【連載/4コマ漫画コラム(18)】大企業との話し方 ② どの話かで話はちがう
補填型はシンデレラの靴
中小企業やベンチャーが、大企業とうまくやれるとお金やリソース(販売や製造など)が潤沢に得られ、事業を加速することができます。ただ、旧来からの「ケーレツ(系列)」や「下請け」的な関係だと、コストダウンばかり求められて、常に苦しい立場に追い込まれてしまったりもしてしまいます。悪い言い方をすると奴隷的な立場から抜け出せません。
「新しいこと」を追い求めるはずの「オープンイノベーション」でも、中小企業やベンチャーにとって、そういう状況とあまり変わらないことが起こってしまう場合があります。
それは、「イノベーションだ!」と言いながら、実は今の既存商品とあまり変わらないもので、ただ、自社(大企業)だけではやりにくい部分があって、中小企業やベンチャーにやらせようとする場合です。これを本稿では「補填型」と呼びます(下図(A))。本当は自社やそれまでのケーレツだけでもできるけれど、よりコストダウンを求める時などに起こりがちです。
補充型の特徴は、「どういう新しい商品を作りたいのか」は大企業内だけでほぼ決まっていることです。それゆえに、「足りない部分」が明確で、その不足部分に「ぴったりとはまる」商品や技術を持っている外部の(言った通りにやってくれる)中小企業やベンチャーを探します。(ちょっとシンデレラの靴っぽい感じですね。ガラス製で融通性は全くない。)
残念ながら大企業が言う「オープンイノベーション」はこの「補填型」が多いのも事実です。たしかに「新商品」ということでは「イノベーション的」な香りがしないこともありませんが。
一緒に創るオープンイノベーション
一方、オープンイノベーションには「(A)補填型」ではなくて、図にあるように「(B)追加型」や「(C)新規創造型」があります。
(B) 追加型:A社が将来踏み出していこうとしている「ぼんやりとした新規領域の方向」に、他社が導いてくれる
(C) 新規創造型:大企業も中小企業/ベンチャーも同等の立場で、「不確実性が高い新しいコト」に同志として一緒にチャレンジしていく
「(B) 追加型」の例としては、大企業A社が、自社の強みを活かしてこれまで経験がなかった農業関連事業に乗り出そうとしているような場合です。農業事業の領域は素人。パートナーとしての中小企業やベンチャーが、既に持っている知見を活かし具体的な事業構築を一緒に行います。大企業にとっては、「ぼんやりとした方向(農業事業って良さそうだな)」しかなかった状況だったのが、リアルな道として見えてきます。
「(C) 新規創造型」は、参画する大企業・中小企業・ベンチャーのどこも「はっきりとしたターゲット」が無いところからモヤモヤと始め、お互いの強みの認識や、交わされる会話から、「じゃ、こういうことができるんじゃない?」という話が徐々に練り上げられていき、色々な試行を一緒にやっていくタイプです。これが一番イノベーション的です。
パターンによって違う大企業との話し方
中小企業やベンチャーの方にとっては、これら「3つのパターン」のどれを大企業がやろうとしているかによって、大企業との話し方のポイントが変わってきます。
(A) 補填型の場合
先ほど述べたように、「ウチが求めていることをオタクはできるの?」というのが大企業側の基本的スタンスになりがちです。それに適切に応えるように話すしかありません。ただ、「資材担当」のような人としか話せていないのであれば、是非、開発の人と話す機会を作ってもらうようにしましょう。そうすれば、「ガチガチの一歩も譲れない要求仕様」が実はまだまだ固まっていなくて、「一緒に」考える余地が出てきて、ちょっとはオープンイノベーションの香りがしてきます。(会社によっては、開発の人は絶対出てこない、というところもありますが……そういう会社にはオープンイノベーションを期待するのは止めましょう。)
(B)追加型の場合
大会社自身が、「どっちへ足を踏み出したらいいか」が分かっていなくて悩んでいます。ですから、どんどん具体的な事業アイデアをぶつけてみましょう。そして、「では、一緒にXX業界のYY社に行ってみませんか?」という話も効果的です。大会社にとって、とてもとてもありがたい話に違いありません。
(C) 新規創造型
これは「どんな風に話をするのがいいか」というよりは、そういう「なんか新しいコトをよく分からないけど色んな人と一緒に創っていきたい!」という「人」を大会社の中から探しましょう。「お客様相談窓口」に電話して「そういう人いますか?」と聞いても仕方ないので、大会社に勤める友人に「変人」を紹介してもらったり、色々な公開イベントに出席して、出会ったりするのが効果的です。こういう人は「どう話すか」より「熱(意)」と「行動」で共感してくれます。
このように、パターンによって全く違うのですが、実は多くの大会社の「オープンイノベーション担当」と言われている人たちが、自分がどのパターンを目指しているかを明確に意識していない、ということもよくあります。その場合は、話を聞きながら(誘導もしながら)、「アナタがやろうとしているのはXパターンですね!」と教えてあげましょう。そういう話をきっかけにして信頼を得るという手もあります(……あるのかな?)。
■漫画・コラム/瀬川 秀樹
32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。