは、課題を抱える地方自治体など、現場のネットワークを持っていることです。そのため、ICF共創会員とのマッチングはもちろん、スタートアップビジネスと地方自治体のマッチングなども、コーディネーションしていきたいですね。
▲株式会社三菱総合研究所 未来共創本部 研究員 石口純輝氏
――事業部との連携を強化していくことも、今回のプログラムの重点ポイントなのですね。
加藤氏 : その通りです。インキュベーション色だけではなく、出口を意識した上で審査からメンタリング、その後の共創活動も含めて設計をしています。そしてメンターには、スタートアップ支援に精通している現役コンサルタントを迎え、よりプログラムの精度を高めていきます。
さらに事業部門と連携することでの強みは、ICFのネットワークのみならず、ICF会員ではないMRIのお取引先のネットワークも活用して、スタートアップのビジネスを支援できることです。
――これまでの応募企業や共創の方法に、何か傾向はありますか。
水田氏 : 直近の傾向を見ると、技術シーズやアイデア段階のアーリーステージからの応募が多いですね。
具体的な共創の方法として、大きく2つあります。ひとつは、事業部門が従来実施している調査研究・コンサルティングの延長線上での共創です。もうひとつは、スタートアップなど応募企業の成長や事業化も含め、目線を3~5年後くらいに置いてメンタリングを行い、共創の可能性を探ることです。
また、共創の体制も、MRIと一対一のみでは難しい面もあるでしょう。そこで、ICF会員も含めたコンソーシアムを組成して、大きな絵を描きながら一緒にマーケットをつくっていく活動ができれば、可能性が広がると考えています。
▲株式会社三菱総合研究所 未来共創本部 主席研究員 水田裕二氏
独自メソッド『インパクト戦略支援』や、シンクタンクならではの未来を見据えた幅広い専門分野の知見による、きめ細やかなメンタリング
――今回テーマとして、「ウェルネス」「水・食料」「モビリティ」「エネルギー・環境」「防災・インフラ」「教育・人材育成」、6つのテーマを掲げていらっしゃいます。それぞれご担当をお持ちなのでしょうか。
水田氏 : 事務局メンバーやメンターが特定の担当をもつというよりは、事業部との連携により、チームを組んでフォローしていきます。MRIには、今回の6つのテーマそれぞれの業界・技術に精通した研究員が所属していす。
また、今回のインタビューに同席している佐々木や藤本のように、事業戦略など機能軸で強みを持つコンサルタントがメンターに入っています。各領域・機能の専門家が組んで支援にあたるというのは、シンクタンクであるMRIならではの強みだと思います。
――これまでお話を伺った中で、今回のプログラムのメリットとしては、まずは500以上のマルチステークホルダーを擁するICF会員のネットワーク。そしてMRIの取引先との引き合わせなどのネットワーク。そしてシンクタンクならではの専門家によるチームでのメンタリングが挙げられるかと思います。他に、応募企業に提供できるメリットがあればぜひお話しください。
水田氏 : もともとMRIは伴走型の支援が得意です。佐々木や藤本のような、第一線で活躍しているコンサルタントが、課題や現状を詳細にヒアリングし、見える形で整理して示すことは、多くのスタートアップから高い評価をいただいています。
加藤氏 : もうひとつ、昨年から独自メソッドとして「インパクト戦略にもとづく事業検討フレーム」を導入しました。まず、事業や活動の結果として生ずるインパクトを、短期・中期・長期の各フェーズで定量的・定性的に可視化します。そして、そのインパクトを創出するために、自社の強みをどう育てるか、あるいは外部パートナーと提携すべきことは何か、アクションプランを策定し、戦略として落とし込んでいくものです。これを、メンタリングの集大成として、ファイナリストとメンターが共同で作成します。
特に、このプログラムに応募いただくシード、アーリーステージのスタートアップに好評で、「インパクト基点で物事を俯瞰的に考えることが出来て有益だった」「自分たちの事業の社会的価値を再認識することができた」といった声をいただいています。
▲昨年度のプログラムより導入された事業検討フレーム
高度な専門性とスタートアップ支援の豊富な経験を持つコンサルタントが伴走
――続いてメンターの佐々木さん、藤本さんにお話しを伺いたいのですが、まずはそれぞれの専門領域について教えてください。
佐々木氏 : 私は経営戦略・事業企画などの分野が専門です。私自身、一度MRIを退職して知人のスタートアップで事業計画・資金調達などを担当していたことがあり、スタートアップの事業や成長ステージで直面する課題について、身をもって経験しました。
また、他の企業が主催するアクセラレーションプログラムにもメンターとして入っています。本プログラムもそうですが、アイデアや技術はあるのだけれど、具体的なビジネスプランはないという段階から支援することに強みがあります。
▲株式会社三菱総合研究所 コンサルティング部門 経営イノベーション本部 事業戦略グループ 佐々木伸氏
藤本氏 : 私も経営戦略に加え、コンシューマー向けの新規事業創出の支援を得意としています。MRIでは世界遺産登録推進プロジェクト、PMIなどを経験し、その後バルセロナに留学してイノベーションについて学びました。最近はSF作家さん達と一緒に未来を考えるプロジェクトなどもしています。私自身、学生の頃に起業した経験があるため、立ち上げの段階でお客様の課題を見つけるのに苦しんでいるスタートアップが気になってしまいますね。
▲株式会社三菱総合研究所 コンサルティング部門 経営イノベーション本部 事業戦略グループ 藤本敦也氏
――おふたりが、過去のプログラムで担当された企業の中で、特に印象的な事例をお聞かせください。
佐々木氏 : 前回のプログラムで未来デザイン賞を受賞した、名古屋大学発のバイオ系スタートアップのNUProtein株式会社です。たんぱく質合成という注目度の高い技術をお持ちですが、どのようにビジネスとして成功させていくのか、定まっていませんでした。活用の領域としては、たんぱく質クライシスが問題になっているように「食」や、人工細胞など「ウェルネス」領域などに大きな可能性があります。
しかし、実際に食品や医薬品に活用するには、しっかりとしたインフラや体制が必要です。そこで、強みは何で、それをどう活かすか、そのために組むべきパートナーはどこかなど、ビジネスプランを描くところからご支援を行いました。
先ほど加藤から、MRIの取引先のネットワークを活用した機会の創出が可能だという話がありましたが、NUProteinさんは、まさにそのネットワークを活用して国や大企業などとの引き合いの機会をつくりました。現在、連携に向けて検討を進めているところです。
藤本氏 : 3年前のプログラムで三菱総研賞を受賞した株式会社テンアップ、昨年オーディエンス賞だった株式会社モシーモの例を紹介します。テンアップさんはVR×教育、モシーモさんは母親の育児不安の課題に向き合うビジネスプランの策定を行いました。両社とも想定顧客の課題を捉える段階で足踏みをしていたため、まずはターゲットの反応や困りごとをヒアリングし、深く知っていく段階から支援をしました。
モシーモさんはもともと保育園を運営していらっしゃり、日頃からお母さんたちに接していらっしゃいます。しかし、家庭も含めた育児全般でどのような課題を抱えているのか、その背景はしっかりと聞かなければ分かりません。そこで、ヒアリングのフォーマットづくりや深掘りのポイントなど細かくサポートしながら、仮説づくりを行いました。
テンアップさんはすでにVR機器を持っていたため、それを塾の生徒さんに実際に使ってもらって、反応や困りごとを探っていきました。現在はそこから拡大して、学校をはじめ他の業種も含めたVR空間「DXタウン」を建設しています。
▲昨年度プログラムの最終審査会の模様。(ニュースリリースより)
支援者としてだけではなく共創の主体者としても、「ニューノーマル」と「行動変容」をキーワードに、社会課題をビジネスで解決していきたい
――最後に、今回のプログラムにかける期待や、応募を考えている企業にメッセージをお願いいたします。
佐々木氏 : キーワードである「ニューノーマル」や「行動変容」は、この1年2年で出てきた言葉です。それはまさに、スタートアップが取り組むスピード感で起こっている変化ではないでしょうか。MRIが掲げる社会課題を解決すべく実装につなげたいという強い想いを持っている方と、ぜひ共創していきたいですね。
藤本氏 : 技術そのものよりも、どちらかというと強烈な問題意識があり、それを「自分ごと」として感じていらっしゃる方と、共創することが楽しみです。自らの原体験もそうですし、自分の周囲で悩んでいる人がいて解決したいなど、未来を切り開く熱意を持つ方々からのご応募をお待ちしております。
須﨑氏 : 冒頭でお話しした通り、このプログラムはICFが主催しています。今回ご応募いただいた方には、ぜひ会員になっていただき、他のプレーヤーと共に課題解決にチャレンジしていただきたいですね。もちろん、ご応募いただいたアイデアや事業プランのブラッシュアップはプログラム内で行っていきます。
しかしそこに留まらず、より大きな課題や、応募時点でまだ築いていない貢献領域にも、可能性を広げることができるはずです。このプログラムは、そのための入り口でもあります。世の中が大きく変わる今だからこそ、可能性を広げたいというアントレプレナー精神をお持ちの方に、ぜひご応募いただきたいですね。
水田氏 : 私は、スタートアップなど応募企業のみなさんに、創業の背景を聞くのが楽しみです。起業する人は問題意識が高く、色々な経験や体験のなかから、事業に対する原動力が生まれています。そのストーリーを拝聴し、問題意識を共有しながら、ぜひ一緒に事業を創っていきたいと思います。
加藤氏 : 社会課題解決型ビジネスには、情熱が不可欠です。しかし、いくら素晴らしい熱意を持っていたとしても、単独では本質的な課題解決は困難でしょう。そこで、このプログラムをぜひ利用していただきたいと思います。MRIや他の企業とも連携して、一緒にマーケットを広げ、国への提言や対外的なPR活動もしていきましょう。
石口氏 : スタートアップなど応募企業の方々は、アイデアを沢山お持ちです。しかし、どうすればビジネスがうまくいくのか悩みを抱えていらっしゃいます。それを、メンターとのディスカッションなどBAPで提供するプログラムで磨き上げられていければと思います。私たちの強みであるネットワークを活用し、社会課題に取り組むご支援をしていきたいです。
取材後記
企業・大学・地方自治体・官公庁など500以上の会員を擁するICFの基盤、MRIの顧客基盤を活かした外部企業との提携、各領域の研究員やコンサルタントなどによるチームでのメンタリング、そして独自メソッドである「インパクト戦略にもとづく事業検討フレーム」の提供など、豊富なリソースやアセットを活用できる、シンクタンクならではの特徴あるプログラムだ。
それに加えて、MRIが支援者としてだけではなく共創の主体者として取り組むこと、そして事業部門が能動的に参画するなど、さらにプログラムの魅力が高まっていると感じた。
テーマは6領域と幅広く、さらにキーワードとして「ニューノーマル」「行動変容」が据えられている。複雑で不確実、予測不能な世の中だからこそ、社会課題解決型ビジネスには大きなチャンスだと考える企業には、ぜひ応募を検討していただきたい。「ICF Business Acceleration Program 2021」の応募締切は、2021年7月26日(月)だ。
(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:齊木恵太)