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「リアルとデジタルが融け合う世界」GATARIのCEOが語るMRの可能性

「リアルとデジタルが融け合う世界」GATARIのCEOが語るMRの可能性

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スタートアップ起業家たちの“リアル”に迫るシリーズ企画「STARTUP STORY」。――今回登場していただくのは、ARをはじめとしたMR(※)サービスを開発・提供するGATARI・CEOの竹下俊一氏。

ARといえば、「視覚」を使ったサービスが一般的だが、GATARIのサービスは「聴覚」に訴えるもの。他にはない独創的なアイディアで、2020年から様々なアクセラレーターで採択され、次々と大企業との共創を進めている。今回は竹下氏が起業した背景から、アクセラで採択される理由について話を伺った。

※MR:Mixed Realityの略で、日本語では「複合現実」と訳される。ARを含む、デジタルとリアルが混在した世界を表す概念。

「本当にやりたい事業をやる」初めての起業の失敗から学んだ教訓

まずはMRに興味をもったきっかけについて教えてください。

竹下氏 : MRに興味をもったのは2015年、大学3年生の時です。当時はOculus Riftの試作機がキックスターターで話題になるなど、日本でVRという単語が一般に認知され始めたころでした。

当時は就職を考えていて、VR体験ができるという就活イベントに参加したのです。そこでVRを使った面接を体験しました。VRヘッドセットを被ると、現実では何もなかった目の前の空間に面接官のアバターがいる、そしてシュールなくらい普通に面接が行われる中で実は相手はアメリカにいるということを教えられたとき、今までずっと同じ空間を共有しているかのような感覚だったので非常に驚きました。

自分の脳がこんなにも騙されるものかと衝撃を受けた私は、一気にVR/MRの世界にハマっていきました。

MRにハマって、すぐにGATARIを創業したのでしょうか。

竹下氏 : 実はGATARIの前に、インターン先の同期3人で起業したのが始まりです。3人でそれぞれ20万円をもちより、資本金60万円のスタート。資金が切れれば経営を続けられないため、最初はVR技術を活用して手堅くマネタイズの見当がつきやすい不動産のオンライン内見サービスを開発していました。今でこそニーズの高いサービスですが、まだほとんどVRという単語も知られていない当時は営業の反応も悪く、最終的にチームは解散することに。

そこから改めて仲間を集め、社名変更して再スタートしたのがGATARIです。

初めての起業から学んだことがあれば教えてください。

竹下氏 : 一回目の失敗を分析すると、手堅さを求めるあまり自分たちが本当にやりたい事業ができていませんでした。そのため当初の仮説が外れてうまくいかなくなったときに、チームがそこで頑張り続けるための心の拠り所となるものがなかった。

その教訓を活かし、GATARIでは自分が本当にやりたい事業をすることに。自己資金の枠に囚われないためにも、「Tokyo XR Startups」のアクセラに採択されて事業を始めました。

世界初の「AR×聴覚」サービス立ち上げ背景

新たなスタートを切ってから、どのように事業を組み立てていったのでしょうか。

竹下氏 : まずはAR業界の背景からお話しますと、ARの技術は主に「デジタルリアリティ」と「デジタルセンス」の2つの軸で発展が進んでいます。

デジタルリアリティとは、デジタル情報があたかもモノのように現実の空間に配置されて保存されている世界です。音声であれ映像であれ、デジタルの情報を現実世界の空間に保存し、共有することができます。SF映画やアニメでよく見る、デジタル情報が空間に浮いているようなものをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。

しかし、デジタル情報が現実世界に配置されていても、私たちは生身の体でその情報に気づくことはできません。現実空間に保存されたデジタル情報を読み込むために必要なのが、ウェアラブルデバイスのような人間の五感を拡張する「デジタルセンス」です。視覚を使うならARグラスのようなものですし、聴覚であればイヤホンのようなデバイスとなります。


ARと聞くと、ARグラスが注目されてしまいがちですが、本質的に重要なのはデジタルリアリティの実現です。デジタル情報を現実空間に配置された世界をいかに発展させ、インフラとして社会に実装できるかが肝になります。

しかしARグラスの普及が開始するまで、あと3~5年以上はかかると考えるとtoCでARグラスを前提ににした体験は現状デモンストレーションやプロモーションにしかなりません。いち早くデジタルリアリティの世界をソリューションと絡めて社会に実装を開始して行くにはすでに普及している聴覚デバイスから始める必要があると思いました。

ARグラスの完成までにそこまでかかるんですね。

竹下氏 : 既にマイクロソフトの「HoloLens」をはじめとしたMRグラスは発売されていますが、まだ日常生活で使える代物ではありませんし、現状の技術のリニアな延長線上に完成形があるわけでもありません。私も2017年にホロレンズが発売された時は、メンバー全員分購入して使い倒しましたし、実際半年間ほどは常に着けて生活していました。オフィスからラーメン屋に行く途中の交差点の信号の上に置いておいた宇宙飛行士の3Dモデルが、数ヶ月後忘れた頃に見上げるとまだそこにいたときの感動や、装着しながらご飯を食べるとこめかみが痛くなることなど多くの気づきが得られました(笑)。

その経験によりMR技術のすごさを身にしみて体感できたものの、同時にレイヤーとして情報が表示されるだけでは歩きスマホと変わらないと思いました。スマホのモニターがメガネにシフトしてハンズフリーになったにすぎません。

MRの本質的な価値を生み出すには、空間と融け合った情報を映し出すことです。例えば目的地に道のりを調べる時に、地図が出てくるようではスマホと変わりません。現実の道に沿って矢印が表示されるようになって、初めてMRとしての価値を発揮できるでしょう。

ARグラスが実用化されるまではまだ時間がかかるのですね。聴覚にフォーカスした御社のサービスはどのようなものでしょうか。

竹下氏 : 私たちはMR時代を見据えてまず「デジタルリアリティ×聴覚」を実現した「Auris(オーリス)」(https://auris-ar.com/)というサービスを展開しています。ノーコードでデジタルの音声情報を空間に配置・保存できる世界初のサービスです。構想から約2年かけて開発し、昨年9月にパートナー向けにクローズドリリースしました。


現実世界に配置した音声データを、スマホカメラで読み取り再生できるため、ビーコンなどの設置が必要ありません。博物館や観光サービス、商業施設などで利用ニーズが高まっています。

御社の強みを教えてください。

竹下氏 : 私たちの強みは自社開発したオーサリングツールとMRの知見です。通常、音声コンテンツを作る際にはクリエイターやエンジニアがチームを組んで作るもの。しかし、私たちのオーサリングツールはノーコードでコンテンツを作れるので、エンジニアがいなくてもコンテンツ作れます。

実際に、私たちのチームもサウンドデザイナーが一人でコンテンツを作ることもあります。

また、MRはテクノロジーの側面が強く見えがちですが、実際にはテクノロジーをいかに感じさせないかが大事で、人と現実への理解が非常に重要です。ある空間があったときにその空間の光は時間によってどのように変化するのか、音環境はどうなっているか、残響はどの程度あるか、人はそこを訪れたときにどこに注目してどういう視線の動きをするのか、そこでどういう音を聞くとどういう気持ちになってどのような動きをするのか。そうしたことを観察したり想像することによってデジタルとリアルがシームレスに融け合う自然な体験を作ることができます。

GATARIの人的リソースを支えるVRインカレ「UT-virtual」

ARの技術やサウンド・デザイナーなど、専門的な人材を採用できていますが、採用の強みについても聞かせてください。

竹下氏 : 採用の強みとなっているのが、私が起業してから作った東京大学を拠点とした日本最大のVRのインカレ学生コミュニティ「UT-virtual」です。

元々は会社とは関係なく、VR領域に素養を持った優秀な若い世代を様々な業界に送り出して行く仕組みを作ることが世界に先駆けて日本でVRが普及する素地になり、また学生によってビジネスとしてはできない色々な研究・創作が行われてVRの様々な可能性が見出されて行くことがその普及を加速するという想いから、作った団体でした。

起業当初の2016年はまだVRの機材も揃えようと思えば最低2〜30万円はかかり、広い場所も必要だったので若い世代は興味がありながらも中々触ることができないという状況でした。そこで人とお金と場所を一箇所に集め、様々なバックグラウンドを持った学生が日々部室に集まってVRに触れたり開発したりできる環境を整えて作ったのが「UT-virtual」です。

様々なご協力もあって運営は順調に引き継がれ、現在4代目の代表で会費年間1万円ながらも120名を超える部員が在籍しています。北は北海道、南は沖縄まで日本全国の大学からVR/ARへ興味を持って取り組むメンバーが集まる熱量の高い団体となりました。

インカレの卒業生がGATARIに入社してくるのですね。

竹下氏 : そうですね。お陰で現在16人いるメンバーはすべてリファラル採用で、外部サービスを使ったことはありません。サウンド・デザイナーも、UT-virtualに在籍していた音響の研究をしているインカレのメンバーから紹介してもらい参加が決まりました。未開拓の新しい可能性に挑戦できることが魅力になっており、感度の高いメンバーが集まっています。

インカレのメンバーは優秀なのでしょうか。

竹下氏 : 優秀ですね。東京大学先端科学技術研究センター教授の稲見先生に顧問をしていただいており、様々なアドバイスをもらっています。最近ではコロナの影響で中止となっていた受験生向けの東大オープンキャンパスをバーチャル空間上で実施する「バーチャル東大」のシステムを創ったUT-virtualのチームが東京大学総長賞の大賞を受賞しています。

チームのマネジメントで意識していることがあれば教えてください。

まだ小さな組織なので、各部署でトップがプレイングマネージャーをしています。現場のプレーヤーがトップをしているので、個人の負担は大きくなりますが、スピードを持って現実的で最適な意思決定ができます。


また、オーサリングツールによってクリエーターだけでコンテンツが作れてしまうため、エンジニア組織とプロダクト組織が別れがちです。プロダクトチームのイベントにもエンジニアに参加してもらうなど、できるだけチームとしてお互いの目線や課題感を合わせて一体感が作れるよう意識しています。

共創の成功に必要なのは「相手の利益を追求する意識」

昨年から鹿島建設、東京メトロと複数のアクセラに採択されていますが、アクセラに参加する理由を聞かせてください。

竹下氏 : 私たちの技術はリアルな空間と紐付いたデジタル空間を作ること。そのため、リアルの空間をもっている会社と組んでいくことが必要不可欠です。サービスをリリースした昨年の9月から、リアルの空間を持っている会社、デジタル空間で配信できるコンテンツを持っている会社と積極的にオープンイノベーションを行ってきました。

鹿島建設さん、東京メトロさんの他に、仙台市のアクセラレーターでも採択されて楽天野球団さんとの共創も進めています。まだリリースしていないプロジェクトも多数進行中です。

なぜこれほどアクセラレーターで採択されるのでしょうか。

竹下氏 : 長期的に誰もが納得するビジョンと合わせて、その実現に向けた実現可能性の高いファーストステップを提案できているからだと思います。今後、デジタルとリアルが融合していく未来に対しては誰もが肯定的です。

それに対して、私たちはその世界の訪れを前提に、そこまでをつなぐ道筋として今からでも実現可能な聴覚を利用した提案をしているので、大企業も納得してもらえるのだと思います。

大企業との共創を進めていく上で意識していることがあれば教えてください。

竹下氏 : 共創相手の利益を意識することです。体力のある大企業と組むと、つい相手からどういうリソースを提供してもらうかに思考が傾きがちです。サービスを導入してもらうだけなのであればそれでもいいですが、共創であるなら相手の利益にもコミットことが重要です。

アクセラに参加する時から意識していましたが、共創を積み重ねることで、よりその意識が強くなってきました。

特に印象に残っているプロジェクトはありますか?

竹下氏 : 鹿島建設さんとのプロジェクトです。私は学生起業なので、共創が始まった時に大企業のロジックというものがわかりませんでした。大企業が何を求めているのか、どういう意思決定のフローで物事が決まっていくのかもよく分かっていなかったのです。

そんな私たちに対して、鹿島建設さんから誰々の承認のために「こういう資料が必要だよ」と丁寧に教えていただきました。初めての共創が鹿島建設さんだったおかげで、その後の共創もスムーズに進められているのだと思います。

また、鹿島建設さんは事業化への意識がとても強いです。どれくらいの予算を使って、どのタイミングでマネタイズをしていくのか、プロジェクトの最初に細かくすりあわせました。お陰でスムーズにプロジェクトを進められましたし、その後の共創でもよりお金を意識できるようになりました。

アクセラで採択してもらえるのも、具体的に事業化を意識した提案ができているからではないでしょうか。


▲2020年夏、羽田空港の隣接エリアに誕生した複合施設「HANEDA INNOVATION CITY」。この場を舞台に、鹿島建設との共創が進められている。(※関連記事:「街が語りかける時代へ」――音声AR×鹿島建設 https://tomoruba.eiicon.net/articles/2228

目指すはデジタル空間のプラットフォーマー

ARを含めたMR(ミックスド・リアリティ)が、これから盛り上がっていくために必要なことを聞かせてください。

竹下氏 : 現在のMR体験は、デモやプロモーションで終わっているところがほとんど。それでは真新しさを消費しているだけです。これからMRが社会のインフラになるには、しっかり社会に実装されるユースケースが増えなければなりません。

そのためにはARグラスの完成を待たずに、今ある環境と技術でサービスを作っていくこと。まずはMRの概念をしっかりと浸透させていくことが必要ですね。

MRの技術が進化することにより、社会はどのように変化していくのでしょうか。

竹下氏 : デジタルとリアルが融け合い、フィジカルな物質とデジタルな情報が等価になっていきます。空間とのコミュニケーションが変わることで、私たちの現実に対する認識、そして生活が根本から変わっていくでしょう。

例えば今の看板は、多くても5言語ほどしか表示できません。それはスペースに限りがあるため、5言語に妥協した結果です。もしARグラスが完成し、デジタルで看板が作ることができるなら、196ヶ国すべての国の言語から自分にあった言語だけで表示することも可能になります。

今の私たちはスマホやPCの画面を通してでしか、デジタルの世界にアクセスしていませんが、MRが実現することでデジタルな情報は現実世界すべてを活躍のフィールドに変えていくでしょう。

最後に、これからのビジョンを聞かせてください。

竹下氏 : デジタルとリアルが融け合う未来のMR社会を考えると、私たちはまでこの世界の半分のリアルな空間しか活用していません。私たちはこの世界のもう半分であるデジタル空間を埋めるためのプラットフォームとなり、MRを普及させていくインフラになっていきます。

それによりデジタルとフィジカルが等価に扱われる、人とインターネットが融け合う社会を目指していきます。現在、私たちは聴覚の部分だけしかオープンにしていませんが実はMRグラスを前提にした視覚の機能への取り組みも行なっています。近い将来聴覚に限らず人間の五感を拡張して、より直感的にデジタルな情報と共生するサービスを作っていきます。

(編集:眞田幸剛、取材・文:鈴木光平)

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