【連載/4コマ漫画コラム(20)】スタートアップとの話し方 ② 師匠と一緒に
弟子入りしちゃう
前回の「スタートアップとの話し方①」では「気をつけたほうがいいこと」を中心に書いてしまいましたが(私に似合わないことを……)、今回はそういう段階を越えた後の話です。
大企業で新規事業を立ち上げなければならないアナタは、是非、パートナーとなったスタートアップに「弟子入り」しましょう。
もちろん、本当に「弟子入り」するのではなく、スタートアップと一緒になって、スタートアップの一員のような仕事をするのです。そうなれば「スタートアップとどのように話せばいいか」という悩みではなく、「仲間と日々どういう風に一緒に活動すればいいか」のがポイントになります。尊敬語?謙譲語?丁寧語?のどれを使えばよいかとか、忖度をどの程度すればよいかとかも、「仲間」として適切な話し方でやればいいのです。
当たり前ですが、「大企業の人の方がエライ」なんてどこかで思っていては全く話になりません。むしろ、「スタートアップは新規事業の師匠」としての尊敬の念を常に持ちましょう。
「弟子入り」という落語界や相撲界を思い浮かべてしまうような言葉ではなくて「プロボノ」と言ってもいいかもしれません。「プロボノ」とは元々はラテン語で、「大企業の中での自分の専門性(経理や法務など)をNPOやベンチャーなどに(無料で)提供すること」という意味でよく使われます。最近は「副業OK」の流れもあって、だいぶ有名になってきた言葉です。
ただ、狭い意味での「自分の専門性を活かすだけのプロボノ」とはちょっと違って、スタートアップの経営者と一緒になってあれこれ足掻く、というのが大事です。
課題の師匠
スタートアップの経営者にべったりくっついて、一緒に活動していると、いかにスタートアップが「全部の項目」に気を配り、「必要なことの全て」をなんとかしなければいけないか、が学べます。
大企業にいるとなかなか分からない感覚です。いくら「新規事業の立ち上げ方」や「MOT」などの本を読んでも、それらは所詮は文字。リアルな経営に携わって(少なくとも近くで見て)「へー、こういうことも考えたりやったりしないといけないんだ」と気づき実体験することにはかないません。
大企業内にいると、新規事業の立ち上げをやっていると言っても、どうしても出自である部門の専門性(技術開発や営業など)の範囲を主にやるだけに留まってしまう(留まっていても誰か他の人がやってくれる)癖がついていますが、特にスタートアップの経営者は、本当に「あれもこれも」に気を配り、なんとか目先の問題を解決していこうという日々を送っています。資金調達、技術開発の進捗、知財交渉、顧客開拓の状況、社内の雰囲気、広報戦略、オフィスの賃貸契約……数えきれない様々なことが日々襲ってきます。
それら全てを「人のせい」にはせずに「自分事で乗り切る」のがスタートアップ精神の中核にあります。
「スタートアップは新規事業の師匠」であることは間違いありませんが、正確に言うと多くの場合は「スタートアップは新規事業の『課題の』師匠」です。残念ながら、スタートアップでは、課題をうまく乗り越えられないことが多々あります。「課題を経験」し、「やってくるであろう課題を想定する力」を身に着けておくことが、新規事業立ち上げ・推進において、とても重要なことですから、「課題の師匠」の意味は大きいのです。
よく知られていますが、スタートアップの特徴は「スピード」。とにかく全てが速い。その「速さ」が「ぶつかる課題」をどんどん生んでいきます。最高の「課題の師匠」です。大企業内の「役割分担された会議漬けの毎日」では決して得られない経験です。
そして、その課題をなんとかしようと足掻いて(そしてその多くは失敗して)、ちょっとずつでも前進することで、課題解決の方法もスタートアップの方と一緒に段々と身についていきます。
これらの経験は、大企業内で新規事業を進める上でも大変役に立ちます。抽象的で一見カッコイイ文言が散りばめられた提案やプレゼンよりも、リアルな具体的な話の方がグサッと刺さりやすく、プロジェクトを前に進めることができます。
せっかくの大企業で
ただ、一点だけ「スタートアップのやり方に馴染みすぎると失うかもしれないモノ」があります。それは、長期的な視点です。大企業はなんだかんだいってもスタートアップに比べると、余裕があってゆったりしている分、長期的な視点や志という悠長なことに時間と気持ちを割くことができます。スタートアップではなかなかそうはいきません。なんとか目の前のハードルを越えていく瞬間瞬間の連続です。
え?大企業にいるけど、そんな志とか長期の視点とか考えられる雰囲気がない?本当にそうですかね?自分の人生も他人事にしてしまっていませんか?そういう人こそ、スタートアップに弟子入りして、なんでも「自分事化」する力をまずは身につけましょう。
■漫画・コラム/瀬川 秀樹
32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。